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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第九章 ~激動編~

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◆307 死者の王

 サガンはランクSSのモンスター、死者の王リビングデッドキングを捉えるや否や腰に下がる剣を引き抜いた。


「あ~……あぁ~…………」


 静かな(うめ)きと共に、リビングデッドキングが揺れる。

 その揺れは次第に小刻みになり、やがては身体がブレて見えるようになる。

 ブレは振動となり、振動は周囲に不吉な風を巻き起こす。


「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」


 呻きは奇声となり、奇声はサガンの顔を歪める。

 アズリーの顔は落ち着いている。そしてその隣にいるポチも。

 魔王戦を乗り越えた二人ならば、ランクSSだとしても今のリビングデッドキングは相手ではない。

 しかし、今回リビングデッドキングと戦うのはサガン。

 元聖戦士アズリーをして天才と言わしめる才能の塊。

 しかし、戦魔帝といえどもサガンも人間。戦った事もない強敵を前にサガンが落ち着いていられる訳がなかった。

 冷汗はやがて脂汗となり、歪む顔がやがて決意の顔と変わる。


「はぁあああああああああああああああっっ!!」


 サガンは剣を構え足を前に、それと共にリビングデッドキングが駆け始める。


「ぬっ!」

(上手いな。サガンの動きにあえて合わせるようにして虚を()いた。人型のモンスターはこういうところがあるから気を抜けないよな)


 アズリーの考え通りサガンは虚を衝かれた。

 サガンは出した足を後ろに引き、応戦の構えを見せると、リビングデッドキングが跳び上がった。


「はぁ!」


 無造作に振り下ろされるリビングデッドキングの両手を、サガンが受ける。


「ぬんっ!」


 気合いの掛け声と共にサガンの両腕、両足が肥大する。


「おぉ! 良い筋肉だ!」

「ぬかぁあああああああああああああっ!」


 アズリーの不可解な言葉は虚空に消え、サガンの足は地中に埋まるも、リビングデッドキングの攻撃は正面から受けきった。

 サガンは歯を食いしばりながらリビングデッドキングを振り払う。


「くっ……やはり硬いな!」


 サガンは刃で受けたはずのリビングデッドキングの腕を見るが、外側の布きれが少し切れただけ。

 人間程のサイズといえどやはり相手はSSランクのモンスターなのだ。


「ならば……」

(火魔法……だな)


 アズリーとサガンは、この戦力差とリビングデッドキングの攻防の中に攻略の糸口を見出す。

 アズリーの強い視線を背中で受けてなのか、サガンは笑みを零し左手に魔力を集中させた。


「なるほど、魔法主体の攻撃に切り替えるのか」


 顎先に手を当てたアズリーはサガンの動きを見て呟く。

 サガンの利き手は左。しかし剣は右手に握ったまま。今のサガンの実力ならば、繊細な宙図(ちゅうず)が必要とする魔法や魔術は利き手に頼らざるを得ない。

 それを自分でも理解していたからこそ、サガンは集中するために大きく息を吸い、そして吐いた。


「ふっ!」


 サガンが宙図(ちゅうず)を開始したと同時に、リビングデッドキングは左右に跳躍しながらサガンに近付いて行った。

 目まぐるしく移動する相手に対し、サガンの目はそれを追おうとはしなかった。


(大きく移動しようとも(ふところ)へ入る時に横の変化はまずない。余の剣の範囲より外の動きは、気にする必要は……ない!)

「アァアアアアアアアアアアアッ!」


 身を低くし、潜り込むようにして現れたリビングデッドキング。

 サガンは瞬時に脅威を察知し、その攻撃をいなした。

 強力な攻撃はサガンの剣の面をかするも、その衝撃は見事にいなされる。

 下から振り上げた身体をそのままひねったリビングデッドキングは、サガンの腹部を狙って蹴りに移行した。

 サガンは先程受けた剣の面をまた刃先に変え、直撃の一瞬。その瞬間を見定め……脱力した。

 蹴られた剣はサガンの腕を支点とし見事な弧を描き、そしてそれは蹴りを放った相手に向かっていく。

 リビングデッドキングは、己の力が己に返ってくる脅威に気付く。

 だが、その瞬間、脱力していたサガンの右手に力が込められる。リビングデッドキングの攻撃力、そしてサガンの力。サガンの胆力と技術が生み出した瞬間的な攻撃力は、リビングデッドキングの目を本気にさせるだけの力を有していた。

 しかし、直後リビングデッドキングの目は驚きに変わる。

 胆力と技術。それだけが今のサガンのカードではない。

 リビングデッドキングの目の端に映るのは光。

 その光を放つのは、サガンの脅威(右手)ではなく……左手。

 左手に込められた魔力はほんの微量。

 しかし、それはリビングデッドキングにとって大きな障害となる魔力だった。


「バーストォッ!」


 胆力と技術――そして魔法。

 サガンの剣は先程より速度と威力を伴ってリビングデッドキングに向かった。


「あれ!? 火魔法じゃない!?」

「狙いはよかったな! レオール仮面!」


 リビングデッドキングは大きく身体を逸らし、サガンの剣をかわそうとする。

 しかし、宙を回転するサガンの速度はリビングデッドキングの回避速度を……上回っていた。

 金属が打たれる独特な音。その衝撃音はアズリーの耳を大きく揺らすも、その目には大きな事実を見せつけた。

 リビングデッドキングは両手を交差し、その剣を受けた。

 しかし、受ける事によって払った代償は、非常に大きかったのだ。


「一本頂いたぞ……!」


 腹の奥から出たサガンの言葉。

 剣に接した腕は一本。その一本の腕には、少しの傷を残しただけ。

 しかし、もう一本の腕は……、


「アァアアアアアアアアアアアアッッ!?!?」


 リビングデッドキングの右腕が地面に落ちる。


「ははは…………凄いな」


 アズリーから自然と零れた感嘆の言葉。


「どうだ、レオール仮面? 余の魔法は?」

(途中まで描かれていたのは確かに火魔法。だけどサガンは途中で式の枠を広げた……! そしてサガンが枠の中に描いたのは新たな魔法式。つまりこれは……宙図(ちゅうず)中の魔法式描き換え……これはそう――)


 アズリーはこの技術を知っていた。

 かつて自分自身が研究し、断念したものの一つだったから。


「……リライトマジック」

「レオール仮面……国はな、たった一つの事をやっているだけでは回ってくれぬ。視野を広げ時には強引な手段もとる。レオール仮面の頼み……余が必ずこの手でねじ込んでくれるわ! ハハハハハハッ!」

「いやぁ~…………」


 アズリーの顔が変わる。

 戦闘力が自分より明らかに高い相手を前に、高らかに笑う戦魔帝サガン。

 創意工夫が大事。それはアズリーにもわかっていた。だが、サガンが師であるアズリーに教えたのは別の事。

 真っ直ぐな創意工夫とは違う……力でそれをねじ込むような発想。


「…………負けてられないな」


 目を輝かせるアズリーの高揚感を肌で受け取ったサガンは、一度にこりと笑った後、再び苦痛に歪む顔になったリビングデッドキングを見る。


(まさか、教えにきたはずの俺が教えられる事になるなんてな。これが…………この時代に来た本当の理由……! 一本とられたな……神様)


 するとアズリーは苦笑する自分の顔に気付き、(かぶり)を振った。

 そんな顔をしていたら、また隣にいるポチに何を言われるかわからなかったからだ。


(あれ? それにしてもポチのヤツ? さっきから一言も喋ってないような?)


 アズリーはそう思って隣を見る。

 ポチは……サガンや(あるじ)の事を見ていなかった。

 そしてその対象がリビングデッドキングでもない事は容易にわかった。

 ポチの身体は、完全に反対側を向いていたからだ。

 目は鋭く、警戒心が強い事は、長くポチと過ごすアズリーはすぐに理解出来た。


「何か来ます」


 ポチの一言は隣にいたアズリーにだけ届けられた。

 戦闘中のサガンに聞こえてしまう事をポチが嫌ったからだ。

 アズリーはポチが向く方向に意識を向ける。サガンに余計な情報を与えないように、身体の向きはそのままに。

 近付く気配はそれ程強いものではなかった。

 それはアズリーにもポチにもわかった。


(数も少ない……いや、一匹じゃないか?)

「ランクSSのモンスターと我々がいるのに近づいて来るという事は……よほどお腹が空いたモンスター……でしょうか?」


 ここに漂う異質な魔力。本来であればここに近付く者はいないだろう。

 アズリーの魔力は落ちているとはいえ強力。

 そしてこの場で一番強いポチがいる。

 両者に劣るとはいえ、ランクSSのリビングデッドキングやサガンもいる。


「それでも来るってのは……ちょっとしたお馬鹿なのかもしれないな」


 アズリーが苦笑しながら呟くと共に、ポチの目が見開かれる。


「あれはっ!?」


 ポチが抜けたような声を出した。

 そんなポチの反応にアズリーが引っ掛かったのか、顔をそちらに向ける。


「ハァハァハァハァ……ハァッ!!」


 涎を垂らしながらひょこひょこと近付く影。

 やがて赤黒い体表を二人に見せ、近付くその姿。

 身体は非常に大きい。帯びている魔力はランクAからSと言ったところだ。

 しかし二人は目を丸くさせた。

 その挙動を…………どこかで……そう、どこかで見た事がある気がしたからだ。

 二人は首を傾げて「ん~~~……」と唸る。

 そして月に照らされて見えた瞬間、二人は声を零した。


「「あっ!」」


 同族(、、)に近いポチが前脚を正面に出し、アズリーの顔が「まさか」とニヤける。

 空腹によりなりふり構っていられない顔は、やはり誰か(、、)に似ている。

 そしてその存在を目の端で捉えたサガンが呟くのだ。その個体の名前を――――、


「……狼王ガルムか」

オヤ? コイツハイッタイダレナンダー?



『がけっぷち冒険者の魔王体験』の感想が書けるようになったそうです! 是非是非感想書いてやってください! それが今後の私の(かて)となる!

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