◆303 チャッピー仮面
かつて、聖戦士ポーアが刻んだ伝説は魔王討伐だけではなかった。
聖戦士ポーアには息子がいたのだ。
その子供は異種なれど、育ての親である聖戦士ポーアとその使い魔シロを親として尊敬し、人として敬愛した。
息子の名はチャッピー。
最悪の魔王誕生の時代を生き抜いた紫死鳥である。
「どうだ、最高に格好良かっただろうっ!」
チャッピーは語り掛ける。
それは正面にいるビリーでも、後ろで涙を流しながらもきょとんとするリナたちにでもなかった。
だが、チャッピーは語り掛けた。
ビリーにも、リナにも…………その対象はわからなかった。
「アンタ、チキンの分際で正義の味方なんていい加減にやめたら?」
そう、聞こえるのは声だけ。
「何? フェリスも今回の正義執行には乗り気だったではないか?」
「チャッピー、フェリスさんは『別に正義の味方にならずとも、悪は倒せる』と言いたいのでしょう」
今度は違う声。
「ブライト、悪を滅ぼすのは正義と決まっている。何度言わせれば気がすむのだ」
やれやれと首を振るチャッピーだが、やはりその対象は見えない。
そしてリナが気付く。
チャッピーが首から下げているモノに。
「あれは…………コレと同じ……?」
リナは、手にあるリンク・マジックを発動した銀のキーペンダントを見た。
「同じ……じゃない?」
リナが見たチャッピーの首から下がるモノは……リナの持っているキーペンダントと、少し違ったのだ。
リナが持つキーペンダントは、剥き出しの鍵、そのものである。
しかし、チャッピーが首から下げていたのは、透き通るような蒼色の結晶。その結晶の中にあるのが、リナと同じキーペンダントである。
「こちらもそれだけ言ってるんですけどねぇ……」
「ほーんと、私たちの言う事なーんにも聞いてくれないんだから……」
――――声は、その結晶から聞こえた。
そう、彼らは聖戦士ポーアの一番弟子と二番弟子。彼らもまた、魔王軍と戦った人知らぬ英雄たちの一人である。
「何だ……貴様らは?」
ここで、ようやくビリーが口を開いた。
「聞いてなかったのか? チャッピー仮面だ」
「そんなふざけた事を聞いているのではない……!」
ビリーの声が震えていた。
目の前に立つのは確かに紫死鳥。それはわかっていた。
ビリーが震えた理由は別にある。
以前、王都に現れた紫死鳥のソレとは明らかに違うからだ。
ソレとは、即ち魔力。
悪魔化したビリーすらも震える程の魔力を、チャッピー仮面は搭載していたのだ。
だが、リナたちが震える事はなかった。
(何て……心地いい魔力の風……)
思わず、その魔力に身を任せてしまいそうになる程の心地よさ。
そんな魔力を、チャッピー仮面は放っていた。
「大変だブライト」
「何でしょう?」
「チャッピー仮面が無名だ」
「そりゃあそうでしょう。我々の拠点はトウエッドなのですから。こちらで僕たちの事を知っている人は僅かですよ。そう、たとえばそこの悪魔の親玉とか……?」
結晶の中から聞こえたブライトの声。
その発言の意味を知り、ビリーの目が見開かれる。
「そ、そうか! いつもイシュタル様にちょっかいを出していたのが貴様らか! という事は予言の碑に魔力を通わせていたのも……!」
「そういえばそんな事もしていたな」
「はぁ、鳥頭だからすぐ忘れるといっても限度があるでしょ……」
結晶の中のフェリスが呆れた声を出す。
「……なるほど、その結晶を通して遠方から術者が話しているのか」
これまでのやり取りからビリーが推察する。
しかし、
「違います」
「何っ?」
自信あり気に言ったビリーの言葉を否定するブライト。
しかし、ビリーの疑問にブライトが答える事はなかった。
「敵にこれ以上情報与えてもいい事はありません。そんな事より……ここは退いてくれませんか、ビリーさん?」
これにはビリーも目を丸くした。
「ど、どういう事だ……!」
「こちらが答える必要はありません。あなたの貴重な命が助かるのです。退いて損はないでしょう?」
ブライトの煽るような言葉にビリーの目が険しくなる。
「生意気な……! この私に勝てるとでも言いたげだなっ?」
瞬時に魔力を展開させ威圧の姿勢を見せるビリー。
「勝てますよ。それはもう圧倒的に」
そう言い切ったブライトを前に、ビリーの目に怒りが宿る。
しかし、
「っ!?」
その怒りは一瞬にして驚きへと変わった。
チャッピー仮面が魔力を戦闘用に切り替えたからだ。
ビリーを取り巻く魔力はチャッピー仮面の魔力に囲まれ、所狭しと押し込められているように見える。
(……くっ! 今はまだ勝てぬか!)
そんな圧倒的な魔力を前にビリーは決断を下した。
その場から後方へ跳躍し、空間転移魔法陣を描き始める。
「くくくく、何、当初の目的は果たした。ここで貴様らを殺せなくてもいずれまたその時が来る。その時こそ貴様らの――――」
そこまで言ったところで、ビリーの声がピタリと止まる。
「――黙れ」
「っ!?」
チャッピー仮面の圧力は一層力を増し、ビリーの存在を否定した。
何も言えなくなったビリーは、「ふん!」とだけ鼻息を吐き、その場に設置した空間転移魔法陣と共に消えていく。
「どうだ?」
「魔力の痕跡もありませんね。もう大丈夫でしょう」
ビリーが完全にいなくなった事を確認したブライト。
そしてチャッピーはそのままオルネルの方へ歩き始めた。
「え、え? ……お、俺?」
そう、彼の名前はオルネル・アダムス。
結晶の中にいるフェリスの姓もアダムスなのだ。
きっとフェリスが彼に何かを――――
「そこの鼠」
――――違った。
「……え?」
チャッピーがコノハに話し掛ける。
コノハの目には驚きもあったが、主を亡くした悲しみもまた、色濃く残っていた。
「名前は?」
「…………コノハ」
俯くコノハをじっと見るチャッピー。
「コノハ……お前の主人の事は残念に思う。私がもう少し早く着ければ結果もまた違っていただろう」
「……何を言ったところでご主人は………………!」
小さな身体を大きく震わせながら、コノハはまた涙を流した。
「お前の悲しみを、私にはどうしてやる事も出来ない。本当にすまない……」
「い、いいんだ……私のご主人は立派だった。リナたちが助かっただけで…………いいんだ。それに私は主人を失った身……私の命もまた――」
「――間も無く尽きるだろうな」
チャッピーは淡々と事実を告げる。
使い魔契約を行った使い魔は、主人が生きている間生きる事が可能である。勿論、病気や戦闘で命を失う使い魔がいない訳ではない。
コノハは鼠の使い魔であってモンスターではない。鼠のコノハがガストンの使い魔になったのは、昨日や今日ではない。
使い魔は、契約を解除されても基本的に死ぬことはない。
だが、それはあくまでその個体の寿命を失わないというだけ。契約解除の後、その生物の寿命がくれば、やはり死んでしまうのだ。
しかし、使い魔となれば、短命な生物でもその寿命を大きく伸ばす事が可能だ。その伸び率は主人の魔力に関係すると言われているが、伸びたとしても主人以上は生きる事が出来ない。
前戦魔帝サガンが死期を悟った時、使い魔ツァルの契約解除を行った。これは、主人が天寿を全うした場合、カガチのような長命なモンスターだとしても、その主人の寿命と使い魔の寿命が固定されてしまう事を嫌ったからだ。だからこそ、それ以前に契約解除する事で、ツァルは生きる事が出来た。
しかし、ガストンは戦闘に散り、鼠のコノハの寿命は…………本来であればとうに尽きているのだ。
「はは…………だな」
俯くコノハの顔が固まるのはこの後。
「そこでなんですが、コノハさん……もう一度使い魔をやりませんか?」
まるで今夜の食事の事を話すかのように、結晶の中のブライトが言うも、
「…………………………へ?」
未だ理解の追い付かないコノハだった。
【悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ】第八巻の発売情報!
この度、「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」の第八巻が2018年3月15日木曜日に発売致します!
こちらがその表紙でございます!(下の方にペタッ)
これから訪れる絶望……それに立ち向かおうとしている勇気!
魔王討伐パーティの一枚です!
イラストとしてはジョルノが初登場ですね! さらっさらの髪のイケメンに……私もなりたい!
挿絵にはあのお別れシーンが!?
そして! 巻末特典にはストーリーでは明かされなかったアイリーンの解放軍入りの経緯が!? 今回はかなりストーリーに密接な特典内容となっております!
え、初回特典?
タイトルだけ載せておくね
「エピローグ・ソラ豆」
既にAmazon様などで予約も開始しております!
皆様、是非宜しくお願い致します!




