343 カードの行方
※物語の都合上、前半アズリーの一人称。後半が三人称視点となっております。
女は俺に向かって確かに「愚者」と言った。
「あの、え?」
俺がそう零すと、女はハッと気付いたように目を丸くさせた。
「あ、いえ。ごめんなさい。ちょっと訓練をしてたのよ」
最初の妖しい瞳はどこへやら。
焦った様子の女は慌てて俺に謝罪してきた。
はて、訓練? 一体何の事だろう。
そう思い俺は首を少し捻ると、女はとことこと歩いて俺の眼前まで来た。
「はい、お兄さんのカード」
そう言って女は俺に一枚のカードを手渡してきた。
それは男が崖に立っている絵が描かれたカードだった。
「これはもしや……占いのカード?」
「そうそう。よく知ってるわね! 私、占いをしながら旅をしてるのよ! それで、北の方からこのトウエッドまで流れて来たんだけど、ここじゃ商売上がったり。なんたって予知の眼を持つ巫女がいるんですもの! まぁ時間は有限だからね、カード占いの訓練をしながら歩いてたらお兄さんが引っ掛かった訳。で、出たカードがソレって事!」
矢継早に女は言い、俺が持つカードをつんつんとつついた。
「ね、お兄さんカッコイイじゃん。ちょっと占いやっていかない?」
「え、いや、俺は――――」
そう言っている間に俺は腕を掴まれ、道の端まで連れてこられてしまった。
「あの、ちょっと!」
「いいからいいからー、安くしとくしー!」
ちゃっかりお金をとられる事は決まっていたらしい。
ぬぅ、早いところ薫と潤子に会って話したい事もあるのに。
俺は溜め息を吐きながら、女に手の平を向けた。
「ありがとっ! それじゃあはじめるね。ほいっと!」
「っ!?」
俺は一瞬で目を点にした。
占い師の女の掛け声と同時に、カードは宙に浮き、そして五枚のカード十字に伏せられたのだ。
その中央のカードに、六枚目のカードが伏せられ、小さな十字を作る。
……これは、俺が設置型魔法陣を簡易発動させるために使う反発魔力の応用。
この女……一体何者だ?
「これは私のオリジナル占術でね。上の一枚に未来、両側二枚に現在、そして下の一枚に過去の意味が宿るの」
「……真ん中の小さな十字のカードは?」
「それがカードの核で、お兄さんの全てを表してるのよ。上にあるのがカードの正位置を宿し、下にあるのがカードの逆位置を宿してるの」
「正位置? 逆位置?」
「カードの良い意味と悪い意味って事で理解してくれればいいわ」
ほぉ、一枚のカードに二種類の意味があるという事か。
「それじゃあ過去から」
女は、俺から見て奥のカードを捲る。
「《死神》のカード」
「いきなり危なっかしいカードだね……」
「そんな事ないわよ。死神のカードは《集結と始まり》、《分岐点》、《転機》とかを示すんだから」
「それは正位置ってやつなんじゃ? 逆位置の方は?」
「それは気にしなくていいの。私の占いの場合、逆位置が重要になるのは、核の下側だけだから」
なるほど、確かに過去は色々な転機があったかもしれない。
悠久の雫も作ったし、魔法大学に入ったり……というかその過去に行って色々やってたしな。
「ふふーん、ちょっとは興味持ってくれた顔だねっ」
嬉しそうにする女はまるで少女のような笑みを見せた。
「コ、コホン。えーっとじゃあ現在のを見せてもらおうかな」
「ふふ、いいよー。はい」
両脇のカードを一枚ずつ捲った女は、少しだけ驚いた顔をして、しかしすぐに顔を戻して俺を見た。
「お兄さん面白いねー。まずこっちは《運命の輪》。これは《新たな展開》や《好転》を意味しているカード。そしてこっちは《力》のカード。これは《信念》や《意志》、《勇気》を意味するカードよ。相当真っ直ぐな性格でしょー?」
そう言って俺は女にずいと顔を覗き込まれた。
うーん、どうなんだろう。確かに戦魔帝ヴァースは救えたし、ここには新たな目的のためにやってきた。
魔法教室も開くかもしれないから、確かにこの女の占いは当たっている。
「それじゃあ未来を見てみようか。……ふーん、賢者か」
「おぉ! ちょちょちょちょちょっと、そのカードの意味詳しく!」
「んえ? ま、まぁ《技術》や《知識》、《創造》とか《集中》だね。でも、未来の事に関しては、少しだけ注意が必要なの」
「え?」
「いつ何をすべきかで、逆位置に転じる事があるのよ」
「へぇ、じゃあ賢者の逆位置の意味って?」
「《集中力の欠如》、《技術不足》、《知識不足》、《優柔不断》。こんなところね。あれ? 何胸を押さえてるの?」
ぐぅ、正に突き刺さるような一言だったな。
いやいや、今の段階では良い占い結果なんだ。
これからしっかりやっていけばきっと大丈夫だ。
「だ、大丈夫だ……」
「そう? まぁこれまでのカードを見る限りじゃ、お兄さんの未来は明るいわよ。うん、それじゃあ核の部分を見てみようか。どっちから先に見る?」
「うぅ、決まりがないなら先に悪い方から聞きたいかな」
「お、保身に走ったね? そういう時ってあんまりいい結果にならないんだよ?」
ぬう、後出しでそういう事を言うのは是非ともやめて頂きたい。
「ん~、あははは。やっぱり出たね、愚者」
「ぐぅ!?」
「《愚者》の逆位置は《軽率》」
「ぐぉ!?」
「《わがまま》」
「がぁっ!?」
「《無知》」
「はぅぁ!?」
「《中途半端》」
「も、もう勘弁してくれ! それ以上言わなくていいから」
「あはははは、ごめんごめん。お兄さんの反応が面白くて、つい」
「つい」で俺の寿命を縮めにくるとは中々図太い小娘だ。
あ、俺寿命ないんだった。
「うんうん、お兄さん自身も心当たりがあるようでよかったよ」
いや、全然よくないから。
「はぁ……それじゃあ良い方を聞かせてくれよ」
「うんうん、わかったわかった。それじゃあ見てみよう」
占い師の女はそう言って六枚目のカードを捲ってみた。
すると、今度は先程以上の驚きを目に宿し、女は固まってしまった。
「あの、どうだったんだ?」
「あ、あははははー失敗失敗!」
そう言って女は六枚目のカードを見せてくれないのだ。
「え?」
「ちょっと失敗しちゃった。うん、これはもうなし! 別のにしよう!」
「何だよ!? ここまで来て言わないのかよ!?」
「ごめんねぇ、お代はいいから別のにしよう。ね?」
「はぁ、ったく、もういいよ。俺、あんまり時間ないしもう行くわ……」
「あ、え……ちょっと待ちなよ、お兄さん! お兄さーん!」
俺はそのまま占い師の女と別れ、薫と潤子がいるであろう聖堂まで走った。
占い師に止められた時間を取り戻すために、かなり早く走ったのだが…………、
「うぇ? 約束がないと無理!?」
「公式な手続きを踏んでからでないと通す訳にはいかん」
門前払いをくらい、追い返された俺は、照りつける太陽を睨む。
念話連絡も通じないし、こりゃ前途多難だな。
何が「お兄さんの未来は明るい」だ。占いなんて絶対に信じないぞ。俺は。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ん~、おっかしいな~? 何でこれが出たんだー?」
アズリーと別れた占い師の女。
アズリーが聖堂前で太陽を睨む中、女もまた、太陽にカードを向けぶーぶー言いながら睨んでいる。
女が太陽に向けていたのは愚者のカード。
「同じデッキに同じカードは入れないのに……二枚とも愚者? んー、何でだろう」
ブツブツと呟きながら女は首都エッドの門を出る。
女は、カードを手元に戻した後も、それを見続けた。
「愚者の逆位置……軽率、わがまま、無知、中途半端」
女の視線がカードを跨ぎ、もう一枚の愚者に移る。
「愚者の正位置……《純粋》、《自由》、《発想力》……そして――」
女が振り返る。
アズリーが走って行った方角を見て。
「――未知なる可能性」
そう呟いた後、
「うぅうううううう……うがぁー!」
頭を掻きむしり、叫んだ。
「むぅ、わからない。後でお師匠様に聞いてみよう」
脱力した様子でそう言った後、西に向かって歩き始めたのだった。
今回に出て来るカード占いはタロットカードを元にしていますが、占い方法等は作中にも書いた通り、オリジナルです。ご了承ください。
明日、MFブックス様より「がけっぷち冒険者の魔王体験」の第一巻が発売致します。
活動報告に書影や店舗特典などを載せておくので、是非ご確認くださいませ。
また、「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」の第九巻の発売が、2018年6月15日に決定致しました。
出版社より書影等の情報公開の許可が頂けましたら、また告知させて頂きます。




