◆312 衝撃のタラヲ
アズリーが扉から出ると、テンガロンが目を丸くして驚く。
扉を開けた時、その奥は見えなかった。
それもそのはずだった。アズリーはスウィンドルマジックを用いて扉の奥が見えないように外へ出たのだ。
しかし、それよりもテンガロンはアズリーという存在に驚いたのだ。
アズリーがここにいる事。いや、そうではなかった。
アズリーの存在そのものが、テンガロンの知るソレではなかったからだ。
(この者……いつの間にこれ程大きく?)
後ろの扉をパタンと閉め、その扉の前にただ立つだけのアズリー。
(内包する魔力から見るに、連れてきているのは魔法大学と戦士大学の四年生ってところか? 数にして百……か。これにテンガロンとドラガンが加われば今のボロボロのリナたちでは厳しい。おっと? テンガロンが六法士になってる? ……こっちでの変化は目まぐるしいみたいだな、まったく……)
「……お久しぶりですね、アズリーさん」
「ドラガンさん、お久しぶりです」
六勇士の一人、繊細な虎ドラガン。アズリーが最後に会った時より確実に強くなっている。けれどアズリーは思った。「このレベルなら……ソドムの街にいた命知らずの方がまだ強い」と。
「アズリー、お前に用はない。そこをどきなさい」
「テンガロンさん、ここは私の家です。用があるのなら私を通してからにしてください」
「……その言葉、背後に無垢な子供を抱えても尚吐けるのか?」
ポチズリー商店にいる子供たち。テンガロンは遠回しにそれを人質にすると言った。
しかし、アズリーは眼鏡を上げて呟く。
「その言葉、ご自分の命と天秤にかけて尚……吐けますか?」
アズリーの髪の毛がユラユラと動く。
直後、テンガロンは心臓を鷲掴みされた感覚に陥った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ポチズリー商店内。
転移を始めた疲弊した王都守護魔法兵団の面々。
その残りが主だった人間になると、出入り口の扉が大きな音を発してガタつき始める。
「……何だ、これは?」
ヴィオラの察知と共に、窓がりんと振動を始めた。
「これは……! アズリーさんの魔力っ?」
「おいおい、アイツ一体何をしたらこんな……!?」
「およそ人間が帯びる魔力じゃない……!」
リナ、オルネル、ヴィオラが先に戦ったビリーを軽く凌駕する魔力を肌に感じ、皆違った驚きを見せた。
「……凄いっ」
ティファはただただ憧れを目に宿し、タラヲは肉球で目を覆った。
「ななななな何だこの魔力!? ぬぅ!? どこかで……どこかで感じた事のある魔力……! むっ! 貴様ではないわリビングデッドキングッ! 何故貴様が出て来る!」
伏せた目に現れるタラヲの記憶。しかし、それを鮮明に呼び起こす事は、タラヲには出来なかった。
「こんなの正面から受けたら……いくらあのテンガロンでも――――」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
バルンの推測通り、アズリーの静かなる怒りの魔力はポチズリー商店の前にいる皆を戦慄させていた。
「ぬ……ぬぅ……!?」
「これは……!」
圧倒的な魔力に当てられた魔法大学、戦士大学の学生たちは、腰を抜かし、顔を恐怖に歪め、意識を失う者までいた。
「テンガロンさん、ここはどうか穏便にお願いします」
テンガロン、ドラガンは膝を突き、ただアズリーの言葉を聞く事しか出来ない。
(よもやアズリーの魔力がこれ程とは……! アイリーンの言った通り、あの時アズリーを退学処分にしたのは……やはり間違いだったのかっ? ――いやっ!)
テンガロンはアズリーを見上げ、その顔を睨む。
「……ふふふふ、余裕に満ちた顔。これでも魔力の一部と言いたげな顔だっ。なるほど、扱い切れぬわ。やはり退学にして正解だったな……」
「そうですね。退学になったからこそ、俺はここまで強くなる事が出来ました」
アズリーの視線が鋭く刺さる。
かつての自分の失敗からか、それとも膨大な魔力の重圧からか、はたまたアズリーの視線からか、流星の魔戦士とも呼ばれたテンガロンがまた俯く。
「アズリーさん……聞いてください!」
次にアズリーに声を掛けたのはドラガンだった。
彼は身体の魔力を振り絞りながら立ち上がり、更に一歩前に出たのだ。
「彼らがここで我々に捕まった方が得策です! ここで我々が手を引いてしまっては、取り返しのつかない事になってしまいます! あなたはイシュタル様の恐ろしさを知らない! このままでは私たちと彼らとの戦争になってしまう! いえ、戦争にすらならないかもしれません! ただ蹂躙されるだけ! そんな未来を……! 子供たちに与えるおつもりですか!?」
ドラガンの願いのような叫びは、ポチズリー商店内にも届いていた。
しかし、アズリーの目は変わらない。今度の敵は国……その中枢で暗躍する悪魔なのだ。だからアズリーは口を開いた。
「イシュタルの正体は悪魔です」
「「っ!?」」
その事実を伝えるために。
アズリーの言葉に、この場にいる誰もが驚愕する。
「あなた方を阻止しようとする俺の言葉です。信じなくても結構です。けれど、ガストンさんの死を無駄にする事は出来ません」
四年生たちの顔が変わる。
ガストンという国の重鎮の死。それを知っているのはテンガロンとドラガンのみ。
衝撃の事実にポチズリー商店の前がざわつき始める。
「ドラガン大学長! それは本当なのですかっ!」
「テンガロン大学長!」
しかし、二人は答えない。
有無を言わさぬ視線が四年生たちに突き刺さる。
「「…………っ」」
次第に黙ってしまう学生たち。
「子供たちの未来に……嘘があっていいのですか?」
「ふん、混乱を防ぐためだ……!」
「結果として混乱しちゃってるじゃないですか……テンガロンさん」
「……先の話が嘘であれ真実であれ、事実国はまとまっている。混乱させたのはお前だ、アズリー……!」
「もうすぐ魔王が復活するとしても?」
「妄言もそこまでいけば大したものよ」
アズリーの口から出た魔王という言葉。
テンガロン、ドラガン含む皆の瞳が揺らいだのは間違いない。
しかし、テンガロンは間髪を容れずに否定する事で皆の意識をこの場で繋いだのだ。
(伊達に歳は食ってないな。流石は長く魔法大学の長だっただけの事はある……おっと、皆の避難が終わったか)
アズリーは後ろ手にポチズリー商店の扉を開ける。
「それなら、存分に調べて行ってください。二階で眠る馬鹿犬に噛まれても知りませんけどね」
そう言ってアズリーは魔力の放出を解く。
しかし、
「ふん、見え透いた事を……! 帰るぞ、ドラガン!」
テンガロンはアズリーを睨んだ後、魔法大学の方へ足を向けた。
四年生たちはテンガロンに続き、最後に残ったドラガンは、
「先程の言葉……全て本当なのですか?」
「ガストンさんの死が全て物語っていると思います」
「……そうですか」
ドラガンは少しだけ寂しそうな顔を浮かべる。
「そちらに付くのであれば俺は手加減しませんよ」
「ふっ、それは怖いですね。私なりに調べてみましょう」
「深入りは禁物ですよ」
「ご忠告ありがとうございます。しかし、これは性分なんですよ」
繊細な虎ドラガンは、そう言って去って行く。
「すぅ~~~…………はぁ~。あ~~、怖かった」
ポチズリー商店に戻ったアズリー。
そしてまたも届く腹部への衝撃。
「おっ? ティ、ティファ!? 皆と行ったんじゃ?」
アズリーに抱きつくティファ。と共にアズリーの肩に跳びついてくるタラヲ。を、引き剥がすティファ。
そして、困惑するアズリー。
「私、まだ魔法大学生だもん……」
「だもん!? ティファが『だもん』!? 我輩初めて聞いた――ぎゅふ!?」
ティファはタラヲを後ろ足で蹴る。
「あ、はははは。少しは仲良くなった?」
「……わからない」
「うん、結構仲良くなったみたいだね」
「そんな事――っ!」
顔を上げたティファの頭を撫でるアズリー。
「成長したね、ティファ」
瞬間、ティファの目から大きな雫が溢れる。
他を寄せ付けず、ただひたすらアズリーを追ったティファ。
その一言で、ティファの氷の壁は一瞬にして溶け、崩れるのだ。
「はい……! はいっ!」
ティファの震える肩に両手を置き、アズリーは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「さぁ、ここにいちゃティファの立場が危なくなる。俺の空間転移魔法の認識コードを念話連絡で送るから、今は寮に帰るんだ」
「今」
「へ?」
「今欲しい」
アズリーの口約束を信じる事が出来ないのか、それとも早く欲しいだけなのか。ティファは強請るように言った。
「ティファが!? おねだり!? イツキ! 明日は雷時々雹だ! いや! 天が落ちてくるぞ!」
あわあわと驚愕するタラヲに呆れるイツキ。
しかし、純粋で無垢なティファの瞳を見たアズリーは、苦笑しながらもその手をとった。
そして、ティファの小さな手の平に、ゆっくりと認識コードを書いたのだ。
くすぐったそうにするティファの顔は――――どこか、
「笑ってるぅううう!? ティファが笑ってるぞイツキィイイイイイイ!?!?」
「…………ハハ」
乾いた声で笑うイツキだった。
明日の天気予報についてのクレームは受け付けておりません。ご了承ください。
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