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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第六章 ~聖戦士編・前編~

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◆192 決死の戦闘

「うおぉおおおおおっとっす!?」

 イツキは頭を抱えて姿勢を低くしながら叫んだ。
 ポチズリー商店正面家屋の屋根に、巨大な影が()ぎる。
 店の中から現れる最後の子供。最後尾にはナツが付き、五名の子供はイツキとナツに前後挟まれながら正体不明の影に怯えている。
 双黒龍が道を挟んだ大市場に着陸すると、イツキは気丈を装いながら不安を募らせる子供たちに呟いた。

「よし、今なら大丈夫だよ。ちゃっちゃと魔法大学まで行っちゃおう」

 すると、黒髪の男児がイツキの袖を掴んだ。

「リ、リンダ姉とアカネ姉は……?」

 するとイツキは屈んで男児の肩に手を乗せ目を合わせた。

「大丈夫だよベル。あの二人には大分前に他の子たちを先導してもらったから」

 ベルはイツキの言葉を信じ、流れそうな涙を堪えながら頷いた。
 そしてナツが地面に魔法陣を描き始める。
 それはかつてララが使用した気象型魔法。

「ほいのほいの……ほいっ、インビジブルイリュージョンッ」

 地面に放った魔法陣がイツキ、ナツを含む七名の姿がぼんやりと街に溶け込んでゆく。
 本来一人に対する魔法だが、ナツは設置型魔法にする事で対象を複数に増やしたのだ。
 姿が消えた七名は、先頭を歩くイツキから最後尾のナツまでしっかりと手を繋ぎ、静かに、しかし素早く歩き始めた。
 歩き始めて間もなくして、イツキたちの願いは文字通り壁に閉ざされた。
 大回りをし、魔法大学に向かう細道。そこは、(おびただ)しい瓦礫に埋め尽くされていた。
 ナツは後ろを振り返り避難場所までの経路を探す。
 冒険者であるナツだけならば、屋根まで登り、魔法大学を目指す事も可能だが、一般人、それも子供たちが含まれた場合、残された道は一つしかなかった。

((どうしよう、もう、大市場を通って行くしか……!))

 イツキとナツは互いに同じ答えを出す。
 そしてイツキが見えない六人に一度振り返り、そして拳を強く握ってからゆっくりと歩き始めた。
 七人が大市場への路地に入ると、そこからは突風が前進を遮った。
 イツキが前傾姿勢で踏ん張り、一身に後ろの子供を庇う。
 一歩、ほんの少しの前進にさえ体力を奪われる六人。
 そんな中、意を決した様子のナツ。苦しそうな六人の表情を見て憤りをぶつけるように突風の中、一人で駆け始めた。

(ナツッ!?)

 イツキが気付いた時、ナツは既に双黒龍の翼の前に立ち、宙図(ちゅうず)を始めていた。前後四つの真っ赤な瞳は、魔力の揺らめきからナツの存在を瞬時に察知した。

「ギァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 双黒龍は威嚇の叫び声を発し、ナツのインビジブルイリュージョンを強制的に剥がす。
 それでも震える足で双黒龍の意識を反対側へずらすように走るナツ。

(まさかナツ、自ら囮を……!)

 ナツの意図を察したイツキは声が出せない中、ゆっくりと、そして後ろの子供たちが転ばないように少しずつ速度を上げた。
 双黒龍の初撃。後ろの頭を振り、ナツに向かって払う。

「ほい、フウァールウィンド!」

 跳び上がりながら放ったフウァールウィンドは、すんでのところでナツの跳躍を助けた。
 振り払われた頭が壊す建物。

「きゃっ!」

 その衝撃波に似た風圧が、イツキたちのインビジブルイリュージョンを解除した。
 ぎろりと向けられた視線。
 死を前にしたイツキは、身体を盾にして子供たちに声を送る。

「先に行って! 止まったら許さないよ! 一ヶ月トイレ掃除だからね!!」

 力強い声で子供たちの背を押し、両手を広げるイツキ。
 ふらふらになりながらも奥の路地に入って行く子供たち。それを背中で見送った頃、双黒龍の四つの瞳はイツキだけに向けられていた。
 視線さえ見えぬ程に大きな影がイツキを覆う。
 ガチガチと鳴る自らの歯の音と、低い(うな)り声が交ざって耳に届く。
 既に腰は抜け、ぺたりと座り込んだイツキは絶対的な恐怖を前に大きく目を瞑った。
 瞬間――――

「ほほい! フリーズファイア!」

 後方より放たれたナツの竜族特化魔法。
 ダメージこそ与えられないが、イツキから注意をそらすには十分――イツキに向けられていた視線は再びナツに向けられる――その場しのぎではあるが、そんな作戦が、ナツの頭にあった。
 だが――――。
 ナツに向けられた視線は二つ。
 イツキに残された視線も二つ。
 前後の首はナツとイツキを正面に捉え、硬直という呪縛を二人に与えた。
 かぱりと開いた大きな口。中に見える無数の牙。イツキも、冒険者のナツでさえも死を覚悟した時――、

「エアクロウッ!!」

 ――マイガーの強烈な一撃が、双黒龍の背中を襲った。
 オルネル、そしてティファがマイガーの背から跳び下り、着地(ざま)に魔法を放つ。

「「アイシクルファイア!!」」

 竜族特化の上級魔法。本来であれば特級魔法である「アイシクルヘルファイア」を使用したいところだが、オルネルとティファはイツキやナツへの被害を考え、あえて魔法の威力を一つ抑えたのだ。
 あくまで初手は対象をイツキから剥がす事。そう考えたオルネルとティファは双黒龍の前後を位置取った。

「マイガー! 削るのはお前だ!」
「わかってらぁ!」

 マイガーは近くの屋根の上に着地しながら叫んだ。

「ナツ! イツキを連れて俺の後ろへ!」
「うん!」

 ナツは後方のイツキの盾となるようになり、イツキはオルネルの後ろへ(にじ)り寄った。

「タラヲ!」
「ふっ、我輩の出番か!」
「隠れてろ!」

 眉間に皺を寄せた後、ティファの鋭い睨みを見たタラヲは、渋々と瓦礫の下へ隠れて行った。直後、双黒龍が前後の首から黒炎を吐いた。

「「アースコントロール!」」

 オルネルとティファ、互いのスウィフトマジックから放たれた魔法は黒炎を防いだ。
 しかしそれは正面の視界を塞ぐ事にもなった。
 オルネルは気付きながらもあえて……。しかしティファはただただ防ぐだけだった。
 オルネルが左手で行っていた宙図(ちゅうず)は、素早く魔法陣を描き、発動に至った。

「アイシクルヘルファイア!」

 オルネル側にあった土の壁は一気に砕け散り、突き破った特級魔法は双黒龍の首に悲鳴をあげさせた。
 ティファはオルネルの動きを見て、自らの未熟に歯がゆさを感じた。

(これが、一年生と四年生の実戦経験の差……! いえ、相手がオルネルともなれば、差はそれ以上って事ね……)

 ティファ側の首も痛がり、首を振りながらティファの正面にある土壁を砕く。
 その隙を狙い、マイガーが胴体への攻撃に入る。
 傷こそ浅いが、しっかりと爪痕を残し、双黒龍の怯みが解除された時、再び牽制を始めた。

「ほほほい! マジックシールド」

 前後の首の痛覚が繋がっている事を認識したティファが、対魔障壁魔法を発動する。
 それをぎろりと見た双黒龍の首は、口元に広がっていた黒炎を消し、首を素早く振り払ってきた。

「なっ!?」

 跳躍によって辛うじてかわしたティファ。
 それを瓦礫から見ていたタラヲが驚愕する。

「まさかあやつ魔法の(ことわり)を知っているのか!?」
「くそ、厄介な奴だ!」

 オルネルも気付き、再び攻撃魔法を宙図(ちゅうず)し始めた。
 攻撃をかわしたティファはその後の攻撃の機会が激減する。
 常に攻撃をかわす事を余儀なくされ、魔力以上に体力が削られる。
 オルネルは的確に双黒龍の攻撃を防ぐがその都度魔法を発動する。魔力の消耗は目に見えていた。

「くそっ!」

 マイガーが牽制しながらダメージを与えてはいるものの、二人の時間は徐々に、しかし確実に減っていった。

「ぐ、ぐぬぬぬぬ…………情けない……情けないぞ我輩! 狼王ガルムがこの程度でいい訳があってたまるか!」

 タラヲの悔しさを聞くと、肩で息をし始めたティファが言う。

「はぁはぁ……いいから……くっ、隠れて黙ってなさい。アンタが見つかると面倒なのよ」

 ティファの言葉にタラヲが歯を食いしばる。

(くっ、強がりおって。もはや体力の限界だというのはわかっている。しかしここでオルネルたちがこやつを抑えておかねば、ベイラネーアは危険……! 我輩に……我輩に力があれば……そうすればナツもイツキも助けてやれると――――イツキ?)

 タラヲは何かを思い出したように俯いていた顔を上げた。

(そうだ……アズリーのヤツが言っていた! 「困った時はイツキに相談しろ」と! しかし、あんな小娘に一体何が……!?)

 その時、双黒龍の首が地を叩いた。
 砕けた地の破片が跳び、ティファの肩をかすめる。

「くっ!」

 そしてタラヲは、ティファの肩から流れる血を見た時、瓦礫の中から飛び出していた。

「ええい! どうにもならなかった時はアズリー! 覚えておれ!」
「なっ!? タラヲ! 戻りなさい!」

 走り始めたタラヲは、(あるじ)の命が聞こえないように、ひたすら大きな声をあげていた。

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「何やってんだ、あの糞犬!」
「危険だ! 戻れタラヲ!」

 短い脚で全力で駆けるタラヲ。
 反対側にいるオルネル、その後ろにいるナツ、更に後ろのイツキの下へ。
 小さな身体をうまく使い、双黒龍の足下をくぐり、瓦礫を避ける。
 図らずもそれは双黒龍の一時の混乱を招いた。
 チャンスと見たオルネルが再び竜族特化の特級魔法「アイシクルヘルファイア」を放つ。
 ティファは肩の治療をスウィフトマジックで行い、走り続けるタラヲにずっと戻るように叫んでいた。
 そして遂にオルネルの股下を駆け抜けたタラヲは、精一杯の力で跳躍した。
 ナツはタラヲを受け止めながら尻餅を突く。そのままナツの肩までガリガリと移動し、ひょこりと顔を出したタラヲがイツキに向かって叫んだ。

「イツキッ!」
「へっ? ど、どうしたんすかっ?」
「我輩は! 今! 困っている!」
「…………は?」
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