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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十二章 ~地獄編~

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389 懐かしき再会

「もう! 跡に残ったらどうするんですか!? 火傷は放置してたらすぐに回復出来ないんですからね!」

「うるさいな! 回復出来たんだからいいじゃねぇか!」

「んまー!? 私が心配してるのに何ですかその態度は!?」

「いでっ!? おい! 爪! 爪が立ってるって!」

「立ててるんですっ!」


 まったく、これ以上は何言ってもきかないな。

 こういう時のポチは放置しておくのが正解だ。これまでの俺の経験がそう言ってる。


「なはははは! アズ君の服ボロボロだねぃっ? ここはメルお姉様が直してあげようじゃないっか!」

「あぁ、悪いなメル」

「のんのんのん! お師匠を超えたご褒美だよぃ! ささ、脱ぐといいよぃ! ぐふ、ぐふふふふ……!」

「え、いや……それは……」


 俺は周囲を見渡す。

 リナやリーリアが顔を赤らめて困っているようだが、何故か春華(はるはな)とティファはメルキィの肩を掴んで親指を立ててい(サムズアップして)る。フユは両手で顔を覆っているが、目元だけパッカリ開いてて、目だけ隠せていない。


「はぁ……仮にも解放軍(レジスタンス)の幹部扱いなんだから、こんなところで脱がないでよね」


 溜め息を吐きながらそう言ったのは、解放軍(レジスタンス)のリーダー、アイリーン。

 まぁ、脱ぐ訳がないんだけどな。


「……はぁ~、負けた負けた」

「お、起きたのか、トゥース」

「あぁ、何か無数の魔力が近付いてたからな」


 瞬間、皆の顔つきが変わる。

 確かに、この中で一番魔力感知出来るのはトゥース。

 トゥースだけが気付いたとなると、まだ距離は遠いと思うが……。


「敵か?」

「いや、この魔力からして人間だ。そこのチームと良い勝負じゃねぇか?」


 言いながら、トゥースは顎でアージェントを指した。


「ほぉ」


 アージェントが嬉しそうに目を細めた。

 白銀と同レベルのチームがトウエッドにいたのか。


「という事は冒険者か」

「魔王の復活直後に魔力の圧はほとんど消えた。だから移動出来たんだろうな。当然、目的地はここ、エッドだ。んま、敵じゃねぇし……俺様は帰って寝るわ。ふわぁ~……」


 欠伸(あくび)をした後、トゥースは空間転移魔法陣を地面に描き、消えていく。


「どうやらスコット様は、ここエッドを最大の戦地と判断したようですね」


 ウォレンの推測はおそらく正しい。

 冒険者ギルドのギルドマスター、スコット。彼は各地の冒険者ギルドと連携を取り、皆をエッドに向かわせた。空間転移魔法陣を使わないという事は、余程の僻地にいたか、もしくはスコットの指示で道中のモンスターを減らすためだろう。

 魔力の圧が収まっているとはいえ、モンスターの動きは活発であり、魔王の胎動期と遜色ない。

 悪魔の活発化こそわからないが、モンスターの中に絶望の使徒クラスが出現する事も考慮しないといけない。

 だからこそ、おそらくこれから先、多くの冒険者がトウエッドの首都――エッドにやってくるだろう。


「さ、マスターも一度戻って着替えちゃいましょう!」

「そうだな」


 ポチの一言により銀の屋敷に戻る事にした俺は、皆から叩かれ、乗せられる手に、ほんの少しの高揚感と、とてつもない重責を感じた。

 確かにトゥースを倒し、俺は強くなった。今回の戦いで得られたモノは、本当に重要だと気付いた。魔を理解するという事。それが魔王戦やガスパー戦で役に立つ事は間違いない。

 それ以上に、この肩に乗る責任は非常に大きく重い。

 だが、それ以上に感じる事もある。

 リナやリーリアたちが……仲間がいるからこそ頑張れるというのも、確かな事実なんだ。


「あ、アズリーさん、お帰りなさいっすー! お客さん来てますよー!」


 そう言ったのは銀と業務寄託契約をしているイツキだった。

 どうやら今朝の内に、「これから先、しばらく商売あがったり」という事で、ベイラネーアのポチズリー商店からこちらへやって来たようだ。

 しかし、はて? 俺に客とは一体誰なんだろう?


「なんか、真っ黒な鳥(、、、、、)でしたね」


 と言われた瞬間、俺とポチはイツキに肉薄していた。


「色は!? ちょっと紫っぽくなかったか!?」

「口調は!? チャッピーとか言ってませんでしたか!?」

「あ、え? いや、確かに紫っぽかったですけど、チャッピーとは言ってませんでしたね……?」

「どこに!?」

「いるんですか!?」

「えっと、広場に――」

「――付いてこいポチ!」

「――付いて来てくださいマスター!」


 まるで競うかのように広場に向かった俺とポチ。

 外が見える襖(ふすま)を開けた瞬間、俺とポチの目が見開かれる。

 それは、あの時代を生き残った伝説。そして、俺たちの――


「久しぶりだな」

「「………………」」

「おい、何だその目はっ?」


 まず、目付きからして違う。

 チャッピーならもっと可愛らしい瞳をしているはずだ。


「違うよな?」

「違いますね。マスターがやっつけちゃった方です」

「やっぱりそうだよな。互いの精算は終わってるってのに何で来たんだ?」

「わかりませんよ。ちょっとマスター聞いてみてくださいよっ」

「嫌だよ。俺この時代でアイツにいじめられたしっ。ポチ行けよポチ」

「んもうっ、仕方ないですねマスターはっ。じゃ、じゃあ行きますよ……!」

「全て聞こえているぞ、愚か者共!」

「「ひゃい!?」」


 かなり小声で話してたのに、何故聞こえたんだ。

 しかし、この紫死鳥(ししちょう)がここにいるのは一体どういう事だ?

 ガスパーが本格的に動き出しているとしたら、確かにレガリア渓谷にいては危険だが……?


「マスターのせいで愚か者って言われちゃいました!」

「ふっ、人類の頂こと希望と呼ばれた俺に、愚か者なんて言う訳ないだろう。ポチだけに言ったんだよ」

「言ってませんー! ちゃんと共(ども)って言ってました! 共って!」


 むぅ、やはり紫死鳥(ししちょう)は耳がいいのかもしれないな。

 ポチも一応紫死鳥(ししちょう)だし。


「それで、どうしたんだ? トウエッドまで俺に会いに来たってのか?」

「なんだ、トゥースから聞いていないのか?」

「あん? 何でトゥースが出てくるんだ?」

「トゥースと私は古い友だ。勿論、ブルもな」


 あんにゃろう。そんな事、一言も言ってなかったぞ?

 …………ん? 待てよ?


「という事は、レガリア渓谷にお前がいるって教えたメルは……――」

「私と会わせるため、狙っての事だろうな」

「くっ! いつもいつもコロコロしてくれやがる……!」

「ふん、研ぎ澄まされたじゃないか? 先程もトゥースに勝った。私はちゃんと見ていたぞ?」

「はぁ、まったく……どこで見てたんだか。いや、まぁ……――」


 俺の言葉に紫死鳥(ししちょう)が首を傾げる。


「久しぶり(、、、、)だな」

「お久しぶりですー!」


 俺と紫死鳥(ししちょう)が最後に会ったのは五千年も前の事。

 たとえ数年前に会っていたとしても、それはあの時代の紫死鳥(ししちょう)を、過酷さを知らなかった俺たちだ。

 今この場でコイツに言う挨拶としては、これが適当だろう。


「……な、何を言っているっ! 私はそんな挨拶のためにやって来たわけではないぞ! 断じて! 断じてだっ!」


 少し固まった後、紫死鳥(ししちょう)は顔を背けてそう言った。

 何故か恥ずかしそうに見えたのは、俺の気のせいだろうか。


「へぇー、それじゃあ何しにいらしたんです?」


 こういう時のポチは本当に優秀だ。

 忌憚なく……というか無邪気にただ疑問を向ける。

 俺にはこういうのは出来ないからな。仕方ない。


「コ、コホン! ブルと共にあの爺共に声を掛けた」

「っ! って事は、天獣たちか!」

「そうだ。ヤツらもあの魔王の胎動を受けたのだ。その内魔力が密集するこのトウエッドに来るだろう」

「それにしても、よく声掛けてくれたな」

「トゥ、トゥースの頼みだからな! 私はそれに応じただけだ!」


 ふむ、どうやらこの五千年で大分人間慣れしたみたいだな。この前みたいな敵意がない。

 いや、だったら何故この前は敵意が……? あぁ、そういえば俺の魔法が偶然当たっちゃったんだっけか。ありゃ怒って当然だよな。

 しかしトゥースもトゥースだ。そういう事は相談してくれたっていいのに。

 まぁ、アイツが俺に相談するって方が珍しいか。


「ポーア……いや、アズリーだったな」

「ん?」

「今回は嫌な予感がする……」

「……まるで『前回はまだ良かった』と言いたげだな」

「そう言ったつもりだ」


 紫死鳥(ししちょう)も感じている。この異変を。

 明らかに早い魔王の復活。魔王の魔力の消失。ガスパーの存在。そしてレオン。

 だからこそ俺は、もっともっと強くならなくちゃいけない。

 いや、俺だけじゃない。ポチもリナもアイリーンだってそうだ。

 皆で、皆で強くなるんだ……!


「それで、お前たちが会いたがっているチャッピーだがな」

「「っ!?」」

「言伝(ことづて)を預かっている」


 言づ……て?

ココア美味しい。

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