173 地獄と天国
ギリギリで申し訳ありません。
8/27分の投稿です。
でもまだだ。
まだ終わった訳じゃない。半数以下になったとはいえ、その脅威はほとんど変わらない。
俺は震える足を奮わせる。
ポチ・パッド・ブレスの脅威を目の当たりにし、停滞している炎龍の集団を見据えた。
ガイルの戦力を考えても先程のような戦闘はもう難しいだろう。
ここはスタンダードでいくか、それとも……そう考えていると、ガイルが俺の前に一歩出た。
「今度はどうするんだ? 何でも言ってくれ」
少し印象が変わった口ぶりだった。
何か知らないが少しは信じてくれたという事だろうか?
だが、それを今考えている暇はない。ポチは既に満身創痍。ガイルの囮作戦もポチがいなければ成り立たない。
ここはもうこうするしかない……か。
「シロを……お願い出来ますか?」
俺の言葉を受け、ガイルは何か言いたげな表情になったが、開いた口をすぐに閉じて静かに頷いてくれた。
「な……に、言って……ぜぇぜぇ……るんですか……」
拒否したのは、よろよろの脚で立ち上がろうとする我が使い魔。
「何だ、まだ意識があったのか」
「マスターは……私が、いなきゃ…………何も出来ないじゃない……ですかっ」
それはそれで酷い言われようだな。
ま、今はそれを聞いてやる暇はないからな。
「ほい、スリープマジック」
当然、俺の睡眠魔法をポチがかわせる事はない。
最後に少し俺を睨んだポチは、抵抗しながらも意識を失い……笑顔で寝始めた。
まぁ、寝ると大体笑顔だからなこいつは。
幸せそうに寝るもんだ、まったく。
ガイルがそっとポチを抱えると、背中越しに言った。
「約束、忘れてないだろうな?」
「ガイルさんのおごりでしたっけ?」
「はん、それでいいからよ! ちゃっちゃと帰ってきな!」
そう叫び、クッグ村東の森の方へ走って行った。
今夜は美味しいお酒が飲めるかもしれないな。
さて、一人になった事だし…………どうしようかな、アレ。
やたらと怒ってらっしゃる。まぁ仲間の半数が消えたとなればそうなるよな。
それでも、仲間を殺した人間をそこまで放っておける訳がない。今にもこっちにブレスが飛んできそうだ。
とりあえず空間転移魔法で逃げ道を作って……いや、待てよ?
これを利用して戦闘に活かせないか?
三箇所から四箇所、空間転移魔法陣を設置し、その中を行き来出来る式を組み込む。いや、それだと難しい。
なら近くの魔法陣に反応する式を入れれば、簡単にいくかもしれない。
もう時間はない。ぶっつけ本番だが、やらないよりやった方がいい!
転移魔法。確か瞬間転移魔法の公式を前に考えた事があるが、あれは現実的に無理だと判断した。
だからこれは瞬間転移魔法というより簡易転移魔法と言った方がいいだろう。
「ギィイイイイイイイアアアアアアアアッ!」
炎龍が来た。迷ってる場合じゃないな!
「ほいのほいのほいのほいの……くっ……ほい! テレポーテーション・カウント4&リモートコントロール!」
四方に散った空間転移魔法陣。だがこれではまだ魔法は発動しない。
空間転移魔法は設置型。地面に直接描かなければ発動しないんだ。
だからこの後――――
「ほほい! コピー・カウント4&リモートコントロール!」
くぅっ! 指が攣りそうだっ! これをさらに!
「ほい! マジックジョイント・カウント4&リモートコントロールッ!」
コピー魔法にこの魔法が追いつけば、この後の魔法が生きる!
追いつかないとただのコピーになっちまう!
「だぁあああっほい!! ライト・カウント4&リモートコントロールッ!!」
空間転移魔法をコピーし、さらにコピー魔法と転写魔法を繋げ合わせる事で、地面にそれが描ける。
これで俺は、限定的にポチ以上の速度と、奇襲力を発揮する事が出来る!
炎龍たちの突撃の中、俺は一番近くの空間転移魔法に乗り、その発動を待った。
…………よし! その前に一発!
「ほほい、アイシクルヘルファイア!」
転移前の置き土産。
竜族特化の大魔法を喰らい、一頭の炎龍が落ちる。
「――よし、成功だ!」
転移が成功し、右側の空間転移魔法陣に移動した俺は迫ってた炎龍の横顔を捉える。
そして再び宙図を始めた。
この距離なら――
「ほほい! シャープウィンド・アスタリスク!」
空間転移魔法陣から一旦出て大魔法を発動。
狙いは複数の炎龍の殺傷。この数じゃ、翼を落とす方が倒すよりありがたい!
「「ガァアアアッ!?」」
落ちた炎龍の首は二つ。更に何頭かの翼を落としダメージを与える事に成功!
あと一発か! いや、この隙に再びスウィフトマジックを入れ替えた方が効率的だ。
迫る炎龍を確認した後、魔法陣の中に戻りながら最初にハイキュアー・アジャストを。
右側への転移直後に――
「――ほほい! ヘルスタンプ!」
魔法陣を出ながら発動した闇の鉄槌。
そして大魔法のフルスパークレインをスウィフトマジックへ。
間の抜けた様子の炎龍ににやりと笑いながらも、その接近を確認しながらまた転移。
この作戦、知能の高い人間相手じゃ難しいだろうが、モンスターには効果覿面だな。
ふふふふふ、我ながら自分の頭の良さに感心する。
この交互に行われた俺の作戦は見事に成功し、スウィフトマジックが使えるようになってからは、最早簡単なモンスター狩りだった。
途中、転移した後の魔法陣から俺のいた魔法陣に飛び立って行く炎龍の中、出遅れた炎龍の側。つまり元の魔法陣に転移してしまった時は肝を冷やしたが、瞬く間に炎龍はその戦力を失っていった。
……どれ程時間が経っただろうか?
三十分程戦闘を繰り返す頃には、空間転移魔法陣から空間転移魔法陣への四本……いや、斜め移動もあったから六本の道は、炎龍の死体で覆いつくされていた。
もう近くに奴らの気配はない。
…………どうやら終わったみたいだな。
魔力も三分の一程になってしまったし、そろそろ危ないと思っていたが、レベルアップした分、相当余裕があったようだ。
しかし疲れた……少し休もう。
炎龍の身体に寄りかかりながら俺は最後の宙図を始める。
「ほほい、パラサイトコントロール・カウント4&リモートコントロール」
証拠隠滅のために、四つの空間転移魔法陣を消す。
その時、俺の下へ強力な魔力が近づいている気配を感じた。
誰だ? 敵意は感じないが、はて?
あれは…………どこかで見た鎧だ。ゴツゴツしているが、鎧を着ている本人の頭部はとても小さい……と言うか小顔だ。
ふむ、知ってる顔だ。
「こ……これは一体…………っ! ポーア殿!」
「ジュン様、来たんですか」
そう、おそらく目覚めたポチが気を利かせたんだろう。
俺の部屋から空間転移魔法陣を通し、ブルネアからやって来たのはジュン。
もしかしたらブライト少年の機転かもしれないな。
「何を呑気な事を言っているっ! 炎龍はもういないのか!?」
「おそらく」
「何という事だ……」
待てよ……最初からジュンに応援を頼めばよかったな?
くそ、我ながら自分の頭の悪さに感心する。
人は窮地にこそ油断する。これは賢者のすゝめに書いておこう。
炎龍の死体の山を見渡すジュンをよそに、胸元から賢者のすゝめを出し、中にそれを記入していく。
そして、ガイルを先頭に次々と現れる護衛団の連中。
「マスター!」
ガイルに背負われていたのは我が使い魔。
「マジか……」
「これをあいつ一人で……?」
「わーお」
など、護衛団から口々に聞こえるが、こういうのは苦手なので無視をしておく。
歩ける程には回復したのか、ガイルの背中から下ろされたポチはひょこひょこと俺に近づいて来た。
うわぁ……凄い笑顔だ。
めっちゃ笑顔だ。
……嫌だなぁ……けど、避けられないしなぁ…………あ、胸倉摑まれた。
「こっの馬鹿マスターっ!!!!」
まず聴覚に大ダメージだ。
「この馬鹿! この馬鹿!! この馬鹿っ!!」
凄いラッシュだ。
爪と肉球が混ざり、地獄と天国が行ったり来たりだ。
「見てください! こんなに血が出てるじゃないですかっ!?」
「今出たんだよ!」
「そんな!? 炎龍は遅延型の呪いを使ったんですかっ!?」
「お前の爪のせいだっつーの!」
「何で無事なんですか!?」
「頑張ったからだよ!」
「もう少し劇的な感じがよかったです!」
「お前の劇的に付き合ってたら俺は今頃死んでるってーの!」
「死なないでくださいよ! 馬鹿!」
「生きてるよ! 馬鹿!」
ガミガミと言い合う俺とポチの声が空に響く。
さて、今夜は宴会だな。
ま、その前にどこかのお転婆娘にお説教だろうけどな。




