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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十章 ~戦魔国の闇編~

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326 期待の出立

 今、ライアンが何を考えているのか全くわからないが、この肩に乗っている彼の手は非常に重いという事だけはわかった。


「あの……ライアンさん?」

「質問に答えて頂けますかな?」


 ぬぅ、笑顔なのに、目が笑っていないのはやはりそういう事なのだろうか。


「お、長(おさ)っ」

「ティファ、黙っていなさい」


 俺に向けられた以上の眼光がティファを襲う。

 そんなライアンを見て、皆それぞれ別の話を始めてしまった。

 まだ話してない仲間もいるんだが、これを解決しないと話が先に進みそうにないな。


「む、昔話をしていました」

「ほぉ、昔話?」


 おや? ライアンの目がすっかり戻った。

 もしかして、ライアンのヤツ……――――


「はい、とても昔の話です」


 この時代に戻ってきて3回目の振り返り。

 しかし俺は話した。これは皆に伝えなければならない話だ。

 おそらくライアンは、ティファの事を口実に、重要な話を俺にさせたかったんじゃないかと思う。

 これを聞き始めたライアンは、一歩引いて静かに目を閉じていたから。


「す、凄い……アズリーさんが、伝説の聖戦士ポーア」


 相変わらずアドルフは目を輝かせている。

 精悍な顔つきになったし、ランクもSに近いんじゃないか?

 それも、銀の皆全員。

 これは一体どういう事だ?

 確かに銀は才能があるメンバーが非常に多い。

 しかし、これ程までにランクSに辿り着けるものなのか?

 皆、アドルフとは違って驚きの余り口を開かない様子だったが、やはりライアンは違った。


「ティファ」


 俺にではなく、話すべきはティファ。

 あぁ、なるほど。そういう事なのか。


「はい」

「私はアズリー殿を信頼している。しかし、ティファ。夜遅く男性の寝室を訪れるのはよしなさい」

「……ぅ」


 ティファはそう零しただけで何も言えなかった。

 流石ライアンはやる事が違うな。話の運びを上手く配分しているような。


「いずれアズリー殿から、ティファの寝室へ来てくれるかもしれんからな」

「……ぅ?」


 俺はそう零しただけで何も言えなかった。


「はい!」


 ティファの目がアドルフと同じくらい輝いている。

 おかしい。ライアンは一体何を考えているのだろうか?

 おかしい。いや、おかしいから皆爆笑しているのだろう。マナと春華(はるはな)を除いて。

 マナは膨れた顔を見せ、春華はぴこんと何か思いついたような顔をしていた。


「伝説の聖戦士ポーアか。なるほど、さぞ強いのだろうな」


 ようやくブレイザーが口を開いた。

 この二年で更に無口になったのかとも思ったが、そういう訳でもなさそうだ。


「ナツもなれるかな!?」


 期待に満ちた表情でナツが、眠そうなフユに聞く。

 色んな事があったし、フユ自身鍛錬をしている。こんな夜に空間転移魔法を使って相当疲れているのだろう。

 リナはこの場にいないしな。


「……神様の力がないから……無理じゃないかなー」


 目を擦るフユを見たライアンは、レイナに目をやる。

 レイナは静かに頷き、フユの肩を抱きながら寝室へ連れて行った。

 この二人の意思疎通能力は、絶対に俺とポチ以上だと思う。


「かかかか! しっかし、アズリーが戻って来たのは嬉しい話だ! またすぐにどっか行っちまうのか?」

「あぁ、次はレガリアだな。明日の昼には発つつもりだ」

「へー、まあ俺たちもしばらくトウエッドを拠点にするつもりだ」

「だけどよく考えたな。トウエッドに行くなんて?」


 すると、全員がティファを見た。

 ……なるほど、ティファの案って事か。

 視線が集中したティファが俯いて赤くなった顔を隠した。


「ははは。そんで? レガリアに何しに行くんだ?」

「何か協力出来る事があれば言ってくれよな!」


 ブルーツが聞き、リードがそれに続いた。


「うーん…………」


 俺は天井を見上げながら唸った。

 さて、伝えてはいいと思うが、何て伝えよう?

 これは言葉を包んでも仕方ないしな……。


「平たく言えば……誘拐?」


 伝説の話をした以上に、周りが沈黙した。

 ブレイザーも、ライアンも目を丸くしている。


「戦魔帝ヴァース様を、ここに攫って来るんだ」


 その後、口をぽかんと開け、周りが俺以外と見合ってしまった。

 やっぱりそうだよな。

 国のトップを攫うなんて言ったら、そういう反応になってしまうよな。


「「……ぷっ、ハッハッハッハッハッハ!」」


 噴き出したのは、ブルーツとブレイザー、そしてベティーだった。


「「面白い!」」


 更に口を揃える初期銀のメンバーたち。

 ふむ、やはり戦魔帝ヴァースが傀儡王だという事は広まっているみたいだ。しかし、この三人の胆力も凄いものだ。

 ……いや、ライアンも笑いを堪えているようにも見える。


「そんじゃ、レガリアに着いたら俺たちを呼びな」


 椅子に寄りかかり腕を組んだブルーツがそう言い、ベティーがくすりと笑った。


「私たち三人が手伝おう」

「そ、そりゃ有難いが……いいのか?」


 俺はブレイザーに伺うも、彼は笑顔で応えるだけだった。


「お、おい。それなら俺も!」

「ぼ、僕もです!」


 次に名乗りを上げたのはリードとアドルフ。

 しかし、それを止めたのはライアン。


「お前たちには早い」

「な、何でですかっ!」


 アドルフの強い疑問。


「アズリー殿の話を面白いと思えた者だけが行ける戦場だ」


 確かにライアンの言う通りかもしれない。

 この三人とライアン。

 しかし、ライアンは銀の副リーダーだ。ブレイザーが離れた場合、ライアンが銀というチームをまとめなければならない。

 ブレイザーはライアンがいるからこそ志願し、ライアンはブレイザーへの信頼があるからこそこの場を制し、まとめ役を受け入れた。

 本当は自分も行きたいんだろうけどな。

 ライアンにそう言われた事で黙ってしまったリードとアドルフ。彼らの胆力も大したものだけど、その使いどころがまだわかっていなかったのかもしれない。

 多分彼らが最前線に出て来るのも時間の問題だ。

 参ったな、こりゃ俺も負けてられないぞ……!


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから俺たちは夜深くまで話し、笑い合った。

 いつもの通り、宴は終始テンションが高かったナツが、ぷつんと切れたように眠ってしまった事で幕を下ろした。

 翌日、俺とポチはアジトの外に出てから銀の皆や、リナ、フユたち、そしてアイリーンたちに見守られながら出立を前にしていた。


「ベティーさんですー!」

「あははははっ、ポチ! 元気そうだね!」

「はははは、相変らずだなお前!」


 ベティーもブルーツも、そして当然ポチも皆との再会に喜びを露わにしている。


「……強いな」


 ブルーツは本当に真面目だった。

 皆もそれは気付いているだろう。しかし、それ以上に喜びの方が強かったんだ。多分な。


「アズリーさん、頑張ってください! 私も頑張りますから!」

「リナ、気を付けて行くんだよ」

「はい!」


 成長した瞳で俺を真っ直ぐ見るリナ。

 そして俺は次にバラードと、その頭に乗るコノハを見た。


「アズリーしゃま」


 首を前に下ろし、バラードは俺の手に甘えた。


「リナを頼みます」

「逆じゃないのかな? 小僧(、、)?」


 コノハはまるで、ガストンの真似をするように俺を呼んだ。

 明らかな年齢差があろうとも、俺は不思議と嫌な気持ちにならなかった。

 コノハがガストンから受け継いだ、俺への信頼のように聞こえたから。そう、逆に嬉しかったのだ。


「いざという時の、強い意志。そして指針となってくれると信じています」


 コノハは笑う。

 それは俺がコノハの奥にガストンを見たからかもしれない。

 コノハは涙を目に溜め、しかし、絶対に零さぬように笑った。


「任せてくれ」


 俺はコノハに頷き、次にフユの方へ向かった。


「初めましてプラチナ」

「ブルルルッ」


 フユから聞いていた通り、動物としての尊厳を貫き通した使い魔の稀有(けう)な例。

 俺は下げられた頭を許可と受け取り、プラチナの頭をひと撫でした。

 そしてプラチナに跨るフユを見上げ、くすりと笑った。


「いい友人(、、)だね」

「はい、大事な友達です!」


 大丈夫。フユは言葉にせずともわかっていた。

 俺が使い魔と言わずに友人と言った意味を。

 これはガストンの教えやリナの存在が大きかったのか。それともフユの素養なのか。

 ふむ、サガンの功績とも言えるかもしれないな。まぁ全部だ全部。


「フユ、気を付けるんだよ」

「アズリーさんこそ、ご武運を……!」

「はははは、ウォレンさんから色々教えられたからね。常に全力を忘れないようにするよ」


 フユはくすりと笑い、嬉しそうな表情を俺に見せた。

 フユはプラチナと一緒に地上を走るから、比較的安全な場所をとウォレンが選んでいる。スターホースというプラチナの速度があれば、そう危険になる事もないだろう。

 ……それだけにリナの方は少し心配になるな。


「気を付けて行って来なさい」

「はい、アイリーンさんも無理しないでくださいね」

「ふん、無理しないとこんな荒くれ者をまとめられないわよ」

「はははは、確かにそうですね」

「いい? 最悪失敗しても構わないわ。レガリア城に侵入出来る程の存在が、こちら側にいるという事を認識させるだけでも効果はあるのよ。最優先はアナタの命。無駄にするんじゃないわよ」


 アイリーンは顔を背けてそう言ったが、その顔は、きっと恥ずかしそうなのだろうと思えてしまう。

 心配は有難いが、この任務は必ず成功させなければならないだろう。


「では行ってきます」

「皆さん、すぐ戻って来ますねー!」


 ポチはそう言って空間転移魔法陣に乗る。

 皆それぞれが見送りの言葉を送ると、ポチは転移して行った。

 一度ベイラネーアの俺の部屋に行き、そしてそこから北のレガリアを目指すのだ。

 ここは、やはりトウエッドに近い山だと聞いたからな。

 俺が空間転移魔法陣に乗ると、ウォレンが一歩前に出て口を開く。


「……艱難汝(かんなんなんじ)を玉(たま)にす。アズリー君にはまだまだ高みがあると信じています。どうかお気を付けて」

「ありがとうございます」


 俺は頭を下げてウォレンの、そして皆の激励の言葉を受け、転移して行った。


「……さてと、ってあり?」


 ポチズリー商店の自分の部屋に着いた俺は、正面にいた震えるポチの背中を見て首を傾げた。


「ママママママスター! 怖いです! 行きたくありません!」

「どんだけカッコつけなんだよお前!」

「私とマスターだけなんて心もとなさ過ぎます!」

「銀の三人が手伝ってくれるって言ってただろ!」

「でもでも! 一番危険な役目は私たちに決まってます!」


 ぬぅ、ポチの言う事も尤(もっと)もだ。

 というか、ちゃんとそこに気付いてるのは凄い事だな。

 あの魔王戦を経て、ポチもかなり成長しているんじゃないか?


「それよりもお腹減りました!」


 胃袋もな。

 俺は溜め息を吐き、ポチに「まぁ待て」と言った後、宙図(ちゅうず)を始めた。


「へ? ストアルームなんか開いてどうしちゃったんです?」


 ストアルームに上半身を突っ込みながら、俺はポチに言った。


「ちょっと、強力な助っ人をな……」

「……あ、もしかしてっ!」


 取り出したのは人間大の大きな結晶。

 そして見慣れつつも見慣れない伝説の聖戦士。


「リ、リーリアさんですー!」

「この結界……今なら解けそうな気がするんだ」

艱難汝を玉にす

⇒人は困難や苦労を乗り越えることによって、立派な人間に成長するということ。地中から掘り出された粗玉が、磨かれて美しい玉になるという意味から。「艱難」とは、困難にあって、苦しみ悩むこと。


既に苦労をしまくっていて、尚且つかなりの事をしているアズリー君に対し、ウォレンは更なる先を感じているみたいですね。


【がけっぷち冒険者の魔王体験】のイラストレーターが発表になりました。

「saraki(サラキ)」先生です。

⇒「えっ、転移失敗!? ……成功?」(著ほーち先生)や「レベルリセッター」(著ブロッコリーライオン先生)等のイラストを担当されている先生です。

まだ書影は非公開ですが、女の子がめっちゃ可愛いです( ´д`*)ハァハァ

続報をお待ちくださいませ。


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