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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十二章 ~地獄編~

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◆406 正負の目論見

 シュトッフェルの偽装を解いたルシファーによる一瞬の踏み込み。

 鋭く尖った爪を光らせ、ルシファーは薫に迫る。

 それにいち早く反応したのが、アズリーだった。


「クカカッ!!」


 振り下ろされる魔王の一撃。


「ぐっ!? ルシファー!?」


 薫の前に回り辛うじて攻撃を防いだアズリー。


(何故!? 何故ここにルシファーが!? いや、先程の薫の脂汗――)


 ここでアズリーは気付く。


【けど、無の化面シュトッフェルか。それが本当なら面倒だねぇ】


 先の薫の言葉の真意に。


(あれはもしかして……今日この場に来るのがルシファーだと知っていた!?)


 更に薫の言葉を思い出す。


【ふふふふ、確かに……今までが緊張の連続。これくらいはへっちゃらか。いや、二人は知らない(、、、、)んだったね……】


 アズリーが聞き流した言葉の中に、ヒントがあった事を。


(つまり、薫は知っていた。いや、これはウォレンの予測。薫はそれを聞き、自分の危機を予感し、死すらも予期した。だからこその緊張。そして、俺をこの場に据えたという事は、これがウォレンの最大の狙い。ウォレンとアイリーンは、この場の俺とルシファーの激突に、人類の存亡を賭けた? ……いや、賭けるしかなかった!)

 

 ウォレン、アイリーン、薫がこの場をアズリーとルシファーの勝負の場所に選んだのには理由があった。

 エッドの神殿は、トウエッドの象徴である。

 そこで異変が起きれば民衆は必ずそれを目にする。

 そして、今このエッドに集まるのは……戦魔国との戦いを決意した者が大半である。

 つまり、形骸化した希望ではなく、本物の希望を皆に見せるために、一割の……いや、三割の可能性に賭けたのだ。


「ハッ!」


 アズリーのドリニウム・ロッドを掴みながら、高濃度の魔力圧を放出するルシファー。

 直後、後方で薫の後ろ衿(えり)を咥えて跳び上がったポチが、その勢いで吹き飛ぶ。


「わっ? わっ!?」

「いい! このまま流されなさい! 潤子は既に別の場所まで移動させてる。まずはここを離れる事が最優先だ!」

「で、でもそれじゃマスターが!?」

「大丈夫! 私を信じなさい!」


 ポチには根拠を感じられない薫の言葉だったが、何故かその時の薫の言葉には、有無を言わさぬ圧と、自信があったのだ。

 だからこそポチは、薫の自信と、アズリーへの信頼に判断を傾けた。


「マスター!」

「おう行け! 薫に何かあったら今後飯抜きだ!」

「……っ!」


 ポチに向けたアズリーの言葉には、冗談を交える程の余裕があった。その言葉を信じ、ポチは戦線からの離脱を選択した。

 そして、正面でそのやりとりをニヤリと見るルシファー。


「やけに素直に行かせるじゃないか?」

「問題ない。既に余の計画は大詰めだ」

「何?」

「それを話す程、余は愚かではない。貴様ではないのだ、アズリー?」


 ようやくアズリーのドリニウム・ロッドを放したルシファー。

 両手でドリニウム・ロッドを持っていたアズリーは右手にそれを持ち、先の衝突により鈍痛を覚えた左手をプラプラと振る。


「それにしても驚いたぞ? よく余の一撃を受け切った。褒めてやる」

「そいつはどうも……」

「どうやら……魔力が戻った(、、、)ようだな」

「……よくわかったな。褒めてやる」

「くっ、はっはっはっはっは! どの高みから言うか!」

「はん! 全知全能の賢者様だよ!」

「真に賢(さか)しい者の言(げん)とは思えぬな!」

「一周回っただけさ」

「ほざくな、愚者が」

「やかましい、木っ端悪魔」

「ならば見せてみろ。全知全能の力を。魔力を……!」

「言われなくてもそのつもりだ……」


 ルシファーの鋭い視線の中、アズリーは一度だけ深呼吸し、静かに呼吸を止めた。

 瞬間、開眼したアズリーから、未だかつて見せた事のない魔力の嵐が吹き荒れる。


「っ!?」


 ルシファーの片目を閉じさせ、爆風とも思える魔力の風が、一瞬で神殿を崩壊させる。

 アズリーを渦巻く暴風は天へと昇り、空を割る。

 全ての雲を吹き飛ばし、エッド全体に輝く陽光が差しこむ。

 やがて、天に昇った魔力がアズリーに降り注ぎ、穏やかにその身体に取り巻いた。


「…………面白い」


 ルシファーはニヤリと笑い、静かに己を見据えるアズリーを嬉しそうに見つめた。


「殺してしまわないか……心配だな」


 悪魔の笑みを見せるルシファーが、腰を落とす。


「……やってみろ」


 アズリーもルシファー同様、緩やかに腰を落とした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 同じ頃、トウエッドの南門では、大きな戦いが始まっていた。


「ちっ! 厄介な術を使ってくれるぜ!」


 リードが額に汗しながら叫ぶ。


「あれ、一体何ですか!?」


 アドルフの疑問に、誰も答えない。答えられないのだ。


「クククク……素晴らしい。何と素晴らしき魔術か!」


 悪魔の姿を成したクリートが言い放つ。

 既に王都勇士兵団の大半は、変異したクリートから逃れるように銀たちと合流した。しかし、逃げ遅れ、クリートの手によって命を落とした者もいた。

 エッド側が最良のタイミングで奇襲を掛けたにもかかわらず、犠牲が出てしまった理由が、クリートが影の中に忍ばせていたモノにあった。


「多いでありんすね……!」


 春華の瞳に映るモノ。

 それは、クリートの影から出て来る異形の者たちだった。

 黄龍(こうりゅう)の目が細くなり、異形の者を見つめる。


「どうやら、下級の悪魔のようですね」

「悪魔が悪魔を召喚するだと?」


 紫死鳥(ししちょう)が驚き、黄龍に聞き返す。

 すると黒亀(こっき)が代弁するかのように答えた。


「悪魔とは契約あってこそ。人間と悪魔が契約出来て、悪魔が出来ないってのは虫が良すぎる」

「違うな」


 黄龍(こうりゅう)と黒亀(こっき)、二人の考えを否定したのは、トゥースだった。


「ほう、何が違うというのか?」


 灰虎(はいこ)の問いに、トゥースは爆弾頭を掻きむしりながらブツブツと独り言を始めた。


「……なるほどな、そういう事か」


 結論に至ったであろうトゥースに、ブルが聞く。


「話せ」

「……悪魔ってのは契約で動く。それは間違いじゃねぇ。しかし、今この世界がどんな状況かってのは……誰にだってわかるだろう?」


 そんなトゥースの問いに答えたのは銀の三人。


「今ってこたぁ……?」

「危険な時代って事よね?」

「魔王だ」


 ブレイザーが短い一言で言い切った言葉。トゥースがそれに頷く。


「そうだ。悪魔ってのは魔王に従うんだよ」

「それでは、あのクリートが影から出しているのは……魔王の部下……?」


 ライアンがそう聞き、トゥースは静かに首を縦に振った。


「まさか魔王の専売特許を部下に教えちまうとはな。つまり、魔王ルシファーは……あのクリートが反旗を翻しても勝てる自信があるって事だろ」

「信じてないのー?」


 ナツがカタリと首を傾げる。


「信頼……か。奴がそんな言葉知ってたら、世界はこんなんなってないぜ、嬢ちゃん」

「そっかぁ~」


 少しだけ俯くナツの頭に、ブレイザーが軽く手を載せる。


「何をしてくるかわからん。目を切るな」

「あ、うん!」


 すると、息を切らせたエッグがブルーツのところへ駆けて来る。


「はぁはぁはぁはぁ! ちょ、何ですかあれ!? 何か皆悪魔悪魔言ってるんですけど!? それ以上にリナさんどこですか、ブルーツさん!!」


 肉薄するエッグに、胸倉を掴まれたブルーツが空を仰ぐ。


「世界はこんな荒れてんのに、何でコイツの頭の中はこんな平和なのかねぇ……」

「違いないですね」


 ミドルスが溜め息を吐き、ブルーツに同意する。


「ちょ、それどういう意味っすか!?」

「男共! まずは奴らを何とかするのが先でしょう!」


 イデアの激励に、皆が武器を構える。

 無限に溢れ出るように思えた悪魔たちは裂けそうな口を更に開き、ご馳走でも見るかのような嬉しそうな目を光らせる。


「我は、誰にも負けぬ。……ビリーにも、レオンにも……!!」

「ほざいてろ。てめぇのちっぽけな感情に振り回される程、世界は温(ぬる)かねぇんだよ」


 トゥースの強き自信に触発されるかのように、クリートが叫ぶ。


「っ! 殺せっ!!」

「戦闘準備!!」


 銀のブレイザーの号令が響き、


「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」


 トウエッドが、揺れた。

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