326 期待の出立
今、ライアンが何を考えているのか全くわからないが、この肩に乗っている彼の手は非常に重いという事だけはわかった。
「あの……ライアンさん?」
「質問に答えて頂けますかな?」
ぬぅ、笑顔なのに、目が笑っていないのはやはりそういう事なのだろうか。
「お、長っ」
「ティファ、黙っていなさい」
俺に向けられた以上の眼光がティファを襲う。
そんなライアンを見て、皆それぞれ別の話を始めてしまった。
まだ話してない仲間もいるんだが、これを解決しないと話が先に進みそうにないな。
「む、昔話をしていました」
「ほぉ、昔話?」
おや? ライアンの目がすっかり戻った。
もしかして、ライアンのヤツ……――――
「はい、とても昔の話です」
この時代に戻ってきて3回目の振り返り。
しかし俺は話した。これは皆に伝えなければならない話だ。
おそらくライアンは、ティファの事を口実に、重要な話を俺にさせたかったんじゃないかと思う。
これを聞き始めたライアンは、一歩引いて静かに目を閉じていたから。
「す、凄い……アズリーさんが、伝説の聖戦士ポーア」
相変わらずアドルフは目を輝かせている。
精悍な顔つきになったし、ランクもSに近いんじゃないか?
それも、銀の皆全員。
これは一体どういう事だ?
確かに銀は才能があるメンバーが非常に多い。
しかし、これ程までにランクSに辿り着けるものなのか?
皆、アドルフとは違って驚きの余り口を開かない様子だったが、やはりライアンは違った。
「ティファ」
俺にではなく、話すべきはティファ。
あぁ、なるほど。そういう事なのか。
「はい」
「私はアズリー殿を信頼している。しかし、ティファ。夜遅く男性の寝室を訪れるのはよしなさい」
「……ぅ」
ティファはそう零しただけで何も言えなかった。
流石ライアンはやる事が違うな。話の運びを上手く配分しているような。
「いずれアズリー殿から、ティファの寝室へ来てくれるかもしれんからな」
「……ぅ?」
俺はそう零しただけで何も言えなかった。
「はい!」
ティファの目がアドルフと同じくらい輝いている。
おかしい。ライアンは一体何を考えているのだろうか?
おかしい。いや、おかしいから皆爆笑しているのだろう。マナと春華を除いて。
マナは膨れた顔を見せ、春華はぴこんと何か思いついたような顔をしていた。
「伝説の聖戦士ポーアか。なるほど、さぞ強いのだろうな」
ようやくブレイザーが口を開いた。
この二年で更に無口になったのかとも思ったが、そういう訳でもなさそうだ。
「ナツもなれるかな!?」
期待に満ちた表情でナツが、眠そうなフユに聞く。
色んな事があったし、フユ自身鍛錬をしている。こんな夜に空間転移魔法を使って相当疲れているのだろう。
リナはこの場にいないしな。
「……神様の力がないから……無理じゃないかなー」
目を擦るフユを見たライアンは、レイナに目をやる。
レイナは静かに頷き、フユの肩を抱きながら寝室へ連れて行った。
この二人の意思疎通能力は、絶対に俺とポチ以上だと思う。
「かかかか! しっかし、アズリーが戻って来たのは嬉しい話だ! またすぐにどっか行っちまうのか?」
「あぁ、次はレガリアだな。明日の昼には発つつもりだ」
「へー、まあ俺たちもしばらくトウエッドを拠点にするつもりだ」
「だけどよく考えたな。トウエッドに行くなんて?」
すると、全員がティファを見た。
……なるほど、ティファの案って事か。
視線が集中したティファが俯いて赤くなった顔を隠した。
「ははは。そんで? レガリアに何しに行くんだ?」
「何か協力出来る事があれば言ってくれよな!」
ブルーツが聞き、リードがそれに続いた。
「うーん…………」
俺は天井を見上げながら唸った。
さて、伝えてはいいと思うが、何て伝えよう?
これは言葉を包んでも仕方ないしな……。
「平たく言えば……誘拐?」
伝説の話をした以上に、周りが沈黙した。
ブレイザーも、ライアンも目を丸くしている。
「戦魔帝ヴァース様を、ここに攫って来るんだ」
その後、口をぽかんと開け、周りが俺以外と見合ってしまった。
やっぱりそうだよな。
国のトップを攫うなんて言ったら、そういう反応になってしまうよな。
「「……ぷっ、ハッハッハッハッハッハ!」」
噴き出したのは、ブルーツとブレイザー、そしてベティーだった。
「「面白い!」」
更に口を揃える初期銀のメンバーたち。
ふむ、やはり戦魔帝ヴァースが傀儡王だという事は広まっているみたいだ。しかし、この三人の胆力も凄いものだ。
……いや、ライアンも笑いを堪えているようにも見える。
「そんじゃ、レガリアに着いたら俺たちを呼びな」
椅子に寄りかかり腕を組んだブルーツがそう言い、ベティーがくすりと笑った。
「私たち三人が手伝おう」
「そ、そりゃ有難いが……いいのか?」
俺はブレイザーに伺うも、彼は笑顔で応えるだけだった。
「お、おい。それなら俺も!」
「ぼ、僕もです!」
次に名乗りを上げたのはリードとアドルフ。
しかし、それを止めたのはライアン。
「お前たちには早い」
「な、何でですかっ!」
アドルフの強い疑問。
「アズリー殿の話を面白いと思えた者だけが行ける戦場だ」
確かにライアンの言う通りかもしれない。
この三人とライアン。
しかし、ライアンは銀の副リーダーだ。ブレイザーが離れた場合、ライアンが銀というチームをまとめなければならない。
ブレイザーはライアンがいるからこそ志願し、ライアンはブレイザーへの信頼があるからこそこの場を制し、まとめ役を受け入れた。
本当は自分も行きたいんだろうけどな。
ライアンにそう言われた事で黙ってしまったリードとアドルフ。彼らの胆力も大したものだけど、その使いどころがまだわかっていなかったのかもしれない。
多分彼らが最前線に出て来るのも時間の問題だ。
参ったな、こりゃ俺も負けてられないぞ……!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから俺たちは夜深くまで話し、笑い合った。
いつもの通り、宴は終始テンションが高かったナツが、ぷつんと切れたように眠ってしまった事で幕を下ろした。
翌日、俺とポチはアジトの外に出てから銀の皆や、リナ、フユたち、そしてアイリーンたちに見守られながら出立を前にしていた。
「ベティーさんですー!」
「あははははっ、ポチ! 元気そうだね!」
「はははは、相変らずだなお前!」
ベティーもブルーツも、そして当然ポチも皆との再会に喜びを露わにしている。
「……強いな」
ブルーツは本当に真面目だった。
皆もそれは気付いているだろう。しかし、それ以上に喜びの方が強かったんだ。多分な。
「アズリーさん、頑張ってください! 私も頑張りますから!」
「リナ、気を付けて行くんだよ」
「はい!」
成長した瞳で俺を真っ直ぐ見るリナ。
そして俺は次にバラードと、その頭に乗るコノハを見た。
「アズリーしゃま」
首を前に下ろし、バラードは俺の手に甘えた。
「リナを頼みます」
「逆じゃないのかな? 小僧?」
コノハはまるで、ガストンの真似をするように俺を呼んだ。
明らかな年齢差があろうとも、俺は不思議と嫌な気持ちにならなかった。
コノハがガストンから受け継いだ、俺への信頼のように聞こえたから。そう、逆に嬉しかったのだ。
「いざという時の、強い意志。そして指針となってくれると信じています」
コノハは笑う。
それは俺がコノハの奥にガストンを見たからかもしれない。
コノハは涙を目に溜め、しかし、絶対に零さぬように笑った。
「任せてくれ」
俺はコノハに頷き、次にフユの方へ向かった。
「初めましてプラチナ」
「ブルルルッ」
フユから聞いていた通り、動物としての尊厳を貫き通した使い魔の稀有な例。
俺は下げられた頭を許可と受け取り、プラチナの頭をひと撫でした。
そしてプラチナに跨るフユを見上げ、くすりと笑った。
「いい友人だね」
「はい、大事な友達です!」
大丈夫。フユは言葉にせずともわかっていた。
俺が使い魔と言わずに友人と言った意味を。
これはガストンの教えやリナの存在が大きかったのか。それともフユの素養なのか。
ふむ、サガンの功績とも言えるかもしれないな。まぁ全部だ全部。
「フユ、気を付けるんだよ」
「アズリーさんこそ、ご武運を……!」
「はははは、ウォレンさんから色々教えられたからね。常に全力を忘れないようにするよ」
フユはくすりと笑い、嬉しそうな表情を俺に見せた。
フユはプラチナと一緒に地上を走るから、比較的安全な場所をとウォレンが選んでいる。スターホースというプラチナの速度があれば、そう危険になる事もないだろう。
……それだけにリナの方は少し心配になるな。
「気を付けて行って来なさい」
「はい、アイリーンさんも無理しないでくださいね」
「ふん、無理しないとこんな荒くれ者をまとめられないわよ」
「はははは、確かにそうですね」
「いい? 最悪失敗しても構わないわ。レガリア城に侵入出来る程の存在が、こちら側にいるという事を認識させるだけでも効果はあるのよ。最優先はアナタの命。無駄にするんじゃないわよ」
アイリーンは顔を背けてそう言ったが、その顔は、きっと恥ずかしそうなのだろうと思えてしまう。
心配は有難いが、この任務は必ず成功させなければならないだろう。
「では行ってきます」
「皆さん、すぐ戻って来ますねー!」
ポチはそう言って空間転移魔法陣に乗る。
皆それぞれが見送りの言葉を送ると、ポチは転移して行った。
一度ベイラネーアの俺の部屋に行き、そしてそこから北のレガリアを目指すのだ。
ここは、やはりトウエッドに近い山だと聞いたからな。
俺が空間転移魔法陣に乗ると、ウォレンが一歩前に出て口を開く。
「……艱難汝を玉にす。アズリー君にはまだまだ高みがあると信じています。どうかお気を付けて」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げてウォレンの、そして皆の激励の言葉を受け、転移して行った。
「……さてと、ってあり?」
ポチズリー商店の自分の部屋に着いた俺は、正面にいた震えるポチの背中を見て首を傾げた。
「ママママママスター! 怖いです! 行きたくありません!」
「どんだけカッコつけなんだよお前!」
「私とマスターだけなんて心もとなさ過ぎます!」
「銀の三人が手伝ってくれるって言ってただろ!」
「でもでも! 一番危険な役目は私たちに決まってます!」
ぬぅ、ポチの言う事も尤もだ。
というか、ちゃんとそこに気付いてるのは凄い事だな。
あの魔王戦を経て、ポチもかなり成長しているんじゃないか?
「それよりもお腹減りました!」
胃袋もな。
俺は溜め息を吐き、ポチに「まぁ待て」と言った後、宙図を始めた。
「へ? ストアルームなんか開いてどうしちゃったんです?」
ストアルームに上半身を突っ込みながら、俺はポチに言った。
「ちょっと、強力な助っ人をな……」
「……あ、もしかしてっ!」
取り出したのは人間大の大きな結晶。
そして見慣れつつも見慣れない伝説の聖戦士。
「リ、リーリアさんですー!」
「この結界……今なら解けそうな気がするんだ」
艱難汝を玉にす
⇒人は困難や苦労を乗り越えることによって、立派な人間に成長するということ。地中から掘り出された粗玉が、磨かれて美しい玉になるという意味から。「艱難」とは、困難にあって、苦しみ悩むこと。
既に苦労をしまくっていて、尚且つかなりの事をしているアズリー君に対し、ウォレンは更なる先を感じているみたいですね。
【がけっぷち冒険者の魔王体験】のイラストレーターが発表になりました。
「saraki」先生です。
⇒「えっ、転移失敗!? ……成功?」(著ほーち先生)や「レベルリセッター」(著ブロッコリーライオン先生)等のイラストを担当されている先生です。
まだ書影は非公開ですが、女の子がめっちゃ可愛いです( ´д`*)ハァハァ
続報をお待ちくださいませ。
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