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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第一章 ~魔法大学編~

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024 一歩一歩

 あれから何時間歩いただろうか。

 警戒度を上げて前進するには、かなりの体力を消費する。

 旅に慣れているとは言え、違った緊張感が、俺を疲労へと追い込んでいった。


「ふぅ……ふぅ……」


 体が重くなってきた。まだ半分位の道程なのに……。

 モンスターではなく、対人間となると、ここまで疲れるものなのか。

 足が重い、視界がおぼつかない、吐き気がする……まだまだ不勉強だって事か。

 いや、今までが運が良かったのか。


「マスター、大丈夫ですか?」

「お、おう……まだまだ……トイレで嘔吐のワルツが踊れる程には元気だ……おぇ」

「おぉ、ワルツが踊れるんですね! 私知りませんでした!」


 そこじゃねぇよ。


「ま、冗談はさておき……すみませーん! ちょっとマスター限界みたいでーす!」


 だよな、ポチはこういうヤツだ。


「お? すまんすまん、ついいつものペースになっちまった!」

「そうだな。……む、あそこに木陰がある。そこで小休止といこう」

「大丈夫かい? なんなら私が肩を貸してやるよ?」


 ベティーが笑顔で手を差し伸べてくる。その手を掴み、肩を借りたかったが、そこは男の意地というやつで乗り切った。

 後ろで全てを理解してるであろうポチの笑い声……いや、笑いを堪える声が聞こえる。理解されるというのは、ある意味弱点を晒しているようなものだ。

 今度仕返ししてやろう。……今度な。

 今はそんなにも余裕が無かった。


 ポチは元々野生だが、俺は基本的に引きこもりだからな……。この差は大きい。


「ほい、お疲れさん」


 ブルーツが、腰を下ろし俯く俺に水筒を差し出した。

 勿論、自分の水筒があったが、俺はブルーツの厚意を受け取った。

 ブルーツは、おそらく俺の水筒が目的地まで持たないと判断したのだろう。少し甘く見過ぎていたな。

 燃やせば一瞬で消えてしまう命。その命を懸けた旅路は、今までの旅とは格段に違う。

 やはり首都に近ければ近い程、危険は大きいという事か。


「ま、焦んなって。ここからは少し楽になるだろうからな」

「え、そうなんですか?」

「この先、首都に続く道に入る。目的地は途中道を反れるんだが、そこまでは単調な道でな? 前方と後方だけに意識してりゃいいから結構楽なんだ」

「それでも危険な事に変わりはないがな。ブルーツ、見張りを変わってくれ」


 ブレイザーがブルーツと交代し、ブルーツが座ってた場所に座り込む。


「アズリー君、あの光源魔法、もう少し遠くを照らす事は可能か?」

「範囲は決まってるので単体では難しいですけど、二つ出せばなんとかなりますよって、あ」


 そっか、初めからそうすれば良かったのか。

 俺の場合、魔法力をケチるより、体力の消耗を節約した方がいいって事だ。


「では、この先はその光源魔法だけに集中してくれれば大丈夫だ。索敵は私達でやろう」

「マスター、失敗でしたね?」

「あぁ、反省だ」

「ふふふ、少しずつ覚えてけば良いんだよ。私だって昔はそうだったわ」


 ベティーが自身の足を揉みながら話す。

 少しでも回復に努めている。当たり前の事を当たり前にこなしているだけなのに差を感じてしまうな。

 俺も彼女を見習い、自分の足をほぐし始めた。


「ふむ……」


 ブレイザーが懐中時計を確認しながら呟く。


「後五分で出発だ、準備をしておいてくれ」


 それから五分が過ぎ、俺達はまた迷宮を目指して出発した。

 途中にあった崖に囲まれた細い道は、確かにブルーツの言った通りだった。

 上空からの攻撃を一瞬警戒したが、小さな飛行系モンスター以外、侵入も出来ないかと思えるような道だった。


 そして、意外にも何事もなく、帰らずの迷宮へ着く事が出来た。

 俺達は迷宮の入り口で、当初の予定通り、交代で休憩を取ることにした。


「使い魔というのは、本当に眠らなくてもいいのか?」

「眠っても眠らなくても、体力に変わりはないんですよ。眠れたら眠れたで精神的満足はありますけど、今回の旅は気が抜けませんから」

「それは助かるな。しかし、ポチ君も寝たくなったら言ってくれ。最初から頭の中でそれは想定していたからな」

「あははは、それは嬉しいですね」


 ブレイザーとポチは気が合うみたいだ。

 ポチも根が真面目だからブレイザーとは近いものを感じるのかもしれない。


「ところで、アズリー君は何をしてるんだい?」

「え、あぁ、大学側で研究してる事を、自分なりに考察しています」

「これは……魔法陣? いや、少し違うな?」

「まあ、似たようなものです。もう少しで出来そうなんですよねぇ……」


 地面に魔術陣を描きながら、頭の中で一つの複合魔法について考えていた。

 その魔法が可能になるならば、俺はまた賢者へ一歩近づく事が出来るだろう。


 ――空間転移魔法。


 それがこの魔法の名前だ。

 この魔法の可能性に、誰もが夢を描き、そして失望していった。

 昔も今もそれは変わらなかったようだ。

 アイリーンの研究室では、数年前からこの魔法の実現化に向けて動いているそうだ。

 先日アイリーンの研究室にお邪魔させてもらった時、構想の段階ではかなりの所まできていた。勿論、詳しい部分を見せてもらう事は出来なかったが、俺にはそれで十分だった。

 魔法とは四大元素を元に構成される。

 そして魔術とは、主に無い物を召喚させるものである。

 この二つが無ければ、空間転移魔法は成り立たない。

 それも実用可能なのは設置型だけだろう。常用的な魔法ではこれを成す事は出来ない。それはアイリーンも理解していた。


 理屈としては、自身の体を四大元素で構成される魔法に転換させ、魔術陣からそれを召喚し、具現化する事が必要だろう。

 順序としては、自身の存在を偽る幻惑魔法で炎と化し、魔術陣の遠隔起動を行う。

 つまり、魔術自体を幻惑魔法で騙す公式が必要となる。

 魔術陣の中から出て来るのは、おそらく普通のリトルファイアだろうが、その通り道である魔術陣の上に、状態異常回復魔法リカバーの公式魔法陣を組み込んでおけば、その正体が具現化されるという流れだ。


 と言っても、この構想に辿りついたのがつい先程なのだ。

 手持ちの魔法で可能ではあるが、最後の一歩に踏ん切りがつかない。


「やっぱり初実験はポチで……」

「嫌ですよ!」

「ですよねー」

「くくくく、面白い関係だな」


 そんなこんなで俺達の夜が更けていく。

 ブルーツとベティーに交代した俺は、慣れない寝床にも関わらず簡単に意識を失った。




 起きた時、既に辺りが白んでいた。

 円形にきり取られたような迷宮入り口前では、ブルーツとベティーが既に準備を始めていた。

 ポチは相変わらず周囲を警戒し、ブレイザーも寝床にはいなかった。

 どうやらパーティの中で一番寝てしまったみたいだ。


「起きたかいアズリー?」

「お、顔色も良くなったじゃねーかっ。ブレイザーは少しだけ中の様子を見ている。っと、戻って来たな」


 ブルーツの話の途中から、ブレイザーの甲冑の音が聞こえてきた。その視線の先に俺も意識を向けると、爽やかな様子のブレイザーが姿を現した。


「む、起きたかい。そろそろ出発だよ」

「えぇ、よく休む事が出来ました。ありがとうございます」

「なに、今日はこき使うからな、気合入れてけよっ!」

「ブルーツ、お前もこき使うから気合を入れておけ」

「へいへいわかったよ」


 ブルーツの調子の良さは周りに良い刺激を与える。彼も彼なりに考えて行動している。

 気遣うだけではパーティは成り立たない。周りの気遣いを快く受け入れ、それを循環させる事が、良いパーティへの第一歩かもしれない。


「トーチ!」


 全員の準備の完了と共に、俺は光源魔法を発動させ、先頭を歩くブレイザーの前方へと配した。そして、最後方にいるポチのやや後方にも、同様の光源魔法を置いた。


「死を供に生を得る!」


「「死を供に生を得る!」」


 ブレイザーの出発の合図。それにブルーツとベティーも続いた。

 俺はポチと顔を見合わせ、互いに頷く。


「「死を供に生を得る!」」


 この言葉は、迷宮に入る前や、決死の覚悟を決めた時のおまじないのような掛け声だ。

 死を引き連れ、飼い慣らす事で生を得られる。そういった意味が込められている。

 冒険者であれば必ず知っていると言っていい程、有名な言葉だ。


「行くぞ!」


 ブレイザーが歩き出す。ブルーツとベティーもその足跡を追う。

 休んで軽くなったはずの足が重い。

 この一歩は、目的の為の一歩。過去の俺が踏めなかった一歩。前へ進む。後ろに戻る事は出来ない。

 後ろでは俺の一歩を待っているヤツがいるから。


「早く行って下さい、よっ!」


 体当たりで押し出された一歩だった。


「お前なぁ……」

「ほら、行きますよ!」


 愚者とその使い魔の一歩。

 こんなものなのかもしれないな。

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