260 偵察
なるほどなるほど。このドリニウム・ロッドは非常に強力な武器になる。
ガルムの話によれば、硬度はドリニウム鋼と変わらないとの事なので、フェリスの金棒以上の鈍器になる訳だ。
確かに、魔法士と刃物は相容れないものだ。しかし、魔法士の魔力に干渉しない鈍器という武器ならば成り立つ。
魔法士の魔法士ならではの接近戦が。
ミドルスのような前衛の魔法士……とはまったく違った戦闘方法。
「……うん。宙図で描く分にも問題ない」
「でも今のマスターなら十本の指で宙図する方が早いんじゃないんです?」
「攻撃を特化させるなら勿論その通りだけど、やっぱり杖があれば攻守一体のバランスのいい動きが出来るからな。それに、十本の指以外でも宙図は出来るしな」
「あー、あの目で宙図する気持ち悪いアレですね!」
「ポチの舌宙図よりマシだと思いますけどぉ!?」
「発想が子供なんですよマスターは! もっと大人な発想をすれば素晴らしい魔法発動技術が生まれると思いますよ!」
今は天獣だが、当時犬だったポチが考えた舌宙図は子供の発想じゃないのだろうか?
獣の発想と言ってしまえばそうなのかもしれないけど、やはり納得がいかないな。
「じゃあどうすればよかったんだよっ?」
「髪の毛で描くとか!?」
「動かせるか!」
「では私みたいに耳をこうフリフリして描けばいいんじゃないですかっ? こうです! こうっ!」
「人間の耳はそう器用に動かないんだよ! つーか見えないから!」
「じゃあ他に動くところはどこなんですか!」
「ないから目でやったんだよ!」
「ぐうぅうう…………はっ! そうだ尻尾ですよ!」
「だからないんだよ!」
「いつからそんな不便なマスターになったんですか!?」
「いつから俺はそんな高次元生命体になったんだよ!」
「納得いきません!」
「こっちの台詞だよ!」
まったく、こんな狭い空間でよくやるよな……俺も、ポチも。
「父上、母上……たまにはチャッピーの事も構って頂きたい!」
……堂々と言ったな。
いや、まぁ生まれて二、三年だしそれは仕方のない事だけど、紫死鳥としてここまで風格が出てきたのにこれだけ甘えん坊なのは、やはりそれだけ構ってやれなかったせいだろうか。
「あぁ、ごめんなチャッピー。それで……何か見えたか?」
「……何も見えないのが不気味な程です」
「……ホントですね。モンスターが全然見かけられません」
そう、俺たち三人は今、チャッピーの背に乗って空を飛んでいる。
ソドムの街から南下して、魔王軍の動向を探るというのが目的だが、見えるのは大地に転がっている獣の骨程度だ。
「空を飛べるチャッピーの特性を利用しない手はない」と言ったジョルノの意見には、俺も賛成だった。
ある程度自分の身を守れるチャッピーの実力を考慮しつつも、相性の良い俺とポチがその背に乗って偵察に来たのだ。
偵察以外にも、俺には一つの目的があった。当然それはジョルノも同じ考えだったようだ。
因みにスペースの関係からポチは俺の背におぶさっている。時折首の横から大声を出すから困りものだ。
紫死鳥とはいえ、子供の背に跨る両親というのは中々面白い構図だ。
いや、年を考えればこれで正解なのかもしれないな。
「――むっ!」
「どうした、ポチ?」
「あそこ! 今一瞬だけモンスターの姿が見えました!」
肩口から前脚を指すポチに、俺は怪訝な表情を浮かべた。
「あそこって言ったって、あんな平原にモンスターがいたらすぐわかるだろう?」
「いえ、見えたと思ったら消えちゃったんですよ! こう……シュパって!」
ポチの声で耳がキンキンと響いて顔を歪めた俺は、それから逃げるようにしてチャッピーをそこへ向かわせた。
着陸したはいいが……ふむ、見た感じ荒地に近い平原といったところで、何の変哲もないような?
「おかしいですね~? さっきは確かに見えたんですけど……」
「どんなモンスターだった?」
「ランクAのインペリアルオーガでしたね。何か急いで走っているようでした」
「……む、父上!」
羽を大きく広げたチャッピーが声をあげる。
「どうした?」
「ここ、何か魔力の揺らめきを感じました」
チャッピーは何もない宙を指し示し、俺は頭を捻った。
「ん~、本当に魔力が?」
「む、確かに今は消えてしまっていますね。先程は確かに……?」
いや、待てよ?
チャッピーが感じ取れたという事は何らかの仕掛けがあるのかもしれないな?
俺は杖先に魔力を込め、辺りをゆっくりと払ってみた。
「……お?」
「薄い魔力の幕のようなものがあったんですね!」
「流石父上です!」
こうしてその身を隠していたという事は、やはり魔王は……!
「ポチとチャッピーが見つけてくれなかったらわからなかったさ。ちょっと下がっててくれ」
俺は二人を後方に下がらせ、宙図を始めた。
あくまで隠れ蓑のようなこの空間。強い魔法より適度な威力を求めた方が破る事が出来そうだ。
「ほい、クロスウィンドッ!」
俺の中級系風魔法の発動と同時に、魔力の幕は甲高い風切り音を出し消滅していった。
直後、俺たちの目に入ったモノは…………高密度の魔力空間だった。
「な……!?」
「視界がぐにゃぐにゃですー!?」
「奇怪な……!」
「単純な魔力だけで空間を歪めてるんだ……。あの幕を消したせいで周辺全てに異変が起きている。向こうもこれには気付いているだろうな」
おそらく、この先に魔王が……!
「マ、マスター! 何か凄い足音が聞こえてきましたよ!?」
「だから言っただろう! 向こうも気付いているって! チャッピーに乗っておけ!」
「はいぃっ!」
「ふんぬ! ほいのほいのほいのほい! ポチ・パッド・ブレス!」
「スウィフトマジックじゃないのに使えるんです!?」
「究極限界状態なら出来るんだよ! いいから逃げるぞ! 流石に今回はど派手に行くぞ!」
俺は置き土産のようにポチ・パッド・ブレスを放ち、そそくさとチャッピーの背に乗った。
「戻るぞチャッピー! いよいよ最終決戦が近い!」
「アォオオオオオオオオオンッ!」
チャッピーの遠吠えは野に響き渡った。
飛翔してしばらく、モンスターの大群が迫って来た時、ポチ・パッド・ブレスが発動のタイミングを迎えた。
俺とポチは光り輝く爆発に瞳を染め、ソドムの街の危機に焦りを覚えた。
「しかしよかったのですか父上? 偵察という名目でここまでやって?」
「そうですよマスター! これじゃ戦闘の開始を早めただけなんじゃないんですか!?」
「大丈夫だよ。これはジョルノの考えでもあるしな」
「何とっ!?」
「なーんだ、ジョルノさんの判断なら安心ですね!」
ポチの言動に悪意を感じるのは気のせいだろうか?
選んで言ってないのがポチの恐ろしいところだよな。
「これ以上戦闘の開始が遅れると、こちらの戦況が悪くなるんだ」
「どういう事です、マスター?」
「魔王誕生の地震が起こってから魔王軍に動きが見られなかったのは、魔王軍にも準備が整っていなかったからだ。国中からモンスターを集めるだけでかなりの時間が必要となるのは明白だが、何よりも重要なのは魔王自身の準備が整っていなかった可能性だ」
「つまり!」
「それって!」
「そう、魔王自身が完全体で誕生していない可能性だ!」
俺が強めた語気を拾うと、チャッピーは大きく羽ばたいてソドムの街へ急ぎ始めた。
完全に誕生し切っていない魔王ならば今は身動きがとれないだろう。
ならば、魔王の居場所が知られた今、魔王軍は攻勢に出るしかなくなる。
ソドムの街は間も無く激戦の地となるだろう。
――――ここからが勝負だ。
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