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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十章 ~戦魔国の闇編~

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311 忙しない再会

 おかしい。

 今現在の、ポチズリー商店の状況は明らかにおかしいと言わざるを得ない。

 喜ぶリナに抱きつかれ、困惑しつつも時間が流れていった。

 そしてリナに手を引かれるがまま、俺は階下へと降りて行った。

 …………何なんだ、この状況は?

 何故、王都守護魔法兵団のヴィオラやジャンヌ、オルネル、それにフユまでもがポチズリー商店(こんな所)にいるんだ?

 他の兵も含め十数名……か。誰もが皆、疲弊し切っている。


「っ! アズリー!」


 階段を降りて行った時、一番最初に俺に気付いたのは…………何でバルンがいるんだ?

 俺と同じ境遇のはずのポチに話し掛けたいが、ポチは上で寝てしまってるし、このおかしな状況に頭が付いて来ない。

 バルンの声と共に一気に視線を向けられる。


「「アズリー!!」」


 ポチズリー商店が割れんばかりの声が響く。

 声と共に近寄って来る見知った仲間たち。

 だが、やはり……というかなんというか、コイツだけは俺の胸倉を掴むんだよな……。


「オルネル……」

「アズリー……お前っ! お前……っ!」


 何か言いたげなオルネルの顔、オルネルは俺を睨んでこそいるが、その声や瞳にはどこか力を感じられなかった。

 オルネルはその後何も言わず、俺の胸倉を放した。

 直後、腹部に届く衝撃。

 その正体は、顔をくしゃくしゃにして涙を流す……フユ。

 やはり、歓迎としての帰還ではない、どこか違った喜び。その色は……悲しみに近いと思う。

 やはり、神が言ったように……何かが――――


「アズリーさんっ……アズリ……さんっ!」


 フユはただひたすら泣き続け、リナもまた、隣で泣き続けた。

 そんな中、いつもの調子と一切変わらないヤツがいた。


「あ、アズリーさーん。お帰りなさいっすー! お部屋のお掃除は三日前にやったのでそれなりに綺麗だとは思いまーす」

「あ、あぁ……」


 忙しそうに家の中を走り回るのはイツキ。

 そういえば銀の連中はトウエッドへ避難したとか神が言っていたな。そういえばイツキは銀だったような? まぁイツキの事だ。何か上手くやったのだろう。

 何が起こったにしろ、イツキはいつも通りだな、ホント。

 遠くに見えるバルンは動かない。

 俺が最初に話さなきゃいけないのは…………やはりこの人なのだろうな。

 俺に近寄ってきた者の中で、ただじっと俺を見ている者。

 本当ならリナやフユに色々聞きたい。

 だが、この人の目が、彼女の目が…………俺にそれをさせなかった。

 俺はリナの肩に、フユの肩に一度ポンと手を置いた後、彼女の下へ向かった。


「……息災のようで」

「お久しぶりです、ヴィオラさん」


 王都守護魔法兵団の団長ヴィオラ。

 何となくわかってしまう。彼女程の人物が、ベイラネーアの人買いの店にいて……俺の知るあの人(、、、)がここにいない理由。

 平静を装っているが、ヴィオラの顔はやはり暗い。

 皆が泣く理由、疲弊している理由、オルネルが憤っている理由……ヴィオラの悲しそうな顔。


「……っ!」


 ヴィオラは溜めた涙を零しながら話した。

 偉大な……大魔法士の事を。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ガストンさん…………」


 今ならオルネルの気持ちがわかる。俺は行き場のない怒りを、自分の拳を強く握る事でしか表せなかった。


「今日……いえ、昨日の昼の事だったわ」


 体内時計の魔術が知らせる。なるほど、既に日が変わっている程の深い時間。疲弊している中、それでも起きているのはやはりガストンがいなくなった悲しみからだろう。


「六月、三日か……」


 俺はポチズリー商店のカウンターにあったブロック型のカレンダーを見てそう呟いた。

 イツキはいつも日が変わった段階でブロックの数字を変える。という事は……ビリーとガストンたちが戦ったのは六月二日か。


「フユが機転を利かせてここへ送ってくれなければ危ういところだったわ」


 ヴィオラが俯きながら言った。

 確かに、王都守護魔法兵団の本部へ送ったのであれば危うかった。

 流石フユだ。ガストンの指導……いや、フユの才でもあるな。


「あの、アズリーさん……!」


 振り向くと、目を真っ赤に腫らしたリナがいた。

 どうやらずっと我慢していたみたいだ。

 なるほど……大人に――――あれ? 何か凄く女らしくなってないか?

 ……って事は?


「リナ、今は何年だ?」

「あ、え……戦魔暦九十六年、ですけど……」


 なるほど、二年とひと月ちょい……か。確かに俺が過去に行っていた時間と重なる。俺はそれだけの時間を過去で過ごしていたのか。

 そりゃリナも大人っぽく、女っぽくもなるよな。


「アズリーさんは……一体――――」


 リナが聞きたかった事はわかる。

 俺が今までどこにいて、何をしていたのかを聞きたかったのだろう。

 だが、国が……それを止めた。

 物凄い勢いで開いたポチズリー商店の扉。

 目の前に現れたのは――――――


「はぁはぁはぁっ……っ!」


 息を切らした――この時代二番目の生徒……ティファ。

 ティファは扉を開けた瞬間俺を見た。

 一瞬だけ時が止まり、ティファはとことこと俺の下へ歩いてくる。


「……お帰りなさい」


 そしてティファは一言俺にそう言って、抱きついた。


「あ、あぁ……ただいま」


 隣にいるリナの目は、当然怖くて見れない。

 しかし、ティファはすぐに俺から離れた。

 これだけで、俺の帰還に気付いてここへ来たんじゃないとわかる。

 ティファは何かを伝えるためにここへ走ったのだ。念話連絡を使わずに、ここへ走った理由。ティファ程の人間が、深夜にここへ急いだ理由。

 なるほど、再会を喜んでいる場合じゃなさそうだ。


「皆、急いで別の場所へ! テンガロンとドラガンが学生を引き連れてここへ来るわ!」

「そうだ! 我輩は見た! あれは正に覇者の行進! こんな店など踏み潰しそうな勢いだ!」


 そういう事か。

 ビリー……果てはイシュタルの息がかかった相手なら、ここを狙ってもおかしくはない。


「でも、一体どこに行けばっ? フユ、ナツから連絡はっ?」

「ううん、まだ連絡来てないからナツのところには飛べないっ。それにこの時間だと――」


 ――おそらくナツは寝ているだろう。

 銀の所(トウエッド)に行く事は無理か。しかしリナの判断も非常に早い。相当な修羅場を通ったんだろう。


「ツァルさんとララさんがいれば一旦フォールタウンに行けたんすけどね~」


 イツキが天井を見上げながら言った。

 ふむ、って事はあの二人はフォールタウンにいるんだろうな。

 だが、やはり時間も時間だ。連絡をとるのは難しいだろう。


「よし」

「アズリー……さん?」


 立ち上がった俺をリナが見上げる。

 せっかく帰って来たのにあまり話せないのは正直残念だが……今やるべきは!


「ほいのほい! 空間転移魔法(テレポーテーション)&地送魔送!」

「「っ!?」」


 よし、これでベイラネーアの外に空間転移魔法陣が置かれたはず。


「何て速度……! それに今のは!」

「魔法と魔術の併用……!?」


 ヴィオラとオルネルが驚いているが、今それに構っている暇はない――。


『夜分に失礼。ここに犯罪者がいると聞きおよんだ。早急に扉を開けられたし……』


 このしゃがれた声。おそらくテンガロンだな。


「ほい、空間転移魔法(テレポーテーション)っ」


 地面に描き上がった空間転移魔法陣。

 これで、ベイラネーアの外とここが繋がった。

 俺はオルネルにアイコンタクトを送り、


「急げ、順番に乗れ……」


 オルネルが小声で指示をする。

 さて…………俺は――――、


「アズリーさんっ……!」


 リナがそう言って近付いて来る。

 俺が扉に向かったからだろう。

 そして、いつの間にかマントが三方向に引っ張られていた。


「む」

「ふん」

「あ」


 リナとティファ、そしてフユがマントを引っ張ってくる。

 え、なにこれ?


「ふふふふ、帰って早々面白いっすね~」


 イツキのどうしようもない野次を聞き流し、俺は振り返れないまま、三人に言った。


「ちょっと時間を稼いでくる」


 それだけ言うと、三人はゆっくりと俺のマントを放してくれた。

 さて、信頼されてるのは良い事だが、どうしよう。マジで。

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