390 チャッピーの言伝
「こ、言伝ってなんだよ! チャッピーは生きてるのか!? そうなんだろう!?」
「そうですよ! あんまり適当な事を言ってるとマスターが怒りますよ! 人類の頂で希望なんですからね!」
「そうだ! もっと言ってやれポチ!」
「そして! 私こそ真の希望! 大天獣のポチさんです!」
くそ、ポチの援護は当てにできない……!
「五月蠅い! ちゃんと話してやるから私の羽を掴むな!」
「……ったく、本当にチャッピーの言伝なんだろうな?」
「本当です。本当に大天獣なんです。だからチャッピーも私を羨望の眼差しで見るはずなんです……!」
「全く……本当にお前たちはアイツに似ている……」
「アイツって……チャッピーの事か?」
「そうだ。あんな向こう見ずな性格……お前たちに似たとしか考えられないからな」
「ほ、本当か!? チャッピーの性格は俺たちに似てるって!?」
「そこ重要ですよ! 世界の存亡と同じくらい重要ですよ! もし間違えたら――」
「――ええい! 五月蠅い五月蠅い! そこに直れ! ポチだったな! お前はお座りだ!」
「勿論だ!」
「アウッ!」
あれ? 何故俺たちは紫死鳥を前に正座なんて?
ポチなんて、タラヲもビックリな程の素晴らしい伏せをしている。というかお前お座りって言われただろう?
もしかして紫死鳥には俺以上のマスターの才があるのかもしれない。
「一度しか言わぬからな。心して聞け」
「「ごくり……」」
「……『父上! 母上! お元気ですかっ!? 私はブライトとフェリスと共に楽しく生きています! むっ? これは言わなくていいのか? いやしかしお前たちも会いたいと――わぁああ!? おいフェリス! そんな大声で私の耳を潰す気か!? ブライトも五月蠅いぞ! 父上に会いたいのはお前だけじゃ――何? 要点だけ? 馬鹿な!? 貴様! 言伝の何たるかを知らぬのか!? 父上と母上に私の活躍を知らせる機能が付いてるのだぞ!? いや、その機能しかないと言ってもいい! 何? 紫死鳥! 覚えきれないだと!? それでも伝説か貴様っ! そんなに安い伝説があっていいものか! ええい! 五月蠅い五月蠅い! そこに直れ! 父上……母上……私は私は生きております! 元気に、楽しく、正義を貫いております! チャッピー仮面も言ってました! これは《レオール仮面とポッチー仮面の足跡を守る戦い》だと! 早く……早くお二人に会いたい……! それだけが! それだけが私の願いです! 私の望みです! でも、でもそれはまだ出来ない事! ブライトが言ってました! 我々が会うべき時は…………今ではないと! しかし、私たちは必ずまた出会います! 理由なんてありません! ただ私にはわかるのです! これは父上と母上、そして私の運命だと! 正義は! 私の正義は、父上の力強さと、母上の優しさで出来ているのです! これは絶対不変の事実なのです! お二人に会うまで私は……負けません! そして、そして褒めてもらうのです! 父上と母上に! 沢山沢山褒めてもらうのです! 頑張ったなって言って欲しいのです! …………大変だブライト!? 望みが増えてしまったぁあああ!? さっきそれだけって言ったばかりなのに望みが! 願いが増えてしまったぞ!? おい、紫死鳥! もう一度だ! もう一度やり直しだ! なっ!? もう覚えられないだと!? この鳥頭め!!!! もう一度――――』と、ここまでだな。ぬっ!? おい! 何故私に抱きつくのだ貴様ら!?」
「「ぢゃ、ぢゃっびぃいいいい~~っ!!」」
「お前の、お父さんだぞぉおおおおおおおっ!!」
「私なんか、お母さんでずぅううううううううっ!!」
「くっ!? 何て力だ!? おい放せ! 貴様らは卵を産んでないだろう!? いつ私の親になったというのだ!? おい! 放すのだ! ぬぎぃいいいいいいい! くそ、何なんだこの膂力は!? 誰か! 誰かいないのか!? 私を! 私を助けるのだ!! それだけが! それだけが私の望みだぁあああああああああああああ!!!!」
……俺たちは、紫死鳥によるチャッピーの物真似が似すぎていて、万力を捻り壊す力で抱いていた紫死鳥がチャッピーでないと気付くまで、三十分もかかってしまった。
「何でお前なんだよ!?」
「そうです! チャッピーを出してください! 喉にいるんでしょう! 知ってるんですからね!」
「……くっ! 練習をし過ぎた弊害がこんなところで現れるとはな……!」
紫死鳥は、羽繕いをしながらブツブツと何か言っていた。
しかし、俺は紫死鳥の言葉以上にチャッピーの伝言が気になっていた。
「やはり気になりますよね?」
「あぁ、気になる」
「やっぱりそうですよね!? チャッピー誰かと会話してたのに、紫死鳥さんチャッピーの真似しかしませんでした! 手抜きですよね!?」
「いやそうじゃねぇよ! 紫死鳥はチャッピーの言葉だけを覚えたってだけだろう!? それより気になる言葉があっただろう!」
「そ、そうです! ブライトさんとフェリスさん!」
「そう、それだよ! おい紫死鳥! ブライトとフェリスはいたのか!? それと、その伝言はいつのものだ!?」
俺の疑問を受けた紫死鳥は、一瞬だけ羽繕いを止める。
だが、無言のまますぐに羽繕いに戻ってしまったのだ。
「ちょっと! 紫死鳥さん! ちゃんと教え――」
「――いや、待てポチ」
「ふぇ? な、何でです?」
「無言……これが紫死鳥の答えだ」
「えっ? 一体何でですか!?」
「何で……というか、言えない理由があるって事だろうな。でも、その理由を知ってるのはブライトたちだけ」
「言えない理由……ですか……」
ポチがうんうん唸っていると、俺はある事を思い出した。
「……ん? どうしたんです、マスター?」
「いや、似たような話を、どこかで聞いた事があったような……?」
「うぇ!? ど、どこですか!?」
「確か、その時ポチはいなかった気がするな?」
「という事は…………マスターが一人の時ですね!」
「いや、まぁそうなんだけど、確か誰かいたような気がする?」
「ん~、ハッキリしませんねぇ……」
「っ! そうだ思い出した! コノハだ!」
「コノハさん!? 何でそこにコノハさんが出てくるんですか!?」
「リナたちとビリーが戦った時、ガストンの死によってコノハの寿命は一気に消える。それをバラードの使い魔にするという荒技で切り抜けた。しかし、そんな事……俺でも出来ない。だから俺はリナに聞いた。『ビリーとガストンさんが戦った時、何かあったのか?』と。そしたらリナはバラードを召喚し、バラードはコノハを召喚した。コノハは言った――『内緒だ』と。そしてこうも言った――『そういう約束だ』とも。ガストン以外、一番口の固いコノハと他言無用の約束を結んだ相手…………誰かとずっと考えていたが、おそらくそれが――」
「――ブライトさん!」
「あぁ、ブライトなら俺が知らない魔法や魔術を行使出来るのも頷ける。そしてビリーを退けさせたのも……!」
俺とポチは、言いながら、確かめ合いながら頷き合った。
そして、ブライトと他言無用の約束を結んだ一匹……一人である紫死鳥を見る。
無言の笑みが、俺たちに何かを伝えた。
その何かが、肯定に近い答えだと気付くと、俺とポチは互いに見合い、そして笑い合う。
「確かガストンさんが襲われた日って!?」
「六月二日だ! 先月の頭!」
「という事は、先月の段階で三人はこの時代にいたって事ですね!?」
「あぁ! チャッピーはともかく、ブライトとフェリスがどう命を繋いだのかはわからないが、あの三人がこの時代にいてくれるのはありがたい! リーリアは……リーリアは正しかったっ!!」
「皆、皆一緒ですー!!」
「あぁ!!」
俺とポチが喜びを露わにしていると、またイツキが声を掛けてきた。
「…………何、二人して抱き合ってるんすか?」
どうやら用件より先に、俺たちの喜びを拾ってしまったようだ。
「あ、いや…………コホン! そ、それで? 何の用だい、イツキ?」
「お外にお客様ですよ、『ポーアを出せ!』って言ってます」
「……はて? まだ俺をポーアって言う人がいるんだ……?」
「なーんか大所帯でしたよー? えーっと何て言ったかな? 冒険者チームで……エッドの猪共……とか何とか?」
……何故だろう。
頭の中にソラ豆がちらほらと浮かんでくる。




