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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第九章 ~激動編~

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305 レオール仮面の魔法教室

「だーかーらー! 何でそこにへんてこな公式ねじ込んじゃうんですか!」

「何ぃ!? へんてこだと!? 余の美しい魔法公式に文句を付けるというのか! よろしい! そこへ直れレオール仮面!」

「そう言って何回返り討ちにあったと思ってるんですか!」

「何だと!? 余はレオール仮面から一撃ももらっておらぬわ!」

「私が攻撃してないだけでしょう!」

「違うな! 余の連撃にレオール仮面の反撃が間に合わないだけだ!」

「そうです! マスターより、レオール仮面より私の方が強いんです!」

「何でそこでポッチー仮面が出てくるんだよ!?」

「そうだポッチー仮面! もっと言ってやれ! そして私に助力するのだ! 褒美は弾むぞ!」

「えぇ!? 今の私は十食や二十食じゃ動きませんよ!」

「百食や二百食! 余に支払えぬと思ったか!?」

「勝負は――」

「――一瞬!」

「「今この時!」」

「おい、やめろ! やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?!?」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ぐふ…………」

「フハハハハハハハハ! 討ち取ったりレオール仮面! 正義は必ず勝つのだ!」

「アハハハハハハハハ! 負けちゃいましたねマスター?」

「あぁ、正義のポッチー仮面が寝返るとは想定外だったからな」

「私なりの交渉術です! どうでしたか!?」


 実際に俺に怪我させて「どうでしたか!?」はないだろうに、まったく。

 何だあの連携は? 悪魔もビックリな攻撃だったんじゃないか?


「ほい、ミドルキュアー」


 俺は負傷した身体を回復させ、先程まで座っていた岩場に腰を下ろした。

 そして、ボサボサになった頭を掻きながら、


「それで、何なんですか、この公式は? 独特のセンスが光り過ぎて一瞬自分でも何の魔法教えてたのか忘れる程でしたけど?」

「ふん、余が余なりに試行錯誤した結果だ。気になるのならば自分で使ってみるがいい」

「え~~~~~……」

「ぬっ、何だその目は! やるのだ! やって! みるのだ!」


 おのれ、この我儘戦魔帝のどこに国の主柱になる要素があるっていうんだ……まったく。

 俺は不安になりながらもサガンが考えた公式をなぞる。


「えーっと、ほいの? ほいの? ほい……ふぁいあ」


 やたら長い公式を下級系魔法のファイアにつぎ込む意味とは一体?


「す、凄いですー!? 炎の中にサガンさんのお顔発見ですー!」

「ふふふふふ、そうであろうそうであろう? 余の偉大さがよくわかる魔法であろう?」


 そんなサガンの顔をこれ以上見たくなくて、俺はそのファイアを魔力で握りつぶした。それはもう一瞬で。


「あぁああああああああああああああああああ!? お前何をしてくれるのだ!?」


 このアイリーン以上に五月蠅(うるさ)い即位して間もない戦魔帝ことサガンは、あの約束をした日以降、俺たちとの決闘を連日連夜繰り返した。

 流石に人の使い方は慣れたもので、恩を売る事が出来るという餌をちらつかせつつ、サガンは俺を都合の良い稽古相手としたんだ。

 二、三日戦い、何度か「また明日」と言われれば俺だって気付く。

 だからこそ、その稽古の中で、俺は体術より魔法や魔術に重きを置いた。

 すると、魔法を前にした戦魔帝様はすぐにムスっとした表情になった。子供かよ。

 その翌日、サガンは俺に言った。

「余に魔法を教えろ」と。

 これまで剣を振るい、その才を振るってきた男が、そう言ったんだ。

 おそらく、体術も自分より上、その上魔法も使ってくるという俺という存在が、サガンの中に越えたいという壁を作ったのだろう。

 サガンの才能はやはり凄まじく、以前魔法指導をしたブライトのように、初歩的な魔法は全て覚えていった。

 いつの間にかサガンに教え始めて半月程だ。

 今はポチと共に魔術の勉強に入った段階。

 そう、今はポチも魔術を教わっているんだ。

 何だかんだでポチの魔法技術も、ある程度成長している。しかし、魔術まではほとんど手を出していなかったからな。これを機に教える事にした。というかポチがやりたいと言ってきた。

 さて、そのポチはというと…………、


「ふふん! これは簡単ですよ! この魔術公式の裏に、逃げ道をつくってやればいいんです! ふふふん!」


 魔法に関して一日の長があるのはわかるが、これほど魔の才があるサガンを前に先輩面はどうかと思うな? それに魔法に関しては、だからな? 魔術に関してはあまり大差ないだろう、お前。


「ぬぅ……ポッチー仮面!」

「はい、何でしょうっ?」

「ここ、この公式が難解だ! 余にわかりやすく説明するのだ!」

「はっは~ん? なるほど、ここですね~? う~~~ん、ちょ~~っと待ってくださいね~?」


 へぇ、あれは中々難しい結界魔術の魔術公式だ。

 これがわかるのならばポチの事も見直さなくちゃ――――


「出番ですよ、マスター!」


 この潔さ。ある意味見直さなくちゃいけないかもな。


「はぁ……いいですか、サガン様。ここは、先程作った逃げ道に情報が集まり過ぎているんです。これでは魔術陣内の魔力が行き渡らずに詰まってしまって本末転倒です。だからこの上の公式を使って魔力を上手く散らせればいいんです」

「しかしレオール仮面。今は魔術公式内の裏道を通っている。そう簡単にはいかないのではないか?」


 …………凄いな。もしかしたらこの人はブライトより才能があるのでは?

 俺は感嘆の息をサガンに気付かれないように漏らした。


「……その通りです。裏道ならば魔術公式も裏となります。なので、ここで使う文字は全て反転しなければなりません」

「そうか、鏡文字(かがみもじ)!」

「そう、だからこそ魔術は魔法に比べ、より繊細さが求められる訳です」

「ほぉ……ダークエルフのいないこの時代で、まさか魔術に出会えるとは驚きだな。しかし、鏡文字か……頭がこんがらがりそうだな……」


 頭を掻きむしりながら、知っている文字を反転させ羊皮紙に書くサガン。

 それは、反復練習でしか頭に馴染ませる事は出来ない。サガンは何度も何度も文字を書き続けた。

 そして、文字を書きながらサガンは聞いてきた。


「時にレオール仮面。そなた、余に恩を売って何がしたいのだ?」


 おっと、ここにきて本題がきたな。


「そろそろ聞いておこうと思ってな。余にしか叶えられぬからこそ、あの日の待ち伏せがあったのであろう?」

「うーん、そうですね。魔法士の地位向上……と共に、使い魔にも光を与えて欲しいってところですかね」

「ほぉ、使い魔に?」


 そう、稽古の途中で見せた俺の魔法によって、戦魔帝サガンの興味は魔法や魔術に向いた。

 本来頼むべきはずのお願いは、既に叶っているんだ。

 だからこそ俺は、先日王都レガリアでポチが経験した苦い思いを繰り返して欲しくないと思った。

 すると、サガンは筆を止めてこちらを向いた。


「レオール仮面。そなたとポッチー仮面の仲は、これまでを通して余自身が身をもって知っている。レオール仮面が言っているのはつまるところ、国民の意識改革にある。そういう事であろう?」

「そうなりますね」

「ん~……」


 そう唸ってサガンは筆管部でこめかみを掻く。


「それは非常に厄介だな。地方では使い魔の物珍しさからそういった意識改革は可能かもしれない。しかしこのレガリアには、(まつりごと)に密接な重鎮も多い……」

「つまり、その人たちはどうにも出来ないって事ですか?」

「いや、そうは言っていない。しかし、これはかなりの労力と根回しが必要になる、と思ったまでよ」


 俺の言葉を否定した後、サガンは溜め息を吐きながら先を案じた。


「何です? 出来るって事です?」

「レオール仮面、出来る出来ないではない」


 先程からどうも要領を得ないが……サガンは一体?


「男なら……やるかやらないか、だ」


 なるほど、流石国の主柱となるべき存在だ。


「マスターマスター! 鏡餅はどこですか!? 私聞いた事があります! どこかの国の新年にパッカーするやつです! 鏡餅!」


 うん、鏡文字だな。

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