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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十一章 ~新生・魔法教室編~

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343 カードの行方

※物語の都合上、前半アズリーの一人称。後半が三人称視点となっております。

 女は俺に向かって確かに「愚者」と言った。


「あの、え?」


 俺がそう零すと、女はハッと気付いたように目を丸くさせた。


「あ、いえ。ごめんなさい。ちょっと訓練をしてたのよ」


 最初の妖しい瞳はどこへやら。

 焦った様子の女は慌てて俺に謝罪してきた。

 はて、訓練? 一体何の事だろう。

 そう思い俺は首を少し捻ると、女はとことこと歩いて俺の眼前まで来た。


「はい、お兄さんのカード」


 そう言って女は俺に一枚のカードを手渡してきた。

 それは男が崖に立っている絵が描かれたカードだった。


「これはもしや……占いのカード?」

「そうそう。よく知ってるわね! 私、占いをしながら旅をしてるのよ! それで、北の方からこのトウエッドまで流れて来たんだけど、ここじゃ商売上がったり。なんたって予知の眼を持つ巫女がいるんですもの! まぁ時間は有限だからね、カード占いの訓練をしながら歩いてたらお兄さんが引っ掛かった訳。で、出たカードがソレって事!」


 矢継早に女は言い、俺が持つカードをつんつんとつついた。


「ね、お兄さんカッコイイじゃん。ちょっと占いやっていかない?」

「え、いや、俺は――――」


 そう言っている間に俺は腕を掴まれ、道の端まで連れてこられてしまった。


「あの、ちょっと!」

「いいからいいからー、安くしとくしー!」


 ちゃっかりお金をとられる事は決まっていたらしい。

 ぬぅ、早いところ薫と潤子に会って話したい事もあるのに。

 俺は溜め息を吐きながら、女に手の平を向けた。


「ありがとっ! それじゃあはじめるね。ほいっと!」

「っ!?」


 俺は一瞬で目を点にした。

 占い師の女の掛け声と同時に、カードは宙に浮き、そして五枚のカード十字に伏せられたのだ。

 その中央のカードに、六枚目のカードが伏せられ、小さな十字を作る。

 ……これは、俺が設置型魔法陣を簡易発動させるために使う反発魔力の応用。

 この女……一体何者だ?


「これは私のオリジナル占術(せんじゅつ)でね。上(頭)の一枚に未来、両側(両手)二枚に現在、そして下(足)の一枚に過去の意味が宿るの」

「……真ん中の小さな十字のカードは?」

「それがカードの核で、お兄さんの全てを表してるのよ。上にあるのがカードの正位置を宿し、下にあるのがカードの逆位置を宿してるの」

「正位置? 逆位置?」

「カードの良い意味と悪い意味って事で理解してくれればいいわ」


 ほぉ、一枚のカードに二種類の意味があるという事か。


「それじゃあ過去から」


 女は、俺から見て奥のカードを捲(めく)る。


「《死神》のカード」

「いきなり危なっかしいカードだね……」

「そんな事ないわよ。死神のカードは《集結と始まり》、《分岐点》、《転機》とかを示すんだから」

「それは正位置ってやつなんじゃ? 逆位置の方は?」

「それは気にしなくていいの。私の占いの場合、逆位置が重要になるのは、核の下側だけだから」


 なるほど、確かに過去は色々な転機があったかもしれない。

 悠久の雫も作ったし、魔法大学に入ったり……というかその過去に行って色々やってたしな。


「ふふーん、ちょっとは興味持ってくれた顔だねっ」


 嬉しそうにする女はまるで少女のような笑みを見せた。


「コ、コホン。えーっとじゃあ現在のを見せてもらおうかな」

「ふふ、いいよー。はい」


 両脇のカードを一枚ずつ捲った女は、少しだけ驚いた顔をして、しかしすぐに顔を戻して俺を見た。


「お兄さん面白いねー。まずこっちは《運命の輪》。これは《新たな展開》や《好転》を意味しているカード。そしてこっちは《力》のカード。これは《信念》や《意志》、《勇気》を意味するカードよ。相当真っ直ぐな性格でしょー?」


 そう言って俺は女にずいと顔を覗き込まれた。

 うーん、どうなんだろう。確かに戦魔帝ヴァースは救えたし、ここには新たな目的のためにやってきた。

 魔法教室も開くかもしれないから、確かにこの女の占いは当たっている。


「それじゃあ未来を見てみようか。……ふーん、賢者(、、)か」

「おぉ! ちょちょちょちょちょっと、そのカードの意味詳しく!」

「んえ? ま、まぁ《技術》や《知識》、《創造》とか《集中》だね。でも、未来の事に関しては、少しだけ注意が必要なの」

「え?」

「いつ何をすべきかで、逆位置に転じる事があるのよ」

「へぇ、じゃあ賢者の逆位置の意味って?」

「《集中力の欠如》、《技術不足》、《知識不足》、《優柔不断》。こんなところね。あれ? 何胸を押さえてるの?」


 ぐぅ、正に突き刺さるような一言だったな。

 いやいや、今の段階では良い占い結果なんだ。

 これからしっかりやっていけばきっと大丈夫だ。


「だ、大丈夫だ……」

「そう? まぁこれまでのカードを見る限りじゃ、お兄さんの未来は明るいわよ。うん、それじゃあ核の部分を見てみようか。どっちから先に見る?」

「うぅ、決まりがないなら先に悪い方から聞きたいかな」

「お、保身に走ったね? そういう時ってあんまりいい結果にならないんだよ?」


 ぬう、後出しでそういう事を言うのは是非ともやめて頂きたい。


「ん~、あははは。やっぱり出たね、愚者」

「ぐぅ!?」

「《愚者》の逆位置は《軽率》」

「ぐぉ!?」

「《わがまま》」

「がぁっ!?」

「《無知》」

「はぅぁ!?」

「《中途半端》」

「も、もう勘弁してくれ! それ以上言わなくていいから」

「あはははは、ごめんごめん。お兄さんの反応が面白くて、つい」


「つい」で俺の寿命を縮めにくるとは中々図太い小娘だ。

 あ、俺寿命ないんだった。


「うんうん、お兄さん自身も心当たりがあるようでよかったよ」


 いや、全然よくないから。


「はぁ……それじゃあ良い方を聞かせてくれよ」

「うんうん、わかったわかった。それじゃあ見てみよう」


 占い師の女はそう言って六枚目のカードを捲ってみた。

 すると、今度は先程以上の驚きを目に宿し、女は固まってしまった。


「あの、どうだったんだ?」

「あ、あははははー失敗失敗!」


 そう言って女は六枚目のカードを見せてくれないのだ。


「え?」

「ちょっと失敗しちゃった。うん、これはもうなし! 別のにしよう!」

「何だよ!? ここまで来て言わないのかよ!?」

「ごめんねぇ、お代はいいから別のにしよう。ね?」

「はぁ、ったく、もういいよ。俺、あんまり時間ないしもう行くわ……」

「あ、え……ちょっと待ちなよ、お兄さん! お兄さーん!」


 俺はそのまま占い師の女と別れ、薫と潤子がいるであろう聖堂まで走った。

 占い師に止められた時間を取り戻すために、かなり早く走ったのだが…………、


「うぇ? 約束がないと無理!?」

「公式な手続きを踏んでからでないと通す訳にはいかん」


 門前払いをくらい、追い返された俺は、照りつける太陽を睨む。

 念話連絡も通じないし、こりゃ前途多難だな。

 何が「お兄さんの未来は明るい」だ。占いなんて絶対に信じないぞ。俺は。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ん~、おっかしいな~? 何でこれが出たんだー?」


 アズリーと別れた占い師の女。

 アズリーが聖堂前で太陽を睨む中、女もまた、太陽にカードを向けぶーぶー言いながら睨んでいる。

 女が太陽に向けていたのは愚者のカード。


「同じデッキに同じカードは入れないのに……二枚とも愚者? んー、何でだろう」


 ブツブツと呟きながら女は首都エッドの門を出る。

 女は、カードを手元に戻した後も、それを見続けた。


「愚者の逆位置……軽率、わがまま、無知、中途半端」


 女の視線がカードを跨ぎ、もう一枚の愚者に移る。


「愚者の正位置……《純粋》、《自由》、《発想力》……そして――」


 女が振り返る。

 アズリーが走って行った方角を見て。


「――未知なる可能性(、、、、、、、、)」


 そう呟いた後、


「うぅうううううう……うがぁー!」


 頭を掻きむしり、叫んだ。


「むぅ、わからない。後でお師匠様(、、、、)に聞いてみよう」


 脱力した様子でそう言った後、西に向かって歩き始めたのだった。

今回に出て来るカード占いはタロットカードを元にしていますが、占い方法等は作中にも書いた通り、オリジナルです。ご了承ください。


明日、MFブックス様より「がけっぷち冒険者の魔王体験」の第一巻が発売致します。

活動報告に書影(カバーイラスト)や店舗特典などを載せておくので、是非ご確認くださいませ。


また、「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」の第九巻の発売が、2018年6月15日に決定致しました。

出版社より書影等の情報公開の許可が頂けましたら、また告知させて頂きます。

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