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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第二章 ~色食街編~

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035 謎と実現

新章スタートです

 ――戦魔歴九十一年 九月十日午前九時半――


 魔法大学、六法士アイリーンの特別研究室。

 俺はポチと一緒に授業前の実験を行っていた。


「おーし、この魔法陣からその魔法陣への移動な」


 左右二メートルは離れた魔法陣の片方にポチがちょこんと座る。


「マ、マスター……本当にやるんですかー?」

「大丈夫だよ、他の虫や小動物は成功してるだろ」

「絶対に成功させてくださいね! 変なとこに飛ばしたら呪いますからね!」

「ポチ君、任せたまえ。このアズリー様に不可能はない! くらえポチ!」

「いやです!」

「ほいのほいのほい! テレポーテーション!」


 瞬間、ポチの身体がぼやけて炎の幻惑魔法が掛かる。人魂のようなポチが、ゆっくりと足下にある魔法陣に潜って行く。いや、吸い込まれて行くというのが正しいかな?

 その発動と共に反対側の魔法陣が光り、ポチが変化したポチが現れた。

 反対にある魔法陣の中央にはスターロッドがあり、その発動に合わせて魔法式が発動された。

 状態異常回復魔法、リカバー。

 ポチの人魂にそれがかかり、火がぼやけ、霞み、そして変化していく。

 火は狼の形に変わり、輪郭がくっきりと現れる。

 暫く光りが発していたが、やがて止んで、それはポチになった。


「ヘイポチー! ナニカワカラナイコトトカヘンナコトアリマスカー?」

「マ、マスターが変になっちゃいました!? あの馬鹿マスター、やっぱり異世界へ飛ばしやがりましたね! もぉー、どうやって戻ったら良いんですかー!」

「おい、馬鹿言うなや! 毛毟るぞ!」

「あ、マスターでしたか」

「ったく……しかしこれで完成だな」

「本当ですよ、瞬間移動(テレポート)なんて偉業ですよ! これで賢者に一歩近付きましたね!」

「ふははははははは! もっと褒めてくれたまえ!」

「馬鹿もおだてりゃなんとやらですね!」


 え、本当に褒めてる?

 その時、研究室のドアがガラガラと開いた。


「あ、アズリーさん、ここにいたんですか。授業始まっちゃいますよ?」

「おー、リナ! 何か久しぶりに会った感じがするな!」

「あははは、夏休みは余り会えませんでしたからね」

「そっちはどうだ? 冒険者ランクは上がったかい?」

「バッチリランクCです!」


 リナがグッと細い腕を前に出してアピールする。

 ポチが「お〜」と言いながらパチパチと拍手している。……ありゃほとんど人間だな。


「――そういえば黒の派閥は四つ巴だって?」


 俺は教室に向かいながら質問をした。

 大規模な親善試合が間も無く始まるのだ。この時期志願者は誰もが研鑽の時期。だからこそ俺は夏休みをリナの自由に過ごさせた。俺から指導をしても良かったが、リナが困るのが目に見えてたからだ。

 なんたってリナは俺と戦いたいのだから。


「はい! 戦闘恐怖症を克服したオルネルさん。より魔法に繊細さが加わったミドルスさん。先日私と同じくランクCになったイデアさんです!」

「今のあの三人に勝つのは大変かもな。やっぱり皆才能あるからなー」


 俺にはない才能だ……おのれ。あれくらいの歳で俺は確か……ファイアーを覚えてなかったような……?

 リナのいる黒の派閥は親善試合への志願者が多い為、予選が組まれた。

 トーナメント形式でたった二試合ではあるが、この戦いだけは皆気の抜けない状況だ。


「はい、頑張りますよ!」


 輝くばかりの笑顔。最近益々可愛く綺麗になっていく。

 にしても綺麗になり過ぎじゃ……?


「あれ、リナ……それ化粧かっ?」

「おぉ、マスター! 女性の変化に気付くとは素晴らしいですね!」

「……はい、その…………に、似合いませんか?」


 な、なぜモジモジする!?


「い、いや、全然、超可愛いよっ。とても綺麗……だよ?」

「良かったぁ、アズリーさんにそう言ってもらえて安心しました! これイデアさんに教わったんですよ!」


 ほぉ、あの性悪女といつの間にか仲良くなってたのか。

 リナの余分なプラスがイデアのマイナスを包み込んだという事だな。


「髪型も勉強中なので、今度その成果をお見せしますっ」


 溢れんばかりの笑顔……を振りまいて、自分の席に向かうリナ。

 周囲の男共は皆彼女に振り返った。

 ミドルスは二度見して、オルネルにいたっては三度見していた。


「ポチ……」

「何ですか?」

「……女って凄いな」

「それ、私に言います?」


 ポチが溜息を吐いて俺の席の隣の床に座る。その床にあるポチ専用の紫色の座布団は、リナからプレゼントされた物だ。


「……にしても……まだあるのかよ……」

「へ……あぁ、今度は低速化魔法の設置型トラップですね。久しぶりだから忘れてました」

「しかしこの魔法陣、結構上手くなってるよな?」

「成長してますねぇ……」


 ポチがそう言った時、教壇の前を三人の生徒が陣取った。

 それは、先程の話題の種。オルネル、ミドルス、イデアだった。


「「アズリー!」」


 そして俺を呼んだ。


「なんだなんだ? え、どうしたの?」

「……それが最後のトラップだ!」


 ミドルスが訳の分からない事を言う。

 一体どういうこっちゃ?


「は、はぁ……」

「私達はこれから忙しくなるからね、アンタに構ってられないんだよ!」


 性悪女が意味不明な事を言う。


「はい……」

「我々の誰かが、必ずお前を倒す!」


 そしてオルネルが決めた。勝手に。

 何故「自分が」と言い切れなかったんだろう?


「が、頑張ってくれ……」


 そしてそして、三人は俺を一瞥して去って行った。

 ……あと数分で授業始まるぞ?


「……とりあえず。嫌がらせは終わりって事だな?」

「そういう事じゃないですかねぇ?」

「ま、夏休み前はもうあいつらしかやってなかったからな。いざ無くなると寂しいもんかもな」

「マスター、それはなんか気持ち悪いですよ?」

「……そうやって拾うお前の考え方もどうなんだ?」

「確かに」


 数分……もしない内に真赤な顔の三人が教室に戻って来た。カッコ良く去ってサボるのかと思ったら、完全に恥ずかしい人達だ。なんとも言えないが、しっかり青春の道を歩んでいるようで何よりだ。

 久しぶりに見るトレースも特に変わりは無く、やはり一番目を引いたのはリナの成長だろう。

 三日会わないだけでなんとやらだとはよく言ったものだが、確かこれは男子に当てはまる言葉だったか?

 いやしかし女性の成長と言うのは早いものだな。大学生と言えど男は子供っぽい所がある。勿論俺だってまだまだガキな所はある。早々に変わるものではないって事だろう。

 いや違うか。問題は変わる意志……なんだろうな。


 午前の授業が終わり、俺はトレースを介してアイリーンの自室へと呼ばれた。

 ところで、何故この人は俺の腹減り具合を考慮してくれないのだろうか?

 今まで何回も昼休みを潰されている気がする。ウォレンは『学生自治会はそんなものだ』とか言ってたけど、これは完全にアイリーンの私用だろう?


「半月ぶり……かしら?」

「ですね」


 何で睨んでるんだろう?


「ランクAになったそうね」

「はい、なりました」


 イライラしているな。今にも爆発しそ――


「もうっ! あなた、社交辞令も出来ないの!?」

「えぇえええ!? そんなのわからないですよ! こっちはお腹空いてるんですからっ」

「訓練が足りないのよ!」

「そんなの訓練でなんとかなるもんじゃないでしょうに……で、今日はどうしたんです?」

「あなたが言っていた《フォールタウン》の件で報告があるわ」

「ほ、本当ですか!」

「……まったく、現金よね」


 悠久の雫の件がバレて以来、アイリーンにその精製の協力の対価としてフォールタウンの事を調べてもらう事になった。

 いや、(むし)ろこちらからお願いをしていないのに、調べてくれている。教えてもらうだけでは嫌だという個人的な意見かららしいが、確かにアイリーンらしい答えだった。


「やはりアズリーの言った通り、国の上層部が絡んでいるわね。六法士が調べられるレベルでは調べられなかった。これが現在の最高の情報よ」

「やっぱりですか……」

「ったく、胸糞悪いわよ。国が町一つ見捨てたって事がね……」


 アイリーンが唇を噛む。よほど腹が立っているのだろう。


「……ありがとうございます」

「ビリーもガストンも調べてくれてはいるけど、これ以上の回答は得られないでしょうね」

「いえ、そこまでわかれば色々と推測も出来ますから」

「確かにそうね、国が見捨てたという結果があるけれど、それは切り捨てたと同義。切り捨てる理由……いえ、切り捨てなければならない理由があった。こう考えるのが普通でしょうね」


 そうだ、俺もその回答へと行き着いた。

 何故あの町が、そうならざるを得なかったのか。国のトップに近い者達の判断……六法士や六勇士より上…………上?


「……あの、アイリーンさん?」

「何かしら?」

「六法士や六勇士。つまり十二士より上の立場の人ってどなたに当たるんです? 戦魔帝だけではないですよね?」

「そうね、世間に出ているのは十二士ばかりだから知らないのは無理もないわ。そもそも一般人は知らなくても良い事だし、この大学でも教わるのは二年からだしね」


 凄いな。ある意味ちょっとした情報規制じゃないか。


「白の派閥と黒の派閥。白黒(びゃっこく)の連鎖の頂点に位置する者が二人。《白のロイド》と《黒のイシュタル》。この二人が十二士の上に位置する人間よ。そして戦魔帝ヴァースとその二人の間にもう一人、《灰色(グレイ)》の称号を持つ男がいるわ」

「……名前は?」

「ないわ。その称号通り、皆グレイと呼ぶわ。国に従事する者であれば、彼の意見が絶対ね。戦魔帝でさえも彼の言う事に何より比重を置いているわ」


 なるほど…………段々とわかってきたぞ。

 人々が神を信仰しなくなったのは、その信仰を白黒(びゃっこく)の連鎖へ向けたからだ。彼等こそ人類を守る象徴とされ、その象徴は十二士や戦魔帝ヴァース。

 しかしその二方の後ろにいるのは、やはり人間である《グレイ》。

 神の力が衰える訳だ。


 神への信仰が神の力を生み、その力が恵や聖戦士を作り出す。

 この法則が打ち破られた今になって魔王が誕生したら…………なるほどなるほど、そりゃ神の使いが現れる訳だな。


「ではロイドとイシュタル、そしてグレイがその情報を握っていると見て間違いなさそうですね」

「まったく……知ってる人がその名前を呼び捨てにされたのを聞いたら、処刑はないにしても捕縛くらいはされるわよ?」

「それは怖いですね……」


 そう、怖いくらいにこびり付いてるな。


「私からは以上よ、あなたは何かある?」

「あ、そうだった。本日《空間転移魔法》、魔法名テレポーテーションの開発に成功しました」


 アイリーンが固まる。停止魔法を使われたんじゃないかって位固まってる。


「…………冗談でしょ?」

「いえ、本当です」

「そ、そんな報告受けてないわよ!」

「だって今報告しましたもん」

「結果報告じゃないわ、研究するって報告を受けてないわよ!」


 え、それ必要なの?


「必要よ!」


 読まれた!?


「私の研究室を使っていたのだから、私達が苦心して研究してたのを知らないはずがないでしょう!」

「そうですね。許可を得られたので横目でずっと見学してました。あ、けど設置型魔法陣のみ可能なだけですよ?」

「十分よ! その実現化に私がどれだけ時間をかけたと思ってるのっ!」

「……七年、でしたっけ?」

「そうよ!」

「俺は二百年ですよ?」

「あ、……く……もうもうもうっ! もぉーいいわよ! 話を聞かせなさい!」

「この後授業が……それにご飯をですね――」

「後よ後っ!!」


 言わなきゃ良かったか?

 いや、だけど研究室を使わせてもらったんだから報告位はしないとなぁ。

 そんな俺を引きずりながら、アイリーンはブツブツと言いながら研究室まで歩いて行った。

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