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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第一章 ~魔法大学編~

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23/497

023 迷宮へ

 ―― 午後七時五十分 ベイラネーア北門 ――


 この時間に町の外に出るのは、冒険者かレベルアップに勤しむ酔狂な人間しかいない。

 俺とポチは、待ち合わせの十分前にここに来ていた。

 閉門されている大きな北門、それを管理しているであろう小さな詰所。そして、門の両側に篝火が焚かれて、門の近くには俺とポチしかいない事がわかる。

 勿論、詰所の中に門番はいるだろうが、合流予定のパーティと思われる集団は見つける事が出来なかった。


「ちょっと早すぎましたかね?」

「いやー、こんなもんだろ?」

「では、相手が遅いですね!」

「いくら何でも、切り替え早過ぎだろそりゃ」


 と、待ちながらも平静でいられるのはポチ……と言うより互いのおかげなのだろう。

 お座りをするポチが、一つ大きく欠伸(あくび)をすると、俺も釣られて口から欠伸が漏れる。ポチも俺も多少は寝たとは言え、昼間は大学の講義だったのだ、少し疲れている。

 今回の迷宮探索は、夜の内に入口に向かい、翌朝から潜り始めるというプランだ。予めダンカンからこの話を聞いていたが、結局今日までランクAのパーティと話す事は出来なかった。

 出来れば多少は話しておきたかったが……まあ、珍しい事ではないか。なんでも、そのパーティは男二人に、女一人の戦士で固められたパーティだとか?

 と、ここまで考えたところで、ポチの耳と鼻がヒクついた。


「来ましたね。甲冑等の擦れる音、武器から漏れる血や油の臭い……その豪快で静かな足並み……ランクAに恥じない冒険者でしょう」

「へぇ、そりゃ楽が出来そうだな」


 そして、俺にもその衣服や鎧の擦れる音が聞こえ始め、それと同時に軽いノリで話す声が聞こえた。


「お、ラッキー! 今回の相棒は魔法士かよ」

「《ブルーツ》、それは先程話しておいただろう」

「あー、ダメダメ、こいつにそんな事言ったって覚えちゃいないって。いい加減こいつの性格覚えなって《ブレイザー》」

「すまない《ベティー》、不勉強だった」

「はっはっはっは、そんな事で反省すんなって!」

「兄貴が言ってどうすんのよ!」


 俺とポチは三人が近づいて来るに従い、控えめに頭を下げた。冒険者同士の挨拶とはこんなものだ。

 気の良い感じのブルーツと呼ばれた男が、軽く手を上げてそれに応じた。


「ダンカンさんの紹介で、本日お供させて頂く、アズリーと、こちらは使い魔のポチです。宜しくお願いします」

「お願いします」

「おう、よろしくな、ブルーツにベティーにブレイザーだ!」


 ベティーは笑顔で、ブレイザーは小さく頭を下げてブルーツの紹介に応じた。

 それと同時に、俺は三人のステータスを確認した。


 ――――――――――――――――――――

 ブルーツ

 LV:62

 HP:1450

 MP:91

 EXP:424498

 特殊:剛力・剛体・スマッシュスラッシュ・疾風・剛心

 称号:兄貴・剣豪・ランクA・猛き者・《銀》メンバー

 ――――――――――――――――――――


 銀色のゴツゴツした甲冑を纏った戦士で、顔に傷が多いが、その顔は終始笑顔だ。金に近い髪に額に鉢金を装着している。

 並の戦歴じゃない風格が漂っている。厳つい顔をしているが、頰がやや()けている。かなり絞られた肉体なのだろう。

 銀のメンバー……これはある集団の構成員という事か。


 ――――――――――――――――――――

 ブレイザー

 LV:67

 HP:1539

 MP:129

 EXP:519746

 特殊:剛力・剛体・疾風・エアリアルダンサー

 称号:剣豪・ランクA・剛の者・《銀》リーダー・銀獅子

 ――――――――――――――――――――


 軽量の銀色のアーマーに銀装飾の目立つ直剣。

 精悍な顔付だが、その表情には強い意志を纏っているようだ。茶色い短髪に、首元に赤い布を巻いている。

 一番の実力者だな。ステータスもバランスが取れていて真面目そうだ。

 銀のリーダーという事は、三人で構成されているという事だろうか?

 それに異名持ち……何処かで名を馳せた豪傑か。


 ――――――――――――――――――――

 ベティー

 LV:58

 HP:1072

 MP:146

 EXP:308201

 特殊:剛力・剛体・疾風・セブンスランジ・軽身

 称号:妹・剣豪・ランクA・剛の者・《銀》メンバー・(はや)き者

 ――――――――――――――――――――


 短い黄髪に青いバンダナ、動きやすいように青い服装に軽めの銀色の胸当てをしている。

 二十五歳程だろうか? まだまだ若いが、この年齢でここまでの実力者となると、相当な修練と才能に恵まれているのだろう。

 おそらく……ブルーツの妹になるのかな。

 兄に似ず、顔立ちはかなり整っている。


 ――――――――――――――――――――

 アズリー

 LV:57

 HP:998

 MP:16031

 EXP:300009

 特殊:攻撃魔法《特》・補助魔法《上》・回復魔法《中》・精製《上》

 称号:愚者・偏りし者・仙人候補・魔法士・錬金術師・杖士・六法士(仮)・教師・ランクB・首席・パパ・いじめられっ子・学生自治会員

 ――――――――――――――――――――

 ポチ

 LV:100

 HP:2782

 MP:637

 EXP:9999999

 特殊:ブレス《極》・エアクロウ・巨大化・疾風・剛体

 称号:愚者の使い魔・上級使い魔・極めし者・狼豪・番狼・見習い魔法士・要耳栓・名付け親・菓子好き・愚者を育てし者

 ――――――――――――――――――――


 そして俺達……プラスであろう称号が、マイナスであろう称号とぶつかり合うようなステータスだ。

 見た所、俺もポチも本当に酷い。酷さであれば六法士に入れるレベルじゃないだろうか?


 この五人で推定ランクAの迷宮へ挑む……。ようやく人並程度に成長した俺が、どこまでやれるか、今回の目的はここにあると言える。


「よしゃ! そんじゃ向かうとしますか!」

「アズリー君は中央後方、最後尾をポチ君にお願いして、中央左右にブルーツとベティー、先頭は俺が歩こう。では、出発!」


 凄い指示だ。瞬時に魔法士が戦闘に入る陣形を選択した。俺の実力を見る為でもあるんだろうが、俺を軽んじる事もなく、しっかりと全体でのパフォーマンスを重視した構成だ。

 集団戦の経験が浅い俺としては、とても勉強になる。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺達はベイラネーアを出た後、真っ直ぐ北上し、《帰らずの迷宮》を目指し始めた。

 三人は、第一印象と大して変わらず、かなり気さくな連中だった。


「やっぱり魔法士が一人いると違うなー、光源魔法だっけか? 松明がいらないのは便利だよなー」

「えぇ、マスターは便利ですよ!」

「お前が言うなやっ」

「はははは、使い魔とそれだけ仲が良い魔法士も珍しいわね」

「ええ、ある意味対等な契約なんですけど――」


 俺がそこまで言いかけると、ブレイザーがピタリと止まって、腰を少し落とした。

 ブレイザーとほぼ同時にブルーツが、一瞬遅れてベティーが腰の剣に手を添える。俺が気付いたのはその数拍(、、)後だった。


「モンスター、ですか?」

「いや、こりゃあ盗賊だな。にしても、若いのに中々冴えてるじゃねぇーか、アズリー?」


 ブルーツが剣を抜きながら俺を褒める。

 これが本物の戦士達か……やはりまだまだ及ばないな。いくら強力な魔法を使えても、先手を打たれては一たまりもないからな。

 数秒の後、光源魔法に照らされて、身なりの悪い連中が六人現れた。


「右前方の二人をブルーツ、左の一人をベティー、正面の三人は私が対応する」

「おう」

「あいよ」

「ポチ君は後方を警戒、アズリー君は適宜援護を頼む」

「「はい」」

「三、二、一……ゴー!」


 ブレイザーの掛け声が、平原に響き、その合図に伴って盗賊達も動き始めた。


「テンションアップ!」


 一番不利であろうブレイザーに対し援護魔法を放つ。俺の背後はポチが監視してくれている為、安全な場所からの援護が出来る。

 凄いな、たったこれだけなのに戦いやすい。

 すかさずベティーとブルーツにも同様の魔法を放ち、戦いの動向を見守る。


 すぐに俺の魔法の内容を理解して行動したのは、やはりブレイザーだった。

 普段以上の速度を用いて瞬時に一人を斬り倒した。続くブルーツも一人倒したみたいだ。

 一人を任されたベティーは、敵と対峙してから動く様子がない。慎重故か、それとも敵に隙がないのか……。


「マスター、後方に五名、援護をお願いします」

「テンションアップ! 気を付けてな!」

「マスターこそ!」


 ポチが後方に駆け出し、俺も後方へ警戒を移す。

 一番右側の敵が弓を持っている……あれは危険だな。ポチもそう判断したようで、右側へ走った。


「ファイア、ファイア、ファイア!」


 ポチに意識を向けた五人の敵の注意を逸らす為、俺は援護弾を放った。


「ギャー!」


 ブレイザーが三人目を撃破。そのままベティーの元まで駆け始める。

 ブルーツも二人目を倒し、ブレイザーがベティーの元へ向かったのを確認し、俺の元へ走り始めた。素晴らしい状況判断だ。

 後方でポチが弓使いに飛び掛かる。しかし、後方へ回避され、同時に他の四人共々散開して逃げ始めた。

 ブルーツの接近に気付いたからか、こちらの戦力を確認出来たからかはわからないが、盗賊達は、五人の犠牲を出すだけ出して逃げて行った。


「……どういうこった?」

「おそらく、ベイラネーアの北側を根城に持つ盗賊団、《笑う狐》だな。ここら辺で被害が絶えないと聞く」

「なるほどな、敵わないと判断して逃げた。そういうこったな」


 ブルーツは頭を掻きながら簡単な推測をする。


「いや、ベティーが相対した敵……あれはおそらく私より強い。ベティーが動けなかったのには理由があった。事実、私が駆け付けても動くに動けなかった……」

「ま、まじかよベティーッ?」

「本当よ、アズリーの魔法のおかげでイケるって思ったんだけど、あいつの前に立った瞬間、ハズレ引いたと思ったわ……」


 ベティーが剣を納め、ホッとした様子だ。


「後方の敵も中々でしたね。私の実力を見誤ってくれたからこそ、なんとか撃退出来ましたが、一人で相手するのは結構キツかったですかね?」

「くそ、仰っけからついてねぇな。野で暮らしてる奴等は強ぇからな……」


 確かに、塀で囲まれていない場所で暮らしてる彼等は、常に戦闘状態。ある意味冒険者より戦闘に特化してると言えるだろう。


「少しだけ警戒度を上げよう。ポチ君の話が事実なら、少し厄介な敵だ」

「そうね」

「しっかし、アズリーの魔法にゃ助かったぜ! ありゃ見事な援護だ。怪我こそ無かったが、俺達の怪我に即座に対応出来るように構えててくれたみたいだしな?」

「あ、やはりわかるものですか?」

「当然よ! 戦闘にゃ流れがある。その流れを汲もうという意志が戦闘を作り、周りにイメージを与えるもんだ。あの場から動かなかったのも正解だ」


 抜けているような性格かと思えば、かなり考えて戦ってるみたいだ。やはり勉強になる。


「流石、ベイラネーアの冒険者ギルドが押すだけはあるわね」

「うむ。では、先程の陣形を少し大きめにとり、維持しながら前進。あまり時間は無いが慎重、且つ迅速にな!」


 こうして、俺達の迷宮への挑戦が始まった。

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