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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十章 ~戦魔国の闇編~

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336 烈戦

「あーっはっはっは! ようやく気付いたかえ? ポーア」

「イディア皇后、何故あなたがこの時代に!」

「この姿を見て何もわからぬようでは愚者の極みぞ?」


 悠久の雫を飲んだという事は考えられない。

 悪しき心を持つ者に悠久の雫が顕現するなんて、ありえないからだ。

 悪魔化を見て? いや、これは悪魔本来の姿?

 もしかしてイディア皇后は、あの時代の悪魔の生き残りと契約を!?


「……そういう事か」

「ふん、どんな推察をしたかはお前の自由。しかし、この時この場をもってポーア、お前の命をもらい受ける! ヘルスタンプ・レイン!」


 くそ、いきなりとんでもない魔法を!?

 闇の鉄槌が、俺の頭上から無数に降ってくる。

 俺は魔力台を蹴り宙に逃れ、それをかわす。

 見下ろしてみると、既にレガリア城北東の尖塔は崩壊状態にあった。


「よっ! ほっ! ほほい! エレメンタルブラスト!」

「何と巧みな魔力コントロールよ! 流石聖戦士ポーアじゃな! しかし、余がこれまでただ黙っていた訳ではない事を思い知れ! パライサイトコントロール!」

「うぇ!? くっ! パラサイトコントロール!」


 物凄い宙図(ちゅうず)速度だ。俺のエレメンタルブラストがイディア皇后に呑み込まれるようだ。

 けど、これは俺のオリジナル魔法!


「ここだけは譲れないんだよ、馬鹿野郎! うぉおおおおおおおおっ!!」

「何っ!? ちぃっ!」


 イディア皇后がエレメンタルブラストの直撃を回避。これにより、尖塔は吹き飛び、イディア皇后は下の方へ降りて行く。

 この間に――――、


「オールアップ・カウント6&リモートコントロール!」


 事前にこそ掛けておいたが、そろそろ頃合だろう。


「カァアッ!」


 直後、イディア皇后が物凄い勢いで跳躍し、腕を振り被った。


「っお!?」


 ドリニウム・ロッドで受けた攻撃は、かつての魔王の攻撃に近い威力を身体に残した。

 吹き飛ぶ身体を宙で立て直し、俺はレガリア城本棟の外壁に足をつけた。


「何て攻撃力だよ、まったく!」

「くっ! これでも堪えぬか!」


 あれがイディア皇后の渾身、という事か。

 連撃出来ない以上、あの魔王より強いという事は絶対にない。


「ほいのほい! 炎極地獄(えんごくじごく)!」

「何と荒ぶる魔法か! やはりお前の存在は悪魔に近いな! 氷塊乱舞(ひょうかいらんぶ)!」

「それは悪魔に教わったようなものだからな! 風輪化斬(ふうりんかざん)!」

「くぉっ!」

「よし! 今だ! ほいのほいのほい! 縛雷結界(ばくらいけっかい)!」


 ウォレンから教わり、俺が更に簡略化に成功した結界魔術。

 MPにしてざっと三千を持って行くこの魔術だが、これが効けば他の仲間たちを助けに行ける。


「くっ! これは危険だな!」

「くそ! かわされたか!」


 やっぱり可視化される結界魔術だと相当弱らせないと……いや、待て。


 ――――強敵と戦う時、その魔力を全部使う気で戦えば、今の時代でお前に敵はほぼいない。


 とっさにトゥースの言葉が頭に過った時、俺は既に宙図(ちゅうず)に入っていた。

 縛雷結界をかわすのに精一杯だった、今ならばイディア皇后の隙はまだ大きい。


「ほいのほいのほいの……ほい! 縛雷結界・カウント10&リモートコントロール!」


 十方向に繰り出された魔術は、宙に逃れたイディア皇后の周囲を包み、発動する。


「あ゛ぁああああああっ!?」


 身体から一気に魔力が抜けた感じがするのはやはり、それだけの魔力を短期間これまで放出した事がないからだろう。

 けど、こういった無茶が出来るのは有難い。

 ウォレンの指摘やトゥースの指摘が着実に俺の力になっている。

 そう感じる事が出来た一瞬だった。

 俺はそのままクリートと戦うポチや銀の三人の下に降りた。

 魔力の感じからして、かなり消耗しているみたいだ。

 今はイディア皇后の(とど)めより、皆の命だ!


「ハイキュアーアジャスト・カウント4&リモートコントロール!」

「くっ! まさかイシュタル様が!?」


 悪魔化したクリートの姿は正に異形で、身体が植物のようにうねっていた。

 腕から枝のような触手が生え、腹部はぼっこりと膨れあがっていた。


「まだいけるか!?」

「ポチがいなかったら危なかったが、これくらいなら何とかなるだろ! おるぁ! スマッシュスラッシュ!」

「何なのよあの装甲は! 硬いったらありゃしない! ふっ! セブンスランジ!」

「エアリアルダンサー!」

「ポチスタンプッ!!」


 ブルーツ、ベティー、ブレイザーが特殊技能を使い、クリートを追いつめる。


「エアクロウ!」


 やはり銀の馴染み切った連携は凄いな。


「ガァアアアアアアアアアアアッ!」


 これなら安心して――――、


「マスター! 私の活躍見てくれてます!?」

「見てるよ!」

「ありがとうございますっ!」


 もの凄い嬉しそうなポチだが、やはり馴染み切った間柄だと、心も読まれるのだろうか?


「カァアアアアアッ!」

「何だこりゃ!?」

「毒霧よ!」


 ベティーの指摘通り、かなり毒素の強い霧。


「ほい! エアウォール・プレス!」

「ぐっ! ストーンランス・ラピッドファイア!」


 くそ、エアウォールを突き抜ける石槍の連射か! 上手い!

 これじゃ毒霧が――――くそ、仕方ない!


「ふんがっ!」

究極限界(アルティリミット)です!?」

「エアウォール・プレス! アースコントロール!」

「ちっ! 化物めっ!」

「お褒めに(あずか)り光栄だよ! デュアルドラゴ――――なっ!?」


 次の魔法を放とうとした瞬間、俺の究極限界(アルティリミット)は解除されてしまった。今のは強力な吸魔っ?

 あまりの出来事に俺は一瞬固まってしまうが、それも束の間、上空に巨大な魔力を感じ取った。

 空に浮かぶは黄金の髪を靡かせた……青年?

 身体つきは逞しく、右手には悪魔化が解けたイディア皇后。


「あれを……解いたのか!?」


 直後、リーリアが戦っていた方から、大きな音が聞こえた。

 目の端でそれを捉えた俺は、リーリアがビリーを圧倒し、今にも(とど)めを刺そうとする瞬間だった。

 ――――がしかし、


「「なっ!?」」


 俺とリーリアから零れた驚き。

 いつの間にか、奴の左手にビリーが抱えられていたのだ。


「……見えなかった……」


 俺の言葉と同じ事を、リーリアは脳内で思った事だろう。

 しかし、言葉にしなかった。きっとそれを認めたくなかったからだ。


「はぁああああっ!!」

「やめろリーリアっ!」


 奴は、一瞬少しだけ動いたかのように見えた。

 しかし、見えたと思った時、リーリアは既に俺の眼前にある地面にめり込んでいたのだ。


「ぐっ! 今のは……蹴られた、のか?」


 奴は俺たちを見下すばかりで何もしてこない。

 夜風が奴のローブを揺らし、月夜がそれを照らす。

 灰色のローブが見えた時、俺は奴の正体を知った。


「あれがガスパー……!」


 遠目で表情こそ見えないものの、俺の身体は奴の瞳……いや、奴の全身によって囚われているような気持ちになった。


「ぐぉおおお!?」


 直後、クリートの叫び声が俺の耳に届き、硬直を解いた。


「見ましたかマスター!? 私の一撃がいい感じに決まってドーンッ! って…………っ!」


 軽快なポチの身体が一瞬にして警戒に変わる。

 まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。


「っ! ほい、ハイキュアーアジャスト!」


 俺はリーリアを回復させ、すぐにまた上空を見た。


「――――騒がしいと思えば侵入者か」

「「っ!?」」


 ガスパーは一瞬にして、俺たちの背後に回り込んでいた。

 イディア皇后と、ビリーを投げ捨てるように置き、


「……!」


 魔力の圧によってクリートの身体を城外へ吹き飛ばした。

 おそらく死なない範囲で……!


「お前たちは本当に役に立たないな」


 イシュタルたちにそう言い、ガスパーは一歩前に出る。

 すると、銀の三人が一歩後ろへ下がった。

 これは相当まずい。

 ガスパーの戦力は、今の俺たち全員を凌駕するだろう。

 この圧倒的な戦力差……かつての魔王ルシファーを思い出す。


「……さて、遊んでやろう」

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