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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第二章 ~色食街編~

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◆043 親善試合

 魔育館の騒めきが高調し、舞台袖からステージに続く道に一人顔を見せる。

 背丈は低く、両の肩幅は狭い。女子用の杖といえどそのアンバランスさは未だ成長期といえるだろう。一年生、黒の派閥代表リナの登場。とともに黒の派閥の応援席から大きな声援が聞こえる。

 ギクシャクと動くリナに少しの緊張が見てとれる。一歩は肩幅より狭く、ステージまでの距離が長く感じる程にゆっくりと、しかし確実に歩いた。


「なははー。リナのヤツ緊張してるねー?」

「当然ですよ。この大勢……というよりもリナさんの先生と戦うのですから」


 アンリの言葉にクラリスが見解を加える。隣にいるイデアがそれを聞いて首を傾げながら言った。


「なんだ、あの二人そんな関係だったの?」

「そうだよー。リナに魔法を教えたのはアズリーさんなんだ」

「そういや掛け声の癖が似ている、か」

「でも、アズリーさんは授業でもあまり魔法を使わないですからね。使ってもその殆どが初級魔法ばかりですし」

「すかした野郎だよ、まったく……」

「気さくな人だけど少し近寄りがたい面もあるよねー。いや、向こうが避けてる訳でもこっちが避けてる訳でもないんだけど……なんかずっと年上の人みたいだよね」

「確かに……クラスの皆があいつにはさん(、、)付けで呼んでるな。……いや、そう呼んでないのは私とオルネル、ミドルスだけか」


 顎先に手を添え呟くようにイデアが言うと、アンリがニッと笑みをこぼして頷いた。


「アズリーさんはおっさんっぽい子供っていうか、子供っぽいおっさんっていうか……とにかく変な人さ」

「でも女子には人気がありますよね」

「へぇー」

「なんといっても、先のオーガ討伐で作戦参謀を務めあげ、ランクAの冒険者。そして学生自治会の書記ですからね。どうしても気になりますよ。それにウォレン会長の再来とまで言われてますよ」

「ふん、あの黒帝ウォレンと同列とは。いよいよあいつも出世したわね」


 アズリーの評判にイデアが悪態をつく。

 その頃、一般の観客席では、ブレイザー、ブルーツ、ベティーが大量の食料を買い込みながら足元に広げて陣取っている。


「リナちゃん、やっぱ華があるよなー!」

「確かに人を惹きつける魅力がある。ギルドの人間もちらほらと応援に来ているみたいだしな」

「リナー、頑張りなさーい!!」


 ベティーが大きな声援を送り、それに気付いたリナが小さく手を振る。恥ずかし気なその表情に追い打ちをかけるかのようにギルドの冒険者達が声を送る。

 冒険者ギルドではダンカンの手により、大々的に親善試合の告知が行われた。普段はそんな事に興味を示さない彼等だが、小さな冒険者リナの出場とあって、皆、参加意思を表明したのだ。

 多数の冒険者ギルドの面々。遅れて来たダンカンが、観客席後方より見つめ、その隣には腕を組んだダラスの存在も確認出来る。

 歓声の反応を確認するように周りを見渡したブルーツがこぼす。


「はははは、大人気だな。ダラスのおっさんも来てるぜ。ありゃアズリーを観に来た感じだな」

「あぁ、ダンカンも来れたみたいだな」

「さて皆のアイドルリナちゃんに対して…………あれ、アズリーは?」


 ベティーが未だ登場しないアズリーに首を傾げる。


「ホントだぜ、アイツ何やってんだ?」

「トラブル発生か? アズリーは元々そういう素養があるが……」


 ブレイザーもそれを疑問に思った頃、辺りも騒めきを隠せなくなる。

 審判席ではアイリーンが腕を組みながら指をトントンと叩き始めている。公衆の面前という事がなければ足を鳴らしながらアズリーを叫び呼んだだろう。

 上手中央にある来賓席ではガストンが大きな溜め息を吐く。

 運営スタッフのオルネルとミドルスが下手側にある舞台袖を覗きに行くと、手を上げて問題がないというジェスチャーを学生自治会席へアピールしていた。

 喧騒も落ち着きを見せ、一瞬の静寂を迎えた。すると、コツコツと杖を突きながら歩くアズリーが登場した。一つ間隔を空けてポチが後ろに付き従う。先程まで膨れていた腹部は不思議とへこみ、ポチの腹部もまた同様である。

 意表を突かれた観客たちはその行進を沈黙で迎え、リナの対面に移動し終えるまで見守った。


「お、お腹……大丈夫ですか?」


 リナの心配事がアズリーに問い掛けられる。

 二人は満面の笑みを表に出し、そしてこう言った。


「「吐いたから大丈夫!」」


 瞬間、どっと笑い声が広がる。怒る気力どころか両手で顔覆うアイリーンは耳を赤くさせて恥ずかしがっている。隣に座るビリーでさえも苦笑いという感じで困った様子を見せ、近くに立つオルネルとミドルスも頬を赤らめて恥ずかしそうに立っている。


「ダハハハハ、ブレねぇなあいつらはっ!」

「くっくっくっく……ここまで笑撃的な親善試合も初めてだろうな」

「ふふふふ、あいつ等らしいわね」


 銀の三人は盛大に笑い、リナの為に観戦に来ていた他のギルド仲間もアズリーを(はや)し立てた。

 大学長のテンガロンが大きく咳払いをすると多少の治まりをみせるも、魔育館の笑い声はその流れで大きな声援へと変貌していった。

 これを機とみたか、オルネルが手を挙げて学生自治会に合図を送った。合図を受け取ったウォレンは、拡声魔法が込められた魔法陣に立った。それを確認したテンガロンが後に続いて立ち上がり、ウォレンの下へとゆっくりと歩いていく。


『皆様、本日は白黒(びゃっこく)の連鎖、魔法大学親善試合にお越し頂き誠にありがとうございます。魔法大学学生自治会会長のウォレンです。長い話は開会の時にお話しさせて頂きましたので今回は手短にご挨拶させて頂きます』


 ウォレンの手慣れたスピーチに皆がくすりと笑う。


『本日の第一戦はアズリー君とリナさんの試合です。アズリー君は優秀な成績でこの魔法大学に入学し、授業だけではなく、冒険者としても並々ならない実力を発揮しております。対してリナさんも魔法を覚えて間もないという事ですが、この親善試合に出場足るだけの実力を有しています。二人共、この一戦に今もてる全てを出し切れるよう切に願います』


 簡単だが、まとまった選手紹介を終えると、小さく控え目な拍手がおこる。それが鳴り終わるのを待ってウォレンが続ける。


『試合開始の号令は当大学学長、テンガロン先生にお願いしたいと思います』


 ウォレンの後ろで待機していたテンガロンが拍手をもって迎えられた。

 テンガロンがウォレンに代わって拡声魔法が込められた魔法陣に立ち、手を挙げて鳴り響く拍手を収める。


『ゴホン……あー、このよき日に親善試合を臨めた事は、偉大なる戦魔帝ヴァース様のお導きです。アズリー君、リナ君、お互い悔いのないように、全力をもって白黒(びゃっこく)の連鎖の本懐を遂げてください……』


 しんと静まり返る会場。テンガロンが二回程小さな咳払いをする。


 そして――、

「試合開始っ!」


 大きく響き渡る声が会場に広がる。と同時に盛大な歓声が上がる。リナを応援する野太い声、アズリーを応援する黄色い声。ポチをからかうブルーツの声等、その応援の内容は様々だった。


「行くぞっ――――って師匠が先に行くのも変だな? おし来いリナ!」

「はいっ!」


 リナはアズリーにプレゼントされたスターロッドを掲げると、二つの魔法を唱える。


「スピードアップ! パワーアップ!」

(ほぉ、補助魔法二つとは思い切ったな。しかし今回は杖を削った剣じゃない。杖術でやる気か? うおっ?)

「はぁっ!」


 リナが最初に動いた。前回オルネルと戦った時以上の速度でアズリーを驚かせる。ほぼ一瞬で間合いを詰めたリナが杖を振り上げる。身長の低さを利用した重い一撃。これをアズリーが杖を持った手一本で受ける。体に響く一撃にアズリーの顔が歪むが、その表情には未だ余裕がある。

 続くリナの猛攻を全て片手でいなし、杖術での差をリナに見せつける。


(うまく隠してるな。攻撃自体に実は伴っているが、中にある確かな虚が上手く意図を隠している。俺ならそろそろ小出しし始めるが……)

「バースト!」

(やっぱりな)


 瞬間的に上げられた攻撃速度にアズリーは後方に跳んで対処する。


「やるな、攻撃の合間合間に指での宙図。両手で攻撃しながら器用にやってみせたな」

「ど、どんどんいきます!」

「リナさん頑張ってー!」

(お前はなんでリナの応援なんだよ!)


 そう心で呟いたアズリーに笑顔で答えるポチは、ステージの隅にちょこんと座っている。どうやら、リナが使い魔であるバラッドを召喚しないうちは戦闘に参加するつもりはないようだ。

 観客席ではブルーツがつまみである干し肉を咥えながら戦闘の様子を見守っている。


「なんだリナちゃん結構動けるじゃないか」

「当たり前だよ兄貴、私が近接戦闘を仕込んだんだからっ」


 鼻を高くしてベティーがそう言うと、ブレイザーが得心したかのようにうんうんと頷く。


「なるほど、だからあそこまで実の虚があったのか。しっかりと受け継がれているな」

「おいおい、攻撃はいいが性格まで捻くれさせないでくれよベティー? リナちゃんは素直が一番なんだぜ?」

「う、うっさいわっ! 素直だから飲み込みも早かったのよ!」

「しっかし、アズリーの技術も俺様仕込みだからな。あの程度はお手の物よ」

「うむ、アズリーはもしかしたら戦士向きだったんじゃないか?」


 ブレイザーがそう言うと、ブルーツが首を横に振って否定した。


「あいつは根っからの魔法バカだよ。最近よくつるんでモンスター討伐してたが……ありゃ病気だな。なんでもかんでも魔法や錬金術で捉える癖がある。ポチが呆れるのも無理ないぜ」


 椅子の上に座ってこそいるが、胡坐をかいて膝に片肘を乗せ、手の平の上には顎先を乗せる。そんなブルーツがため息を吐いてアズリーを見つめる。

 ステージでは杖と杖の攻防が行われている中、観客席とは反対側、舞台の上にある来賓席ではガストンが口尻をあげてアズリーの様子を見ている。すると横から豪気な声がガストンとドラガンの鼓膜を揺らした。


「がはははははっ! あの坊主、なかなか面白いもんじゃのう! ガストン殿はそういえばあの坊主を連れてオーガキングを狩ったとか言うとったの?」

「左様ですな。若いのに中々骨のある……いや、そうでもないですな。いや、まあ面白い人材ではありましたな」


 左目の眼帯、鋭い右目は金色に光りギラつき、白く長い眉毛が目立ち、金とも銀ともとれない逆立った髪が印象深い男。顔には深い皺が刻まれ、それが歴々と連なっている。何よりも特筆すべきはその巨躯だろう。アズリーをして熊と言わしめたドラガンより遥かに大きな体が、座る椅子を軋ませている。

 現六勇士、戦士大学大学長の「千剣万化のチャーリー」である。

 ガストンの口調からもその威厳が伝わり、ドラガンは関わりたくないのか沈黙を守っている。


「なんじゃなんじゃドラガン? 元気がないのう?」


 来賓席のガラス窓をビリビリと震わせる太い声に、繊細な虎の表情が歪む。

 どうにもいたたまれないと思ったのか、ガストンが助け舟を出す。


「まあチャーリー殿、今は試合を楽しもうではありませんか?」

「がははははっ、そうじゃったそうじゃった!」

「む、動きがありましたね?」


 ドラガンが小さく呟くと、その視線の先では、ステージ上のリナがアズリーから距離をとり、壁際まで後退したのだった。


「ほいのほいのほい、クロスウィンド!」

「ほほい、クロスウィンド!」


 リナが放った中級系風魔法に対して、アズリーは圧倒的な速さで宙図を行い同じ魔法を返す。二つの風刃は衝突し合い、風切り音とともに大きな風圧を両者に与えて消えていった。

 この一連の流れに審判席のアイリーンとビリーが立ち上がる。


「「は、速いっ!」」


 このどよめきは学生からも自治会席からも漏れていた。スウィフトマジックではない魔法の発動速度が、六法士をして速いと驚かせたのだ、無理はないだろう。


「流石アズリー先生です! ほいのほいのほい、のほい! ヘビーチェイン!」

「うぉっ!? ほ、ほい! ミドルチェイン・ダブルッ!」


 上級系人体拘束魔法ヘビーチェインに対し、アズリーは中級系の同じ魔法を放った。親善試合において人的被害の大きい攻撃魔法については中級系までと制限があるが、補助や回復魔法についてはこの限りではない。


「凄いな、補助魔法でもここまで出来るのか」

「へへへ、これしか出来ないですけどね」

「けど宙図に時間がかかってるからな、まだまだ実用段階じゃないだろう?」

「アズリーさんなら待ってくれるって信じてましたから」

「なるほど……成長していらっしゃる」

悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 書籍化決定しました。


別作で申し訳ございません。

転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士) 第二巻 2015年7月15日発売予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 確か試合では、中級までしか使用してはいけないのであれば、上級使用したこの時点でリナの反則敗けでは?
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