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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第九章 ~激動編~

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◆277 不安な前日

 夜も深くなった頃、王都守護魔法兵団の寮の扉から外へ出る者が一人。

 鍛錬場への渡り廊下に出ると、春先の寒さからか両肩を抱える。そして、外の空気を取り込もうと、大きく深呼吸する。

 兵士という立場だが、その身体は華奢で、しかし逞しい空気を持っていた。

 雲から顔を覗かせた月明りが渡り廊下を照らし、やがてその者の顔を照らしていく。


「はぁ~~……」


 静かなる魔法士(サイレントウィッチ)と呼ばれるリナの姿がそこにあった。

 美しい円を描く(おぼろ)月。鮮明ではなく、けれど不鮮明でもなく。そんな滲む光をしばらく見つめるリナ。

 胸元のキーペンダントを握り、小さく結ぶ口元をなぞって、どこか心配そうな面持ちである。


「眠れぬのか?」


 背後に現れた一人の男。

 男というにはあまりに小さく。リナすら視線を下げるような小さき男。その声は太くしゃがれ、だが、リナの顔を平静に戻すだけの力を持っていた。


「ガストン様……」


 気配が無く現れたガストンだったが、リナが驚く事はなかった。

 ガストンが夜中に歩いている事があると、兵士の中で噂になる程だからである。

 本来であれば規律の問題からリナはガストンに怒られるはずなのだが、ガストンは知っていた。

 リナがふざけてこのような事をするはずがないと。


「えぇ、ちょっと…………明日の事が心配で……」

「ランクSSモンスター討伐……か」


 そう、夜が明けて向かう先はリナにとって初めての相手。

 無論、そのせいもあって、本日まともに寝られる新兵は多くない。


「イシュタル……殿の命とはいえ、儂が指揮をとるのだ。そう焦る事もあるまい。それとも小僧(、、)がおらんと心配か?」

「そ、そんな事ないです…………けど」


 そんなリナの反応に、ガストンはにやりと笑ってからリナの隣へ一歩前へ出た。

 ガストンは月を見つめた後、リナの肩をぽんと叩き、そしてその手を置く。


「何、今回連れて行くのは精鋭揃い。それはお主もわかっていよう。オルネルもジャンヌもヴィオラもフユも……そしてお主、リナだっている。この布陣で遅れをとるようでは王都なぞ守れぬぞ?」

「それは勿論……わかってはいるんですが……」


 珍しく弱気なリナを見て、ガストンが首を傾げる。


「何かあるのか?」

「いえ、ただ嫌な予感がして……」


 その先を告げず、リナは俯いたまま黙ってしまった。


「そうか」


 そしてガストンは、少し頭を悩ませたまま顎をひと揉みした。


「ふむ、それでは今度……儂のお気に入りの店に連れてってやろう」

「ふぇ?」

「長年付き合いがある甘味処でな。暇があれば行ってる程よ。しかし、前にフユに見つかってしまって稀に鉢合わせするのが難点だがな」

「あぁ、はい……」

「そうだ、フユと三人で行くのはどうだろう? さすれば、お主も気が紛れよう」


 そんなガストンの誘いに、リナは目を丸くする事しか出来なかった。

 そして、その意図に気付くと、リナは少し剥れた顔になりガストンをじとっと見つめた。


「あー、それって子供をあやすような言い方ですねぇ? 明日おやつあげるから早く寝なさい! ってやつっ。もうっ、飴に釣られなくたってちゃんと眠れますよー?」


 むーっと唸るリナに、ガストンが苦笑する。


「ふふふふ、バレてしまったか……」

「それに、不安なのは明日なのに、何でその後にご褒美なんですかっ。それなら普通今ですよ。い、ま。あ、そうだ。ガストン様、今、何かください」


 きょとんとするガストン。

 珍しく強請(ねだ)って見せたリナに、少々驚いた様子だった。


「い、今……か。……ふむ?」


 ガストンは自分のローブの至るところをポンポンと叩き、その何かを探している。


「むっ」


 ガストンは、その言葉とともにポケットから何かを取り出した。


「これはどうだ?」

「……これは?」

「先代の戦魔帝サガン様よりもらった金の指輪よ。この年になると何かと面倒でな。いつの間にか持ち歩くだけになってしまった」

「ちょちょちょっとっ? だ、駄目ですよっ。何でそんな大事な物を渡そうとするんですかっ!」


 戦魔帝と聞き、リナの端正な顔はひきつる程の衝撃を受けたようだった。

 そんなリナをしっかりと見据え、ガストンは再び笑った。


「大事な物(ゆえ)、次世代の要のお主に託す。そうは思えぬか?」


 にやりとしたガストンを見て、言葉に詰まってしまったリナ。


「ず、ずるいですよぅ……」

「こんな夜更けに老人に物を強請(ねだ)る方がずるかろう」

「あ、それはそうでした」


 ぽんと手を叩いてそう言ったリナは、ガストンと一緒にくすりと笑った。


「それじゃあ…………ほ、本当にもらっていいんです?」

「指には合わないだろうから、そのペンダントと一緒に着けておくがいい」

「ありがとうございます。うふふ……」

「何だ? そんなに嬉しいのか?」

「そりゃあ嬉しいですよ。国を代表する方から……いえ…………」

「何だ?」


 言葉を止めたリナに、ガストンは首を傾げる。


「ん~、内緒ですっ。流石に怒られちゃいますから」

「言わない方が不敬ととられる場合もあるのだぞ? それに、儂は今までリナに怒った事はなかろう。無論、怒る内容がなかったというのも正しいが……」


 これまでのリナとの思い出を振り返りながらガストンが言った。

 リナもリナで、ガストンの指摘を受け、回答に困った様子だ。

 そしてリナはポンと手を鳴らした後――――


「なっ!?」


 ガストンの耳元でぼそりと呟いた後、渡り廊下の端の方へ小走りで行ってしまった。

 そして最後に一度振り返り、小声で「おやすみなさーい」と、しかしガストンに届くように言った後、角を曲がって行ってしまったのだ。

 ぽつんと立つガストンの後ろから、鼻歌混じりで現れる小動物。


「ふ~ん。ふっふふ~ん♪ ……おや? そんなところで何を突っ立ってるんです? ご主人」


 ガストンの使い魔、鼠のコノハが現れた。

 コノハがガストンにそう尋ねるも、ガストンは黙ったままである。

 小首を傾げたコノハは、ガストンの背後から正面へ回ってみる。


「ご主人、熱でもあるのか? 顔がほんのりと赤いが?」

「む……おぉ、コノハか。う、ゴホン。何でもないぞ」

「むぅ……本当に大丈夫か? 明日の討伐、延期するという手も――――」

「――――気にするな。それより…………コノハ、一つお主に聞きたい事がある」


 真に迫るガストンの言葉に、コノハも神妙な面持ちになる。


「な、何でも聞いてくれ……ご主人」

「儂は…………――」


 固唾を呑むコノハは、ガストンの言葉を待つ。


「――リナの父親のように見えるか?」

「…………………………へ?」


 目を丸くして固まったコノハを前に、ガストンは言葉を続けた。


「無論、リナだけではないが、確かにここの連中とはそれ程の歳の開きがある。それは儂も重々承知よ。だが、儂は厳しい指導者だけではなく、そういった一面でも見られているのかもしれない…………とな。そう思う訳だ。そして、そんな儂がそう思うからこそ、連中の中にもそう思う者もいるのではないか。そういう事だ。決して誰かから言われたとかそういう訳ではない。あくまでも純粋な疑問だ」


 矢継早に言われたコノハだったが、未だ頭の整理が追いついていないようだ。


「ふぅ、何だか暑い。風呂に浸かり過ぎたかもしれんな」


 ローブをパタつかせ、あまり感じた事のない身体の火照りに、ガストンも戸惑っている様子だ。

 そして、ようやく理解が追いついたコノハが、先程のリナのように前脚をポンと叩いた。


「ご主人がどう思ってるかというのは理解出来た。安心しろ。私は周りの連中が、ご主人に対してどう思っているか知っている」

「ほぉ、それは一体?」


 興味深々の様子で、コノハに顔を近付けるガストン。

 すると、コノハは指を一本立てて、淡々と言った。


「クソジジイ」


 夜も深い春先の朧月の下。

 第三千八百九十回、ガストンとコノハの口喧嘩が始まった瞬間だった。

壱弐参の12月24日の予定

高尾山。一人で。

⇒快活に登山者に挨拶をしまくる。

後輩声優の舞台観劇。一人で。

⇒何故か後輩にハッピーターンをもらう。

居酒屋。一人で。

⇒注文した寒ブリの数がメニューに載ってる数と合わない。

電車で最寄り駅へ。当然一人。

⇒朝の疲れからか寝過ごして知らない駅に。

カラオケ。至高の一人。

⇒サビ一番の盛り上がりで電話が鳴る。

これからツイキャス。タイトルは「メリークソリマス」。

=壱弐参のハッピーはターンしてどこかへ消えた模様です。


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