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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第二章 ~色食街編~

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042 プニプニ

 数日の間、俺とポチは周辺のモンスター討伐をこなしながらその時を待った。ブルーツと共に行動する事もあった。彼も酒を控え、自分の預貯金を貯めているとの事だ。

 銀の他の二人にも話す事を提案したがブルーツは恥ずかしそうにこれを拒否。

 なんでも、ブレイザーはブレイザーで銀というパーティを各方に優遇されるように根回しをしたり団体維持の為にお金が必要なんだそうだ。

 ベティーはその主軸、宿賃等生活に関わる資金繰りを任されているので迷惑をかける事は出来ないそうだ。

 肝心のブルーツの銀での役割は、二人の補填が主となっている。基本的にノルマがあり、そのノルマを超えた分は銀の貯金となる。

 今までの貯金ペースは乱さず更に自分の収入を増やす。ブルーツが普段以上に無理をしている事が伺える。

 あまり無理するなと声をかけたら、あいつ「俺は無理すんのが取り柄なんだよ」とか言ってたな。まったく、困った取り柄もあったもんだ。

 ――そして数日後


 ―― 九月二十二日 魔法大学 中央校舎 ――


 朝登校すると、教室は騒然としていた。主だったグループで固まり、そして興奮するように目を輝かせている。

 リナもクラリスとアンリ、そしてイデアと一緒に話に華を咲かせている。三人がリナの机に集まっているところを見ると、その人気を窺い知る事が出来るだろう。

 ところでイデアはリナに負けたが、その悔しさとかはないのだろうか? いや、リナの事だ。きっと影ながらフォローを入れたのだろう。

 影でオルネルがモジモジしながらその様子を見ている。混ぜてもらえば……いや、女子の集団に飛び込むのは結構勇気がいるものだ。オルネルは誰狙いなのだろうか? やはりリナ? ……いや、俺の可愛い教え子にちょっかい出してきたら一週間は便秘に悩まされるとっておきの秘術を使ってやる。


「いやー、噂って広まるの早いですねー。発表されたのは昨日ですよ?」

「情報を仕入れるのも魔法士の仕事のうちだよ。ま、ただのミーハーってだけかもしれないがな」


 俺とポチは自分の席に着くと、いつも通り雑談しながら授業の開始を待った。


「あ、アズリーさんっ!」


 聞こえるのは我が生徒の元気で明るい声。トコトコと階段を上る小動物のような彼女は、予選トーナメント以来一躍人気者だ。

 リナが声を出すだけで、一歩動くだけでクラスの皆の顔が動いたりする。一年生ではないが、上級生の間で既にファンクラブまであるそうだ。元々それだけの素養はあったし、人気者になり得るだけの人格でもあった。

 もう魔法大学でリナの名前を知らない者はいないだろう。ランクAのバラッドドラゴンを従える魔法士。リナの将来が楽しみだな。


「お、おはようリナ。今朝はなんだか凄い賑やかだな。なんかあったのか?」

「もう一大ニュースですよ!」


 あくまで初めて知った。そんな反応が必要だった。リナ相手にそれをするとポチのじとっとした目がとても痛い。

 そしてリナと仲良くしてるせいか、周りからの目もとても痛い。


「へぇ、どんなニュースなんだ?」

「あのアイリーン(、、、、、)さんが、ついに《空間転移魔法》、魔法名テレポーテーションの発明に成功したそうですよ!」

「スゴイナ、ソレホントウカヨ!?」


 昨晩反復練習したこの言葉。

 ふっ、流暢過ぎたかもしれないな。


「ワー、スゴイデスネー!」


 そういやポチ(お前)も練習してたな。


「あ、その顔は知ってましたね?」


 ポチ張りのジト目が俺を見つめる。しかし何故ばれたのだろう?


「ソ、ソンナコトナイヨー」

「ソウデス、ソンナコトナイデス」

「もう、どうせ昨日冒険者ギルドで知ったんでしょ」


 ぷっくりと頬を膨らませるリナ。むぅ、この頬っぺた押したら怒られるだろうか?


「あははは、プニプニですねー!」

「おい、なんでポチがつつくんだよ!」

「そこに、頬っぺたが、あったからです!」


 なんて分かりやすい説明だ。


「あはは、ポチさんちょっと痛いですー」

「む、これは爪を丸くする事を考えなくてはいけませんね。マスター、ヤスリは何処ですか!?」

「考えてからの答えがはえーよ。しかし、アイリーンさんが空間転移魔法か……こりゃ魔法大学の地位向上も期待出来るし、アイリーンさんの名前がまた有名になるな」

「ですね! 私も負けてられません!」


 小さな手をグッと胸の前で気合いを入れる我が生徒。

 ……嘘ついてごめんなさい。


「あはははは、プニプニプニプニー!」


 まだやってたのかポチ(お前)


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――放課後、アイリーンの部屋――


「さっきアズリーの宛に500万ゴルドを振り込んでおいたわ。残額の500万ゴルドについては国から恩賞を貰ってからって事でいいのよね?」

「勿論です。頭金があれば何とかなりますから」


 俺とアイリーンは取り引きをした。

 空間転移魔法を1000万ゴルドで売ったのだ。即金が欲しい俺と、国から援助を受けながら空間転移魔法の研究をしていたアイリーン。

 国から小言を言われながら成功確率の低い魔法の研究をしていたら、俺が成功例を出してしまったのだ。俺の研究を追うよりもいっそのこと提供してしまえば互いにWINWINの関係になる。

 競売にかけてもよかったし、その方がお金も大きく得る事が出来ただろう。だが信用出来る人物にそれを託す方が有益と判断したのだ。フォールタウンの件でかなりお世話になってるし、色々見逃してもらっている。

 この取り引きにアイリーンも最初は渋ったが、「手付け金は500万ゴルドでいい」という俺の言葉に負けたようだ。


「それで、どうやって色食街(しきしょくがい)の雇用解放を実現させる気なの?」

「起業しようかと思いまして」

「……冗談って訳じゃなさそうね。具体的にはどうするの? 利益を求められなければ店としてやっていけないわよ?」

「まずは出来るだけお金を稼ぎます。それからは親善試合が始まってからですね」

「十月十日……残り半月と少しってとこね。もし面白そうな内容だったら私も乗るわよ」

「あははは、是非お願いします」


 このやり取りの後、俺とポチは授業への参加を極力控え、ブルーツと一緒に色々な討伐依頼に参加してお金やそれに付随してくる経験値を稼いだ。

 主な狩り場はベイラネーアの西の丘陵地帯を越えた所だ。そう、ここは数ヶ月前にオーガキングを倒した場所でもある。そして更に奥にある『深罪の森』……ここはオーガの残党や、平均ランクC~Bのモンスターが多種多様に存在する。前衛がブルーツ、遊撃にポチ、そして後衛に俺が回れば安定して狩れる程には成長している。

 ブルーツの戦闘法も大分変わってきた。豪快さを残しつつ、動きに精度が増し、レベルも上がってきている。もしかしたらブレイザーより早くランクSになるかもしれないな。

 俺達に「最近アンタたち仲がいいわね」というベティーも、リナの休みの日を利用して一緒に狩りに行ったりしているみたいだ。

 ブレイザー? ブレイザーは風の噂で魔法士三人組と最近組んで戦いに出ていると聞いた事がある。

 なんでも将来有望らしいから面倒見て折を見て銀に誘いたいんだそうだ。

 そうこうしている内に瞬く間に日が過ぎ、リナとの戦いの場、親善試合の日となった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―― 十月十日 午前九時 ――


 十月から始まった準備期間を経て、ようやく親善試合が開催となった。

 出場選手である俺とリナは鍛錬に打ち込む事が出来、周りの学生が出店や飾り付け等を行ってくれる。ポップなモンスターに仮装した同級生や、魔法を使った余興やパフォーマンスも充実していて、この魔法大学は、この日お祭りのような賑わいだ。

 試合が開始されるのは正午となっていて、俺とリナとポチは、出店を回りながら雑談をしていた。


「マスター、そのフランクフルト、また買いに行きましょう!」

「またかよ、お前これで五本目だぞっ?」

「まだ五本目です。私のお腹には後七本は入りますよ!」


 言いたいところはそこじゃない。


「あはは、確かに美味しいですからね。ジャンボイノシシのフランクフルト。あそこのクラーケンもどきの粉物屋さんってのも美味しかったですよ♪」

「おいリナ、試合前にそんなに買って大丈夫なのか?」

「買うだけです。これは……えへへ、後でバラードにあげる用なんです」


 ほぉ、良いマスターに恵まれたもんだなバラードは。


「良いマスターに恵まれましたねぇバラードは」

「おい、お前が言うとまるで俺が駄目マスターみたいじゃないか!」

「フランクフルト!」

「よーし買ったるわ! 俺良いマスターだからな! 七本と言わず、十本でも二十本でも買ったるわ!」

「それでこそ最高のマスターですよ!」


「「ハハハハハハッ!」」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「お、お二人とも……し、試合前ですけど……」


「もぉー食べれません! 誰ですかこんなにフランクフルト買ったのは!?」

「うっぷ、俺だよ! 可愛い可愛い使い魔の為にな!」

「その可愛い可愛い使い魔のお名前は!?」

「ポッチャリ!」

「違いますよ! 確かに今は多少……そう、多少ポッチャリとしたお腹ですけど、消化すれば素晴らしいくびれがくびっという感じででるんですー!」

「なんだよその『くびっと』って! どうすんだよ、リナとの試合までもう30分もないぞ!」

「……あっちゃ〜!」

「可愛く言ってもしょうがねぇんだよ! つーか可愛くねぇ!」


 試合開始30分前。魔育館にスタンバイした俺と食いしん坊は、膨れた腹をポンポンと叩きながらステージまでの道に出る舞台袖の椅子の上で消化に専念していた。

 周りからは俺が見えないが、対面の舞台袖に座るリナだけは見る事は可能だ。

 観客席では白と黒の派閥に別れた応援席が用意され、既に喧騒が魔育館を覆っている。

 主賓にはガストンとドラガン。そして戦士大学長、現六勇士の戦う大学長こと「千剣万化のチャーリー」。ガストンやアイリーンより老齢で十二士中最高齢だが、その活力は十二士随一と言われるスーパー翁だ。

 更に貴族や商会の大物連中がどんと構えて座っているだろう。

 魔法大学長のテンガロンも勿論のこと、アイリーンやトレース、学生自治会の面々もちゃんと出席している。

 というか、この後やる試合に学生自治会の全ての人間が参加するからいない訳がないんだがな。


 しかしどうすればいいだろうか。どうみてもこのぽっこり膨れたお腹は不利だ。いや、それよりもこの試合の為に頑張ってきたリナに対して失礼だろう。

 腹をさする俺とポチを見てリナが楽しそうに笑っている。おや、怒るべきところでは? むぅ、女心とはわからないものだ。


「マ、マスター……おやすみなさい」

「あーおやすみ…………ってちげーよ! 犬の癖になんで大の字で寝てるんだよ! そこは伏せて寝るべきだろう! って俺も違う! ほら、腹踏んじまうぞ」

「も、もういっそ踏んでください……うっぷ」

「ほれほれほれー」

「あははははは、ちょ、マスター! くすぐるのはダメです! ダメですってば!」

「ここか、ここか! ここがええのんかー!?」

「あはははははは! はっはっ……こ、このー! このこのこのこのー!」

「ぶっ、ふはっ! あははははは! そ、そこらめぇっ! あははははははは! にゃ、にゃろ!」

「あはは!」

「あははは!」

「「あはははは!」」


 も、もういっそ殺してっ!!


『試合開始二分前です。一年代表白の派閥、アズリー。同じく黒の派閥代表リナ。ステージに移動してください』

2015/7/10 悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめの書籍化が決定致しました。

詳しくは活動報告にて!!

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