389 懐かしき再会
「もう! 跡に残ったらどうするんですか!? 火傷は放置してたらすぐに回復出来ないんですからね!」
「うるさいな! 回復出来たんだからいいじゃねぇか!」
「んまー!? 私が心配してるのに何ですかその態度は!?」
「いでっ!? おい! 爪! 爪が立ってるって!」
「立ててるんですっ!」
まったく、これ以上は何言ってもきかないな。
こういう時のポチは放置しておくのが正解だ。これまでの俺の経験がそう言ってる。
「なはははは! アズ君の服ボロボロだねぃっ? ここはメルお姉様が直してあげようじゃないっか!」
「あぁ、悪いなメル」
「のんのんのん! お師匠を超えたご褒美だよぃ! ささ、脱ぐといいよぃ! ぐふ、ぐふふふふ……!」
「え、いや……それは……」
俺は周囲を見渡す。
リナやリーリアが顔を赤らめて困っているようだが、何故か春華とティファはメルキィの肩を掴んで親指を立てている。フユは両手で顔を覆っているが、目元だけパッカリ開いてて、目だけ隠せていない。
「はぁ……仮にも解放軍の幹部扱いなんだから、こんなところで脱がないでよね」
溜め息を吐きながらそう言ったのは、解放軍のリーダー、アイリーン。
まぁ、脱ぐ訳がないんだけどな。
「……はぁ~、負けた負けた」
「お、起きたのか、トゥース」
「あぁ、何か無数の魔力が近付いてたからな」
瞬間、皆の顔つきが変わる。
確かに、この中で一番魔力感知出来るのはトゥース。
トゥースだけが気付いたとなると、まだ距離は遠いと思うが……。
「敵か?」
「いや、この魔力からして人間だ。そこのチームと良い勝負じゃねぇか?」
言いながら、トゥースは顎でアージェントを指した。
「ほぉ」
アージェントが嬉しそうに目を細めた。
白銀と同レベルのチームがトウエッドにいたのか。
「という事は冒険者か」
「魔王の復活直後に魔力の圧はほとんど消えた。だから移動出来たんだろうな。当然、目的地はここ、エッドだ。んま、敵じゃねぇし……俺様は帰って寝るわ。ふわぁ~……」
欠伸をした後、トゥースは空間転移魔法陣を地面に描き、消えていく。
「どうやらスコット様は、ここエッドを最大の戦地と判断したようですね」
ウォレンの推測はおそらく正しい。
冒険者ギルドのギルドマスター、スコット。彼は各地の冒険者ギルドと連携を取り、皆をエッドに向かわせた。空間転移魔法陣を使わないという事は、余程の僻地にいたか、もしくはスコットの指示で道中のモンスターを減らすためだろう。
魔力の圧が収まっているとはいえ、モンスターの動きは活発であり、魔王の胎動期と遜色ない。
悪魔の活発化こそわからないが、モンスターの中に絶望の使徒クラスが出現する事も考慮しないといけない。
だからこそ、おそらくこれから先、多くの冒険者がトウエッドの首都――エッドにやってくるだろう。
「さ、マスターも一度戻って着替えちゃいましょう!」
「そうだな」
ポチの一言により銀の屋敷に戻る事にした俺は、皆から叩かれ、乗せられる手に、ほんの少しの高揚感と、とてつもない重責を感じた。
確かにトゥースを倒し、俺は強くなった。今回の戦いで得られたモノは、本当に重要だと気付いた。魔を理解するという事。それが魔王戦やガスパー戦で役に立つ事は間違いない。
それ以上に、この肩に乗る責任は非常に大きく重い。
だが、それ以上に感じる事もある。
リナやリーリアたちが……仲間がいるからこそ頑張れるというのも、確かな事実なんだ。
「あ、アズリーさん、お帰りなさいっすー! お客さん来てますよー!」
そう言ったのは銀と業務寄託契約をしているイツキだった。
どうやら今朝の内に、「これから先、しばらく商売あがったり」という事で、ベイラネーアのポチズリー商店からこちらへやって来たようだ。
しかし、はて? 俺に客とは一体誰なんだろう?
「なんか、真っ黒な鳥でしたね」
と言われた瞬間、俺とポチはイツキに肉薄していた。
「色は!? ちょっと紫っぽくなかったか!?」
「口調は!? チャッピーとか言ってませんでしたか!?」
「あ、え? いや、確かに紫っぽかったですけど、チャッピーとは言ってませんでしたね……?」
「どこに!?」
「いるんですか!?」
「えっと、広場に――」
「――付いてこいポチ!」
「――付いて来てくださいマスター!」
まるで競うかのように広場に向かった俺とポチ。
外が見える襖を開けた瞬間、俺とポチの目が見開かれる。
それは、あの時代を生き残った伝説。そして、俺たちの――
「久しぶりだな」
「「………………」」
「おい、何だその目はっ?」
まず、目付きからして違う。
チャッピーならもっと可愛らしい瞳をしているはずだ。
「違うよな?」
「違いますね。マスターがやっつけちゃった方です」
「やっぱりそうだよな。互いの精算は終わってるってのに何で来たんだ?」
「わかりませんよ。ちょっとマスター聞いてみてくださいよっ」
「嫌だよ。俺この時代でアイツにいじめられたしっ。ポチ行けよポチ」
「んもうっ、仕方ないですねマスターはっ。じゃ、じゃあ行きますよ……!」
「全て聞こえているぞ、愚か者共!」
「「ひゃい!?」」
かなり小声で話してたのに、何故聞こえたんだ。
しかし、この紫死鳥がここにいるのは一体どういう事だ?
ガスパーが本格的に動き出しているとしたら、確かにレガリア渓谷にいては危険だが……?
「マスターのせいで愚か者って言われちゃいました!」
「ふっ、人類の頂こと希望と呼ばれた俺に、愚か者なんて言う訳ないだろう。ポチだけに言ったんだよ」
「言ってませんー! ちゃんと共って言ってました! 共って!」
むぅ、やはり紫死鳥は耳がいいのかもしれないな。
ポチも一応紫死鳥だし。
「それで、どうしたんだ? トウエッドまで俺に会いに来たってのか?」
「なんだ、トゥースから聞いていないのか?」
「あん? 何でトゥースが出てくるんだ?」
「トゥースと私は古い友だ。勿論、ブルもな」
あんにゃろう。そんな事、一言も言ってなかったぞ?
…………ん? 待てよ?
「という事は、レガリア渓谷にお前がいるって教えたメルは……――」
「私と会わせるため、狙っての事だろうな」
「くっ! いつもいつもコロコロしてくれやがる……!」
「ふん、研ぎ澄まされたじゃないか? 先程もトゥースに勝った。私はちゃんと見ていたぞ?」
「はぁ、まったく……どこで見てたんだか。いや、まぁ……――」
俺の言葉に紫死鳥が首を傾げる。
「久しぶりだな」
「お久しぶりですー!」
俺と紫死鳥が最後に会ったのは五千年も前の事。
たとえ数年前に会っていたとしても、それはあの時代の紫死鳥を、過酷さを知らなかった俺たちだ。
今この場でコイツに言う挨拶としては、これが適当だろう。
「……な、何を言っているっ! 私はそんな挨拶のためにやって来たわけではないぞ! 断じて! 断じてだっ!」
少し固まった後、紫死鳥は顔を背けてそう言った。
何故か恥ずかしそうに見えたのは、俺の気のせいだろうか。
「へぇー、それじゃあ何しにいらしたんです?」
こういう時のポチは本当に優秀だ。
忌憚なく……というか無邪気にただ疑問を向ける。
俺にはこういうのは出来ないからな。仕方ない。
「コ、コホン! ブルと共にあの爺共に声を掛けた」
「っ! って事は、天獣たちか!」
「そうだ。ヤツらもあの魔王の胎動を受けたのだ。その内魔力が密集するこのトウエッドに来るだろう」
「それにしても、よく声掛けてくれたな」
「トゥ、トゥースの頼みだからな! 私はそれに応じただけだ!」
ふむ、どうやらこの五千年で大分人間慣れしたみたいだな。この前みたいな敵意がない。
いや、だったら何故この前は敵意が……? あぁ、そういえば俺の魔法が偶然当たっちゃったんだっけか。ありゃ怒って当然だよな。
しかしトゥースもトゥースだ。そういう事は相談してくれたっていいのに。
まぁ、アイツが俺に相談するって方が珍しいか。
「ポーア……いや、アズリーだったな」
「ん?」
「今回は嫌な予感がする……」
「……まるで『前回はまだ良かった』と言いたげだな」
「そう言ったつもりだ」
紫死鳥も感じている。この異変を。
明らかに早い魔王の復活。魔王の魔力の消失。ガスパーの存在。そしてレオン。
だからこそ俺は、もっともっと強くならなくちゃいけない。
いや、俺だけじゃない。ポチもリナもアイリーンだってそうだ。
皆で、皆で強くなるんだ……!
「それで、お前たちが会いたがっているチャッピーだがな」
「「っ!?」」
「言伝を預かっている」
言づ……て?
ココア美味しい。




