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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第一章 ~魔法大学編~

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027 二つ返事と毛皮

毎回多少そうですが、今回はコメディ回です。

 ―― 五月三日 午後四時 教室 ――


 帰らずの迷宮から戻って四日が経った。ポチやベティーの怪我も大した事もなく、帰路で笑う狐の攻撃に遭う事もなかった。

 ブレイザー達はしばらくこの町を拠点に活動するそうだ。今回の報酬である程度学費を貯める事は出来たが、まだギルドに行く事はあるだろう。

 また顔を合わせる時を楽しみにしよう。


 そういえば、入学して一ヶ月が経つ。

 肝心の学業に関しては、歴史以外覚える事がほとんど無いという不思議現象が起きて授業中は退屈極まりない。

 俺の隣……というか足元でこうしてスヤスヤと眠れる我が使い魔が羨ましい。


「すーすー……ふふ、マスター。それはトマトジュースじゃなくて廃油ですよぅ。そんなに美味しそうに飲んで……ふふふ」


 夢とはいえ、(あるじ)に対してなんてものを飲ませるんだ、こいつの脳みそは。


「ではアズリーさん。この『魔術』に関して……これが古代魔法と言われる理由を、考えられる範囲で答えてください」

「はい……まず、魔術が退廃してから三千年もの年月が経っている事。残っている書物や記録は少なく、実際に使える者はほとんどいないと思われます。また、魔術を扱ったり提供していた固有種族『ダークエルフ』との交流が一切ない為だと推測出来ます」


 担任のトレースが頷く。


「結構です。今アズリーさんが言ったように、魔術を扱える者は非常に少なくなっています。現存する魔法士の中では六法士の焔の大魔法士ガストン様、そして《戦魔帝ヴァース》様のみです。また、ダークエルフとの交流が無い事に関しては多少誤りがあります。交流がないのではなく、ダークエルフは古代の大戦で滅亡したと考えられている為です」


 俺の回答の補足と指摘、ある程度の正解とある程度の間違い。これを繰り返す事によって俺の平凡さをアピールしているのだ。

 首席でアイリーンを困らせ、学生自治会に抜擢されてしまった俺としては、出来るだけ目立ちたくないという小さな願いがあるのだ。ランクBの冒険者だと知られてしまってから微妙だったいじめ活動はなりを潜めた。しかし、やはりまだ視線が突き刺さる機会が多いような気がする。

 フォールタウンの事も調べたいので可能な限り細々とやりたいものだ。


 リナには俺が使う魔術について黙ってもらっている。なんとなく理由は察してくれたので、何も言わずにこくりと頷いていた。


「では、本日の講義を終わります。アズリーさん、アイリーン様が呼んでいましたので、私に付いて来てください」


 ……無理なのは知っていたがな。

 こういう時に刺さる視線がチクチクと痛い。気にする程の事でもないが、チリも積もればなんとやらだ。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―― アイリーンの部屋 ――


「アズリー、今夜時間あるかしら?」

「ありません。失礼しました」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 用件も聞かず時間がないってどういう事よ!」

「用件も言わずに『時間がある?』と言われて、あると答える人は少ないと思いますよ」


 いつものように腕を組み考えるアイリーン。本当に六法士なのだろうか?

 トレースは秘書のようにアイリーンの横に立っている。


「んー……私が聞くと大抵の人は二つ返事なんだけど?」

「そこに立場が入るからでしょう? 俺はそういうのあまり気にしないので。勿論しっかりとした場なら話は別ですけど」

「むぅ……こ、ここはそういう場じゃないと?」

「はい! アイリーン先生!」


 ぷるぷると震えていたアイリーンが叫び声をあげる。

 それを予期していた俺は耳を塞ぎ、懸命の防御をした。息を切らせながら落ち着いた様子のアイリーンを見て、俺は防御を解いた。


「はぁ、はぁ……わかった!? だから付いて来なさいっ」

「耳を塞いでいたので何も聞いてませんでした!」

「キー! あなた最近生意気が過ぎるんじゃないっ?」

「実は…………」

「え……なに?」

「俺もそう思ってました!」


 アイリーンが叫び声をあげる。

 当然それを予期していた俺は耳を塞ぎ、懸命の防御をした。息を切らせながら落ち着いた様子のアイリーンを見て、俺は防御を解いた。

 平然とそれを聞いてのけるトレースは凄いと思う。


「うふふ、アイリーン様、なにか楽しそうな表情していますね」

「た、楽しくなんかないわよっ」

「でも、いつもイライラが治まってるのはアズリーさんと話した後ですわ」

「ト、トレース! いいから黙ってなさい!」


 面白いからからかっているだけだが、アイリーンはこれが楽しいようだ。今後も活用しよう。


「それで、用件ってのを教えてくれますか?」

「コ、コホン。今夜、ビリー、ガストン、そして私で食事をするの。アズリーの同席の許可をとったから来なさい。いいわね?」


 こりゃ凄いな。六法士が二人に回復魔法の権威か……そんな場に俺を連れて行って何をするつもりだ?


「んー、今夜はポチにトロピカルねこまんまを作ってやる約束があってですね……」

「あーもう、ポチも連れて来ていいから来なさい!」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「と、言う訳なんだがポチも来るか?」

「行ってらっしゃいませ、マスター」


 部屋の中央に細目でひれ伏す我が使い魔。


「おい、何で来ないんだよ!」

「そんな怖そうなところ、何で私が付いて行かなくちゃならないんですか!」

「お前、俺の使い魔だろ!? 護衛くらいしてくれよ!」

「主人を気持ち良く送り出すのも使い魔の務めです!」

「ポチが言うと気持ち悪いわ!」

「あー、言いましたね!? もうマスターとは絶交です!」

「寂しい事言うなよ!」

「そう言いながら寂しそうな顔してませんよ! はい減点ー!」

「三日間トロピカルねこまんまでどうだ!?」

「物で釣って楽しいですか!? 行きましょう!」


 ……ふむ、こういうのを二つ返事と言うのかもしれないな。


 その後、俺はポチをブラッシングして爪も磨いた。

 仮にも国の代表とも言える人物と会うのだ、これ位の事はしておくべきだろう。

 ……お腹が痛くなってきた。明日は俺もねこまんまにしよう。



 ―― ベイラネーア中央区 料亭『森羅万象』前 ――


「マスター、ちゃんとお金あるんですか?」

「呼ばれたんだからタダだろう。いざとなったら良質の狼の毛皮があるし大丈夫だ」

「ふふん、最良質ですっ」


 尻尾をふりながら言ったポチは、俺の発言の意味を汲み取っているのだろうか?

 しかし、改めて見てもとんでもない店だ。門構えから塀の煌びやかな装飾、門の奥に見える灯篭一つとっても細かい彫刻がされている。

 大きくも慎ましい門前には篝火(かがりび)が二つ。その前には提灯を持った店員と思われる男が一人立っている。

 こういった文化は東から流れてきたと聞いた事があるが、風情があり落ち着ける作りだと感じた。


 男が提灯を少し上げ、

「アズリー様とポチ様でいらっしゃいますね? お話は伺っております。さあこちらへ」


 物静かに案内を始めた男の後を、それに倣って静かに歩く。ポチも慣れないせいか歩き方に緊張が見て取れる。

 独特な作りの家屋。玄関で履物を脱ぎ、ポチは足を拭いた。借りてきた猫のように硬直したポチはなかなか面白かった。

 鏡面のように磨き上げられた木目調の廊下を過ぎると、取っ手が付いた薄い壁の前に着いた。

 (ふすま)と呼ばれる引き戸という事だが、五千年前には見なかった物なので、少し戸惑ってしまった。

 男が座して襖に手をかける。


「失礼致します。アズリー様、御到着でございます」


 襖越しに入りなさいと聞こえたのは、アイリーンの声だった。

 約束の時間より早めに来たはずだが、どうやら他の三人の集合時間の方が早かったみたいだ。これはアイリーンの判断だろう。

 男が控えめに襖を引くと、そこには正方形のテーブルを囲うように三人が座っていた。左に白衣を着たビリー、右にアイリーン。そして、奥には厳つい顔立ちの爺さんが鋭い目つきで俺を睨んできた。朱色のローブを身に纏い、内包する魔力がこの中で一番多そうだな。おそらくこの人物が六法士が一人、焔の大魔法士ガストンだろう。


「失礼します。ベイラネーア魔法大学学生自治会書記アズリーと申しまひゅ!」

「その使い魔ポチと申しまひゅ!」


 何故噛むのまで真似したんだお前は……。

 俺の畏まった姿にアイリーンがむっとする。態度の変化に対して怒っているのだろう。


「……入りなさい」


 しばらく俺をジロリと見た爺さんは、手前の席への着席を促す。

 ビリーはポチを見て顔を緩めている。


「へぇ、(じか)に座るんですね」


 分厚い敷物の上に腰を下ろす。ポチは俺の少し後方でお座りをする。


「独特の文化だな、私も初めて体験した時は驚いたよ。この店はガストンのお気に入りなんだ」


 そう言ってビリーが爺さんに顔を向ける。なるほど、やはりこの爺さんがガストンか。

 はて、アイリーンは白の派閥、ビリーは黒の派閥……ガストンは黒の派閥じゃなかったか?

 立場的に白の派閥のアイリーンがいるのはいいのか? そもそも何で俺が呼ばれたのだろう?


「初めまして、アズリーと申します」

「……ガストンだ」


 何だこの重い空気は……何か話題を……。


「あ、そう言えば、先日ガストンさんのお店で杖を購入させて頂きました」

「ほぉ、ワシの店でか。杖とな? 何を買ったのかね?」

「店主に金額と希望を伝えたところ、スターロッドを紹介されました。自分には身に余る杖だと思いましたが、とても素晴らしい作りだったので思わず買ってしまいました」

「ふふふふ、よく回る舌だな。アイリーンの話とは随分違う男じゃないか?」

「ふん、猫を被ってるのよ。今日そう言ってたわっ」


 それをばらしちゃダメだろうが。


「料理がくるまで時間があるな。ガストン、それまでにアズリー君を丸裸にしようじゃないか?」

「くははは、それは面白そうだな」


 裸はやめて欲しいものだな。寒くなってしまう。

 あ、そう言えば最良質の毛皮がいたっけか。

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