283 一万ゴルドの行方
2017/12/31 本日三話目の更新です。ご注意ください。
歩く背中がぎこちない。
まるで亀のように遅い。
相当ビビっちまってるな、アイリーンのヤツ。
まぁ、そうなるように、なるべくわかりやすいモンスターを選んだんだけどな。
南西にある小さな森林に生息しているであろうグリーンドラゴン。はたして、この無知で勇敢で、だけどやっぱり無知なアイリーンにどんな印象を与えるのか。
それが楽しみでならない。
「性格悪そうな顔ですね~」
「これについては少々自覚はある」
「それはそれで問題だと思いますけど?」
「今のアイリーンの性格以上の事をしなくちゃ、多分アイリーンの感覚を変える事は出来ない。だからちょっとだけ過剰にアプローチするけど……まぁやり過ぎだと思ったらポチが止めてくれ」
この説明に、ポチは目を丸くした。
はて? 結構真面目に話したつもりだったが、変な事でも言ってしまったのだろうか?
「ふ、ふん! マスターに出来ない事は私がお世話するのは昔からずっとなんですー! そんなの変わる訳ないんですー!」
何だコイツ? そっぽを向いて……。
たまにポチの感情がわからなくなる。
やっぱり八百年一緒にいたとしても、わからない事はあるもんなんだな。
「さぁ、着きましたよ。アイリーンさん!」
「つつつつつ着いちゃったわねっ!」
いい感じに膝も笑ってらっしゃる。
ゾンビ相手では勢いで乗り切れても、相手が竜族ともなれば、反応はこうなって然るべきか。
ふむふむ、中々良い調子だぞ……おぉ?
「ひっ!?」
木々を揺らし、心無しか大地も揺れている。
人ならざるモノの体重である事は容易に想像出来る。
樹木の緑の中に紛れる緑色の身体。
「いましたね、グリーンドラゴンです」
俺が小声でそう耳打ちすると、アイリーンは貸したドリニウム・ロッドを強く握って……構え――――違う。しゃがんだ。
ふむ、完全に防御の姿勢だ。空から隕石でも降ってくるかのような……。
でも、ここでやめてしまうとアイリーンは後々痛い思いをし、最悪死んでしまうだろう。
今の性格を良い方向に活かすためには、少しの荒療治は必要だ。
「アイリーンさん、ほら! グリーンドラゴンは正面ですよ!」
「ば、馬鹿ぁ! 声が大きいわよ!」
そうは言っても…………もう目の前だぞ?
「グルルルルル…………」
竜族独特の低い威嚇音。
喉の奥から聞こえる震えたソレは、アイリーンを極限状態まで追い込んだ。
「ひっ! こ、来ないで! 来ないでよぉっ!」
ドリニウム・ロッドの末端を持ち、犬でも追っ払うかのような行動。
だが、グリーンドラゴンは犬なんかではない。
我が使い魔は犬で鳥で天獣だが、グリーンドラゴンは違うのだ。
「ガァアアアアアアアアアアアッ!!」
「…………っ!」
グリーンドラゴンの雄叫びを正面から浴びたアイリーンは……ついにその場でへたり込んでしまった。
この瞬間、ポチが俺にアイコンタクトを送ってきた。
確かにな……俺もここが引き際だと思う。
その意を伝えるため相槌を送ると、ポチはすぐさま行動を起こし、グリーンドラゴンの命を刈り取った。
「おし! ありがとうな、ポチ」
「いえ、しかしアイリーンさん大丈夫ですか、これ?」
「うーん、目を開けたまま気を失っているな? ちょっとやり過ぎだったか?」
「ん~…………ノーコメントです」
珍しくもポチははっきりした意見を言わなかった。
おそらく結果を見てから判断したいのだろう。
その後、俺はアイリーンを冒険者ギルドの宿のベッドへと運んだ。ポチを見張りに置き、ようやく本日の本命である自分たちのためのモンスター討伐が出来たのだ。
戦魔国のお金はほとんどポチズリー商店に置いてきてしまったからな。
数時間程で目標の一万ゴルドが貯まり、宿に戻った時、部屋のドアを開いた音でアイリーンが目覚めた。
「…………ここは?」
ふてぶてしくも、色々と悟ったような顔だ。
「冒険者ギルドの宿です。お加減いかがですか?」
「最悪……それに最低…………」
布団を鼻の頭まで被り、己の恥を後悔しているであろうアイリーン。
潤んだ瞳を隠すために、とうとうアイリーンは、頭まで布団を被ってしまう。
さて、最後の指導だな。
「そのままでいいので聞いてください」
アイリーンからの返答はない。
多分。泣き声を殺す事で精一杯なのだろう。
「冒険者の生活は、常に死と隣り合わせです。ランクFの依頼でさえ命を落とす冒険者もいます。今日、アイリーンさんが対峙したのはランクBのモンスター、グリーンドラゴンです。その牙は命を喰らい、その爪は命を引き裂く強力なモンスターです。安易な気持ちで乗り越えられるものではありません。ましてやパーティメンバーがいる中でパーティメンバーに相談せず行動を起こすのは全ての人間の死を引き寄せる行動とも言えます。今回、私は少しずるい方法を使いました。このお説教も自分を棚上げに言っている部分もあります。けれど、アイリーンさんが今後出会う人々に与えるのは、絶望よりも希望の方が似合うと思うんです。……死と隣り合わせだからこそ、何より、誰よりも生を願って生きているのが冒険者なんです。アイリーンさんも、そんな、人に希望を与え、誰よりも生を考えられる人間になって欲しいと思っています。焦らなくていいんです。ランクFの依頼は着実にこなし、ランクを上げればいいんです。ランクが上がって壁を感じたのであれば、一つ低いランクの依頼を徹底的に身体に染み込ませれば、確実にアイリーンさんの力になります。そして、いつか素晴らしい人間になってください。素敵な仲間と共に……」
嗚咽だけが響く中、俺はアイリーンにわかりやすい言葉を選び、精一杯伝えた。
この言葉がアイリーンに届くかはわからない。
だが、アイリーンがこれから送るであろう長い人生で、どれか一つでも糧となってくれれば、それでいいんだ。
「……五月蠅いわよ…………馬鹿っ……」
まったく、いつの返答なのやら……。
「部屋は一日とってあります。私たちはこれで失礼しますが、くれぐれもギルド員の方に迷惑は掛けないようにしてください」
そう言った後、ポチが先に部屋を出た。
俺もその後に続こうとした時、アイリーンの声が俺の足を止めた。
「ま、待ちなさいっ!」
布団は上げず、その中から聞こえる籠った声だ。
「喋る布団も珍しいですね」
最後に少しの皮肉を伝えると、アイリーンはがばっと起き上がり、布団から目だけ覗かせた。
「アナタ……名前は?」
おっと間違えた。
「性質の悪いストーカーですよ」
これが最後の皮肉だ。
ドアを閉め、アイリーンが投げたであろう枕がドア裏を叩くと、俺はポチと共に階下に降り、ギルドを後にした。
「……改めて聞くが、ちょっとやり過ぎだったか?」
「ん~、うん。あれなら大丈夫でしょう」
ポチは少し考えてからそう言った。
「やっぱりトラウマにならないかが心配だったのか?」
「えぇ、アイリーンさんが外に出られなくなっちゃったらそれこそ一大事ですからね」
「なってると思うぞ、トラウマ」
「えぇっ!? 本当ですかっ!?」
驚くポチが道端で立ち上がる。
「あのな、そのトラウマを克服するまでが大事なんだからな? それに、自分から飛び込んだ世界だ。あの程度のトラウマを克服出来ないようじゃ、冒険は出来ないさ」
「ほ、本当に大丈夫なんですか!?」
あたふたするポチを前に、俺は人差し指を立てて言ってやった。
「あんなに酷い思いをしたリナやティファが前を向いて歩いているんだ。アイリーンに出来ないはずないさ。それに何より――」
「――何より?」
「未来がそう物語ってる……ってね」
「あー、確かにそうですね!」
ようやく納得してくれたポチ。
直後、俺とポチのお腹から待ちわびたかのような巨大で長い腹の音が鳴った。
立ちながら自分のお腹を見つめる俺とポチ。
「まぁ、まずは――」
「魔王討伐を祝して――」
「「ご飯っ!!」」
ベイラネーア中に響いたかもしれないその声。
頑張ったポチ、そして自分へのご褒美を含め、贅を凝らした料理を手あたり次第に頼んだ日だった。
そしてやはりポチは…………最終的に俺の財布を空にしたのだった。
書いたぁあああああああああああああああああ!
書ききりました! とりあえず! 毎日更新とはいかないまでも、半月……毎日分は更新出来たかな!
新年も頑張って書きますからご安心くださいませ!
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全部嬉しいです! 皆さん大好き!
それでは皆様! よいお年を!
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