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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第九章 ~激動編~

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◆304 この中に一人

「も、もう一回言ってくれ……な、何だって?」


 慌てるコノハに、結晶の中のブライトが同じ事を告げる。


「もう一度使い魔をやりませんか?」


 まるで昼食に誘うかのような軽さでブライトが言う。

 すると、目を丸くしたままのコノハをよそに、オルネルが口を挟んだ。


「無理だ! 二度目の使い魔契約には(あるじ)との契約解除の後にある程度の時間が必要! コノハさんにはそんな時間は……! そ、それにアナタたちは……!?」


 オルネルがそう言うと、結晶内のフェリスがチャッピーに言った。


「チキン、そこの馬鹿の頭をど突きなさい」

「何故だ、フェリス?」

「コノハの命をくだらない話で縮めようとする()だからよ」

「悪!」


 チャッピーは羽を広げた後、フェリスの言う通りにオルネルの頭をど突いた。


「いっっっつ!?」

「ふん、悪さはもうこれだけにしておけ」


 背中を向けて格好よく呟くチャッピー。

 そんなやり取りを、ブライトが溜め息を吐いて呆れる。


「ビリーを逃がした分の時間をあなたたちが浪費してどうするんですか……まったく」


 その言葉を聞き、リナが気付く。


「だから……コノハさんの命を助けるために、ビリー先生を逃がした」

「そういう事です。ビリーはまだ弱いと言っても悪魔は悪魔。チャッピーが真正面からやりあっても多少は時間がかかってしまいます。……一対一ならともかく――」

「――僕たちみたいな足手まといを抱えながらでは、より時間がかかる。そういう事だね」


 ブライトが話している最中、それは皆も気付いていた。だからチャッピーを除けばこの場で一番強いバルンがそれを補足した。

 そう言う事で、バルンがチャッピーとの差を強く認識するために。


「……そういう事です。先にそこの青年が言ったような制約は気にしないでください。時間の事なら(、、、、、、)、他の誰よりわかっているつもりです」


 ブライトの言葉はどこか重く、皆の頭にそれを理解させた。


「で、でも…………ご主人がいない世界なんて……」


 コノハは俯きながら声を震わせる。

 すると、チャッピーが羽を器用に使い、コノハの肩にちょんと置いた。


「わかる。その気持ちよくわかるぞコノハ。私も父上と母上と別れ、心に虚しさを感じた事もあった。しかし、世界は広い。世界は広いのだ。虚しさは今。けれど、止まる事のない今は、必ず未来に光を灯すのだ!」


 そんなチャッピーの言葉に、コノハはゆっくりと顔を上げる。


「……たまに凄い事言いますよね、チャッピーって」

「明日には……いえ、三十分後には忘れてるわよ」


 ブライトとフェリスが、過去を振り返りながら話す。


「そうですよコノハさん。ガストン様はコノハさんを生かそうとしました…………だから……!」


 コノハを励ましつつも、悲しそうなリナの声。

 コノハは空を仰いで先の戦闘を思い出す。(あるじ)であるガストンが自分を肩から降ろした時の事を。

 そして、溢れそうな涙を首を振って消した後、ガストンが最後に立っていた場所を見つめる。

 最後に、鼻息を少し吐いた後、


「……君たちの狙いはなんだ?」


 コノハはチャッピーたちにそう聞いた。


「狙い、ですか……」


 結晶内のブライトが困ったように呟く。


「何、私を助けたい……だけでは説明がつかないような気がしてね」

「そうですね、()いて言うのであれば……『助けたいというより、死んでもらっては困る』というところでしょうか」


 コノハは声が聞こえるチャッピーの首元を見る。


「おいブライト、それは少し悪っぽい言い回しじゃないか?」

「謎の声ってところでどうでしょう、チャッピーさん?」

「おぉ! 謎の声! それは格好いいな!」


 嬉々として語るチャッピー。

 途中聞こえるフェリスの「ハハ……」という声。


「君たちが何者なのか……と、聞ける立場でもないしな」

「流石は音に聞こえた焔の大魔法士ガストンの使い魔コノハさんです。出来れば、僕たちの事は他言無用でお願い致します」

「それは私が責任をもって約束しよう……」


 コノハの言葉にチャッピーが頷くと、今度はフユが疑問を切り出した。


「で、でも……今この場にいる人たちは皆使い魔がいます。コノハさんは一体誰の使い魔になれば…………もしかしてっ?」


 そう言いながらフユがチャッピーの首を見る。


「残念ながら僕たちは魔法や魔術を使う事が出来ません」

「それじゃあ一体誰が……?」


 その答えに困ったフユがキョロキョロと周囲を見渡す。

 すると、ブライトが告げる。


「この中に一人、使い魔を有していない魔法士がいます」

「一体……誰の事です?」


 リナがブライトに聞く。すると、チャッピーが軽く跳躍し、その者の頭部に乗ったのだ。

 チャッピーの身体は鳥といっても大きい部類。そんなサイズのチャッピーが乗る事が出来る魔法士は…………一人しかいなかった。


「「……あっ!」」


 皆が皆驚き、口を開いた。

 その魔法士当人までも……。


「えぇ!? 一体誰なんでしゅ!? 魔法士って一体誰なんでしゅ!?」


 チャッピーの眼下にいたのはリナの使い魔。

 四翼(しよく)の竜バラッドドラゴンこと、バラードだった。


「はは……冗談キツイな。使い魔の使い魔なんて出来るはずがない…………」


 オルネルが苦笑しながら発言するのも無理はなかった。

 皆の頭にも同様の言葉が過ったからである。

 しかし、ブライトは再度言った。


「先程言いましたよね。制約は……気にしないでください、と」


 ブライトの確信めいた言葉に、誰もが息を呑み、誰もが理解した。

「ブライトが持つ魔法知識は次元が違う」と。


「だ、だけど……いいんですかコノハさん? どういう事になるのか……」


 そう聞いたのはリナ。

 コノハは今までガストンの使い魔だった。偉大な男の使い魔であったという誇りがコノハにない訳ではない。

 そして、今度の(あるじ)はリナの使い魔といえどモンスター。

 リナがその事を危惧しないはずがなかった。


「私は構いませんけど、コノハしゃまが……」


 それはやはりバラードも同じ気持ちだったのだ。

 しかし、コノハは、遠くの空を見つめるコノハは……違った(、、、)


「何言ってるんだ! 焔の大魔法士ガストン! その使い魔だったコノハ様だぞ!」


 皆の顔が曇る。

 そう…………違ったのだ。


「そんな小さい事気にする訳ないだろう!」


 高らかに、そして元気よく言い飛ばしたのだ。

 過去を振り払うように叫んだコノハは、バラードの下へ歩く。

 そして、バラードの頭で胸を張るチャッピーに言った。


「頼む。私はまだこの世に未練がある(、、、、、)

「未練?」


 頭を下げ、そのまま俯くコノハを前に、チャッピーが首を傾げる。


「ビリーに一発…………いや、百発くらいおみまいしてやらなくちゃ、あの世であの糞爺に百発もらっちゃうからな!」


 満面の……涙。

 コノハは涙に塗れた顔を空に向け、震えぬ声でそう言い切ったのだ。


「…………では、そのバラッドドラゴンに使い魔契約の公式をお伝えします」


 ブライトの言葉は、先程より少し……ほんの少しだけ優しくなっていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……これで、いいのか?」

「…………はい。これでコノハさんはバラードの使い魔となりました。今この時点をもって、寿命による死を気にしなくていいでしょう」

「「おぉっ!」」


 皆の顔が喜びに変わる。

 無論、皆、ガストンの事は忘れていない。しかし、一番辛いはずのコノハが決意を新たにしたのだ。戦場を知る仲間たちが、そのコノハより先に辛さを見せてはいけないと思ったのだろう。


「……それでは、私たちは行きます」


 ブライトの言葉と共にチャッピーが東に身体を向けた。

 すると、リナがその背を追った。


「あの!」

「…………何だ?」


 ゆっくりと振り返るチャッピー。


「そのキーペンダント…………アズリーさんのですよね?」


 蒼い結晶の中にあるキーペンダント。

 古ぼけてはいるが、プレゼントしたのはリナ。そして、プレゼントした相手はあのアズリー。

 リナが見間違うはずがなかったのだ。

 長く会っていない恩師であり、最愛の人であるアズリー。その手がかりを持った者が目の前にいる。

 リナは、期待に胸を膨らませてそう聞いたのだ。

 ――――――――だが、


「違うな」


 チャッピーはリナの言葉を一蹴する。

 そして、サングラスを掛け、翼を広げて飛び立った。

 空から聞こえた伝説からの答え。それは、


「これは聖戦士ポーアの遺産! 父上が、私たちに遺してくれたものだっ!!」


 この場にいる全ての者に繋がる……紡ぎし者への称賛だった。

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何とまたまた公開した際にイラストを描いてくれました!


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是非、宜しくお願い致します!

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