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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第一章 ~魔法大学編~

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030 出陣

 ―― 五月十日午前九時 魔法大学 ――


 中央校舎前の広場に集まった俺は、仮設のテントの下にいた。

 その真ん中に椅子はあるがガストンは座らない。どうやら臨戦態勢というかやる気満々らしい。

 ちょっとした紐で仕切りをしているが、その外は魔法大学に通う生徒達や戦士大学を抜け出して見に来ている生徒達も多い。

 リナやクラリスやアンリ、オルネル達もいる。久しぶりにドラガンやその弟子のエッグの姿も見られた。


「やあアズリー君」

「ウォレン会長、行かれるんですか?」

「国へのパイプを持つガストン様が行くのに行かない魔法士はいないでしょう。あなたが冒険者枠で行くと聞いた時は驚きましたよ。当大学の一年生でランクC以上がいたとは……いや、アズリー君なら当然なのかもしれませんが?」


 相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべる奴だ。

 これはおそらく俺が夜に寮を抜け出してる事はわかってるって顔だ。そう思えば寮の決まりを守っている奴って多いのだろうか?


「魔法大学生徒の括りだとあまり自由に動けないらしいですからね。なので私はこちらの方でやらせてもらいますよ」

「大学生は未来の宝、そう判断をするのでしょう。あなたの活躍、期待していますよ」


 そう言ってウォレンは去って行く。チラホラと魔法大学生と思われる人物がチラチラと俺を見ていくが、やはり一年生は俺だけのようだ。

 二年生で数名。これはおそらく特別に許可された人間たちだろう。

 三年生以上がやはり多数、四年生はほとんど参加しているみたいだな。

 これにベイラネーアにいる冒険者のCランク以上が加わり、今回の討伐隊の人数は三百人程だろう。


「おうアズリー、久しぶりだな! って言っても一週間程だがな。はっはっはっは」


 軽快なノリで俺に声を掛けたのはブルーツだった。

 その後ろには人垣をかき分けてブレイザーとベティーが現れた。


「お久しぶりです。また勉強させてもらいます」

「大躍進というやつだな」

「ふふふふ、勉強させてもらうよ。作戦参謀殿っ」

「ちょっ、勘弁してくださいよ……。本当にあれは不意打ちだったんですから……」


 おのれ、あのジジババ共め……。


「はっはっは、だろうと思ったぜ。あんまり前に前にって性格じゃないしな」

「我々も鼻が高いよ。いつか良い思いをさせてもらいたいものだね」


 珍しくブレイザーが俺をからかう。

 俺も仲間と認めてくれているみたいで、ブルーツの時とは違って少し嬉しいかもしれない。


「アズリー」

「なんですか、アイリーンさん?」

「えぇ、コイツがあの常成無敗のアイリーンかよっ!?」


 キッと軽口を叩いたブルーツを睨んだ。まあそうなるわな。

 ちょっとだけ怯むブルーツもまた珍しい。


「失礼、仲間の非礼をお詫びします、アイリーン殿。本日は宜しくお願いします」


 咄嗟に謝罪したのはブレイザー。それに倣ってベティーが頭を下げる。


「……いいわ。この人達かしら? アズリーと共に帰らずの迷宮に潜ったのは?」

「えぇ、皆さんランクAの頼りになる冒険者です」

「若干一名そうじゃなさそうなのも含まれてるみたいだけど?」


 ちらりとブルーツを見る。

 先程の失敗を取り消したそうな顔になるブルーツだが、やはり大人なようでそこから反論しようという事はなかった。


「そんな事ありませんよ。俺の……その、仲間ですから」

「……そう」


 アイリーンが少し悲しそうな表情をする。あれ、俺なんか変な事言ったか?

 すぐに表情を戻したから大丈夫……か。


「ランクAだったわね。あなた達、ちょっと来てくれるかしら? ランクAの冒険者に分隊長をお願いしたいのよ」

「はい。お手伝いさせて頂きます」

「アズリー、あなたも来てちょうだい」


 え、私ランクBなんですけど?


「ガストンの補佐をお願いしたいの。どうやらこの調子だと副官の私が一番隊になりそうなのよね」

「それは……思ったより人材がいないという事です?」

「そうなるわ。十の分隊に分けようと思ってたんだけど、ランクCばかりで分隊を任せられる人が少ないのよ。おそらく七か八の分隊がせいぜいでしょうね。ま、報酬と危険性を考えれば当然と言えば当然だけど……」


 ガッカリはしていないが拍子抜けしているような様子だ。

 この時期国の新兵教育期間になるので、そこまでベイラネーアに人材がいないというのは確かに理解出来る。

 だからこそガストンが休暇もとれたのだろう。

 それに……近隣にランクAのモンスターが増えているという事は、人知れず冒険者達がこの世から去っているのかもしれない。

 先日の笑う狐の一団の事もある。

 都会といえど、ここら辺は危険地帯となっているという事か。


 それから俺達はアイリーンに連れられて目ぼしい人材を探して回った。もっとも、名簿の中から探すだけなのですぐに見つかったわけだが。

 そして出発三十分前、再びテント下に集まった。


「ふむ、分隊長だけで見ればまともなのが揃った方ですかな」


 ビリーが言う。

 確かに繁忙期の中で急遽結成した討伐隊で見ればかなりまともな方だろう。


 第一分隊……六法士、常成無敗のアイリーン。他四十名。

 第二分隊……銀獅子のブレイザー。他四十名。

 第三分隊……ブルーツ。他四十名。

 第四分隊……聖法士ビリー。他五十名。

 第五分隊……ベティー。他四十名。

 第六分隊……黒帝ウォレン。他三十名。

 第七分隊……猛き赤剣ダラス。他三十名。

 第八分隊兼本隊……六法士、焔の大魔法士ガストン。作戦参謀のアズリー。他四十三名。


 ダラスという剣士は昨日締切ギリギリで参加表明をした冒険者だ。

 なんでもこの町に着いたばかりで歯ごたえのありそうな仕事を探していたという。冒険者ランクはAだが、限りなくSに近い実力だと旧知の間柄のビリーが言っていた。

 齢五十といったところで、額中央から右首元まで斜めに大きな斬り傷のある細身の男だ。

 ブレイザー達も名前は聞いた事があるようで、猛き赤剣ダラスはもっとも活躍している冒険者の一人という話だ。

 赤い剣というわけではなく、その剣はいつもモンスターの血で赤く染まっている事からそう言われているそうだ。

 実際話してみるとかなり無骨そうな感じで、仕事の話以外は無口……そんなタイプだと思われる。


「ふん、あの報酬で銀と赤剣が釣れるとは思わなんだ」

「ガストン殿は我々の事をご存知でしたか」

「銀のメンバー、ブレイザー、ブルーツ、ベティーの名前は聞き及んでいる。なんでもあの《白銀(しろがね)》から離れ結成したそうだな。アージェントが嘆いておったぞ」

「へー、ガストン様はアージェントの爺と知り合いだったか」


 ブレイザー達にそんな過去が?

 アージェント……確か十二士以外で数少ないランクSの一人と聞いた事がある。


「なに、昔の喧嘩仲間のようなものだ。それに赤剣も久しいのう」

「ガストン殿の名前とビリーの名前を見つけまして……」

「うむ、感謝する。そこの若いのもなかなかふてぶてしい顔をしておるな。確か……ウォレンと言ったか?」

「改めてご挨拶させて頂きます。ウォレンと申します、以後お見知りおきを」


 鋭い眼光で見るガストンだが、涼やかな表情でそれをかわすウォレン。

 それを茶化すようにブルーツが口笛をヒューと吹いた。


「面白い討伐隊になりそうだぜ」

「ふっ、結構。アズリー、経路の説明だ」

「はい、作戦参謀のアズリーです。よろしくお願いします。オーガ討伐隊の進路を説明します。ビリーさんの使い魔、アイ・ドールの情報によりますと、オーガ達はベイラネーアの西、丘陵地帯を越えた《深罪の森》と呼ばれる森にいると思われます。本来であれば全行程約半日、というところですが、慎重を期して一日掛けてそこへ向かうつもりです。こちらの接近に伴いオーガ達が動く事も想定し、先頭を歩くのは第二、第一、第三分隊。その後ろを第四、第五、第六分隊で進みます」

「俺の第七分隊はどうする?」


 ダラスが質問を挟む。当然の疑問だろうな。


「第八分隊の護衛をお願いします」

「護衛? ガストン殿をか?」


 六法士であるガストンは本来であれば護衛等必要ないだろうが、これには少し理由があるからだ。

 アイリーンが一歩前に出て説明を始める。


「守ってもらいたいのは他の隊員よ。第八分隊には戦力の心もとない者、主に学生を配しているわ。勿論彼等もお遊びのつもりはないだろうけど、何分温室育ちだからね」

「……なるほど」


 大人の事情というやつだ。

 当然この参加者の中には名誉の為にだとか、親に言われて参加する者もいる。少しでも子供の株を上げたいのだろう。

 そういった人間程死なせてはいけないものだ。その親達は貴族で、十二士会や魔法大学、戦士大学に多額の出資をしているわけだから。

 歯がゆいがこれも現実である故にガストンでさえ余り多くを言えない。そしてそれをすぐに理解したダラスも、その先は言わなかったのだ。


「勿論余裕が生まれれば遊撃隊として動いてもらう事も想定しています」

「理解した」

「アズリー君、どうやら私の分隊にも学生が多いようですが?」

「ウォレンさんのカリスマ性を考慮させて頂きました。それでいて成績優秀な方をアイリーンさんに選んで頂き構成させてもらいました」

「ほぉ、餅は餅屋……ですか。悪くないと思います」

「それでもウォレンの分隊とビリーの分隊は後方支援という役割よ。ベティーの分隊もそれのカバー。正面きっての戦闘は第一から第三に任せて頂戴」

「わかりました、アイリーン先生」


 クイと眼鏡を上げるウォレン。

 ベティーもそれにこくりと頷く。


「しかしインペリアルオーガはともかくクイーンとキングは俺やブレイザーじゃ多分無理だぜ? 下手に近づけば全滅なんて事にもなり得る」

「そうね」

「そうねっておい……」


 アイリーンの淡泊な返事にがくっと肩を落としたブルーツ。なんかそりが合わなそうな二人だな。

 いや、プライベートだと絶対に合わないな。


彼奴等(きゃつら)に限り、儂とビリーが対応する。キングはともかくクイーンは過去何回か狩った事があるからな」


 へえ、やはりランクSのモンスターはなんとかなりそうな物言いだ。

 そうなると問題はキングか……まあなるようになる……か。


「では、出発しましょう」


 ここまでまとまっての行動は初めてだが、六法士達の実力を見る良い機会だ。

 色々と吸収させてもらおう。

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