◆424 新魔法完成!
キャサリンとジェイコブがブルーツと別れ、広間に戻った後、時計の短針は一周回った。
昼間だというのに、誰もが憔悴しぐったりと倒れる中、アズリーだけは黙々と筆を握っていた。
「……あの人、おかしいよ」
バルンが寝転がりながらアズリーを皮肉る。
「こ、この部屋臭いですぅうう……」
天井を見上げながらアミルが言った。
「アミル、意識しちゃうからそれやめて……」
ナターシャも気力で自分を支えているが、ついに畳の上に突っ伏してしまう。
そんな中、魔法教室の廊下から聞こえてくる小さな足音が一つ。
バタンと襖が開けられ、現れたのは、ツンとした表情のアイリーン。
「……馬鹿なの? あなたたち?」
皆何も答えられない。アイリーンの馬鹿呼ばわりに、反論する事は許されないのだ。
何故なら――、
「だからあれ程言ったでしょう! アズリーに付いて行ける人間なんてこの世の中にほとんど……いえ、いないと言ってもいいわ! それをムキになって残るんだから! 『適度に休憩する事』って言ったでしょう!」
そう、彼らはアズリーの熱意に負けじとここに残ったのだ。
休憩をとったのは、アズリーをよく知るウォレン、アイリーン、そして大学の学生をベイラネーアに残して来たドラガンとテンガロンだけだった。
「まさかここまでとは思わなかったので……」
仰向けになっているラッセルが疲れた声で言った。
「休んだ方が効率の良い時もあるのよ。ま、アイツ以外ね」
アイリーンが未だ紙と睨めっこをするアズリーに注視する。
「レデュケイト・マジックポイントはそもそも日常的に発散される魔力の動きを活性化させたもの。ならば、その日常を壊す事が出来れば? 周囲の環境を壊す事で魔力の動きも活発化せざるを得ないんじゃないか? この魔法の内側に周囲からの圧力を掛ける公式を混ぜる? そうすると魔力消化効率はおよそ五倍……いけるな。これに改良した加速魔陣の魔術を組み込む。ルシファーに直接叩き込むのであれば重ね掛けは不要。俺が一撃でもルシファーに叩き込めれば、後はその魔法陣に魔力を込めるだけ。…………どうやって?」
アズリーの思考が止まったところで、アイリーンがそれを助けるために声を掛ける。
「魔法陣自体に集魔の公式を入れておけばいいんじゃない?」
「それです!」
再びアズリーの筆が進む。
「威力は十分。これでルシファーはこの魔法の存在に気付く事はない。けど集魔をしたところで、発動はやはり手動になる。って事はそれを俺がやるのか? いや、無理だ。瞬間転移魔法を使ってかわしまくっても、ルシファーの攻撃を防ぎながらこの高難度の魔法を宙図してたら、それこそ防がれてしまう。ルシファーに気付かせずに魔法陣を叩き込む事が出来ても、手動発動の時点で気付かれる…………どうすれば?」
またアズリーの思考が止まる。
「それを自動発動には出来ないの?」
アイリーンが聞く。
「可能な限りの情報量を魔法陣に込めたので、自動発動公式を組み込むのは無理でした。手動にすればいいと思ったんですが、ちょっと無理でしたかね……」
「一つだけ手がありますよ」
アイリーンの後ろから現れたウォレン。
「というと?」
「手動発動ではなく、認証型発動にすればいいのです。計算したところ認証型の情報量と手動発動公式の情報量は同程度ですから。ただ――」
「――おぉ! なら、俺以外の人間でも出来る!」
ウォレンの言葉の途中で、アズリーが筆を走らせるも、アイリーンの顔は渋いままだ。
「アナタでさえ発動させるのが難しい超高難度の宙図よ? 一体誰が出来るって言うのよ?」
ジトっとしたアイリーンの目を受け、アズリーの目が点になる。
「トゥ、トゥースとか?」
「多分そんな状況ではないでしょうね、彼は。簡単な魔法陣であればともかく、高難度の宙図をする時間を、これから起こるであろう人類存亡の戦争で確保出来るか……と言われたら、可能性は低く感じます」
「簡単な……魔法陣…………っ! それだ、ウォレンさん!」
アズリーは何かに気付き、また筆を走らせる。
そしてそれが完成した時、アズリーは筆を止め、その場に倒れ、泥のように眠り始めた。
アズリーの手から落ちた紙を拾い上げるアイリーン。ウォレンはその横から中を覗く。
すると二人の顔が硬直した。直後、二人は全身が粟立つ感覚を覚えた。
「これは……」
「意図してって訳じゃなさそうね。アズリーだもの」
「いいえアイリーン様。これは、成るべくして成ったとしか言いようがありません」
アイリーンは熟睡するアズリーに呆れ、ウォレンは微笑みを見せた。
「後は任せてください、アズリー君」
「必ず実現させるわよ!」
言いながらアイリーンとウォレンは、その紙を持って広間を出たのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ、起きました!」
アズリーの右耳から聞こえたのは、いつもの声。
八百年以上時を共にした最高の友の声。
「何か、久しぶりに聞いた気がするな。お前の声」
アズリーは目元を擦りながら呟くように言った。
「マスター!」
すると、ポチは突然大きな声を出したのだ。
「ん?」
「もの凄く臭いです!」
「起きて早々言う言葉がそれかよ!」
アズリーはベッドから立ち上がり、ポチを指差して怒鳴る。
「さっさとお風呂入って来てください!」
「くそっ、わーったよ!」
ポチに何言っても無駄だと思ったのか、アズリーは自室を出てぷんすこと風呂に向かう。
しかし、その途中でアズリーが気付く。
(……変だな? この屋敷に誰もいない? 魔力がポチだけだ。けど魔法教室の方では無数に魔力が集まってる。トゥースもリナもいる? いや、俺の知ってるヤツら全員いるんじゃないか? ……一体、俺に黙って何やってるんだか。…………ん? そういや俺って何してたんだっけ? はて? 元十二士たちが集まって…………何を話したんだっけか? むぅ、わからん!)
アズリーは風呂に浸かりながら夜空を見上げ、そしてまた意識を失った。
しばらくの後、風呂で寝ていたアズリーに忍び寄る影。
「ニシシッ」という笑い声が、アズリーの耳に届く。寝ぼけ眼で目を開けた瞬間、顔面に飛び込んでくる強烈なお湯。
「ぶわぁっ!?!?」
「ハハハハハハッ! ようアズリー! 目ぇ覚ましたか!?」
腰元にタオルを巻き、アズリーの眼前に仁王立ちしていたのは銀のお祭り男ブルーツであった。
「……ぷぅ。何だ、ブルーツか」
顔を掌でこすり、お湯を落としたアズリーがようやくブルーツに気付く。
「もう少しで皆やってくんぜ」
ブルーツが風呂の入り口を親指で指す。
「ならそろそろ上がっておくかー」
アズリーが立ち上がろうとすると、ブルーツが手を前に出しそれを止める。
「まぁまぁ、俺も身体洗ったし、ちっと風呂浸かりながら男同士で話そうじゃねぇか。な?」
「はぁ? お前と話して良い事あったっけか?」
面倒臭そうに言うアズリーに、ブルーツが焦る。
「いやいやいやいや、春華やナツ、フユに会えただろーよ?」
「むぅ、まぁ、それは、うん。良い事だな」
流石にそれを否定出来なかったのか、アズリーはうんうんと頷き、ブルーツはそれで気を良くし、思い出したように言った。
「そういや、さっきその春華と一緒に帰って来たんだがな? ポチが『マスターはお風呂です!』って言うもんだからもう大変よっ」
「何が?」
アズリーが首を傾げる。
「春華が舌をぺろっと出しながらさ、嬉しそうな顔で『あちきがお背中を流しんす』だとよ。ハハハハハハ!」
「…………ん? 誰の?」
首を傾げるアズリーに、ブルーツが固まる。
「マジかよ、おい」
【宣伝】
2019年6月15日土曜日
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』の第12巻が発売致します。
読者の皆様の応援のおかげであります。
特典情報は下記
【初回特典】には「ポチのわらしべナントカ。」が同梱されております。
⇒ポチ流のわらしべ長者を是非ご覧ください。地の文も絵本風に仕上げました。
【書籍限定巻末特典SS】には本編の「404 ウォレンの策」の裏のお話を書かせて頂きました。
タイトルもまんまで「ウォレンの策(裏)」です。
⇒アズリーとポチが耳栓をしている間に起きた薫、アイリーン、ウォレンの話がどうだったのか?
アズリーがルシファーと戦っている間、クリートと戦っていた皆はどうだったのか? ライアンに告白したレイナは? 過去最長の12000字以上の特別書き下ろしであります!
すまん。400ページ超えちまったぜ^^
12巻表紙は下の方へ!
コンセプトは筋肉と筋肉の狂宴。
ルシファーとアズリーの実力差が明確にあらわれるような表紙になりました。
およそライトノベルの表紙とは思えない少年漫画的表紙を、これまで付いて来てくれた読者の方は受け入れてくれる。そう願っております。
いや、もしかしたら露出度的にはライトノベルなのかもしれません。だっておっぱいポロリしてるし。
あ、でもカバー捲った後のカラーページにはリナちゃんがおるで! これも是非楽しみにしてくださいませ!
次回:「425 違和感」をお楽しみに。




