◆302 懐かしの魔力を辿って……
2018/2/28 本日九話目(最後)の投稿です。ご注意ください。
「何だ、この魔力は!?」
吹き荒れる魔力の渦。それは先程ビリーが放った魔力に酷似していた。
リンク・マジックを発動したリナすらも、神々しく光る我が身に驚くばかりである。
ビリーは知らなかった。究極限界という荒業の存在を。
しかし、この場でそれを知る者がいた。それは、かつてその状態でアズリーと死闘を演じた存在。
「『ぬぅ!』」
バディンという存在が。
――宿主よ。好機だ! 宿主が身体を休める時間、この娘が稼ぐ!
「何だとっ!?」
――これは究極限界状態。この状態の間、先程使っていた魔法の簡易発動が可能だ!
「簡易……発動……? スウィフトマジックか!」
ガストンの言葉を拾ったリナは、それだけで全てを知った。感覚でわかるのだ。己の身に起きた異常な事態と、その使い方を……。
「皆! 援護をお願い! オールアップ!」
瞬間、バルンに身体強化魔法を掛けるリナ。
そしてその不可解な現象にビリーが驚愕する。
「馬鹿な! あれ程複雑難解な魔法を瞬間発動だと!? 魔法式すら見せないこれは正に……スウィフトマジック! この強大な魔力は一体!?」
ビリーが驚くと共に、ガストンの内にいるバディンもまた驚いていた。
――何とも懐かしい魔力よ。
【いやー、まさか魔術として最高難度の盾頑防壁がこんなに簡単に宙図出来るとは思わなったよ】
【一点集中型ノ魔術ガ何故ソノヨウナケイジョウヲ……?】
【単純な計算だよ。こいつの面は六つ。つまりそれだけの盾頑防壁を発動しただけだ。その後俺は各辺の継ぎ目を魔力で補強しただけさ】
【バ、馬鹿ナッ!?】
【馬鹿馬鹿言うなよ。これでも結構頑張ってるんだぞ、俺】
――そうか、アズリー。小僧の頑張りは…………ここにもあったのか。
「『そうか……』」
ガストンの目を通して、バディンが見、そして呟く。
バディンの記憶の断片は、銀のキーペンダントから放たれる魔力によって繋ぎ合い、やがて復元へと辿る。
「『小僧……』」
それは、バディンの心を知ったガストンの涙か、それとも記憶を取り戻したバディンの涙か。そのどちらもなのか……。残る右腕を強く握り、その拳でその涙を拭う。
「ホーリーワールド! 剣閃集降! ボルテックウィング!」
光り輝き、妖精のように舞うリナを見ながら。
「ギヴィンマジック!」
魔法発動の反動を上手く利用し、倒れるオルネルの下に着地し、そのままギヴィンマジックを設置する。
「『小僧が紡ぎ、リナに託した絆…………』」
バラードとマイガーが極ブレスを放ち、フユがプラチナに乗って皆を援護し、バルンとリッキーが遠距離から攻撃し、主力のリナの動きを助ける。
「『……見――――』」
「――――さっきから見事見事って、ついに糞爺ここに極まれりって感じだな、ご主人?」
「なっ! コノハ!? お前ヴィオラと共に……!?」
「はははは! どうせご主人が死んだら私も生きてはいられないんだ。ならここで一緒にってのが使い魔としての務めだろう?」
肩口に現れたコノハに驚くガストンだが、コノハは精一杯呑気に振る舞った。今ここでそうしなければ、コノハのような使い魔は強大な魔力に押し潰され、精神を保つ事が出来ないからだ。そして、コノハの発言の意味は別にもあった。
――なるほど、主と共に死地をここに決めた者か。どうする宿主? たとえ使い魔といえど「一緒に死んでやる」と言う者の存在は貴重だぞ?
「…………鼠如きが生意気な……!」
震える声でガストンは言った。
そして、震える瞳でコノハは言った。
「糞爺が生意気なんだよ……」
そんな中、リナの魔力に明らかな低下を感じるガストン。
――いよいよリナのあの魔力も尽きる。ビリーは動けぬまでも虎視眈々と反撃の魔力を練っている。
「流石抜け目がないな、あの男め……」
――リナの魔力が尽きる時、我らの魔力が戻る時。この一瞬の時が勝敗を決めるだろう。
「ふん、どこぞの小僧が悠久を生きるというのに、儂に与えられた時間は一瞬か。中々の皮肉だな……」
――ふっ! 悪魔の魂にこれだけの時間を……あの神が与えたのだ。世界最大の珍事と言えようぞ!
「勝負は――」
――一瞬!
「『今この時!』」
ガストンの目が見開かれる。
視界に映る疲弊した仲間たち。
ガストンの回復まで己の全てを懸け、駆け抜いた仲間たちの軌跡と奇跡。
攻撃が止んだと理解するビリーの顔が笑みに染まる時、ガストンの顔もまた死人のソレとなって決意を見せる。
――とっておきだ。
「だそうだ」
そんなガストンの独り言のような言葉に、ビリーの目が、顔が硬直する。
正面に描かれる灼熱の魔術陣。今か今かと零れ出る煉獄の炎の一端は、発動者たるガストンの身体すらも焦がす。
ビリーの目に映る極大の炎は、かつてバディンがアズリーに向けて放ったソレを凌駕する。
「いっけぇえええええええええええええええええええええっ!!」
コノハの檄と同時にガストンの指が止まる。そして代わりに動く唇。
「『確かこうだったか? …………ほいのほいのほい……煉極地獄』」
彼の者に敬意を込め、描いた魔術陣は正に至高。
閃光のような炎は正面にいるビリーを一瞬にして呑み込んだ。
「がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!?!?!?」
ビリーの身体が焔の光に包まれ、そして影となる。
「『ほぉ、何とも円滑に描けるものだ。なるほど……神よ。この者の人生………………正に極上の幸福に満ちておったわ……!』」
身体中から噴き出る血液を目の当たりにして、肩に乗っていたコノハが静かに目を瞑る。
その端から流れる一滴の涙。
この時コノハは悟ったのだ。
ガストンの命もまた……――――燃え尽きたという事に。
皆は俯く。リナとフユは涙し、バルンは唇を噛み締めた。
気絶するオルネルの傍に座るマイガーは、そしてプラチナは、リッキーは、バラードは、眼前に立つ偉大な背中を忘れる事はないだろう。
魂までも燃やし尽くし、この場にいる全ての者を救った男を。
――男の名はガストン。
十二士最高の魔法士にして、焔の大魔法士と呼ばれた男である。
その肩では沈黙を守る使い魔コノハ。
主の命が散った今、彼の時間もまた残り少ないだろう。
「さぁ、帰って報告しないといけないなっ!」
すぐに笑顔を作ってそう言ったのは、ガストンの使い魔だった。
ガストンの身体から跳び下り、気絶するオルネルの胸元に立つコノハ。
「ほれほれ! 辛気臭い顔してるんじゃない! 帰ってヴィオラたちを安心させてやらなくちゃ! なっ!」
両手で顔を覆うリナは、泣き崩れるフユは、何も答えない。何も答えられないのだ。
「まったく……本当に困ったヤツらだな!」
両前脚を組んでむすっとして見せるコノハの声が、顔が歪む。
「ガストンしゃま……本当に……――」
「――黙れ! それ以上言うな!」
バラードの言葉を悲痛の叫びで止めるコノハ。
「糞爺は死なない! ご主人が死ぬはずないんだよ! うぅ……うわぁぁぁ……」
遂に想いは形となり、コノハの頬を伝った。それがどれほどの想いか……。
重く大きい雫は皆の瞳から無数に流れる。
それが、ガストンという偉大な男の大きさだったのだ。
「――――ナラバ、貴様ラ全員奴ノ下ヘ送ッテヤロウ……」
もう聞く事のない声だったはず。
偉大な男がその声もろとも屠ったはず。
皆は己が耳を疑いながら声がした方を見る。
未だ立っているガストンの遺体のその奥。
大きな火傷と大きな傷を負った悪魔がそこに立っていた。
止まる事のない恐怖。止まる事のない絶望。
そんな思いが、皆の心に過る。
「う……嘘だ……!」
震える声でコノハが叫ぶ。
「そんな……」
涙交じりのリナの言葉。
そんな事など意に介さない様子で、悪魔の口が大きく開かれる。
「駄目……だめっ……!」
フユの願いのような言葉は、一瞬にして消し飛ばされる。
光を伴った極大のブレスは――――――今しがた自分たちを救った男の亡骸を消し飛ばした。
「あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
光と共に消える主の身体に絶叫するコノハ。
コノハのそんな声を、心地よく聞くビリーは悪魔の如き笑みを浮かべる。
殺意と敵意に満ちたコノハの視線を嬉しそうに受け流すビリー。
「私が何と呼ばれていたか知っているか?」
ビリーが語り出す。
だが、誰も答える事はない。
最早、皆の抵抗は、ビリーに対する全ての拒絶しかなかったのだ。
「聖法士ビリー。そう呼ばれていたんだよ」
ビリーは宙図を始める。凄まじく早く、美しいとさえ思わせる宙図は、皆に闇という名の光を見せてビリーに降りかかる。
「ハイキュアー・アジャスト」
絶望は色濃く、皆の近くに歩み寄る。
死の大地に俯く彼らは、空を見る事が出来なかった。
希望は既にないと……悟ったから。
しかし、希望はやって来る。
見上げる事をしなかった空からやって来るのだ。
これは、神が語り……誰かが紡いだ物語。
紡ぐ主が大きければ大きい程、希望もまた大きく羽ばたくのだ。
「……何だ?」
ビリーが見上げる空には太陽。
しかし、薄目に見える太陽には小さな黒点。
やがて黒点は影となり、そして姿となる。その姿が太陽から外れ、ビリーが捉えた姿は……正に伝説。
伝説は――――光と共にやってきた。
ビリーの視線を振り切り、一瞬で着地する者。
それは、
「アォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!」
瞬間、リナが、フユが、バルンが気付き、オルネルが目を覚ます。
皆、知っているからだ。この独特の遠吠えの主を。
皆、信じているからだ。この独特の遠吠えを持つ使い魔とその主を。
リナは顔を上げる。僅かな希望に縋るように、涙に塗れた顔を、声の方に向けるのだ。
しかし、
「決まったな」
「何が『決まったな』よっ! どう考えてもおかしいじゃないのっ!」
「まーた始まりました。いい加減にしてくださいよ、二人とも……」
リナの目に映った姿は…………リナの知っている希望の姿ではなかった。
「黙れ二人とも……まだアレが終わっていない!」
「うっわっ。本当にどんだけよ。そんなんだからいつまで経ってもお子ちゃまなのよ!」
「ま、そうは言っても僕たちに彼は止められませんから……」
「ふん、父上の魔力を感じて駆け付けたはいいが……やはり父上はいない、か」
「当然です。まだここで会ってはいけないのですから。けれど、本当に懐かしい魔力でした……」
「ふん! いいからさっさとやりなさいよ! 敵さんの目、丸くなっちゃってるわよ!」
雄大な羽が広がる。
その姿、正に伝説。
その色、正に伝説。
…………その目に掛けられる異質なモノを除けば。
「ホントだっさーい」
「物持ち良すぎですよね……あのサングラス」
「ふっ、私は正義の味方だからな」
「毎回それを聞く身にもなって欲しいわよっ!」
「言って聞いたためしがありませんからね」
伝説は大きく息を吸う。
黒紫の身体を精一杯動かし、高らかに叫ぶのだ。
「チャッピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ仮めぇええええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっっ!!!!!!」
O・MA・TA・SE
今月も中旬に投稿した一話を含めて十話投稿が出来ました!
感想とかレビューとかお気に入りとか評価とかメッセージとか! 沢山待ってるから!
てな訳で! 「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」第八巻が3月15日に発売するよ!
詳細情報は、また後日の投稿や活動報告でご確認ください!
それでは皆さんご一緒に!
「チャッピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ仮めぇええええええええええええええええええええんっ!!!!!!」




