415 甘味所
「へぇ、エッドの片隅にこんなお店があったとはね」
「はい♪ ここは穴場なんです!」
「甘味の?」
「うっ……うぅ」
フユは「クリームあんみつ」なるモノを食していたが、俺の指摘により先程まで早かった手がピタリと止まる。
スプーンを咥えたまま止まったフユに、俺は苦笑する。
「好きなんだね、甘い物」
「こ、これはその…………ごにょごにょ」
まさか本当に肉声で「ごにょごにょ」という人間がいるとは思わなかった。かつて言った事があるのは…………やはりポチくらいか?
そんな事を思い出していると、フユがようやくスプーンをちゅぴんと口から放した。
「そうです! これはガストン様がいけないんです!」
焔の大魔法士に飛び火とは、また面白い。
「ふーん、聞こうじゃないか」
「ガストン様は王都レガリアでいくつかの隠れ名店を知っているんですっ」
「ふんふん」
「それで、報告書の確認なんかをお願いしに行く時は、そういったお店でする事が多くて!」
「なるほど」
「そういったお店は甘い物が多くて!」
「そうなんだ」
「自然とガストン様と甘い物巡りをぉ……ぅう!」
「『チョコミルクバナナサンデー・チョコ多めのフユ仕様』……だっけ?」
「んぁ!? ど、どうしてその事知ってるんですかぁ!?」
過去、ガストンと念話連絡をした時に話した中にそんな内容があったのを思い出しただけだが、思った以上の反応だ。
「好きなんだね、甘い物」
俺がそう言うと、フユはまた黙ってしまった。
今度は顔を真っ赤にして。ふむ、流石にからかい過ぎたか。
フユだけじゃない。いつ戦争になるかわからない状況だ。皆には適度に息抜きしてもらいたい。俺に出来る事は、それくらいだから。とはいえ、流石に突っ込み過ぎたな。
そろそろ切り上げて――――、
「好きです! 大好きですっ!!」
今度は俺がピタリと止まった。
いや、それだけじゃない。この店にいる全員が動きを止めた。
そして、店の全員が何故か聞き耳を立て始めたような気がする。
「……あの、フユ?」
「好きで悪いですかぁ!? 好きなものは好きなんです! 好きでいたっていいじゃないですかっ!!」
「わ、わかったから。とてもよくわかったから! とりあえず、ね? 座ろう。うん」
興奮して立ち上がったフユを、俺は窘めるように座らせる。
フユは鼻を「すーぴー」と鳴らし、何故か過呼吸気味である。
これは……俺が悪いのだろうか。いや、俺が悪いんだよな。
ちょっとからかいすぎたか。
「アズリーさんはどうなんですかぁ!?」
また立ち上がったぞ?
そしてまたガヤが大人しくなった。俺たち以外に人間なんていないんじゃないかって程静かだ。何だ、この店?
「あ、いや……えっと?」
「ハッキリしてください! じゃないとソレ食べちゃいますからねっ!」
まるでポチのような物言いだが、このクリームあんみつは俺のだ。
断じてフユのではない。甘そうでとても美味そうだ。先程のフユの顔を見ていれば美味い事は明白だ。黙ってれば食われてしまうのはちょっと嫌である。
……ん? という事は、俺も甘い物が好きだという事だな?
「好きさ。俺だって好きだよ」
「や、やっぱりそうじゃないですか。もうっ! 私怒ってるんですからね!」
「いや、悪い。ちょっと遊び過ぎたみたいだ」
「いいんです。デートにはこういうのも大事ですからっ」
ん? デート?
「あ、アズリーさん。この求肥ってやつ美味しいですよ!」
「ん? あぁ、やっぱり異文化に触れるのっていいな。勉強になる」
「ガストン様も、ちょくちょくトウエッドの文化に触れていました」
「そういえば、前にお茶菓子で出されたのも煎餅だったな」
「ガストン様言ってましたよ? アズリーさんは遠慮し過ぎるって」
「まぁポチがほとんど食べちゃうからなぁ」
「それもありますけど、ガストン様はそういう意味で言ったんじゃないと思います」
「というと?」
俺は首を傾げて、ガストンの過去の言葉の真意をフユに聞く。
「アズリーさん、一人で出来る時は全部一人でやっちゃうじゃないですか」
それの何がいけないのだろうか?
「分担すればもっと早く出来たりするんですよ? 遠慮せずに、もっと他の人にも頼ればいいんです」
「んー、でも総合的に見て一人でやった方が早かったりするんだよ」
「どうしてですかっ」
フユが少しむくれてる。
怒るタイミングが早いような気がする。
「まず、やりたい事があるからと皆を集めるだろ?」
「ふんふん」
「皆を集めるって事は皆の時間を奪うって事だ。その皆の予定を奪う際、別の時間も奪っちゃうんだよ」
「なるほど」
「当日最後までやるつもりだった作業が途中で終わるとなると、非常に効率が悪い。つまり、時間を余分に奪っちゃうんだよ」
「そうなんですか」
「……それ、もしかして俺の真似してる?」
「少しだけ」
まるで先程の仕返しとばかりにフユの目が嬉しそうである。
何とも、困った子に育ったものだ。
「まぁ、そういった理由もあって、結果的には一人の方が効率がいいんだよ。分担してやって早いのはその時なだけであって、周りの人たちのスケジュール調整を考えたら、絶対一人のがいい。というよりやりやすい」
「凄い自信ですね」
「何たって寿命がないから」
「でも命は一つです!」
そう言ったフユの目は、とても強かった。
そして、ムキになったようにクリームあんみつを口の中にかき込み始めたのだ。
「だから! 病気には! 気をつけて! ください! はぁ~……」
最後にはクリームあんみつの余韻に、恍惚とした表情だった。
何だか今日は、フユの色んな面を見たような気がする。
食事も済み、この後の予定もない訳ではない。
俺は会計を済ませようと席を立とうとする。と、その前にフユに聞くことがあったんだ。
「フユ」
「はい、何ですか?」
「さっきからすっごい視られてるんだけど、知り合いでもいるの?」
「はい?」
会計の時キョロキョロしていたフユの話だと、どうやらフユを慕う元王都守護魔法兵団の後輩たちがその店にいたそうだ。
そうか、先程のは彼等の視線か。
何故か俺にだけ鋭い視線が向いていたのは、やはりフユの人気の成せるわざなのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「聞いたわよアズリー!」
「聞いたぜアズリー!」
予定を済ませ、銀の屋敷に戻るや否や、俺の首は、ベティーの右腕とブルーツの左腕に捕まった。これは最早捕縛と言ってもいいかもしれない。
しかし、一体何を聞いたというのだろう。
コイツらが楽しそうな時ってのは、大体くだらない理由なんだ。
「おめぇ、ついに決めたんだってな!!」
何を決めたというのだ、ブルーツよ。
「リナとかティファがいる中で、まさかあの子とはね!!」
一体どの子の事を言っているのだ、ベティーよ?
「ムァスター!!」
五月蠅い犬ッコロまでやってきたぞ?
「こんな大変な時に大変な事してくれましたねっ!? 私、マスターの事がよくわからなくなっちゃいましたよ!! どうしてくれるんですか!? 後、私お腹が空きました!!」
お前はまったくブレないな。
ふむ、やはり話が読めない。
「おい、一体何の話だ? ちゃんと説明しろ」
「何って……ねぇ?」
ベティーがブルーツを見て何かの同意を求めている。
「お、おいおい。俺に言わせるつもりかよ……なぁ?」
今度はブルーツがポチに言った。何この輪廻?
「わ、私の口からは恥ずかしくて言えませんっ!!」
お前が押さえてるのは口でも目でもなく耳だ。
そう思い、突っ込んでやろうと口を開こうとした瞬間、屋敷の広間の襖がバンと開けられる。この屋敷史上、最大の音量で開いたのではなかろうか? と思う程、強烈な音だった。
現れたのはそんな襖の音量とはほど遠い二つ名を持った――静かなる魔法士こと、リナちゃん。
「話があります」
何故かリナの目が怖い。幾億の悪魔でも葬ってきたかのような目だ。
もしかしたら魔王ルシファーより怖いかもしれない。
リナは広間に入り、俺の入室を促す。
よくわからない悪寒と共に、背中に感じたのは別の人の気配。
「何やっているんだ、アズリー?」
「ブレイザーか。いや、その……俺もよくわからないんだ」
そんな俺の答えを真顔で受けとるブレイザー。
すると、ブレイザーは俺の顔を見て何かを思い出したようだ。
「そういえばフユと付き合い始めたそうだな。おめでとうと言っておくべきか。『このご時世だ。誰かに寄り添い合うのは悪くない事だ』と、ライアンも言っていたぞ。しかし、あのライアンが少し怒っていたように見えたな? そうだ、『ティファとリナはどうなるっ!?』とか言っていたか? 私もまだまだメンバーの事を理解出来ていないようだ……」
などとぶれいざぁはもうしており。
これが、私の精一杯のラブコメだ!!
ラブコメ出来てる!?
次回:「416 ぷんぷんぷん」をお楽しみに。
別作:「使い魔は使い魔使い」が完結しました。お時間ある時に、是非ご覧くださいませ。




