◆450 頂上決戦
王都レガリア城に下り立つアズリー。
笑みを浮かべながらアズリーを迎えるルシファー。
「魔力回復は済んだか?」
「あぁ」
「見栄を張るな。声が震えているぞ?」
アズリーの魔力は確かに回復した。
しかし、眼前にいる魔王ルシファーに敗北した傷は癒えていなかった。
それを見透かしたように言ったルシファーに、アズリーは目をそらす。
視界の端に映るのは、アズリーの勝利を信じて止まない仲間たちの奮闘。
アズリーはそこで視線を戻す。戻す他なかったのだ。
「くくくく、まだ覚悟が決まらぬと見える」
ルシファーが見るは、アズリーの震える手。
恐怖は乗り越えた。乗り越えたからこそここにいる。
しかし、それでも、新たに襲ってくる恐怖には抗えない。
アズリーは自身の手を無理矢理握り、拳を作って震えを止める。
不安定な呼吸をしながらも、ゆっくりとルシファーと距離をとる。
これをルシファーが邪魔する事はない。恐怖と不安の渦中にいるアズリーを、嬉しそうに見つめるばかりだ。
「くくくく……」
「はぁ……はぁ……く……っ!」
荒い呼吸、己が耳にも聞こえてくるかのような叩くような心音。
膝が笑い、動悸が激しい。今にも押し潰されそうに俯くアズリーに、ルシファーが歓喜の笑みを見せる。
「ハハハハハハハ! そんな様子で戦えるのか!?」
一瞬でも手の力を抜けば、その恐怖は全身に行き渡るだろう。
だからアズリーは、ただ強く、身体を緊張させる事で自分を保った。
「止まれ……止まれ止まれ止まれ!」
バルコニーの城側の壁を殴り、破壊するもそれが止まる事はない。
だが、それを止めたのは一匹の、一人の、親友の決意。
「アォオオオオオオオオオオンッッ!!!!」
それは、ポチが獄龍ヘルエンペラーに挑む決意をした――勇気の証。
次の瞬間、アズリーの震えはピタリと止まっていた。
アズリーの変化に気付いたルシファーの笑みも、そこで止まる。
「……はは…………やっぱり、いつもお前に助けられてばかりだな……俺は」
アズリーが顔を上げる。
見据えるは神を超えた魔王ルシファー。
全世界が恐怖する大悪魔。
「生意気な犬だ」
それは、ルシファーの不服そうな言葉。
「同感だが」
「だが?」
「それを言っていいのは、俺だけだ……!」
瞬間、アズリーの魔力が吹き荒れる。
嵐のような突風を作った膨大な魔力を前にしても、ルシファーが怯む事はない。
アズリーが杖をバルコニーの床に突き刺し、ルシファーを見る。
「ふん!」
アズリーの魔力すらも覆ってしまうような、ルシファーの超魔力。
互いの究極限界が作り出した暴風に、城下のモンスターたちが震え上がる。
それは当然、解放軍側にも起きていた。
中央後方にいた魔法大学生、戦士大学生は膝を突き、腰を抜かし、泡を噴き、気を失う。トゥースは予めどの陣にも対魔王用のマジックシールドを放っていた。しかし、目の当たりにしたルシファーの魔力は、それを突き破る程の高魔力だった。中央後方ではそれが顕著に見られ、トゥースが後方に極化したマジックシールドを再度放つも、回復には時間が掛かってしまう。
どちらの陣にも影響が出るも、被害が大きいのは当然解放軍だったのだ。アズリーが周囲への影響を気にし、中央後方の陣に目を向ける。
すると、ルシファーが言った。
「まずは自分の心配をしろ」
「五月蠅ぇ……心配なんかしてないさ。俺の仲間は皆、俺より強い」
アズリーが言ったそれは、心の強さの事だった。
当然、ルシファーにもそれは理解出来た。しかし、ルシファーは否定した。
「人間に……アズリー、貴様より強い者などいない」
「はっ、また褒めちぎるのか?」
「違うな、これは事実だ」
「そうかよ」
「さぁ、今日は忙しい。さっさとケリをつけようじゃないか」
アズリーの口が固く結ばれる。ルシファーの言葉の真意が、自分が負けた後の話だから。
ルシファーが笑みを浮かべながら腰を落とす。
アズリーも応じるように腰を落とす。
二人の耳に訪れる一瞬の静寂。モンスターの悲鳴も、解放軍の気合いも聞こえなくなる刹那、アズリーとルシファーは強く床を蹴った。衝撃により崩壊するレガリア城のバルコニー。
そして――
「「――バーストッッ!!!!」」
拳と拳が強くぶつかり合う。先の一戦以上の衝撃と共に、王都レガリア城が音を立てて崩れ去る。その轟音は、生きとし生ける者に畏怖を与えた。モンスターは魔王ルシファーの魔力により前へ。解放軍はアズリーの魔力により活力を得た。
その衝撃を肌に感じた中央にいるトレースが反応する。
「発動した!」
それを瞬時に否定するのは隣に立つトゥース。
「いや、究極限界状態じゃあの魔法は発動しねぇ。素面の状態でルシファーの身体に当てなきゃ意味がねぇんだ」
「では、どうしてっ?」
「いかにも過ぎるからだろ。ルシファーの隙を衝くなんて、ルシファーより弱いアズリーが何回も出来る訳じゃねぇ。一回の戦闘で一回あれば御の字。初手が究極限界じゃねぇと警戒されちまうんだよ。ほい、オールアップ・カウント10&リモートコントロール!」
「……っ!」
歯を食いしばるトレース。
トレースの気がかりはアズリー以上に中央前方にあった。
単体の力は当然、人間の力の方が大きい。今のブルーツやブレイザー、ベティーがランクSSのモンスターと一対一で戦っても、負ける事はないだろう。そして、中には当然ランクの低いモンスターもいる。しかし、どうしても蓄積してしまうのが疲労である。この乱戦の中、ポチビタンデッドを服用する暇はない。そして、彼等は止まる事を許されない身。動き続ける事でしか生きられないのだ。蓄積する疲労は判断を鈍らせ、動きを鈍らせ、息を乱す。傷を癒そうとも疲労を癒せない。一挙手一投足無駄に出来ない動きの中、もし彼等が転んでしまったら、切り口を間違えたら、汗で視界が覆われたら、戦線は一気に瓦解する。
トレースが心配する以上に、鏃の先端にいるブルーツはそれがよくわかっていた。
「ぜぇぜぇぜぇぜぇ、にゃろ! くっ! らぁっ!」
心臓は胸を強く叩き、喉は切れ、汗はモンスターの返り血により最早見えない。ブレイザーも、ベティーも、ライアンも、既に満身創痍という状態だった。
「ふは! ふははははは! 我輩の魔爪、思い知ったか! カァ! ハッ! フハ!」
「「タラヲ、無茶をするな!」」
「何を! 蛇神とも恐れられしカガチが何を言う! 我輩は負けられぬ! 負けられぬのだ!」
「「くっ、何と健気な……! ガァアアアアアアアッ!」」
背後には守るべき主がいる。ティファがいるのだ。タラヲは全てを言わなかったが、ツァルはそれだけで全てを察する。ブレスを吐いて奮迅するタラヲを援護する。そして、それはティファをよく知るライアンの耳にも届いていた。
(そう、私たちの背後には年端も行かぬ子供たちがいる。タラヲ殿、その通りだ。負けられぬ。負けられぬのだ!)
「ライアン合わせろ!」
「言われるまでもない! ダラス!」
駆けながら、ダラスとライアンが攻撃を合わせる。巨大なベータ、強靱な下級悪魔、吸魔を使う厄介なアルファ。全てをなぎ払い、ただブルーツの背中を追う。それが、彼等が生きるための茨の道。
だが、それでも限界は訪れる。どうしようもない程、突然に。
「ぜぇぜぇぜぇ――ぁ……」
それは、アージェントの背後を守っていた白銀の精鋭――その一人だった。
男は躓いてしまった。細心の注意を払っていた。しかし躓いた。男の足下にいたのは、一匹の小さな子鬼――ゴブリンだった。
ゴブリンは抱きつくように男の足に掴まった。たったそれだけだった。普段ならばそれが弊害となる可能性は低い。しかし、ここは魔王軍のど真ん中。一瞬、ほんの一瞬だけ起きた油断が、男の頭をこの世から消した。
振りかぶられたオーガキングの鉄槌。かわせなかったのは、その男だけ。
背後にいたイーガルの顔が歪む。しかし、目を瞑る事は出来ない。
前を走っていたアージェントが、背後の仲間の消失に気付くも、それに構う事はない。構っていては、戦線の瓦解に繋がると知っていたからだ。
「ベリア!」
「はっ!」
アージェントの背後の担当を、名前を呼んだだけで指示する。
イーガルの前に跳び、すぐに仲間の代わりを務めるベリア。
それに気付く中央後方のトゥースが強く歯を噛みしめる。
(綻びが出た……! まずい、予想以上に早い! 急げ、アズリー!)
直後、轟音が響いていた空から……音が消えた。
遅筆で申し訳ありません。
考えながら間違えないように書くので必死です。
応援宜しくお願いします。




