◆279 真面目な気持ち
2017/12/27 本日二話目の投稿です。ご注意ください。
―― 戦魔暦九十六年 六月二日 ――
アズリーが時を超えてから二年と二ヵ月。
ベイラネーアにあるポチズリー商店では、重大な事件が起こっていた。
「これが昨日届いたってか? か~っ。ついにお国さんも痺れを切らしたって訳か」
読んでいた羊皮紙を大食堂のテーブルに置くブルーツの顔は、呆れかえっていた。
「それだけ我々が有名になってしまったという事だろう」
腕を組み、目を閉じているブレイザー。
「しかし、これはあまりにも――」
「「――強引という他ないだろうな」」
ブレイザーの左右でライアンとツァルが呟く。
「銀……潰れちゃうの?」
寂しそうにナツが俯き、隣にいた春華がその肩に手を置く。
「そうではありんせん。そうではありんせんけれど、これはそう言ってるようにしか……」
「……国内で起きている解放軍関連の問題。その解決依頼。その場所は無数。それも同時期に……! 戦魔帝ヴァース様の勅令? そんなはずあるかい。絶対イシュタルからでしょう、これ!」
テーブルを叩きながら立ち上がるベティーに、ブレイザーが手を前に出す。
「よせ、ベティー。誰が何を聞いているかわからない」
声を荒げるベティーを制止するも、現状何かを打開出来る策はなかった。
そう、銀に届いた書状。それは、解放軍の鎮圧。それだけならばまだよかった。しかし、条文にはこうあった。
――銀における人的采配により、各地へ人員を派遣されたし――
無論、それに抗った場合の罰則もあった。
「解散は……嫌よね」
マナが俯きながらそう言った。
隣に座るリードが天井を仰ぐ。
「チタンデを作った事による弊害……か」
かつて激務に追われていた銀が、一向に潰れない。
その理由は、当然アズリーが残した製造書。それをララとツァルが解読したポチビタンデッドにあった。
ララが栽培する果物から果汁を。そして魔法公式を覚えたナツ、ティファ、ララで量産する。
そこまではよかった。
しかし、その維持を貫いた耐久力が、国の上層部から目を向けられる原因となったのだ。
現に、この国、戦魔国で生き残っている冒険者チームはかなりの数が減っている状況である。
「でも、それによって命が救われた事も確かです。あの時のあの状況を切り抜けるには……私たちにとってあれしかなかったのです」
レイナが振り返るように言い、アドルフが頷く。
「アズリーさんが残したチタンデの製造書がなければ、僕たちの命、そしてこのポチズリー商店の子供たちの命はありませんでした!」
椅子を倒しながら立ち上がるアドルフに、ライアンが微笑む。
すると、玄関の方から扉が開く音が聞こえた。
「「イデアとミドルスか」」
ツァルの指摘通り、大食堂に入って来たのはその二人だった。
「やっぱり冒険者ギルドにも手が回ってるみたいだね。ダンカンさんもどうにも出来ないみたいよ?」
「このままじゃ冒険者が孤立化しちまうよ。どうする、リーダーッ?」
イデアとミドルスの言葉はブレイザーに長い沈黙を与えた。
それどころか、全ての銀のメンバーが黙ってしまったのである。
俯く皆の顔を上げさせたのは……二人の乙女。
「何やってるのよ、大の大人が辛気臭い」
「先生! ミョウガが採れました! これで馬鹿美味い酢漬けが食べられます!」
腰に手を当て呆れた様子のティファと、笊に沢山のミョウガを載せたララだった。
「これティファ! 皆が深刻な時にその発言はどうなのだ!? この人間社会では長い物には巻かれよという言葉もあるでは――――」
「は?」
「――――何でもありません! これララ! そのミョウガの酢漬けというやつ! 本当に美味なのであろうな!? 吐いた唾は呑めぬぞ!? 狼王ガルムの爪と牙を前にしてその発言、取り消さぬであろうな!?」
「美味いどー!」
「フハハハハハハハハッ! ではララ! さっそく台所へ行くのだ! どれ、我が背後から深淵のエールを送ってやろう!」
「おーっ!」
ミョウガの笊を頭に載せて走って行くララ。そして豪快に笑いながらティファから去ろうとするタラヲ。の、尻尾を掴むティファ。
「フハッ!? あの……えっと、ティファよ。中々に痛いのだが?」
そんなタラヲの言葉を意に介さず、ティファは先ほどの言葉の先を続けた。
「国に言いなりになるのであれば、冒険者なんてやってられないわね」
ティファの煽るような言葉に、同郷のリードとマナがキツイ視線を送る。
「おいティファ。長の前だぞ」
「そうよ、ここはふざけていい場所じゃないわ」
「ふざけてるのはアンタたちでしょ。フォールタウンの皆が解散した以上、ライアンさんは既に長じゃない。それに、誰も意見出来ない中、率先して意見を出そうとする私が、この中で一番真面目よ」
「我の尻尾も真面目に千切れそうなのだが……」
「千切れたら回復してあげるから感謝しなさい」
「あ……ありがとうございます…………」
リードとマナはティファへの視線を動かさないまま、しかし何も言う事が出来なかった。
そんな中、テーブルに足を置いていたブルーツが、ティファを見る。
「そんじゃあ、その真面目な意見ってのを聞かせてもらおうか?」
「ティファがこれだけ言うのだ。何かあるのだろう?」
ブレイザーがブルーツに続き聞く。
すると、ティファが宙図を始めた。
「ほいのほい、ストアルーム!」
そして、その中から取り出したのは……大きな革袋。
それをテーブルに置くと、その独特な音によってライアンの片眉が上がった。
「その音…………お金だな。量から察するに二百万ゴルドはありそうだが?」
「二百万ゴルドって……」
口を押さえるようにして塞ぐレイナの隣で、ベティーがティファを見る。
「あのね、ティファ? いくら大金があったとしても、勅令には逆らえ――――」
「――――亡命よ」
「「っ!?」」
ティファが口にした言葉は余りにも唐突で、余りにも理解し難いものだった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいティファさん! 亡命ってどういう意味ですかっ!」
アドルフがティファに肉薄するも、強烈なデコピンによって弾かれる。
「あっつっ!?」
「亡命ってのは言葉が悪かったわ。冒険者ってのは自由なんだから他国に行こうとそれは自由の範疇に過ぎないわ。トウエッドにでも行って冒険者をすればいいじゃない。空間転移魔法だってあるのよ? 朝起きて顔洗って歯でも磨いたらものの五分でベイラネーア。これだけの条件が揃って動かない方がおかしいわ」
淡々とそう話したティファ。
それを聞くブルーツの口がポカンと開く。
「イシュタルだって他国に手を出せる訳じゃないでしょう。ダンカンさんにでも頼んで、『既に銀は戦魔国にいない』と連絡すれば、それ以上の事は出来ないはずよ」
「しかし、子供たちはどうする?」
リードの指摘にティファは透かさず反論する。
「依頼がきているのは銀に対してだけ。この中で銀のメンバーじゃないのは私とララだけど、イツキさえいればここは回るのよ。さっき確認とったけど、銀との契約を『ギョウムイタク』ってやつにすればここに残れるって話」
「それで……このお金は?」
マナが革袋を指差して聞く。
「トウエッドでの家代くらいにはなるでしょう。基盤が出来ればそこからお金を送ってくれればいいわ。向こうにだって冒険者ギルドはあるんだからね」
「「…………」」
皆に訪れる沈黙。
それはやがて意思となって向けられる。
そう、銀のリーダー、ブレイザーの顔に。
「……ティファ、昨夜は寝不足だったのか?」
流石のティファも、ブレイザーのこの指摘は予想していなかったのか、一瞬その顔がピクリと動く。
ティファの目の下の隈がそれを語っていたのだ。
「そ、そういえば昨晩は大変そうだったなティファよ! 何でもトウエッドの文化やその体系を調べるために我が遊んでいる間も調べ物を――――ぐぽっ!?」
ティファの拳を口の中に詰め込まれるタラヲ。
「……はぁ、ティファの言う通りかもしれないな。皆、明日ここを発つ準備をしておいてくれ」
「「おうっ!」」
食堂を揺らすような返事。
その後、恥ずかしそうなティファは、ムスッとしながら自室へ帰って行った。
その自室の前で、ドアに手を伸ばそうとしたその時、
「ティファ」
ティファを呼び止める声が聞こえた。
「っ!?」
そこに立っていたのは、フォールタウンの元……長。
先程の発言から、その目を直視出来ないティファの肩が優しくも逞しい手に包まれる。
「ありがとう……」
ライアンの一言。
その一言で、ティファの身体は震えた。
下唇から血が流れ、まるで自分を叱りつけているかのようだった。
そんなティファに微笑み、肩から手を離したライアンが背を向ける。
「……っ! 長っ!」
呼び止めたのは、先程自分が否定した呼び名。
「さっきは…………その……」
口籠るティファ。
そんなティファの脹脛に、ポンと置かれたタラヲの前脚。
まるで背中を押すような感覚。
「……ごめんなさい……」
絞り出すようにして呟いたティファの言葉。
背中でそれを受けたライアンが、再び微笑む。
その笑みが、嬉しそうな色を伴っている事は、ライアン自身にしかわからないだろう。
ライアンが去り、部屋に入ったティファとタラヲ。
「ほぉ、久しぶりに戻っても綺麗なままではないか! まぁ我々も間も無く寮に戻らねばならんがな! ふはははは! ベッドだ! ベッドは最高だぞ、ティファよ! ほれ、我が華麗なる跳躍を――――がぽぉっ!?」
先程より奥深くに詰め込まれるティファの拳。
「さっきから生意気よ、タラヲ……」
「……ふぁい」
タラヲを睨む視線は強かれど、その視線はいつも以上に長続きしなかった。
視線を外したティファは、小さな使い魔すら直視できずに再び呟くのだった。
「ありがと……」
目を丸くしたタラヲは、ただただ主から聞いた事のない単語を頭の中で反芻するだけだった。
「…………ほへぇ?」
高尾山でバッキバキの筋肉痛になった壱弐参。
野郎三人で焼肉を食べながら全員で「くっそ……くっそ……」と連呼するクリスマスを過ごしました。
13万文字の締切がようやく終わったので、今月はなんとか十五話更新出来そうですね・x・
今年も最後まで宜しくお願いします!
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