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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第二章 ~色食街編~

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037 魔剣士誕生

 ――魔育館――


 まるで冒険者。魔法士に見えないリナの衣服、顔からは、それが冗談ではない事がわかる。

 タイトな赤のスカートからは白くけしからん太腿が露出し、膝上までを隠すように薄い桃色の布の履物で覆っている。だぼっとした白いシャツに簡素な朱色のベスト。そして……俺と同じ銀の鍵のアクセサリーが付いたネックレス。いつの間に買ったんだ?

 おそらくイデアの素早い動き、そして杖術を警戒したのだろう。愛弟子とはいえ、とんでもない事を考えるものだ。

 いや、俺の愛弟子だからこそなのか?

 奇抜な考えにこそ正道があったりするものだー、とか前に言った事があるしそういう事なのか?

 だがこれはリナが考えついた結論。あの性悪女をどう料理するか見せてもらおうじゃないか。


 決闘場に立ったリナとイデアの周りには、アイリーンが防魔障壁を作る。そのアイリーンが一瞬だけ俺を見てウォレンに顔を向けた。何やらアイコンタクトをしているみたいだ。

 なんだろう。彼女の反対側に回ったウォレンが魔法陣を――あぁ、防刃障壁魔法か。ビリーは回復に回るだろうからアイリーンだけじゃ手が足りないんだな。かといって一年生でリナと仲が良い俺に仕事を振ったら角が立つし、ウォレンの面目も潰しかねない。上に立つ者ってのも色々考えなくちゃならない。

 俺には出来ない芸当だな。


 勝敗の審判はビリー。これは黒の派閥から選出される。白の派閥から審判を選ぶと、黒の派閥に不利な審判が下されてしまう事を危惧しての事だ。

 ここで決まる黒の派閥の代表が、親善試合に立つ。本戦で白の派閥と戦う代表を、可能な限り弱い代表者に仕立て上げる事を避ける為だ。やはりここは一年生の黒の派閥代表者を決める場なのだから。

 白の派閥代表者は他薦が多かった俺に決まってしまった。勿論自分も志願するつもりだったが、有力そうな人は皆俺を指名した為こうなった。予選がない代表者は珍しいそうだ。

 ん、そろそろ始まるな。


「後悔しないわね?」

「お願いしますっ!」


 イデアとリナのやり取りの後、ビリーの手が上がる。それが振り下ろされた瞬間、戦闘が始まった。


「はじめぃ!」


 ポチの耳がピクリと動き、イデアの魔法が疾走する。


「サンダー!」


 呪文の掛け声と共に、杖から紫色の細い雷が(ほとばし)る。

 なるほど、スウィフトマジックの一つにサンダーを組み込んだか。魔法名のみで繰り出される魔法に速度の高いサンダーを選ぶのは悪い手じゃない。

 リナがサンダーの着弾点から飛び退いて着地する。へぇ、前より格段に動きが良くなっている。それにどこかリードの動きに似ている気がするな。

 尚もイデアの攻撃は緩まない。何度もサンダーを詠唱し、魔育館は紫電の光がパチパチと音を鳴らしている。

 余力を見せるようにかわし続けるリナに痺れを切らせたか、イデアの設置型砲台は移動型へと変わった。走り追いかけながらの魔法攻撃は、相手との距離を詰め、その思考時間をも短縮させる。

 ここでリナの余力が見えなくなる。

 まだ体術だけではの話だが、俊敏なイデアの懐にどうやって潜り込むかだ。

 戦士対魔法士の戦闘ではロングレンジならば魔法士、ショートレンジならば戦士に分がある。決して広いとは言えないこの魔育館の決闘場だが、イデアは走りながらも一定の距離を保っている。

 戦士との戦いを知っている証拠だ。

 銀のメンバー等の高レベルの戦士であれば、一瞬で間合いを詰めて斬り伏せる術、捨て身で突っ切る、回避しながら詰める等色々手段があるだろうが、リナにそれが出来るのか?

 だとしたらどういった方法でこの距離を……。


「――っ」


 と思った時、リナの口元が動いた。なんだ、何をした?

 瞬間、リナの速度が格段に上がった。一瞬とまではいかないがイデアの猛攻を掻い潜りながら彼女に近づいて行く。

 ――まさかあの細剣っ!


「勝負あり!」


 イデアの首元にその細剣がピタリと置かれた時、ビリーの試合終了の声が響いた。


「マ、マスターッ、リナさんがやりましたよ!」

「あ、あぁそうだな……」

「皆騒いでますけどなんで急に速度が上がったんでしょう?」


 俺はポチの目線に合わせてしゃがみこんだ。そして小声で話す。


「おそらくあれは……《スピードアップ》の魔法だな」

「えぇっ? だって魔法陣の宙図はありませんでしたよ?」

「多分、ありゃスウィフトマジックだ……」

「……という事はあの細剣は――」

「「杖」」

「「…………」」

「「……あっちゃ~っ」」


 俺とポチがそう言うのも無理はないだろう。奇抜にも程がある。

 リナはスウィフトマジックが可能な杖を購入し、削り出して剣にしたんだ。良く見ればあの剣の刃は手作り感満載だ。

 杖は魔法士にとって触媒であり武器でもある。当然強度もかなりのものだ。その強度を利用した有り得ない程の奇抜さ。


「流星の魔戦士と呼ばれる魔法大学長のテンガロン……あ、テンガロン先生(、、)でさえ、戦士時代の素早い速度を利用した宙図を行って魔法を使っていた。しかし現代の技術であるスウィフトマジックを利用してるあれは、魔戦士というより……」

「魔剣士ですね」

「その通り。イデアも隠している実力はまだあっただろうが、あの速攻なら、勝負はまさに一瞬だな。こりゃいよいよ頭角を現してきたなリナのヤツ」


 周囲は俺達が出した解答にまだ辿り着いていない。

 間近で戦ったイデアでさえも気づいていないんだ。仕方ないだろう。気づいているのはおそらく学生自治会の一部と教師陣の一部。

 控えめに見渡したが、ま、そんなとこだろう。


「あ、ミドルスさんが出てきましたよ」

「連戦でも、こりゃリナが圧倒的に有利だな」

「え、どうしてです?」

「まだ自分に掛けた魔法の効果が残ってるからさ」

「あー……」

「初っ端から速度が上がってりゃ……」


「始めぃ!」


 イデアより遅いミドルスが……さっきのイデアとリナより短い距離にいるミドルスが……その間合いでかわし、対応出来る道理は……ない。


「勝負あり!」


 圧勝だな。


「圧勝ですね~」

「ミドルスがリナに掛かった魔法を把握し、試合の開始を伸ばす事が出来たなら、勝負はまだわからなかっただろうが、この緊張の中でそれを実行出来る一年生はいないからな」

「マスターは出来るでしょう?」

「気付かなかったら無理だよ。気付いたなら出来るけどな。……さて、間も無く魔法の効果も消える。やっぱりオルネル首席様が立ちはだかるか」

「あ……でも」


 おぉ、なんかミドルスが抗議してるぞ?

 そりゃまあそうか。何もしないまま終わったんじゃ今までの頑張りも報われないからな。

 しかし周りがうるさくて聞こえないな。


「ポチ、何て言ってるかわかるか? さっきのリナの呪文を拾えなかったみたいだからきついかもだが……」

「あのボリュームなら…………えーっと『再試合を要求する』って言ってますね」


 審判のビリーが首を横に振っているな。流石に認められないか。


「なんか相手が魔法士じゃなく戦士だとか、こんな戦闘方法は認められないだとか言ってますね。……マスター、このままじゃまずくないです?」

「いや、大丈夫だろう。そろそろあの人のイライラが限界になるだろうよ」

「あー、なるほど……」


 ポチが『あー』と言っている間に、あの人ことアイリーンが動き出した。そして何やらミドルスに小言を言っているようだ。


「『言い訳は見苦しい。戦った悪人やモンスターには再試合は通じない。だから負けるんだ』……だそうですよ」

「ははは、厳しいお言葉で」


 しゅんと項垂れたミドルスを横目に、オルネルが一歩、また一歩と歩を進める。多少の緊張はあるみたいだな。まあこの状況で緊張しない方が無理だろう。

 疲れこそ見えないが、リナも大分顔が強張っている。


「半月後に控えた親善試合。これでどちらがマスターの相手になるか決まりますね」

「今のオルネルならリナが勝った二人にも勝てる可能性は高い。けどリナはリナで対オルネル戦に向けて体力と魔力を温存出来た。どんな戦いになる事やら……」


 何度か実技の授業中にオルネルの動きを見た事があるが、その速度は並の戦士と変わらないものだった。イデアにこそ一歩譲るがそれを除けばトップクラス。

 下級魔法であればかなりの悪状況でも発動が可能だろう。それにあいつの特別な能力はもう一つある。

 それは金だ。

 金持ちである事。オルネルの場合は実家が貴族でかなり裕福らしい。着ている衣服も質の良いものだし、身に付けている装飾品もかなり高価なものだ。

 勿論貴族の中でも貧困している人達もいる。だが彼はそうじゃない。

 金持ちというのは先天的な才能(、、)だ。それだけで勉学の向上率や魔法の習得速度は変わってくるだろう。

 一番影響が出るのは……おそらく《杖》だ。

 前にアイリーンに確認したら、現在販売されている杖で一番高価な杖は《ダマスカスロッド》という特殊合金で作られたものだ。

 値段は大きな屋敷を買える程……と聞けば買う人間なんかいないのではと思われるかもしれないが、そんな屋敷を売ってでも手に入れたい人間はいる。

 その理由は、スウィフトマジックの組み込める数にある。その数五つ。

 俺が持つスターロッドの二倍以上の魔法が組み込める。

 これさえあれば、補助魔法二つ、回復魔法一つ、攻撃魔法二つとバランスの良い速攻魔法が可能だ。

 だからこそ大半の魔法士はその杖を欲しがる。勿論俺だって欲しい。何故なら大きな屋敷があっても死んでしまっては意味がないからだ。

 強さが生存率を高めるのだ、生き残る可能性を高める為ならば人は屋敷等売るだろう。

 勿論その杖をオルネルが持っている訳ではない。金持ちにも限度があるからな。

 しかしオルネルが持っている杖はスウィフトマジック限度数《四》の《炎龍の杖》。ランクAの巨大な赤い龍、《ロードドラゴン》の貴重な一本角を削り出して作製されるかなり高額な杖だ。

 お値段なんと二百万ゴルド。約二百回は魔法大学に入学出来るふざけた金額だ。

 ランクAになった俺でもなかなかお目にかかれない金額……。ロードドラゴンを倒したとしても炎龍の杖が手に入る訳ではないからな。角一本につき一本の炎龍の杖は作れない。

 職人の腕にもよるが、高名な職人でも角三本につき一本。

 それにロードドラゴンがほいほい見つかる訳ではない。他のドラゴンで代用出来るものでもないしな。

 限度四か……。

 俺ならば補助魔法二つ、回復魔法一つ、攻撃魔法一つか?

 さて、オルネル……どんな構成でくる?


「始まりますよマスター!」


「始めぃ!」

転生孤児の第二巻執筆の為、更新が遅れております。

編集さんに怒られない程度に更新しますので、何卒アズリー君を宜しくお願いします。

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