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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第一章 ~魔法大学編~

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028 災難

 いやいや、俺より若いとは言え、高齢な二人と……アイリーン。

 って事はアイリーンはそれくらいの年齢って事なんだろうか?


「我々の関係の事かなアズリー君?」

「あ、派閥が分かれているので気になってしまって」

「魔法大学のOBとOGというやつだ。アイリーンとビリーは同級生でな。共に潰し合ったものだ」


 潰し合うとか怖い話だな。


「私以外は爺になっちゃったけどね」


 アイリーンがふふんと鼻を鳴らす。


「ぬかせ、お主も婆じゃろうが。魔力循環の活性維持なんてもんを学生時に見つけおって……」

「何言うのよ。年老いた世界が見えない以上、私の若さはほぼあの当時のままよ」

「ふん、若い姿のまま死んでいく事を考えてないのか? さぞ滑稽だろうな」

「死なないわ、それまでに絶対《悠久の雫》を作って見せるんだから」


 おっと、あまり関わりたくない話題だな。

 なるほど、魔力循環の活性維持をしていても、老い……と言うより寿命はあるって事か。


「まあまあ二人共、今はアズリー君を丸裸にしなくてはいけないのだろう?」

「ふん、そうだったな」


 むすっとしたアイリーンとガストンがこちらに顔を向ける。

 むぅ、あまり見ないで頂きたい。


「さて、こういった砕けた話が出た後でなんだが、実はアズリー君に聞きたい事があるんだ。丸裸の話は忘れてくれて構わない」

「聞きたい事? 何でしょうビリーさん?」

「以前私と行動を共にした時、オーガの話をしたわね?」


 ビリーではなくアイリーンが答える。

 あぁ、そう言えばそんな話をしたな。オーガの集団行動がどうだとか俺が言って、アイリーンがそれを知らなくて驚いてたやつか。


「小僧、お主オーガが徒党を組むとアイリーンに言ったそうだな?」

「えぇ、あくまで予想の範囲を出ませんが……」

「なるほど予想とな……ふふふ、まぁよい。その予想とやらを詳しく聞きたい」

「そんなに面白いものでは――」


 そう言いかけたところでガストンが「かまわぬ」と、言葉を切った。

 威圧感十分。ビリーはともかくアイリーンなんかとは訳が違う。王都で『守護魔法兵団』をまとめあげているだけはある。


「……では、細かい話は省きますがお話しさせて頂きます。ランクCに位置するモンスター『オーガ』は、本来集団で行動する事はありません。ランクBのオーガファイター、ランクAのインペリアルオーガも同様です。基本的には単独行動で動きます」

「例外っていうケースがあるって事ね?」

「その通りです。勿論、奇行という場合もなくはないですが、多くの場合『統率する者が現れる』という条件で、その行動を変化させます」

「統率する者……」


 ビリーが顎先に手を当て考えている。

 答えは出ているようだが、その目が俺の話の先を求めていた。


「ランクSの『オーガクイーン』、そして全てのオーガを統率するランクSS、『オーガキング』……この二体が揃っていれば、全てのオーガが協力し合い、目的の為に徒党を組む、と……俺は考えています」

「なるほどな。オーガの(おさ)共が動いていればその限りではなくなる……か。ビリー、どう思う?」

「一度調査……という段階では既にないな」


 ん、何の話をしているんだ?


「あの、どういう事です? 調査の段階じゃないって……?」

「あなたが帰らずの迷宮に向かっている間に、ビリーがオーガに出会ったのよ」

「正確にはオーガファイターとインペリアルオーガの二体ですが……ふはは、一遍(いっぺん)に二体現れた時は驚いたよ」

「ちょ、本当ですかっ?」


 目で肯定するビリー。

 注意した方がいいとは思っていたが、この近辺にオーガファイターとインペリアルオーガが出たとなれば、ベイラネーアの周り……いや、ベイラネーアに被害が出る可能性がある。


「ふん、理解したようね。どれほどの規模かは見当がつかないけど、近日中に六法士直轄の討伐隊が組まれるわ。指揮はガストン、副官に私が付くわ」

「せっかくの休暇だったのだが……仕方あるまい」

「私も同行させてもらう予定だ」

「それは良かった……あ、しかし、ここベイラネーアの守りはどうするんですか? それに、まだどこにいるかもわかってないんじゃ?」

「安心しろ、ここの守りは戦士大学に一任する。そして、ビリーは何の(すべ)もなく戻ってはいない。ビリーの使い魔『アイ・ドール』のターゲット能力を使えば根城がわかる」

「アイ・ドールってあの……」

「ははは、躾が大変だったけどね」


 ビリーが照れくさそうに話す。

 アイ・ドール……別名『魔王の(しもべ)』と呼ばれるモンスターだ。魔王の本拠地には無数に存在し、侵入者達の所在を、魔王やその部下達に知らせる役目を担っている。


「明日、町にその知らせを入れて討伐隊の参加も募るわ。一定人数に達したら出発する予定だからしっかりと準備しておきなさい」


「「えっ?」」


 俺と同時に反応したのは、最良質の毛皮を持つポチだった。

 互いに顔を見合わせていると、アイリーンがその先を続けた。


「オーガの習性に詳しく、魔法大学生学生自治会書記、使い魔はレベル100……その上ランクBの冒険者。参加資格は十分じゃない?」

「いえ、俺が聞きたいのは俺の意思の話をですね――」

「意思とは無関係に物事は進んでいくものだぞ小僧?」


 有無を言わせぬ圧力――が三人から漂ってくる。

 これを受け流せる意思や胆力は…………俺にはなかった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 六法士二人に回復魔法の権威……この三人との食事を終えた俺は、自分の部屋に戻ってベッドに身を預けていた。疲れた――というより脱力感が酷い。

 それほどあの場の緊張は俺にとって、俺の体にとっては珍しい出来事だった。


「いやー、圧巻って感じの三人でしたねー! アイリーンさんも一人なら問題ないですけど、ガストンさんにビリーさんが加わるとやはり六法士って感じがでますよ!」


 ポチがベッドの前にちょこんと座りながら話す。


「つーかなんだよポチ! お前、終始無言だったじゃないか!」

「そりゃマスターより一歩後ろで控えるのが使い魔の務めですもん」

「もんじゃねーよ! どう見てもあれは敵だ! ならばマスターの前に立つのが使い魔の務めだろうが!」

「あ、使い魔を使っちゃうような発言ですね! 使い魔を守ってこその主でしょう!」


 ああ言えばこう言う我が使い魔。使い魔は主に似るという話が昔からあるが、ここまで似てない使い魔も珍しいだろう。

 しかし、オーガの動きが活発になったのは何故だ?

 やはり魔王復活の前兆だろうか。聖戦士の誕生が当てに出来ない今、六法士や六勇士とのコネクションを作っておくのは悪くはない。そもそも魔王が復活すれば互いに協力するかもしれないが、準備は早いに越したことはないだろう。

 アイリーンにドラガンにガストンか……こう考えればあの黒帝と近い場所にいれる状況は結果的に良かったのか。次期六法士筆頭だ、少なからずそういった繋がりも必要だろうしな。


 俺はポチとのやり取りを終えると、ポチの腹枕で目を閉じた。瞼越し光が入らない時間、自分の鼻息とポチのそれが部屋の片隅だけで聞こえる。

 ポチもまだ寝ていないのだろう。いつもの寝息が聞こえてこない。

 ランクSはともかくランクSSのモンスターか。

 かつての聖戦士はこのランクSSのモンスターが取り巻く魔王相手に、勇猛果敢に飛び掛かっていったとされている。冒険者ギルドの最大ランクはS。このランク制度はモンスターのランクと比例している。つまり、ランクSの冒険者であればランクSのモンスター相当、もしくは倒せる実力という事だ。今日会った三人は勿論ランクSだろうが、果たしてランクSSのモンスターを前にして倒す事が出来るのだろうか? 勿論、あの三人がランクS以上の実力がないとも言い切れないし、今日のあの反応を見れば手こずりそうな印象を受けなかった。一人では手に余っても複数人なら問題ないという事なのか……。


「……大丈夫ですよ、マスターと私にかかればオーガ達なんてイチコロです」

「なんだ、俺の考えてる事がわかったのか?」

「ふふふ、何年一緒にいると思ってるんですか。八百年ですよ八百年」

「なるほど……八百年一緒にいれば相手の思考もわかる、か」

「それだけでわかったら苦労はしないですよ。前にマスターが研究したじゃないですか? 人と生涯連れ添っても相手の1%でも理解する事が出来ればそれは最大の伴侶と言えるって」

「あぁ、そう言えばそんな事もあったなー。相手の好き嫌いや癖や趣向なんてほんの0.003%程……。感じてる温度や服の着心地の良し悪し、視界に入ってる情報……そんな事でもわからない限り相手をわかってやる事なんて出来ないってな。我ながらくだらない研究をしたもんだ……最近は一日が長くは感じるが、時間がないからな……」

「ふふ、明日からも忙しい日々が続きますね……」

「……あぁ、おやすみポチ」

「おやすみなさいマスター……」

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