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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第六章 ~聖戦士編・前編~

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182 飛ばされて一年

「わん!」

「わん! どうでしょうか、母上?」

「まだまだ甘いです! 甘々です! あ、マスター、おやつまだですか!?」

「父上、おやつは!?」


 甘々だなお前たち。

 紫死鳥のチャッピー。この八ヶ月(、、、)でかなりの成長を遂げた。

 最早成体と言えるだけの大きさ……現代で出会ったあの紫死鳥にかなり近い大きさと言えるだろう。

 だが、野太くなった声を聞くと、あの紫死鳥とは違う声質のような気がしてならない。

 声変わりとかあるのだろうか?

 そういえば、過去に来てからもうすぐ一年になるんだな。


「おやつよりオムツだよ。ほら、レオールのオムツ替えてくれ」

「恥ずかしいから無理です!」

「もう二度としたくありません」


 そらチャッピーはそうだろうよ。

 なんたって(くちばし)で替えようとしてたからな。

 いくら嗅覚が鈍くてもあれは可哀想だった。

 俺もポチも止めはしたんだが、「私の成長を信じられないと?」とか怒るもんだからやらせてみたら、一瞬で空高く舞い上がって「精神干渉攻撃!?」とか叫んでたもんだ。

 最近レオンは色んなモノを食べるようになったしな。


「いや、お前はやれよシロッ」

「ポーアさん、動かないでくださーい」

「あ、は〜い」


 くそ、まさかこんな事をやるとは思わなかった。


「腕はもっと明日を目指す感じで」


 確かに五千年後を目指してる途中だが、これは違う……。

 シロもチャッピーもくすくすわらってやがる。オムツ替えろよ。


「こっ、こうですか?」

「あ、いいですねそれ。これは大作になりますよっ」


 炎龍王。獄龍ヘルエンペラーの封印を施してから七ヶ月。

 火山の活性化と同時に奴は目覚めた。

 先月の早朝だったろうか。ポチに乗って早急に様子を見に行ったら、案の定封印が破られる寸前だった。

 炎龍ロードドラゴンよりも艶やかな鱗を持った、レッドメタリックの体表の龍だった。

 だが、その戦闘力は侮るなかれ。身体の大きさは生まれた段階で炎龍の成体クラス。威圧感はかつて戦ったランクSSのモンスター、オーガキングより重く、カオスリザードより鋭かった。

 火口の熱気よりも熱い炎を纏い、今にも俺たちへ襲いかかろうという殺意に満ち溢れた瞳をしていた。

 俺とポチは、この七ヶ月で発明した魔術「反魔鏡砲」を使い、二人の持てる最高攻撃を放った。

 ポチが(きわみ)ブレス。俺がポチ・パッド・ブレス。

 火口に縛られていた獄龍ヘルエンペラーは、蒸発するように消えていき、俺たちはその威力に驚愕した。

 魔力のレンズに二人の攻撃を通し、その強化と反射によって目標を捉え、数段上の威力をもって変化させた反魔鏡砲。

 おそらくこの先の戦いで相当重要になってくるだろう。

 タイミングさえ合わせられれば、魔王に有効な手段かもしれない。

 だが、そのタイミングが難しく、長年共に行動していた俺とポチでさえ、相当な修練が必要だった。

 全ての攻撃が、同じタイミングで魔力のレンズに当たらなくては効果を発揮しないからな。


 さて、それから一ヶ月。

 ポルコ・アダムスが、俺たちを称賛し、村の広場に俺の銅像を建てるとか言うもんだから……今俺は明日を指差しながらポチとチャッピーに笑われている。

 この彫刻家のおっさんもノリノリだよな。まずは絵のモデルという事だが、こうやって広場でポーズをとる約五千歳の男の気持ちを考えて欲しいもんだ。


「あ、腰なんかに手を置いちゃってみましょうか!」

「はぁ……」

「もっと笑顔で!」

「こ、こうですかね?」

「足を交差させて」

「ふんぬ!」

「首を一周させて――」

「それは無理だろ!」


 ポチとチャッピーが腹を抱えて笑い、息切れ激しくそろそろ絶命するんじゃないかって頃、俺の下にブライト少年が走って来た。

 彼も息切れしている。しかしとてもにこやかだ。それ程嬉しい事でもあったという事かな?


「師匠!」


 そう、いつの間にかこんな呼ばれ方をされるようになってしまった。

 称号が先生から師匠に格上げされたのは嬉しいが、どうもこの呼ばれ方は慣れないものだ。


「どうしたんですブライト様?」

「ついに姉上の許可を頂けました!」

「おぉ! それは素晴らしいですね! まさかあのジュン様が折れるとは……」

「はい! ついに師匠と行けます! 《トウエッド》へ!」


 まぁ、昨日俺から突っついてはみたんだよな。

 流石にレベルが上がって来たし、これからは魔王軍の侵攻も凄まじくなる。

 と言っても、まだ俺は魔王軍を見た事がないんだよな。一番離れた土地だし、しょうがないと言えばしょうがないか。

 でもまぁ、ブライト少年に外の世界や旅路を経験させるにはいい機会だ。

 ジュンの話じゃそんな経験をする貴族は稀だそうだけどな。

 確かにモンスターと対峙し退治する貴族は珍しいな。普通は屈強な護衛さんが相手するもんだ。

 そう、俺たちはもうすぐトウエッドへ向かう。

 理由は簡単だ――


「しかし本当にいるんですかね。《称号消し》の巫女なんて?」

「ポルコ様が言うんだ、間違いないだろう?」

「そうですね。師匠がそう言うのであれば間違いありませんっ」


 そう意気込みながらレオンのオムツを替え始めるブライト少年。

 それを見たチャッピーが驚愕している。


「おいブライト、貴様死ぬ気かっ?」

「大丈夫ですよチャッピーさん。後百年くらい死ぬ予定はありません」

「つーかお前たち、ブライト様にレオールのオムツ替えさせるなよ!」

「恥ずかしいです!」

「くちゃい!」


 野太い声で可愛く言ったなコイツ。


「ほらポーア様、動かないでくださいっ」

「ぐぬっ」


 くそ、あいつらにレオンのオムツ当番は無理か。

 レオンの正体の事はブライト少年に黙っているが、ジュンはどうやら知っているようだ。

 ブライト少年は、もしかしたらジュンにレオンの面倒を言いつかったのかもしれないな。

 レオンも最近ブライト少年には気を許すようになったし、悪い事じゃないか。


「へーぁ!」


 最近覚えたのか、言葉のレパートリーも増えてきた。

 ポチは面白がって色々教えてるそうだが、変な事を教えてなきゃいいな。

 しかし、モデルの仕事も大変なもんだ。

 身体が硬直して相当キツイぞこれ。


「それで、結局レオールは連れて行くんですか?」

「ポルコ様も別件で後から来るそうだから、連れて行…………っていいのかなあ……?」


 大きな溜め息を吐くと、ブライト少年がくすりと笑う。


「何かおかしな事でも?」

「レオールをここに残して行ったらそれだけで大惨事ですよ。あのフェリス様でさえたじろぐ程ですから」

「ははは、そういう事でしたか」


 赤ん坊の涙は最強……か。

 今の聖帝の下へ連れて行けない以上、俺たちで何とかするしかないな。

 聖帝もポルコの忙しさを頭に入れて尚、預けた方が安全だと判断したんだろうからな。

 ジュンもジュンで忙しいみたいだし、仕方ないか。

 東の国トウエッドか。初めて行くが、文化は流れて来てるみたいだし、悪い国ではないのだろう。


「最近レオールはチャッピーという言葉を覚えたのだ。さぁ言ってみろ!」

「あう?」

「チャッピー、チャッピーだ」

「あいー」

「馬鹿な!?」


 膨れながら「チャッピー」と連呼するチャッピーを、ポチとブライト少年はお腹を抱えながら笑ってる。

 ほんのひと時の平和。

 こんな平和がいつまで続くのだろうか……。

 いや、おそらく今のソドムではこんな平和すらない。

 ジョルノやリーリアのその後はジュンも知らないそうだ。早く、早く強くならなくちゃいけない。

 俺は明日を目ざす指を拳にかえてそんな事を考えていた。


「マスターはどうです? はーいレオールちゃーん。ポーア、ポーアですよー?」

「……あじゅりぃー」


 ………………………………。

 おいポチ、お前赤ん坊だからって何でもかんでも教えてんじゃねーよ!

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