392 ポーアの足下を掘れ
お腹を抱えて床に転げ回るポチ。
俺はポチにジトッとした目を。そしてイーガルは目を丸くさせてポチを見た。
「おい、笑い過ぎだぞ」
「アハハハハハッ! だって! だってぇ……ククククク……っ!」
ポチが何を思いだしたのかはわかる。
そして、その頭に何を描いたのかわかってしまう。
あれはクッグの村でポルコの屋敷で暮らしていた頃だ。
ちょうど炎龍王――獄龍ヘルエンペラーを倒した直後、ポルコ・アダムスは俺を称賛し、ポーアの……つまり俺の銅像を作ると言った。
クッグの村人も、村を救った恩人として納得の上だから俺自身が断れなかった。
つまり、伝説の時代の……俺の負の遺産。
そう、つまりポルコ・アダムスが俺に遺した伝言――伝説の聖戦士ポーアの足下を掘れ。とは、その銅像の下を掘れという事だろう。
だからポチは未だに笑っているのだ。だから俺は頭を抱えているのだ。
そんな俺たちを見て、イーガルはほっと胸をなで下ろしたように見えた。
「……どうやら、お心当たりがあるようですね」
「う~ん……」
「アハハハハハハハハッ!! マスターが明日を指差してますーっ!!」
今すぐにポチの脳内の記憶を消去したい。
特に俺が明日を指差している部分をだ。
しかし、魔力がない現在、俺がメモリー・エディットを使う事は出来ない。
だから俺は拳を握り――――
「――――そうはいきませんよマスター!! とうっ!」
ちっ、勘のいい犬ッコロだ。
「は、はははは……とても仲がよろしいのですね……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
イーガルの呆れ交じりの言葉を聞き、ようやく着替えた後、俺たちは広場に戻っていたイデアとミドルスに、空間転移魔法陣を描いてもらった。
「しっかしいいのか? 会ったばかりの人間を解放軍のアジトに入れても?」
「んまっ、ウォレン先輩から許可はもらってるし、問題ないでしょう」
二人はアジトに繋がる二つの魔法陣の前に立った。
「どっちも食堂に繋がってる。入ったら食堂の人間に限界突破のやり方を聞きな」
ミドルスの説明にエッドの猪共のメンバーが頷く。
次々と皆が転移して行く中、最後の一人となるまで時間がかかると見た俺は、イーガルに近隣の情報を聞くと共に雑談を始めた。
「しかし驚きました。確かに解放軍の下にエッドの猪共の話は上がっていませんでしたが、まさか限界突破をせずにこのトウエッドまでやって来たとは」
「スコット殿には冒険者ギルドからの転移を勧められました。しかし、現在の我々がどれだけあのモンスター共に通用するのか知っておきたかったのです」
ウォレンと似たような思考。
しかし、本気でそれを実践出来る者は多くない。
高ランクのモンスターが闊歩する中、遠方からここまで来られた実力は本物だ。
基礎戦闘力は、もしかして白銀を凌ぐかもしれない。
「それで、ここまで来た感想はいかがですか?」
「はははは……正に地獄ですな。既にいくつかの村はモンスターの手によって滅んでいます。これが大きな街にでも……と考えるだけで恐ろしい」
おそらく、これもイーガルの狙い。
救える村があれば救う。その根底がここまでの道を選ばせた。
そして、抜けられる自信もあった。これはもしかしなくとも、解放軍の戦力向上に繋がるだろう。
そう考えていたら、ポチの耳が動いた。
「む、皆さんが来ましたね!」
俺の指示により、ポチが念話連絡でエッドの南にいた皆を呼んだのだ。
「クッグの村ですか。……であれば、ルナリエルの森にあった仮設のアジト。あそこにある私の空間転移魔法陣を使いましょう」
ルナリエルの森。
六勇士の剣鬼ジェイコブが俺に出したランクS昇格審査のテスト。そのテスト内容が《ルナリエルの森》にいる賊を退治するというものだった。
結局、そこにいたのは賊ではなく、解放軍であるウォレンやジェニファー。始まりの地の話もそこで聞いたんだ。
場所は確か王都レガリアの北西にあった森だ。
クッグの村と呼ばれた今は廃村の地はレガリアの西。
ルナリエルの森から南下すれば着く計算だ。ウォレンがあそこへの空間転移魔法陣を残していてくれたのは有り難い。
「起動しましたね。どうやらあそこの魔法陣はまだ見つかっていないようです」
よかった。レジアータからではちょっと遠いからな。
「それで、あちらへ向かうメンバーは? 私も向かいますが、旧アジトまでです。何分忙しいですからね。さて、誰がいいでしょうか……――」
「「――はいっ!!」」
手を上げたのはリナとフユ。そして春華と――
「――当然俺も行くぜ!」
ブルーツか。
「お、俺も行く!」
と、言ったのは、
「ほぉ、オルネル君ですか。確かにバランスとしては良さそうなパーティですね」
オルネルもそうだが、ベティーが付いて来ないのは珍しいな?
そんな俺の視線に気付いたのか、ベティーがニシシと笑った。
「なぁにアズリィ~? お姉さんも一緒がいいの~?」
「珍しく乗り気じゃないなーと思っただけだよ」
「もう、からかいがいがないわね。アタシたちはその人たちのお相手があるのよ」
あぁ、そういう事か。
エッドの猪共のメンバーが限界突破を終えた時、肩慣らしの相手が必要だ。
それは白銀でも出来るが、銀が参加したくないという訳でもない。
つまり、ベティーの食指はそちら側に向いたという事だ。
ブルーツは銀の特攻隊長だし、人間の集団戦ともなれば、抜けてもさして影響はないって事かもな。もしくはブレイザーの指示か。いや、ブルーツのあの態度を見る限り、その線はないか。
「さ、行きんしょう。アズリーさん」
と、考えている内に、俺は春華に右腕を組まれていた。
「い、行きましょう!」
「そうですっ! ふんふん!」
俺の左手の人差し指を持つはリナ。
そして薬指を引っ張るのはフユである。
……え、何これ?
「さ……さっさと乗れ!」
と、俺の背中を蹴って空間転移魔法陣に乗せたのは、もしかして初めてパーティを組むかもしれないオルネル君であった。
消えゆく中、俺はポチとベティーの嬉しそうな笑みを見た。そして何故かそれが忘れられなかった。本当、何故だろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここがクッグの村か」
ルナリエルの森、その洞窟に転移した俺たちは、レガリアの西を、南下しながら駆けた。
そして、ものの十数分でクッグの村だった場所に着いたのだ。
「そうだオルネル。かつてアダムス家の屋敷があったクッグの村……まぁその廃村だな」
「家の古い書物にそういった記録は一切なかった。けど、聖戦士の時代に、確かにアダムス家はあったんだな」
「あぁ、あそこの当主には本当に…………世話をしたな」
瞬間、オルネルの膝がカクリと下がる。
「世話になったんじゃないのかっ!?」
「うーん、確かに世話になったんだけど、薄給で雇われ、契約にない事を多く任され、次期当主の世話で振り回されまくったから……そっちの方が正しいような気がしてな。いや、気を悪くしたのなら謝るよ」
「いや、別にいいけどな。それで、銅像があったって場所はどこなんだ?」
「こっちですー!」
オルネルの言葉をポチが拾い、ポチは廃村の奥へと駆けて行った。
……そうか! 前にここに来た時、ポチが駆けて行ったのは――――
【……どうした、ポチ?】
【いえ、音は特にないんですが、少し気になる匂いがします】
――――数千年前の俺の残り香を!
……って、そんな匂いが残ってる訳ないよな。
でも、まぁあの時ポチが何かの匂いに反応したのは事実だ。
付いて行って間違いはないだろう。
「ここです!」
それはあの時と同じ。
クッグの廃村――その西出口付近。そこにあった銅像を見つけた。
「これがアズリーさんの銅像ですか? やっぱり時が流れ過ぎちゃったみたいですね。人の形に見えるというのがやっとです……」
リナに見られなくて本当に良かった……。
「へっ! それじゃあここら辺を掘りおこしゃあいいわけだ!」
「あぁ、頼んだぞブルーツ!」
「おめぇも掘るんだよぉ! つーかこん中で一番力あるのお前だろ、アズリー!」
ちっ、勘のいい人間だ。
「ここ! ここが怪しいです!」
そんなポチを見ると、以前見た通り、尻尾がふりふりと動いていた。
俺とポチ、ブルーツ、そして春華は固い岩盤を砕き、貫き、斬った。
オルネル、リナ、フユはアースコントロールの魔法を巧みに使い、順調に穴を広げていった。
クッグの廃村の広場跡を掘り進める事約一時間……俺たちは遂にポルコが遺したであろう地下への入り口を見つけたのだ。
「頑強な扉。そしてこれは……誰かのサインですね?」
「名字はわかりんせんが、ここは名前でありんす。ガルム……? アズリーさん、お知り合いでありんすか?」
……なるほど、段々理解出来てきたぞ。
神はあの時……俺に言った。
――――ワシに言える事はもはやただ一つ。お主が「研鑽」を続けている今、それをしろとは言えぬ。ただ一つ……お主の足跡が世界を変えると…………信じている。
……俺の足跡。




