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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十章 ~戦魔国の闇編~

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314 昔話

 最近はおかしい事だらけだ。

 何故かアイリーンが解放軍(レジスタンス)のアジトにいる。

 しかも脇にはトレースもいる。元六勇士の骨拳のジェニファーがいるのは知ってはいるが、ここにヴィオラやオルネルもいるとなると、相当おかしな空間である事は間違いないだろう。


「さぁ皆さん、どうぞかけてください」


 細く長い長方形のテーブル。

 俺たちはウォレンに言われた通り、そのテーブルの前の椅子に腰を下ろした。

 ……何故か俺は、ウォレンの指示でアイリーンから一番近い右手の席だった。

 腰を下ろす際、ウォレンが耳元で囁いた言葉が引っ掛かる。


「すみませんね。アイリーン様との約束なもので」


 一体どんな約束をしたのかはさておき、とりあえず何故セイラがいないのかだ。


「あの……セイラさんは?」


 俺のその言葉はセイラの二つ名以上に場を凍らせてしまう。

 しかし、唯一事情を知っていたのか、ヴィオラが助け舟を出すかのように話し始めた。


「セイラ様は解放軍(レジスタンス)との繋がりをビリーによって暴かれ……」

「……大きな損失でした」


 ウォレンは眼鏡を上げながら淡々と言った。

 アイリーンの顔もそこまで変化があるわけじゃない。

 という事は、結構前の事なのかな。


「セイラ様がいなくなったため、解放軍(レジスタンス)の士気が揺るぎかねないと思った私は、ベイラネーアにスカウトしに行ったんです」


 ニコりと微笑むウォレン。

 なるほど、それでアイリーンか。


「よくアイリーンさんが入りましたね……」

「あなたで釣りま――――」

「――――だぁあああああっと、ちょっと待ちなさいウォレン!」


 俺の疑問に答えようとしたウォレンを、物凄い勢いで止めるアイリーン。

 はて? ウォレンは一体何を言おうとしたのだろう?


「それより、アンタ一体どこにいたのよ……ってポチはどうしたの?」


 おっと忘れてた。

 俺はストアルームを開き――――


「びゃあああああ!? ばずだぁ!? 何で私あんな所で寝てたんでずがぁあああああ!?」


 と、泣きながらストアルームから出てきたポチ。


「ここどこですか!? 私誰ですか!? マスターはマスターなんですか!? 私お腹空いた事しかわかりません! マスター! ねぇマスター!? そろそろ間食の時間じゃありませんか!?」


 俺の胸倉を掴んでブワンブワンと振っていたポチは、場の特異性に気付き始めたようだ。

 リナとフユはくすりと笑い、オルネルやアイリーンは呆れ交じりの溜め息を吐いていた。


「あれ? 何で? 私たちサガンさんと会ってましたよね?」

「それはもう済んだだろう」

「ジョルノさんとリーリアさんとお別れしたのは?」

「結構前だな」

「……戻ってきたんでしたっけ?」

「かなり前にな」


 この時、ウォレンやアイリーンの顔がピクリと動いた。

 まぁ、拾われちゃってるよな。


「はっ! ただいまです! 皆さんのポチさんが戻ってきましたよぉっ!」


 ポーズをとってテーブルの上に立ったポチに対し、にこやかに拍手を送るリナとフユ。

 ポチの耳には、これの何倍もの拍手が届いてるんだろうな。


「ちょっと」


 誇らしげに胸を張るポチを、強い語気で止めたのは常成無敗のアイリーン様。

 ポチは記憶のある声に無言でポーズを解き、静かに俺の隣に座った。


「マスター! ふざけちゃダメってあれ程言ったじゃないですか! 何してくれちゃってんですか!」

「お前のあれ程にどれ程の注意が込められてんだよ! そもそもそんな話なんてなかっただろ!」

「言いましたー! えっと、その、どこかで言いましたー!」

「おー、言ったな!? だったらその事細かな説明を、今度文書で提出しろい!」

「ふひゃ!? ……それはやめましょう」


 ゴニョゴニョと言い始めたポチ。

 しかし、それを止めたのは……当然俺ではなかった。


「ちょっとっ」


 先程より強い語気。イラつく表情も相変わらずだ。

 まぁここはアイリーンが正しいからな。ポチも黙るだろ――――


「……おはようございます」


 今言うべきはそこだろうか、我が使い魔よ?


「おはよう」


 ちゃんと返してくれるだけアイリーンは優しいよな、ホント。

 あ、やべ。目が合った。


「……サガンって、前戦魔帝サガン様の事かしら?」


 流石、憧れていただけあって敏感だな。


「それに、伝説の名前まで出ましたね」


 あの二人の名前は調べれば出てくるしな。ウォレンなら知っていてもおかしくない。

 しかし、聖戦士の伝説は知っていても名前まで調べるとは物好きだな、ウォレンは。……あ、俺も調べてたな。


「あの……ジョルノさんとリーリアさんって方は、そんなに有名なんですか?」


 リナがちょこんと手を挙げて聞く。

 オルネルもやはり知らない顔だな。


「……魔王を倒した聖戦士。その名前よ」


 おっとヴィオラも知っていたか。もしかしてガストンから聞いていたのかもしれないな。


「勇者ジョルノ、戦士リーリア、そして……魔法士ポーア」


 ウォレンの言葉に、リナがばっと俺を見た。続きオルネルが気付いたようだ。

 おいポチ、俺とお前の名前知ってるヤツなら絶対バレる偽名だぞ、コレ。


「ふっふっふっふ……ハッハッハッハ!」


 ウォレンが笑う、そしてアイリーンの鋭い目が俺を刺す。


「そうですかそうですか。アズリー君……アナタ、どこにもいないと思っていたら、時を旅していたんですね?」

「「っ!?」」


 この場の視線が全部襲ってきた。

 うぅ、これは胃にくるな……。


「マスターマスター」

「何だよポチ」

「注目されてますねっ」


 とか小声で嬉しそうに言ってきたから、とりあえずポチにデコピンをくらわせておいた。


「あいたっ」


 それでも嬉しそうにするポチは、もう放っておく事にしよう。

 そして、俺は話し始めた。

 俺とポチのこれまでを。

 勿論、この場にいるアイリーンは俺との出会いの記憶を神によって消されている。その事だけ省いて、出来るだけわかりやすく伝えたつもりだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「そいつぁすげーや、ハハハハ。ウォレン、お前の友達は伝説の聖戦士ポーア様だった訳だ! アハハハハハッ」


 最初に腹を抱えて笑い出したのは、骨拳のジェニファー。ウォレンの姉にしては性格が違い過ぎるよな。


「素晴らしい友達を持って私も幸せです、姉上」


 笑顔で言ったな、コイツ。


「そんな、アズリーさんが……」


 俯いて言ったのはフユ。……? 肩が震えている。

 一体どうしたんだ、フユのヤツ? あれ、リナもだ?

 一体何故?


「お、おい……どうしたんだよ二人とも?」


 瞬間、フユは立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。


「フユッ!」


 その後を追うようにリナが駆け出す。


「お、おいリナ!」


 俺は足を動かそうとしたが、背後に立っていたウォレンが俺の肩を掴んでそれを止めた。


「ちょっとっ」

「今アナタがここにいるからお二人は部屋を飛び出した。アナタが行ってはお二人を追いつめるだけです」

「な、何でですか。俺が何かしたっていうんですかっ?」

「わからないのか、アズリー」


 ウォレンに代わりそう言ったのはオルネルだった。


「どういう事だ、オルネル……」

「あのな、リナやフユはこれまでずっと頑張ってきたんだ。あんな小さな身体でな。昨日だってあの二人がいなかったらもっと酷い結末になってたっ。それだけあの二人は頑張ってたんだ!」


 徐々に荒くなるオルネルの語気。

 リナやフユが頑張ってた。そんな事はわかっている。だが、何故それがこの部屋を出て行く事になるっていうんだ。


「まだわかんねーのか、馬鹿野郎!」


 また一つ称号に楔が打たれたような気がした。


「まぁいいじゃないですかオルネル君」

「ウォレンさん!」

「リナさんやフユさんは頑張って頑張ってアズリー君の背中を追いました。そして今回の件。ついにそのストレスが振り切れてしまった。アズリー君の帰還という事実によって。彼女たちは嬉しかったでしょう。その頑張りを受け止めてくれる存在が帰ってきたから。しかし……彼女たちは知ってしまった。自分たちの頑張りを受け止めてくれる存在は……もっと頑張っていた(、、、、、、、、、)

「…………あ」


 ウォレンの言葉に俺はようやく気付いた気がした。


「アズリー君がここへ来た時、二人はアズリー君という存在に寄り添ってしまった。先程の話を聞いて、お二人はそれが自分の自己満足だったと気付いてしまったのでしょう。……それでいいと言う人もいるでしょう。しかし、あの二人が目指す場所はアズリー君、アナタの隣(、、、、、)です。共に戦うために自分を磨いてきたのです。それを一瞬でも放棄してしまった自分が、何よりも許せなかったのでしょう……ふふふ、何とも可愛いではありませんか。おっと失礼」


 だから……出て行った。

 棒立ちする俺の足下をポチの毛がくすぐる。

 見るとポチは入口に向かって歩き始めていた。

 そして俺に方をちらりと向いてウィンクしてきた。

「私にお任せくださいっ!」と。



 いや、凄く心配なんだけど。

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