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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十一章 ~新生・魔法教室編~

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◆371 魔王の復活、そして――

 アズリーがベイラネーアの冒険者ギルドに着くや否や、脂汗を顔に滲ませていたダンカンがアズリーを迎えた。

 未だ腰を落としている冒険者面々がアズリーの登場に驚く。

 しかし、アズリーはこれに反応している場合ではなかった。


「ダンカンさん! 借ります!」

「えぇ! お願い!」


 アイリーン率いる解放軍(レジスタンス)が冒険者ギルドに正式に託した――空間転移魔法陣。

 冒険者ギルドのギルドマスター「スコット」は、これを使い各街の冒険者ギルドを繋いだ。

 ダンカンに案内され、冒険者ギルド関係者しか入れない部屋へ向かうアズリー。


「レジアータはこっち! ロマーヌタウンはこっちね!」

「わかりました!」

「しばらくアズリーちゃんしか使わないよう連絡入れとくわ!」


 消えゆくアズリーは「はい!」とだけ返事をし、レジアータの空間転移魔法陣に消えて行った。

 これよりアズリーは、各街に向かい、魔王復活の影響を防ぐため奔走(ほんそう)する事となる。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 紅魔の湿原。

 ポチとリーリアは、突如訪れた異常事態の収拾に追われていた。

 ここは紅魔の湿原。強力なモンスターが闊歩する危険地帯。

 今日は、魔法教室に通う生徒たちが自己のレベルアップのために、ポチ、リーリア両名の監督下、モンスターと戦っていた。

 魔王復活の重圧を受け、萎縮する魔法士たち。その中にはリナ、フユ、アンリ、クラリスの姿も見受けられた。

 しかし、萎縮し、動けなくなったのは人間だけ。モンスターはこれを受け――――凶暴化する。

 これにいち早く気付いたポチ、リーリアは瞬時に前線へと出た。皆が動けない中、魔王の時代を生き抜いた二人だけが、この場で動く事が出来たのだ。


「くっ! まさかこんなに早いとはね!」

「でも! でも! 神様は言ってましたよ! 胎動期までの時間! こんなの……こんなのずるいですー!」


 リーリア、ポチの顔から焦燥が拭われる事はない。

 十数名の魔法士たちは動けず、それを二人で守らなければならない。魔王の復活により、凶暴化したモンスターたちの能力向上は凄まじく、誰も空間転移魔法陣に運ぶ事は出来ない状況だ。


「リナさん! 立てますか!?」

「はぁ……はぁはぁ……っ!」


 両肩を抱えるリナ。

 ポチの声は聞こえているのだろう。しかし、身体が反応しない。それ程までに、魔王の影響は強烈だった。


「ポチ!」

「何です!?」

「このままでは危険よ! 私が時間稼ぎをする。ポチは皆を空間転移魔法陣へ!」

「そうは言っても! この数ですよ!?」


 強力なモンスター十数匹に囲まれ、湿原の奥からは、更なるモンスターたちが向かっている状況。

 二人で何とか牽制し合い、被害が出ていない状況なのだ。

 リーリア一人で何とか出来るという判断を、ポチは下せなかった。


「大丈夫だ……手は、これで埋めるわ」


 背中から引き抜かれた剣。

 それは、リーリアが今持っている剣とは別のモノだった。


「それは、ジョルノさんの剣……!」

「急げ、長くは持たない!」

「っ! はい!」


 ポチがリーリアに見た異変。それは過去リーリアが染まっていた狂喜の姿。現代に解放されたリーリアがビリー戦以外見せなかった――あの顔。

 リーリアの剣、そしてジョルノの剣を持った二刀で見るその姿は、ポチの背筋を冷たくさせた。


「カ……カカッ!」


 変貌とも言える狂喜の顔。

 襲い来るモンスターの首が、まるで最初から無かったかのように消える。


「消す、殺す、死ね……弾け飛べ!」


 瞬間、大地を凄まじい衝撃が襲う。

 轟々(ごうごう)と伝わる衝撃により、大地は割れモンスターが呑み込まれる。そう、リーリアは大地を斬ったのだ。


(す、凄いです……! まるで聖戦士の時みたいな強さです!)


 ポチは魔法士の首根っこを咥え、空間転移魔法陣に運ぶ。

 そしてこの時、ポチは気付くのだ。


(……こういう時マスターは各街に飛ぶはずです。けど、そうしたらエッドの守りは……? っ!)


 ポチの推測通り、トウエッドの首都エッドには現在アズリーがいないのだ。そして、この場にいるリーリアとポチ。

 今、古代魔王の時代を生き抜き、尚且つ戦える存在が、エッドにはいないのだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ウォレン、あれは幻だと言ってちょうだい」

「いえ、アイリーン様。正直、してやられたという事でしょう」

「ほんっと、性格が捻じ曲がってるわよね。ビリーの奴っ!」


 アズリーがベイラネーアに転移した直後、紅魔の湿原でポチとリーリアが奮闘している中、エッドの南にいたアイリーンたちは最大級の危機に直面していた。

 無数に蠢くアルファとベータ。その背後に見えるクリートとビリー。

 近くにある数十の空間転移魔法陣からは、止めどなくアルファとベータが出現する。


「ったく! シャレになんねぇぞ!」

「アルファつったっけ? あの筋肉の塊みたいなの? アッチは何よ!」

「情報にない生物だ。気が抜けんな……!」


 ブルーツ、ベティー、ブレイザーが剣を構えながらじりじりと後退する。


「何が起きたかはわかりませんが、これを凌がねば、我らに明日はないという事ですな」

「ライアン、いずれ……と思っていたが、再び共に戦えるとはな」

「これはこれは、赤剣殿。私も光栄ですよ」

「ふん、魔法士を下げろ。壁は戦士の役目だ」

「ナツ、イデア、ミドルス、お前たちは後方でアイリーン様の指示を仰ぎなさい」

「「はい!」」


 やがて、トレースが行った念話連絡により、徐々に冒険者たちがエッドの南に集まって来る。しかし、眼前に見える絶望を前に、目の光が消えていく者も少なくなかった。


「……アイリーン様、解放軍(レジスタンス)の戦力を結集します。すぐ戻りますので、ここはお任せしても?」

「誰に言ってるのよ。いいからさっさと行きなさい! それと、アンタもそろそろレベルを上げなさい。いいわね」


 ウォレンの手により地面に描かれた空間転移魔法陣が起動する。それに乗ったウォレンは、「かしこまりました」とだけ伝え消えて行く。向かった先は、解放軍(レジスタンス)のアジト。そこには、まだ戦力がいる。ウォレンはこれを引き連れに戻ったのだ。

 アイリーンの隣にトレースが立つ。


「アイリーン様、白銀と連絡がつきました。数分でこちらに着くとの事です」

「数分……ね」


 アイリーンの顔は非常に険しかった。

 援軍の到着までの時間、ここを防げるのかという問題。

 アルファとベータの総数は約一万。

 アルファの個体能力情報を知っているアイリーンは、ベータを睨む。


それ以下(、、、、)って事はないでしょうね。なら討伐難度はSSランクってとこかしら。それにビリーと……おそらくあれがアズリーの言ってたクリート。悪魔化という切り札がある以上、こちらの苦戦……いえ、全滅の可能性は高そうね)


 自らの爪をギリと噛み、アイリーンは強く目を瞑る。


「何だい何だい? 常成無敗(じょうせいむはい)のアイリーンともあろうお人が、そんな様子じゃ、誰が指揮を執るんだよぃ!」

「わたたたたっ!?」


 ブルーツの頭に軽やかに着地した女。

 それは、アイリーンの記憶に色濃く残っている女だった。


「ア、アナタ……メルキィ!?」

「なはははは! 久しぶりだねぃ、アイリーンちゃん! 久しぶりに学友に会えて嬉しいよぃ! それに、あそこにはビリーもいるんだねぃ! あっはっは、老けてる老けてるっ!」

「っ! 相変わらずね。銀やアズリーから名前を聞いてもしやとは思ってたけど、トゥースの下にいたとはね」

「失敬な、これでも僕は君の姉弟子なんだよ~?」


 ふふんと鼻を鳴らしたメルキィ。

 アイリーンは過去、トゥースの指導を受けた事がある。メルキィはその事を挙げて姉弟子だと言い張っているのだ。


「ふん! 魔法大学の首席卒業をとれなかったからって根に持ってるのかしら?」

「ははは! かもねぃ! さて、そろそろ奴らも動きそうだねぃ! しっかり僕を使ってくれるといいよぃ!」

「えぇ、せいぜいこき使ってやるわよ! 戦闘準備!」


 アイリーンは声高に叫び、皆に気合いを入れる。


「「おぉおおおおおおおおおおおっ!!」」


 二百もいない戦力が腹の底から出した雄叫び。


「踏み潰せ」


 ビリーが静かに言い放った指示。


「「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」」


 そして、絶望色濃い巨悪の行進。

 エッドを、世界を守る戦いがこれより始まる。

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