◆396 ドンとの再会
昨日は忙しく更新出来ませんでした。本日は二話投稿予定です。
2019/2/11 本日二話目の投稿です。ご注意ください。
「ポチ……おいポチ!」
「はい!?」
「よかった。悪いけどブルーツと春華に回復魔法を頼む」
「あ、え? はい。わかりました!」
ルシファーが去った後、アズリーはポチの頬を叩いて起こした。
気絶する二人の治療をポチに頼み、アズリーは落としたドリニウム・ロッドを拾う。
「マスター、お二人とも起きません……」
ポチが春華を背に乗せ、ブルーツを咥えてやってくる。
「ルシファーの魔力をモロに受けたからな。ちょっとした魔力酔いもあるんだろう」
「……やはり、ガスパーはルシファーなんですね」
「あぁ。間違いない。あの口調、あの目、そしてどういう訳か……今は奴が魔王だ」
「ど、どういう事です!?」
「おそらく、魔王を倒したって事……だろうな。これで魔王の魔力が消えた訳がわかった。なるほど、ガスパーならば、ルシファーならば誕生した魔王を倒す事が出来る」
「それに、前にレガリア城で会った時より強くなってましたよね?」
「やっぱりそうか? 俺は魔力が見えなかったけど、確かにあの時の拳は、レガリアで戦った時以上だった」
「倒せますか……?」
「今のままじゃ絶対に無理だ。まずは魔力を取り戻さなくちゃいけない。まずあの魔力に抗う術がなけりゃ、奴の前に立つ事も出来ない。それには究極限界に近い魔力解放が必要だ」
「……それってつまり、マスターかトゥースさんしか、ルシファーの前に立てないって事ですよね?」
そんなポチの指摘に、アズリーは手をポンと叩く。
「あぁ、確かにそうだなっ!」
「何、呑気に言ってるんですか! ギリギリまで見てたんですからね! 人類の頂があっさり負けちゃったじゃないですか!」
「いや違うって! 魔力の拘束さえ無ければ何とかなったって! たぶん!」
「いいえ! あれはかなり負けてました! マスターの魔力が戻ったとしても六対四、いえ、七対三くらいの確率で負けてました!!」
そう言い切ったポチ。
しかしアズリーは目を丸くしてポチを見た。
「…………何ですかっ?」
「いや、意外に高い見積もりだなと」
「っ! さ、三割ですよ三割! いえ、もしかしたら二割かもしれません! ホント! 一割ですー!!」
「さすがに下がり過ぎだろ! つーか何照れてんだよ!」
「照れてなんかいません! 私は冷静にマスターの実力を分析してるんですー!」
「じゃあ俺もお前をちゃんと分析してやるよ!」
「どういう意味ですか!?」
「あのヘルエンペラー、おそらくポチじゃないと対処出来ないからな!」
「ふぇ!? ななななな何でですか!? マスターだってトゥースさんだってリーリアさんだっているじゃないですか! それにウェルダンさんやブルさん、紫死鳥さんだっているし、他の天獣さんだって来るじゃないですか!」
「俺はルシファーとやらなくちゃいけないし、トゥースが参戦してくれるとは限らねぇよ! それに、あっちにはまだレオンやイディア、ビリーにクリート、それに操られてる戦士や魔法士、更にはアルファやベータだっているんだぞ!? ルシファーの使い魔になるんだ。きっと今以上に強くなるに決まってる。幼体の内に叩きたかったが、今回は準備が足りなかった。そう思うしかない!」
「何で……何で私はいつもマスターに振り回されちゃうんでしょう……」
よよよと座り込むポチ。
しかし、アズリーはそれに反応する。
「いやいや! どう考えたって俺が振り回されてるから!」
「さて、まずはトウエッドに戻って報告ですね!」
「どうやったらそんな簡単に話を切り替えられるんだよ!?」
「あれ? ブルーツさん結構美味しいかもしれません!?」
アズリーの声には耳を塞いでしまったポチ。アズリーの悪態には反応しないものの、「トウエッドに帰る」という言葉には反応し、クッグの村跡地へと戻るアズリーたち。
そこでは、大勢の戦士や魔法士が黄金を運んでいる真っ最中だった。
クッグの地下広場にはアイリーンがおり、アズリーとポチの帰還に気付く。
「それは何?」
むすっとしたアイリーンが、アズリーの抱えるブルーツと春華を見る。
「えっと……お土産です?」
「ついに人を売る商売に手を出したのかしら?」
「買うだけで踏みとどまってます……」
「知らない人が聞けばそれだけで通報よ。ちょっと、この二人をトウエッドまで連れてってあげて」
「「はっ!」」
アズリーが抱える二人の搬送を、アイリーンは部下に命令した。
「……それで、リナたちから聞いたけど、異変ってのは何だったの? その二人が気絶するくらいには危険だった……って事はわかるけど?」
そんなアイリーンの指摘と推測に、アズリーとポチは互いに顔を見合わせて乾いた笑いを浮かべた。
そう、アイリーンは解放軍のリーダー。起こった事は全て報告しなければならない。今の二人の乾いた笑いは、その報告を聞いたアイリーンが絶対に怒るから「頑張って耐えよう」という二人のサインだったのだ。
「ばっかじゃないのっ!? ガスパーが現れたのなら即逃げなきゃ駄目でしょうが! たとえその二人を置いてでもね! えぇ知ってるわよ! アナタが絶対にそれをしない事くらい! だからアナタが慕われるのも勿論わかってるわよ! けど、慕われるが故に怒ってくれる人が少ないの! だから私が怒ってあげてるの! わかる!?」
「はい……」
「よくわかってます……」
「とても」
「よくわかってます」
アズリーとポチは俯きながらアイリーンのお説教を聞く。
人類存亡をかけた戦い。その最大戦力である二人が、軽率な行動をとった事。
二人にもそれがよくわかっていた。
「でもマスターがぁ――」
「いや、ポチだって――」
二人にもそれが概ねわかっていた。
当然、アイリーンにも二人の性格がわかっていたので、呆れて溜め息を吐くまで、そう時間はかからなかった。
無事アイリーンから解放された二人に、転移してきたトレースが近寄る。
「アズリーさん、お疲れ様です」
「あぁお疲れ様です」
「トウエッドにドン・キサラギ様がいらっしゃいました。レウス君もアズリーさんに会いたいみたいですが、いかがなさいますか?」
「っ! 思い出した! これ!」
アズリーは獄龍ヘルエンペラーが復活した時、奥の部屋で手に入れたガルム・キサラギの手紙を懐から出して言った。
「そういえば、リナさんやオルネルさんからもう一つの手紙はアズリーさんが持っていると報告を受けていました。その様子では、既にご覧になられたようですね」
「えぇ、今すぐトウエッドに戻りましょう! それと、レジアータに繋がる空間転移魔法陣の持ち主、それとブレイザーとベティーを!」
「レジアータ……ですか。かしこまりました。手配します。では一度トウエッドまで」
「はい!」
アズリーとポチは、トレースと共にトウエッドへの空間転移魔法陣に乗る。
転移したトウエッド首都――エッドの魔法教室広場では、王都レガリアでのアズリーとの出会いをきっかけに、ベイラネーアの増強に協力したドン・キサラギ、そしてその息子であるレウス・キサラギが待っていた。
「あ! 兄ちゃん!」
「お、レウスじゃないか! 大きくなったし、それに元気そうだな!」
「うん! ベイラネーアではありがとう!」
「ベイラネーア……?」
心当たりのないレウスの礼に、アズリーが首を傾げる。
すると、ドン・キサラギが笑みを見せながらアズリーに近付いた。
「実はあの魔王復活の際、私たちはベイラネーアに来てたんです」
「そうでしたか。だからこんなに早く来られたんですね」
「本当に助かりました。あのまま放置されていたとしたら、国中……いえ、世界中が大混乱に陥っていたでしょう」
「ベイラネーアは大丈夫そうでしたか?」
「テンガロン様とドラガン様が動いてなんとか……と言ったところでしょうか。それも、アズリーさんの功績がなければ、とても無理でしたよ」
「いえ、俺は俺に出来る事をしたまでです」
「こちらにはどうやって?」
「あちらの方に送って頂きました」
ドンが顔を向ける方向に首を向けるアズリー。
するとそこには、チワワーヌのタラヲを頭に載せた、ティファの姿があった。
「ティファ、帰ったんじゃなかったのかっ?」
アズリーとトゥースが戦い、その後、ティファはベイラネーアに帰った。
そんなティファが再びトウエッドに来た事に、アズリーは驚いていた。
「魔法大学……しばらく休学になっちゃいました」
そんなティファの説明に、アズリーは得心する。
「あぁ、確かにそうだよな。魔王が復活ともあっちゃ大学を続けるのも難しいもんな。となると魔法大学関連のティファの良称号は諦めた方がいいか……」
「はい。これで私もこっちにいられますっ」
嬉しそうに意気込むティファ。
そんなティファの反応に、タラヲが一々驚いている。
「魔王が復活したというのに何故ティファは嬉しそうなのだ!? 解せぬ! 解せぬぞ! がしかし、この復活は我輩への挑戦と見た! ついに狼王と魔王の雌雄が決するぞ! ふはははは! 我が魔爪にて魔王を切り刻んでくれる! なぁティファよ!?」
「黙ってて」
「くぅん?」
「五月蠅い」
「はい」
そんなやり取りにアズリーが苦笑する。
そこに、トレースが念話連絡で呼んだブレイザーとベティー、そしてララとララに巻き付くツァルがやってきた。
「どうしたのよアズリー?」
「急用らしいな」
ベティーとブレイザーが呼ばれた用件を尋ねる。
「あぁ、二人とも。呼んで悪いな。……で、何でララ?」
「私もわからないぞー?」
ララが首を傾げながら言う。
すると、それを代弁するようにツァルが口を開く。
「「何でもレジアータへの空間転移魔法が必要だとか?」」
「あぁ、そういう事でしたか。ララがレジアータへ繋がる魔法陣を持っていたんですね」
「「そういう事だ。ララ、ここに魔法陣を」」
「はい、お師匠様っ!」
ララが空間転移魔法陣を描いている中、アズリーはブレイザーとベティー。そしてドン・キサラギの前に行き、ガルムの手紙を見せた。
すると、ブレイザーとベティーがニヤリと笑った。
「なるほど、だから我々を呼んだのか」
「兄貴がアレじゃね~。ま、しょうがないっか!」
「他の者も呼ぼう。ナツもいた方がいいな」
「おっけ~、任せて」
ベティーが念話連絡により銀に招集を掛ける。
そして、ガルムの手紙を見ていたドンが呟く。
「これは面白い……!」
人間の力はか細く弱い。
だが、紡ぎ合わせた糸は、より太く、より強靱になっていく。
ルシファーの復活を知りつつも、アズリーの瞳は……静かに、しかし着実に燃えているのだった。




