◆317 アブドミナル・アンド・サイ!
2018/3/27 本日二話目の投稿です。ご注意ください。
「……何よこれ」
アイリーンは震える身体を無理矢理抑え込み、不満気な顔つきで呟く。
既に炎槍の雨を降らせたフユは、アズリーの変異に硬直してしまっている。
口を開けて驚くトレースとダラス。
そしてウォレンとジェニファーは目を光らせたのだ。
「これは面白い……! これは魔力の解放状態。即ちアズリー君の持ち得る魔力が止めどなく放出し続けている状態」
「……あの魔力をか?」
ウォレンの推測にダラスが更に聞く。
「信じがたい事ですが、アズリー君の身体の中に眠る魔力は、あの状態となっても枯渇しないという事です。なるほど、あの状態ならば、宙図が無くとも瞬間的に魔法を繰り出す事が可能かもしれません」
「スウィフトマジックの撃ち放題って事か! あっはっはっは! 凄いな聖戦士の力は!」
ジェニファーが豪快に笑う。
しかし、アイリーンは笑う事が出来なかった。
腕を組む手に力が入り、自らの二の腕から血が流れる程、噴き出そうな感情を抑えている。
隣にいたトレースは、ただ無言のままアイリーンを見ていた。
(この戦闘はアイリーン様にとって逆効果……いえ、それでも必要だったのかもしれませんが、ここまで差を見せつけられると――――あら?)
トレースは気付く。
アイリーンの感情に変化が見えた事に。
いつの間にか苛立ちは収まり、アイリーンの目は強い光を灯した。
(ご自分で……感情をコントロールされていらっしゃいますね。苛立ち以上の好奇心、向上心をご自分で。流石は常成無敗と称されるだけあって、強者への歩みは変えないおつもり……。わかりましたアイリーン様。お供致します。どこまでも……!)
トレースはアイリーンから目を離し、棒立ちするリナ、その奥でポーズをとるアズリーを見つめた。
「ふっほぉおおおお! アブドミナル・アンド・サイ!」
アズリーは叫ぶ。
「片方の足を前に出し、後頭部で両手を固定! 出した足をつま先立ちにし、大腿四頭筋を強調! 上体をやや前に倒し、腹直筋と腹斜筋を強調! 重要なのは呼吸! 全ての空気を身体から絞り出すイメージで完成されるポーズは! 世界を制すっ!! どうだリナ!?」
キリッとした顔でリナを見るアズリーだったが、リナが見ていたのは世界を制する筋肉などではなかった。
まるで世界を包み込むようなアズリーの膨大な魔力。フユの放った炎槍の雨、その集中攻撃でも砕けないアズリーのマジックシールド。やがて炎槍は降り止み、代わりに降り注ぐ魔力の雨。それだけを見て、感じていたのだ。
「凄いです……」
小さく零れたリナの言葉。
「フハハハハハハハハッ! そうだろうそうだろう! 実は首の裏側にある僧帽筋がな!? 隠れたアクセントなんだよ! ハハハハハハッ!」
を、拾い間違えるアズリー。
巨大過ぎる魔力によって、オルネルと、ヴィオラが目を覚ます。
「…………くそっ」
「人知の及ぶところではないかもしれないわね……」
アズリーはクネクネと動き、ポージングを全ての人間に見せて回った。
ポチだけ。ポチだけが――――
「気持ち悪いですー! 引っ込めてください!」
筋肉を見ていた。
「うるせぇ! 他のギャラリーはお前と違って驚いてるんだよ!」
「絶対違います! 今日の晩御飯かけたっていいくらいですー!」
「ふっ! 今日のポチの晩御飯、俺が頂いた!」
「…………絶対無理だと思います」
ついには反論しなくなったポチが呆れて言う。
そして、ついでのように言うのだ。
「それに、性格も悪いですよ、マスター」
そんなポチの意味深な言葉を拾ったのは隣にいたウォレン。
「えぇ、これでフユさんが脱落ですか」
「「っ!?」」
皆はウォレンの言葉に反応する。見たのは当然、指摘のあったフユがいた場所。
フユは立っていた。アズリーの魔力を前に驚きもせず棒立ちしているように見えた。
直後、アイリーンが気付く。
「あれはっ!? マジックドレイン!?」
俯くフユの目に光は無かった。
そう、既にフユの意識はアズリーによって刈り取られていたのだ。
「一体どうやった……っ?」
ダラスの言葉に、ウォレンが眼鏡をくいと上げる。
「あれですよあれ……」
ウォレンの視線の先。そこはアズリーの足下。
「まさか! 前に出した足で地面に魔法陣を!?」
「クルクルと回ってお馬鹿……と思ったのは一瞬でしたよ。まさかリナさんとフユさんの機転にあんな返し技を見せるとは。一瞬で魔法が使えるあの状態に頼らず、態々魔法陣を描いて見せる。……面白い、面白いですねぇ」
ウォレンの黒い笑みを見て、ポチがバッと目を背ける。
そしてウォレンの隣から、ダラスの隣に移動する。
「ここ! おすわりしてもいいですか!?」
「む、あぁ。構わないが……」
「ありがとうございます!」
ホッと一息吐いてポチはダラスの隣に腰を下ろす。
「おや、寂しいですねぇ」
ウォレンはポチを横目で見つめ、にやりと笑う。
「こ、ここ怖いですぅ……」
耳を折り、目を肉球で覆うポチ。
「ギヴィンマジック&リモートコントロール!」
倒れるフユを支えるのはオルネル。
そしてそこにギヴィンマジックを置くアズリー。
「くそ……くそ! 何なんだよこれ!」
オルネルはそのギヴィンマジックの特異性に驚き、そして悪態をつく。
「設置型魔法の遠隔操作。これもまた面白い……! 本当にアズリー君は色んな引き出しを見せてくれます」
ウォレンは身体をぞくぞくさせながら食い入るようにアズリーを見つめ続ける。
「……おそらく魔力の台のようなものに魔法陣を描き、それを運んだ……というところでしょうか。そうすれば、描き、置かれた魔法陣は設置されたという事になる。魔法を騙すとは本当に凄い。称賛すべきは発想以上に魔力のコントロール。ふふふふ、なるほど。これは今の私には出来そうにありませんっ」
そんなウォレンの声を背中で聞きとったリナ。
そう、現状戦闘の場に立っているのはリナだけなのだ。
起きたオルネルとヴィオラが戦闘に参加する事はない。
彼らは知っているからだ。一度意識を失った者は、戦闘に戻る資格がない事を。
フユを支えるオルネルの下へ、ヴィオラも移動する。
そして、アズリーが放った聖生結界も、その足下に移動してくる。その魔術陣の移動に、オルネルが小さく零す。
「これもか……」
「始めから、どんな局面にも対応できるような魔法を使っているわね」
「はい」
「腹を立てるのは後にしなさい。私たちの目に、頭にこういった高度な戦闘を焼き付けられる機会はそう多くないわ」
「はいっ。おいフユ。起きろ……」
「うぅ……」
ぼんやりと目を開けるフユ。
その中心に未だポージングを止めないアズリーがいる。
負けた事を知ったフユは、すぐにがばっと身体を起こし、その場に正座した。少し悔しそうに顔を赤くしながら。
「まだです……まだ終わってません!」
リナの目は一層輝き、アズリーから受け取った炎龍の杖を向ける。
「……悪いな、リナ」
瞬間、申し訳なさそうに呟いたアズリーの手から、凄まじい勢いの風圧が放たれる。
「エアウォール・スタンプ」
「…………っ!?」
息すら出来ないような空気の壁。リナは両手を正面に向け、それを防ごうとするが、すぐに両手が弾かれてしまう。
次第に空気の塊に包まれていくリナは、アズリーの緩やかな前進と共に、身体を浮かせ、そして後方の岩壁に押され始める。
足場を失ったリナは身体をバタつかせるも、それすら制御されて動く事もままならない。
ついに岩壁に押し付けられたリナ。
その眼前まで移動したアズリーが、ドリニウム・ロッドの先端をリナに向けた。
「……まぃ……り、ま……した――」
「――ほい」
すぐにアズリーはリナへの魔法を解き、岩壁から落ちるリナの身体を受け止める。
「あぁ、リナさんずるい!」
抱きかかえられるリナに向かって叫ぶフユ。
と同時に……ダラスが動き始める。だが――――
「むっ?」
ダラスの前に手を出し、その動きを止めた人物がいた。
「まーまー、ダラスのおっちゃんは後でしょ。私の方が前にいるしー?」
待機していた五人の中で、一番うずうずとしていた人物。
それは、
「ここはジェニファーちゃんの出番っしょっ」
元六勇士であり、黒帝ウォレンの実姉。
骨拳のジェニファーがニカリと笑う。
明日も二話更新したい……!
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