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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第九章 ~激動編~

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278 着いた時代は……

2017/12/27 本日一話目の投稿です。ご注意ください。

「か、看板が出てないだけかもしれないです!」

「外観からして違うだろ。おい、完全に不審者だっつーの! この!」


 俺は、外側の窓から中を覗こうとするポチを、引っ張りながら止めた。


「んにゃあああああああ! (うち)にー! 戻って来たんですー!!」

「猫みたいな鳴き声出してんじゃねーよ! ほら、こっち来い!」

「んもう! 子猫のように可愛いと言って欲しいにゃん!」

「とって付けたような語尾で媚びてんじゃねぇ! ウィンクもいらないから! 片耳も折らなくていい! 舌も出さない! もうないのかよ! そんなんで困るなよ!」

「ぷっぷー! たまには可愛いと言って欲しい乙女心は、やっぱりマスターにはわからないんですね!」


 コイツの場合、タイミングが完全に間違ってるから言えないだけなんだがな。

 さて、ここは一体いつの時代なんだ?

 街の名前はベイラネーアとなっているからそれ程昔という訳じゃなさそうだが…………体内時計の魔術だと時間しかわからないし、どこかで情報を探るってのが一番だろうな。

 だったら行くべきはやはり…………、


「冒険者ギルドですかー! 道中で『ここいつの時代ですかー!』って聞いたら完全に不審者ですもんね!」


 その言葉は、自分に返ってると何故わからないのだろうか。この不思議使い魔は……。

 やはり遠目ではわからなかったが、街並みも少し違う。どこがどうとは言えないが、人も雰囲気も……全てが違うんだ。


「よ、よし! ……入るぞ!」

「は、はい! ……入りましょう!」

「…………ポチから先に行くというのはどうだろう?」

「何言ってるんですか、マスターが先に行くべきでしょう?」

「いいじゃんかたまには! 俺だって怖い時があるんだよ!」

「マスターが怖いなら私はもっと怖いですよ! 入って掲示板見てすんごい怖い思いとかしちゃいますよ! 絶対!」


 ぬぅ…………ポチも薄々感付いているみたいだな。

 仕方ない、やっぱりここは俺が行くしかないか……!


「ちょっと邪魔よっ」


 はて? どこかで聞いた事のある声だ?

 俺とポチは聞き覚えのある声の方へ振り返った。


「いつまでそんな所で突っ立ってるのよ。入れないじゃない!」

「あ!」

「あ!」

「「あぁああああああああああああああああああっ!!」」


 俺が指を、ポチが前脚を向けた相手……それは、


「な、何よ……五月蠅いわねっ!」

「アイリーン!」

「アイリーンさんですー!」


 常成無敗のアイリーン様がそこに立っていたんだ。


「いやー、まさかね! そんな気がしてたんですよ! 大丈夫だって! うんうん、アイリーンさんお久しぶりですー!」


 ポチが駆け寄って跳びつこうとした瞬間、


「誰よアナタ?」


 時が………………止まった。

 ポチは、ほぼその状態のままくるりと反転し、俺に跳びついてきた。


「あの人違う人ですぅうううううう……うぅ……っ!」

「泣きつくんじゃねぇよ。おい、鼻水! おいぃいいいい!」

「どこで私の名前を知ったのか知らないけど、アナタたち、性質(たち)の悪いストーカーか何か?」


 なるほど、名前は合っている…………という事は俺と会う数年前って事か?

 いや、それだとしたら俺が入学してきた時に気が付くんじゃないか? それを言えない何かがあった? いや、これまでのアイリーンとの会話でそんな事はなかった。

 と、いう事は……?


「まぁいいわ、私はこれからドンドン有名になっていくんだからね。手始め(、、、)に冒険者ギルドに来てみたら何? 既にファンがいるとは驚きよね。でもまぁ、私は忙しいの。アナタたち如きに止められる私じゃないわっ……ふん!」


 そう言ってアイリーンは俺を横切って冒険者ギルドのドアを開けて入って行った。


「今、何て言ってた?」

「手始めに冒険者ギルドに来たって言ってましたね」

「手始めって意味知ってるか?」

「第一歩を踏む時に使う言葉だと理解しています」

「アイリーンが」

「第一歩」

「その第一歩が……」

「冒険者ギルド……」


 俺とポチは冒険者ギルドの看板を見上げ、頭を抱え始めてしまった。


「そういやアイリーンって魔力循環の法で容姿はずっとあのままなんだよな……」

「ガストンさんと同級生とか聞いた事あります……」

「あれ何歳くらいだろう……」

「そういえばちょっと喋り方も幼かった気がします……」


 俺とポチは目頭を押さえながら考え、止まりそうな思考を何とか動かそうと色々思い出した後、ただただ見つめ合った。


「「はぁ~~~~…………」」


 深く吐いた溜め息。

 俺とポチの見事に同調したその息は、何かの諦めを含んでいた。


「とりあえず……」

「入りますか……」


 ドアベルの音よりも大きく聞こえたのは少女の声。

 その声は明らかに怒っていて、明らかに不満そうだった。


「だーかーらー! 何で私がランクFなのよ!? 才気溢れるこの私の底知れない魔力がわからないのっ!」


 物凄い言い分を(わめ)くのは、未来の六法士、アイリーンさんだった。

 やっぱりそんな時代かー。


「マスターマスター! ちょっとこれ見てください!」


 ポチはアイリーンに関わろうとせずに、依頼書がある掲示板まで走っていた。

 そんなポチが示すのは「新規依頼」のコーナー。


「はぁ~、これから何をすればいいんですかねぇ?」


 なるほどな…………。


「戦魔暦二十八年……六月か」


 俺たちが時代を跳び越えた時が……戦魔暦九十四年。って事はおよそ六十六年前って事か?

 こんな時代に、神は一体俺たちに何をさせようっていうんだ?


「むむむ…………四! あ、いや、五十六年前ですかね!?」

「あ、うん。それでいいや」


 説明が面倒だし。


「さてポチ君」

「何でしょうマスター?」

「知らない時代ではないが、ここには俺たちがやらないといけない事があるからこそ飛ばされて来た訳だ」

「まぁそういう事になるんでしょう」

「前回の時もそうだったが、こういう時、何をすべきか? それはやっぱり、どうしても…………決まってる訳だ。はぁ……」


 溜め息を吐く俺を見て、ポチが気付く。


「やっぱり…………そうなっちゃいますよねぇ……」

「俺たちに必要なもの――」

「――それは」

「「お金っ!!」」


 互いに見合って言い切ったこの言葉。

 幸いここは冒険者ギルドだ。何らかしらの討伐をやれば当面のお金は稼げるだろう。

 何たって俺はランクS。一万ゴルドもあれば、しばらく楽な暮らしが出来るはず。


「あ、ちょうどいいところにいたわね、アナタたち!」

「……へ?」

「……え?」


 振り返って聞こえたのは受付で揉めていたお嬢ちゃん。


「丁度いいわ。アナタたち弱くはなさそうだからちょっと手伝いなさい」

「へ?」

「え?」


 何を言っているのだろうこの子は?

 いくら何でもランクFのアイリーンを連れ回す訳にはいかないだろう。

 それに、密接な関係にでもなれば、現代のアイリーンの記憶に齟齬が生じるんじゃないか?


「じゃあここにサインして頂戴」

「え、あ、いや。そういうのはちょっと――」

「――いいから書くの!」

「「あ、はい」」


 気が付いたら、何かよくわからない契約書にサインを書かされていた。


「大丈夫大丈夫! 私がランクDくらいになるまでの辛抱よっ!」


 おかしい。

 おかしいと思いつつも、俺とポチは、アイリーンに街の中で引きずられていた。


「マスターマスター!」

「何だよポチ?」

「アイリーンさん、凄い腕力ですね!」


 そういう問題じゃねぇよ。

 まぁ見た感じ十歳前後なのによくやるよな。俺とポチ、合わせたらきっと百キロ近くはあるはずなんだが?

 やっぱり才能は肉体にも表れるって事か。

 ふむ、これも賢者のすゝめに書いておこう。


「さぁ! ちゃっちゃと行くわよ、ゾンビ退治!」


 俺たちは、連れ回すどころか、連れ回されるためにこの時代に呼ばれたのかもしれない。

連続で投稿するので、数分で更新されると思います。




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