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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第九章 ~激動編~

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285 宣誓

2018/1/31 3話目の投稿です。ご注意ください。

「どぉおおお考えたっておかしいだろう!? 何で一万ゴルドもあったのに一夜で無くなるんだよ!? 一万ゴルドあれば魔法大学にだって入れるし、下手すりゃ人一人が一年食える金額だぞ!?」

「ひゅっひゅ~、だって私シベリアンヌ・ハスキーですしー! 魔法大学だって入らないですしー!」

「吹けない口笛で誤魔化そうとしてんじゃねぇよ!」

「じゃあ教えてくださいよ!」

「今そういう話をしてるんじゃねぇだろ!」

「じゃあその話は朝ご飯食べてからしましょう!」

「お()ぇのせいで財布が空っぽだこらぁ!」

「んまぁー!? マスター! 財布の紐はしっかり締めろとあれ程言ってたのに!?」

「どこのどいつのせいだと思ってるんだ!?」

「いつかマスターにちゃーんと教わりましたー! 使い魔の責任はマスターの責任だと!」

「その通りだよ! だからこうしてお説教してるんだよ!」

「お腹空きました! 責任とってください、馬鹿マスター!」

「俺もだよ犬ッコロ!」

「んもう~だからそんなにカッカしてたんですね~? 仕方がないです。今からちゃちゃっとモンスター討伐に行きましょう!」

「おう! そうだな!」


 ……あれ? 何で怒ってたんだっけ?

 まぁ、過去の事を気にしていたらどうしようもない。今はこの過去でどう生きるかが重要なんだ。


「お、今のいいな。これも賢者のすゝめに書いておこう」

「……大分ページが進みましたね、賢者のすゝめ」

「そうだろ~? 今のは過去を生きる俺だから生まれた言葉だな、うん」

「スゴイデスー」


 随分抑揚のない言葉だ。

 だが、ポチもこれについてはもう文句は言ってこないから楽に書く事が出来る。これも俺の教育の賜物だと言えるだろう。


「………………ふぅ、これで一万五千ゴルドだな」

「ツイてましたね、ランクAのモンスター討伐があって。たった一度の討伐でこれだけ得られるのは、やはり私がマスターを教育した賜物でしょう!」


 どこかで聞いたような言葉だ。


「それに、アイリーンさんから解放されて久しぶりの自由ですからね!」


 ポチが尻尾を振りながら喜ぶ。

 そりゃあそうだ。ここ一年ずっと緊張状態だったんだ。ポチビタンデッドでは回復出来ないような見えない疲れもあっただろう。

 昨日の魔王戦では特に頑張ってくれた。正直ポチがいなければ勝てなかった戦いだった。

 ………………昨日は贅沢させるって決めてたし、別に説教する必要もなかったかもしれないな。まぁ、限度って意味合いでは言いたい事もあったが、本来あの後、国をあげての礼もあったのだろう。

 なら昨日のアレは、もしかしたらポチには少なすぎる礼だったかもしれないな。


「それで、この後どうするおつもりですか? すぐにレガリアへ向かってしまうので?」

「とりあえず一旦ベイラネーアに戻って、ポチビタンデッドに必要な材料……まぁ瓶や果物だな。それを買って、食料を必要分買ってからだな」

「ではまず朝ご飯と昼ご飯ですね!」


 セットできたな。

 嬉しそうなポチと共に、俺はベイラネーアに戻り、食事と買い物を済ませた。

 ストアルームに買った物を入れ、ベイラネーアの北門まで来る頃にはもう日が傾き始めていた。


「むぅ、起きるのがもう少し早ければ昼に出られたんだが……」

「仕方ないですよ。昨日はそれだけ疲れてたって事ですから」


 空を見上げながら呟いた俺たちの後ろ、つまりベイラネーア側から聞こえる小さな足音。


「ま、待ちなさい!」


 その声に、ポチは風のように消え、俺は嫌々と振り返った。

 まさかこんなところまで追いかけて来るとは。


「ど、どうしたんです? アイリーンさん……」


 振り向いた先にいたのは、あのアイリーン。

 息を切らし、俺に声を掛けた後は、膝に手をついて俯くばかりだ。

 よっぽど急いで走って来たのだろうか?


「よ、ようやく……追い付いたわ!」


 息切れを言葉に見せないのは、やはりプライドが高いからだろうか?

 まぁ、現代のアイリーンもよく強がってたし、人間の性格はそんなに変わらないって事か。

 しかし、「追い付いた」と言ったな? もしかして街中で見かけてずっと追っていたのか?

 全然尾行に気付かなかったな。もしかして魔力をコントロールして押しとどめていた?

 だとしたらやはり魔力コントロールの才能が豊かだとしか言えないな。


「……ん!」


 アイリーンは、何か書状のような物を俺に向けてきた。

 はて? これを読めという事だろうか?


「ん!」


 どうやらそうらしい。

 俺は書状を受け取り、アイリーンの顔を窺いながらそれを開いた。


「っ!」

「ふん!」


 俺が持つ書状は、ランクE認定証だった。


「……驚きました。あれから一日ずっとモンスター討伐を?」

「そ、そんな事ないわ! 私が少し本気を出しただけよっ!」

『嘘ですね』

『嘘だな』


 ポチがいきなり念話連絡をしてきたが、俺は即座に反応した。

 大方、門の上にでも避難しながら俺たちの様子を見ているのだろう。

 俺もポチも、アイリーンの言っている事が嘘だとわかる理由があった。

 …………擦り傷、切り傷、髪の乱れっぷりが正直に身体に現れているのだ。

 近所のガキ大将と喧嘩してもここまで傷を負わないだろう。

 ……まったく、困った六法士候補もいたもんだな。


「これを見せるためにわざわざ?」

「……るわ」

「はい?」

「それ、あげるって言ってるの!」

「いや、流石にこれは大事な物なので――――」

「――――いーのよ! どうせすぐにランクなんて上がるし、保存の制約なんてないんだから! 私のストーカーなんでしょ! だったらそれを大事にしなさいって言ってるの!」


 何て強引なんだ。まぁ、これは俺がそう名乗ったのが原因かもしれないな。


「……わかりました。アイリーンさんのストーカーとして、これは私が大切に預かります」

「いつか私が有名になったら、それを持って来なさい! それに大きくサイン書いてあげるわ!」


 ……なるほど、自分に言い聞かせるより、人と約束した方が自らの努力に繋がると判断したのか。……無意識にな。


 俺は書状を丸めた後、アイリーンに頷いた。


「わかりました。その時が来たら必ずアイリーンさんの下へ行きます。カッコいいサインを宜しくお願いします」

「ふん! 任せなさい!」


 ドンと胸を張ったアイリーン。

 俺は最後の別れと思い、アイリーンの近くまで歩み寄った。


「な、何よっ?」


 ビクっとするアイリーンに、思わず微笑んでしまった俺の感情は間違っていないはずだ。

 さて、強烈に残すとなれば……やはり――、


「ほほい、ハイキュアー・アジャスト!」


 瞬時に回復するアイリーンの身体。

 先程まであった擦り傷、切り傷が消えた事で、不思議な感覚に陥っているようだ。

 ボサボサの髪の毛だけは直らないけどな。


「……これが、魔法……」

「凄いでしょう?」


 アイリーンの顔を覗き込んでそう言うと、


「たたたた大した事ないわよっ!」


 真っ赤になって顔を背けてしまった。

 ふむ? そんなに魔法の凄さが伝わらなかったかな? 失敗失敗。

 まぁ、全ては戦魔帝サガンに会わなくちゃ何もわからないし、何も始まらないしな。


「それではお別れです、アイリーンさん」

「っ! あ……! ぅ…………」


 はて? まだ何か言いたいのか?

 しかし、待てども待てどもアイリーンからの返答はなかった。

 仕方ないので、俺はアイリーンの手を握り、別れの握手とした。


「お元気で」


 俯くアイリーンの耳は、風邪でも引いてるのかと疑う程に真っ赤だった。


「十分元気よ……」


 俺が静かに手を離した時、ポチが門の上から降りて来た。

 瞬時に巨大化し、アイリーンが顔を上げる頃には、俺たちはアイリーンの視界から消えていた。


「負けないからっ!!」


 という、宣誓のような声を耳に残して。

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