393 アズリーの足跡
「ふんがっ!!」
ブルーツが円形の取っ手を捻り、地下への扉を開ける。
現れたのは更に地下へ下りる階段。
まさかクッグの村の地下にこんなものを作るとはな。
ポルコの魔法とガルムの技術があれば確かに出来るだろうが、一体何のためにここを?
「地下二階ってとこだな」
階段を下りた先、そこにあった一室。
どうやら奥に大きな部屋があるようだ。
すると、先頭をワクワクしながら歩いていたポチとリナから驚き……いや、感動に近い声が聞こえた。
「わ、わぁ……」
「凄いですー!」
続きブルーツが中を覗き込む。
「こいつぁおったまげたぜ……」
ブルーツがこれ程驚くとは一体どういう事だ?
俺、オルネル、フユは、中に入った三人を追うように部屋に入った。
瞬間、俺たちの目は光に染まった。
文字通りの光ではない。目が奪われるような黄金に、染まったんだ。
「嘘……」
「……夢でも見てるみたいだ」
フユと、アダムス家で裕福な暮らしをしていたオルネルでさえも、目の前にあった黄金の山に心を奪われているようだった。
「ママママママママスターッ!! 一体どれくらいあるんでしょうかっ!?」
「い、いや、俺だってこんな凄い財宝見たことねぇよ!? そうか、だから地下深くに埋めたのか! クッグの村の広場、全ての面積、高さをこの財宝で埋め尽くしてる……!」
「こりゃ少なく見積もっても…………いくらだ? ははは」
長く冒険者をやっているブルーツでさえも計り知れない程の金銀財宝。
「「はは……は」」
乾いた笑いは俺やポチ、リナやフユ、春華に伝染する。
そんな中、オルネルが呟く。
「……く、国……」
「え? 国がどうしたんです?」
カタリと首を傾けるポチ。
「……お、おそらくこれだけあれば……国が二、三回は買える」
「「…………」」
唾を呑む音すら無く、ただただ驚く俺たち。
「ははは……国か。確かにトウエッドに世話になりっぱなしってのも問題だ。アズリーの友達ってのは、この金を使って、軍備に力を注げって言いたかったんだろうよ」
「……だな。ん? リナ、どうしたんだい?」
「アズリーさん、これを!」
リナは何かを手に持ちながら俺を呼んだ。
それが、この場にある黄金以外の異質なモノだと、俺たちはすぐに気付いた。
リナの下に集まった皆は、ソレが何なのかすぐにわかった。
「手紙、でありんすね」
「風化を防ぐために防護魔法を使っていますね」
リナはおそらく俺宛である手紙を俺に渡しながら言った。
「これは知らない魔法だな? もしかしてご先祖様のオリジナル魔法か?」
地面に描かれた設置型魔法陣に、オルネルも気になっているようだ。
ポルコ・アダムスはあの時代有数の魔法士。これくらいの魔法は持っていて不思議はないだろう。
「さ、マスター!」
「あぁ……」
俺はポチの催促を聞き、リナから受け取った手紙を開く。
「……っ!」
そこに書かれていた衝撃の事実に、俺たちは――――……。
《やぁポーア君。元気にしているだろうか。私は元気だよ。最近子供が生まれてね、とりあえず貴族としての務めは果たしたと言うべきかな。無論、民の事も重要だ。これからはそちらに注力するつもりだ。さて、ここへ辿り着いたという事は、クッグの猪共が伝言を伝えたか……もしくはシロ君の鼻がここを知らせたのかもしれないね。実はここには、魔術によってポーア君の匂いを発生させているのだよ。これが中々難しくてね。ポーア君のベッドが研究対象だったものだから、妻からは変人扱いされた事もあるんだよ? さぁ、本題だ。ポーア君、ここへ来て驚いたと思う。この財宝は君の自由にしてくれて構わない。これはポーア君、君のために遺したものだ。他の貴族にも、民にも決して文句は言わせない。これは私とジュン殿がハドル様に願い、認められた聖帝命令である。これを使い何を成すかは、ポーア君とシロ君、そして君の仲間と決めるといい。それと一つ、重要な事を知らせておく。最近入った情報だが、何者かがエルフの里を滅ぼした。事実のみジョルノ君とリーリア君には伝えた。彼らも彼らで、君に何かを遺そうとしている。しかし、最後になって彼らに伝え切れなかった事もある。それは、エルフの里を滅ぼした者についてだ。嘘か誠かはわからぬが、事件の前夜……エルフの里で【イディア皇后】と【ザッツ皇子】を見かけたという情報が入った。その翌日、エルフの里が滅ぼされたとなれば、二人が犯人である可能性は高い。国のトップにいた者が野で生きる他なくなったのだ。あの二人のポーア君への恨みは計り知れない。私やジョルノ君たちのようにポーア君に力を遺そうとする者もいれば、あの二人のように呪いを遺す者もいるかもしれないという事だ。調査は続けていくが、ここにその事実が載らなかった時は察してやってくれ。私の血が続く限り、ここへ財宝を運ぶつもりだ。さて、私の手から離れたポーア君の時代で、どれだけの財宝の山になっているか……見られないのが少々残念だね。君も知っての通り、我が血からは頑固で義理堅い者が生まれるようだし、その財を使うという愚か者はいないだろう。あぁ、もうこんなに書いてしまったか。……これが、最後になる。――――どうだねポーア君? これが真の【お友達価格】というやつだ。少ない給料と退職金だとは思うが、君はそれだけの功績を、偉業をのこした。それを私は、とても誇らしく思う。あぁ、君の口元がヒクヒクと震える姿が目に浮かぶようだよ。見られないのが少々残念だけれどね。――君の友 ポルコ・アダムスより》
…………ったく、本当にとんでもないモノを遺してくれたものだ。
「っ! アズリーさん、これ!」
フユが渡してくれたハンカチ。
そうだ、俺は知らない内に泣いていた。
「ありがとう……」
ハンカチで目元を拭い、ポチを見る。
しかし、ポチは俺の足下にはおらず、いつのまにか俺の肩にまで上っていた。
どうやらポルコの手紙が気になったようだ。尻尾がぶんぶんと振られてるし、どこか嬉しそうでもあるけどな。
「あ、マスター! 下の方にまだ何か書いてありますよ!」
ポチが俺の持った手紙を覗き込み、そう言った。
はて、そんな事書いてあっただろうか? あぁ、確かに書いてあるな。
《追伸:ガルムからポーア君にお土産だそうだ。奥の部屋に行ってみるといい》
はて? ガルムから?
確かにここをこれほど強固に建てられたのはガルムの成せる技だろうが、これ以上何を残すというのだろう?
「おう! こっちに扉があんぜ!」
ブルーツの声に反応し、俺たちはそちらに足を向けた。
「アズリー」
すると、俺の背後から男の声がした。
ブルーツ以外の男……となれば一人しかいない
それは、かつての俺のクラスメイトであり、いじめっ子。しかし、根はとてもイイヤツの――アダムス家のオルネル君。
「どうした、オルネル?」
「笑え」
「あん?」
「いいから笑え!」
一瞬オルネルがおかしくなったのかと思ったが、それは違った。
確かに、ここは笑うところだ。
しかし、それは大笑いでもなく、微笑みでもないのだ。
オルネルが言ったソレを叶える訳ではない。
俺は、未だ手に持つ手紙の筆者が書いたように、書かれた内容を思い出しながら、ぎこちない笑いをオルネルに見せた。
その筆者であるポルコ・アダムスに送るように。
「…………たく、何笑ってるんだ」
「いい感じのヒクつき具合だと思うけどな」
「ふん、行くぞ」
「あぁ」
オルネルの背中を追うように、俺も歩き始める。
直後、彼の方から聞こえた「ありがとう」という声は、やはり、ブルーツとは違う男の声だった。
お友達価格こそ支払いを増やすべきだと思う派の壱弐参です。




