313 お茶目な黒帝
ティファとタラヲが空間転移魔法を使い、寮に戻った後、ポチが眠そうな目をしながら一階に下りて来た。
「むぅあすた~、何ですかさっきの……まりょ……くぅううう……」
そして寝た。
「あ~ったく、寝るなら降りてくるなよなー」
「おー、ポチさんもひっさしぶりっすね~」
「それにしてもイツキちゃんは何でここにいるんだ? てっきり銀に入ったものだと思ってたんだけど?」
「さっすがに子供たちを置いてトウエッドには行けないっすからね~。今は銀と業務委託という契約で動いてます」
「あー、何かの文献で読んだ事があるな。なるほど、正式に加入はしてないという扱いだね?」
「ふふーん、流石アズリーさーん」
イツキがウィンクを送って喜ぶ。
なるほど、イツキも成長したもんだな。って事は今はイツキ一人でここを回してるって事か。ララやツァルに手伝ってもらって……子供たちに任せられる事は任せて。
凄いな、俺に出来るだろうか……?
「アズリーさんは、他にやる事があるでしょ~?」
ずいと俺の顔を覗き込んで来るイツキ。
うーん、やっぱり読まれやすいのかな、俺の顔って?
「ほら、ベイラネーアの外に送った人たちを何とかしなくちゃ。ここはいいですから、ちゃっちゃと行っちゃってくださーい」
手をぴっぴと振るイツキに礼を言った俺は、とりあえず、ぐてんと寝ているポチを……ストアルームに放り込んで空間転移魔法陣に乗った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…………あれ? 誰もいないぞ?」
飛んで来た先には誰もいなかった。
ふむ? 空間転移魔法には何の間違いもない……はず。
周囲を見渡しても誰も…………いや?
「誰かいるな?」
「……お見事です、アズリー君」
いや、ホント。声でわかったよ。
何かもう反射的にわかってしまった。
そういえば「始まりの地」に案内したのもコイツだったよな。
つくづく俺はコイツの家系に縁があるんじゃないかと思ってしまう。
…………腐れ縁だけどな。
「……お久しぶりです、ウォレンさん」
俺は声がした方向を見つめた。
すると、影が少し動き、すぐに人型に変わる。
これは以前メルキィが見せた魔法……いや、魔術か。
「擬態芯影という魔術です。ご希望であれば今度教えて差し上げますよ」
影から現れたウォレンは、ランクS昇格審査で会った時よりも、髪が長くなっていた。
「似合いますね、そのポニーテール」
「それはどうも」
にこりと笑うウォレンの顔と、先日まで顔を突き合わせていたブライトの笑顔が重なる。
本当にブライトに似てるな、この人。顔もそうだが、それ以上に空気が。
「質問に上がらないようですが、一応説明しておきます。リナさんたちは私がある場所へお送りしました。皆さんの無事はお約束しますよ」
「気持ち悪い……というより、気味が悪いですね、その笑顔」
「おやおや? 随分ストレートに物を言うようになりましたね、アズリー君?」
わざとらしく目を大きく開け、しかしその奥は少しも驚いていない。
俺もこんな性格だったら人生がもっと楽しかったかもしれないなぁ。なりたくはないけど。
「送った、という事はやはりあなたも空間転移魔法が使えるんですね」
「勿論です」
ウォレンは二コリと笑って言った。
「……はぁ~」
「知りたいですか? その理由を?」
「聞かなくても話してくれそうですね」
「ふふふふ、アズリー君のそういうところが好きです、私」
「何とでも言ってください」
俺は先程のイツキのように手をぴっぴと振ると、ウォレンは嬉しそうに話し始めた。
「アズリー君が空間転移魔法陣を完成させたのはどこでしょう?」
「あれ? えっと……どこだっけ?」
「アイリーン様の特別研究室です」
「あー、そうだそうだ。アイリーンさんに許可をもらってあそこで研究してたんだった…………ん? 待てよ?」
「そうです。たとえ六法士といえど大学の施設内。当時学生自治会会長だった私が……入れないはずがないんですね~」
……うわぁ。凄い嬉しそうに話すな、この人。
「……それってつまり……」
「そう、泥棒ですねっ♪ おやアズリー君? 顔が変ですよ? 何か悪い物でも食べましたか?」
うーん、何故だろう。怒って殴りたいけど、この人を殴ったら酷い仕返しをくらいそうで出来ない。
なんかちょうどよく、この人の頭上から隕石とか降ってこないだろうか?
「おやアズリー君? それはメテオレインの宙図ですか? それは危険です、消しておきましょう……」
「……っ!」
これは……パラサイトマジックッ!?
「くっ!」
「っ!? ほぉ、私の魔法干渉を防ぐとは……随分成長されましたね、アズリー君?」
……なるほど、流石現代の黒帝。やる事成す事全てが恐ろしいな。
「それ、本当に撃つつもりですか?」
「撃ったら撃ったで騒ぎになりそうなので……やめておきます」
俺は憎たらしいウォレンの顔を見ていたらいつの間にか始めていた宙図を止め、描きかけの魔法陣を消滅させた。
「それはとても結構な事です」
そんな笑顔で言われたら、こっちも毒気が抜かれちゃうよな。
まぁ、それがこの人の狙いなんだろうけど。
「始まりの地への案内役は……薫さんや潤子さんからか」
「そうです。トウエッドの双子の巫女。やはりご存知でしたか。まぁ、アズリー君がどこで何をしてきたのかは……――」
早いな。相当な錬度だ。
瞬く間にウォレンは地面に空間転移魔法陣を描いた。
「――皆さんと一緒に聞くとしましょう。その方が効率的ですからね」
「はぁ~、どうせリナたちには話すつもりでしたからいいですけどね……ちょっと強引なんじゃないですか?」
「とんでもない。これほど紳士的な私は珍しいと思いますよ」
普段はもっと強引って事か。
まったく、どっちがとんでもないんだか……。
俺は自分が乗ってきた空間転移魔法陣を消し、ウォレンの描いた空間転移魔法陣に乗った。
目の端に映るウォレンの顔は終始笑ったままだった。
とても嬉しそうだ。
もしかして俺はウォレンにとっておもちゃのようなポジションなのではないかと錯覚――――錯覚じゃないかもしれないな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「「アズリーさん!」」
もう既に本日何度目かわからない程の衝撃。リナとフユが転移した早々跳びついてきた。
フユもリナも……本当に成長したよな。
オルネルの視線が凄く痛いが、今それを気にしている場合じゃないしな。
俺の背後から遅れて登場してきたウォレンがくすりと笑う。
そんなウォレンの顔を見て恥ずかしくなったのか、リナが離れ、そしてフユも静かに離れた。
「それでは皆さんこちらへ」
案内されるままに、俺たちはウォレンの後を付いて行く。
途中見知った顔が一人。
「二年ぶりか」
「お久しぶりです、ダラスさん」
赤剣ダラス。俺にビリーの異変を教えてくれた解放軍のメンバーであり、強力な冒険者だ。
ダラスはそのまま俺たちと並んで歩く。
「ここはやはり?」
「あぁ、解放軍のアジトだ」
やはりそうか。
ダラスの言葉を拾ったヴィオラが呟く。
「遂にこんなところまで来てしまったか。王都守護魔法兵団の団長が……解放軍と通じてしまうとはね」
ヴィオラの気持ちを、俺は察してやる事しか出来ない。
これから先、俺たちがやる事は非常に大きくなってくるからだ。
やがてウォレンは強固な金属の扉の前で止まる。
この先にいるのは……おそらく輪廻の氷笑と呼ばれる六法士のセイラ。
ウォレンが一度頷くと、扉の前にいた解放軍メンバーが一度胸に手を置いてから扉を開けた。
う~ん、俺、前にあの人に失礼な事しちゃったからなー。どんな応対をすれば――――
「ふぇっ!?」
「……あれ?」
扉を開けると、そこには手鏡の前で髪の毛を直している……アイリーンがいた。
俺たちの背後からリナたちの少しざわついた声が聞こえたが、アイリーンはそれをかき消すような大声をあげる。
「ちょ、ちょっと! 早いじゃないのっ、ウォレン!!」
顔、耳まで真っ赤にするアイリーンがウォレンに手鏡を投げる。
ウォレンは手鏡をひょいと避け、後ろにいたダラスがそれをキャッチする。
手慣れてるな、ダラスのヤツ。苦労が窺えるよ、まったく。
「ふ、ふん! 久しぶりじゃない、アズリー!」
服をぱんぱんと叩き、胸を張り、腰に手を置いたアイリーンだったが…………正面にあるテーブルのせいでほとんど見えない。
相変わらず背丈に合わない椅子を使ってるんだな、この人。
「…………で? 何で、アイリーンさん?」
俺は、そんな顔しか見えないようなアイリーンを前に、首を傾げる事しか出来なかった。
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