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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第九章 ~激動編~

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282 喜びのアズリー

2017/12/31 本日二話目の投稿です。ご注意ください。

 そうだ、戦魔帝サガン……。俺は彼に会わずに帰れないんだ。

 今、アイリーンが憧れているのはそのサガン。彼が戦士に重きを置いているからこそアイリーンの意志が揺るがない。

 なるほどなるほど。どうして息子の戦魔帝ヴァースが魔術を使えるのかと思ったら…………俺が教える事になるのか。

 ようやく繋がった。

 ダークエルフと呼ばれるエルフの姿が消えた現代で、魔術の痕跡があったのかがようやくわかった。

 だが、ならば何故俺はここでアイリーンと会った?

 アイリーンと会ったばかりとはいえ、一緒にモンスター討伐をする。ましてや戦いの手解きすら俺がすれば、現代のアイリーンの記憶に、多少なりとも残るのではないか?

 接触の理由は…………ただ俺に戦魔帝サガンの存在を気付かせるため?

 …………駄目だ。理由が理由を呼んでよくわからない状態になっている。

 疲れた頭で考えてたってどうしようもないだろう。

 ん? ……疲れた頭?


「あ……」

「どうしたんですか、マスター?」


 俺の反応に気付いたポチが声を掛ける。


「俺たち、何だかんだで魔王を倒してから一切休息をとっていないような気がして……ならない。ポチ君、間違っているかね?」

「はっ!? ま、間違っていません! 私の計算が間違っていなければ……およそ二十食の食べ損じがあると思います!!」


 一体どういう計算かはわからないが、それだけ俺の財布が助かっている事に違いない。

 でもまあ、ポチの場合、どんなに節約してもちゃんと帳尻合わすように食い切るから意味がないんだけどな。


「ちょっと、さっきから何喋ってるのよ? ゾンビ残り二匹、さっさとやっちゃうわよ!」


 どれだけ時間が経とうが、遡ろうが、アイリーンはアイリーンか。

 こうなったらとことん教えこんでやるか。

 この危ない時代だ。

 手を掛け過ぎて困るという事はないだろう。


「アイリーンさん、このゾンビの弱点がどこかわかりますか?」

「さっさと教えなさい!」


 ある意味間違ってないけど、意図を汲んでくれないのは指導者として寂しいものだ。


「ゾンビにも視覚があります。しかし、このゾンビの左目は確実に損傷しています」

「右から攻めればいいって事ね!」


 やっぱり勘はいいよな。

 でも、六法士になるだけの器ならそれもそうか。

 いや、もしかしてここのこの指導があったから、アイリーンの基礎が固まったのだろうか?


「次!」


 アグレッシブに討伐も出来るし、自分の欠点を上手く利用出来る。

 ふむ、ブライトやフェリスとは違った才能だな。


「お疲れ様でした。これでゾンビ討伐は終わりですね」

「後は冒険者ギルドに報告するだけね!」

「その通りです」


 鼻息荒く、しかし嬉しそうに両手を強く握るアイリーン。

 うーん、可愛さはこっちの時代の方があるよな。

 まあ八十近くにもなれば、そりゃ鋭さも増すか。

 というか、本当に八十近かった事に驚きだ。

 いくら魔力循環の法を使っていたとしても、あの若々しさはやはり性格とか世界の見方に理由があるのだろうか?

 面白い研究対象だが、今はこちらの方が先……か。


「どーしてランクEにならないのよ!? いえ、これだけ早く討伐が終わったんだから、ランクBくらいにしてくれてもおかしくないでしょう!?」

「えーと……あの、すみません」


 ギルドの受付員が困った顔でこちらを見てくる。

 違う、俺は保護者じゃない。そんな目で見ないでくれ。

 あーでも、ランクBか。

 ふむ? それは確かに面白いかもな。


「では、私はこれをお願いします」


 別のギルド員に依頼書を提示する。


「かしこまりました。……っ、ランクSとは素晴らしいですね。このベイラネーアで初めて見ました」

「ははは、恐縮です」

「ご武運を」

「ありがとうございます。さあアイリーンさん! 行きますよ!」

「あ、え、ちょ!? も、持つなーっ!」


 俺はバタつくアイリーンを片手に、冒険者ギルドを後にした。

 こういった猪突猛進な性格は武器だが、同時に危険も伴っている。

 ならば先にその恐怖を味わってもらう方が確実だ。


「ちょっと! 私は今忙しいの! 邪魔しないでよね!」


 さて、ここで小芝居の一つでも……。


「おっと」


 ドリニウム・ロッドをわざと落とすついでに、先程の討伐依頼書を落とす。

 ドリニウム・ロッドを拾うついでにアイリーンを地に下ろす。おそらく、視界に俺が落とした依頼書も入ってるはずだが……気付くかな?


「……ん?」


 よし、ちゃんと拾ったな。


「サア、アイリーンサン。ツギノイライハナンデショウ」


 完璧な俺の芝居は、ポチを爆笑させ、アイリーンに不敵な笑みを浮かべさせた。

 自分の芝居は流石だとは思うが、本当に大丈夫だろうか?


「ふふん! 次の依頼はランクBよ!」


 俺の依頼書を掲げて言い切ったな。

 まあ俺もそのつもりだから道化を演じて乗ってやるけどな。


「へぇ、ランクFの次はランクBですか。流石ですね、アイリーンさんっ!」


 ここでポチが俺の狙いに気付く。

「仕方ないですね、付き合ってあげますよ!」という目がいかにもという感じだ。


「スゴイ! アイリーンサンスバラシイデスー!」


 何て下手くそな演技だ。

 爆笑するところだったぞ。


「それで、次の討伐対象はどんなモンスターなんです?」


 俺の問いにアイリーンが戸惑う。

 すぐに依頼書と睨めっこだ。キツイ当たりこそされるものの、こういう仕草を見ると子供らしくて何でも許せてしまう。これを考えると、やはり子供の未来はしっかりと守ってやりたくなるものだ。

 そういやチャッピーは元気にしているだろうか?

 魔王を倒した後、少しでも会えたら良かったんだが……。


「グ、グリーン…………ドラゴンッ!?」


 物凄く驚いてらっしゃる。

 そんなアイリーンを見てニヤニヤ笑う俺に向かって、ポチが小走りで近付いて来た。


「ちょっとちょっとマスター! アイリーンさん、完全に固まっちゃいましたよっ?」


 小声で慌てるポチ。


「大丈夫大丈夫。いざとなったら助けるから。一番大事なのは、アイリーンがこの先生きていく上で、勇気と無謀の違いに自分で気付いてもらう事にある」

「だからと言って……流石に危ないでしょう?」

「魔王ルシファーとも渡り合った、大天獣のポチさんがいれば――」

「イチコロですー!」


 全部言い切る前に叫んだな、コイツ。

 互角とは言えないまでも、確かに渡り合ったし、間違いじゃないからな。

 まだご飯も食べてないし…………しっかりと稼いで、今夜はご馳走にしてやるか。


「グリーン……ドラゴン」

「森林に生息する四足歩行の陸戦型の竜族ですね。緑色の鱗の体表と、背骨の部分に濃いコケが生えているのが特徴です。正面からくる炎熱ブレスは中々厄介ですよ」

「ひ、火を吐くの!?」


 一々驚くところが面白いな。

 現代のアイリーンもこうならないだろうか?

 交換したいくらいだ。……いっその事連れて帰るか?

 が、そうもいかないから時間っての無情なんだよな。

 ふむ……このままこうしていてもあの爺さんは動きそうにないんだよなぁ。

 昔研究していた題材にソレ(、、)に含まれる内容には触れたが、イマイチ自信がないな。

 よし、後でポチに試してみるか。

 しっかし、どうにも動かないな、アイリーンは……。

 依頼書を焦りながらじっと見つめているばかりだ。


「さっ! ちゃっちゃとグリーンドラゴンを倒しに行きましょう!」

「ひゃぁ!?」


 背中をバシッと、しかし軽く叩いただけなのだが、アイリーンは身の丈程飛び上がった。

 使い魔という自分に慣れない頃のポチみたいで非常にからかい甲斐がある。実に結構だ。

 恐る恐る歩き始めるアイリーンの後ろを、俺とポチが付いて行く。


「何だか楽しそうですね、マスター?」

「わかるか? いやに懐かしくてな? ちょっと面白くなってきたんだ」

「私、マスターがそんな顔してる時、嫌な思いしかしてなかった気がします」

「最近じゃ真逆だけどな」

「はぁ……まぁアイリーンさんには良い薬かもしれませんね…………」


 そんなポチの溜め息を聞き、俺はにやにやと笑いながらその頭を撫でた。それはもう、ぐわんぐわんに。


「本当に大丈夫でしょうか……」

「頼りにしてるぞ、大天獣様!」

「大丈夫に決まってるじゃないですかっ!」


 始まりの地で生きる昔の俺よ…………。

 今日も俺は楽しく生きているぞ。

本日、後一話投稿予定です。

やばい、ビールが美味い……!

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