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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第五章 ~古の放浪編~

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161 ポルコ・アダムス

 ―― 神聖暦百二十年 六月二十日 午前四時半 ――


 夜が明けた……訳ではないが、日が変わった。

 ポチの横隔膜が鼻提灯のように上下する中、俺は精神を研ぎ澄まし、魔力でフルプライド家の敷地内を覆っていた。

 伸び代がある。ポチは昨日そう言ったが、伸びる前に死んでしまっては意味がない。

 本音を言ってしまえば、昨日の事は少し後悔している。ポチの傷…………あれだけ傷付いて戦ってくれるポチには本当に迷惑をかけている。

 勿論、普段のあいつらしい迷惑とは違う迷惑の事だ。

 俺たちがいつまでこの時代にいるかはわからないが、この時代は危険しかない。

 出会う奴出会う奴皆強い人間やモンスターばかり。

 獣であるポチにはやっぱり限界がある。

 俺は胡座をかきながらストアルームを宙図(ちゅうず)する。

 中から取り出した一枚の羊皮紙。

 そこには俺の汚く癖のある字でこう書かれている。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 使い魔の種族改変魔術


 いつかポチに使う日がくるかもしれないと思い書き記す。

 この魔術は単純なもので術式もそんなに難しいものではない。

 犬を猫に、猫を猿に、猿をモンスターに出来る。そんな魔術だ。

 この紙を見れば、俺なら「そういえばそんな魔術を考えた事もあったな」と思い出せるだろう。

 種族改変とは言っても、そんなに大袈裟なものではない。

 姿形が変わるものではない。

 あくまで鑑定眼鏡で見たステータスにあるような、内部情報を書き換えるだけだ。

 発動に際しても多量の魔力が必要なだけで、さしたる苦労はないだろう。


 一番の懸念はポチの心の問題だ。

 犬狼という種族に別れを告げ、獣でなくモンスターになるという現実。

 これをポチが受け入れられるか……それが問題だ。


 未来の俺。

 よく考えてポチに話すようにしろ。

 願わくばこれを使わない事を祈る。


 追伸:もう賢者になれましたか?


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 今大賢者への道を歩いてるところだ、過去の俺よ。

 現実問題、ポチに話す事への躊躇がある。

 だが、可能性を考えるのであれば、話しておくことが大事だ。

 もしポチが最悪な状況になった時、後悔をするのは俺だからだ。

 ある意味これは俺の自己満足でもある。我儘でもある。

 …………………………クッグ村に着いたらポチに話してみるか。


「う~ん……マスター、深爪しちゃいました~……ハイキュアー・アジャストを……」


 キュアーで十分だろそれ。

 特級魔法の無駄遣いを寝言でせびる使い魔の尻尾を引っ張って起こし、俺は部屋にあるブライト少年の部屋直通のドアをノックする。

 ドア越しに聞こえた寝ぼけ混じりの「どうぞ」。

 静かにドアを開けると、目を擦りながらベッドの端で足をおろしてるブライト少年がいた。


「ブライト様、もうすぐ出発です。早目に準備をしてください」

「……わかりました」


 こういうところはしっかりしているが、やはり子供っぽい部分もある。

 本来アルフレッドやジエッタの仕事ではあるが、今日は俺が起こすと昨日の内に決まったんだ。

 もうすぐ出発とは言っても、朝食の時間などはとってある。

 ブルネア出発の時間は午前六時。それまでに北門へ行けばいいだけだ。


「マスター大変です! 石鹸が目にぃいいいいっ!」

「ハイキュアー・アジャスト」

「何か違いますー!?」


 早朝から元気なヤツだ。

 さて、俺も洗顔しておくか。ポチビタンデッドを飲んでるとはいえ、気分のリフレッシュは必要だからな。

 ポチが部屋で食事中、ジュン、ブライト少年、フェリス嬢が食事をとる。そして俺が側で警護。

 俺が食事中、ブライト少年はジュンと自室で最後の準備。勿論隣の俺の部屋ではポチが警戒している。

 サッと食事を済ませ、必要な物を適当にストアルームに入れると、部屋にジュンがやって来た。

 時間…………か。

 アルフレッドが御者をし、その隣にはジエッタが座る。ジュンたち三人は馬車の中に乗っている。

 ジュンに俺も、と言われたが、ポチが馬車に乗れないので遠慮した。

 貴族っていうのは、こういうところが固いよなぁ。


 北門に着くと、既に何台かの馬車が用意され、戦士で構成される屈強な護衛団と思われる人間が多々見受けられた。

 ふむ、平均レベル百二十前後というところか。何だかんだで、この辺にいる冒険者ってのはこんなものなのかもしれないな。

 そんな中、あきらかに周りと違う異質な存在を捉えた。

 レベル百九十八。ジョルノたちに限りなく近い実力の持ち主。

 あの出で立ちは……魔法士か。しかしそうは見えない力の動きを感じる。

 青髪の中に少しの白髪。……隻眼か。額中央から右目の傷が酷い。

 どことなくオルネルの雰囲気に似ている。おそらくあれがアダムス家現当主、ポルコ・アダムス。

 オルネルの祖先でリーリアが気になった人物で、フェリス嬢の父親。


「父上!」


 馬車から出て来たフェリス嬢がそう言いながら近付く。


「フェリス、いい子にしていたかい?」

「勿論ですわ!」


 誰あの子?

 猫の皮を常備していなければ無理だろうな、あれ。

 どこに隠し持ってるんだろう。


「やぁジュン殿」

「ポルコ殿、今回は無理を言ってすまない」

「いや、お互い色々あるだろう。それにフェリスを半月も預けてしまった。今度は私の番だろう?」

「感謝します」


 何だ、結構爽やかで男前な人間だ。

 まぁそうでないと保守派をまとめ上げる事は難しいだろう。

 保守派のトップはこのポルコだとジュンから聞いてたが、会って納得した。


「やぁブライト君。久しぶりだね」

「ポルコ殿、しばらくお世話になります」

「ブライト様の身の回りのお世話をさせて頂くジエッタと申します。しかし、アダムス家に住まわせて頂く身。御用の際は何なりとお申し付けください」


 深々と頭を下げる二人。

 ジュンが小さな声でポルコに何かを伝えている。俺の番って事か。


「シロです!」


 相変わらず早いな、お前。


「ブライト様の魔法指導と警護を担当しているポーアといいます。出来る限りの協力をさせて頂きます。どうか宜しくお願い致します」

「うむ。ジュン殿から話は聞いている。腕のいい魔法士だそうだね? フェリスも世話になったと聞く。よろしく頼む」


 ポチをひと撫でしたポルコ。

 流石魔法士だな。使い魔を無下にしないところは好印象だ。

 ジュンとブライト少年は抱き合い、最後の挨拶をしている。そんな長い別れでもないだろうが、ジュンの性格上仕方ないだろう。


「ポーア君」

「何でしょうポルコ様?」

「見たところ君が一番の使い手のようだ。護衛団のリーダーであるガイルと協力して先頭を走ってくれるだろうか?」

「わかりました」

「あの男がガイルだ。道は彼が知っているからそこは彼に任せていいだろう」


 ソラ豆?

 いや違った。ただ禿げているだけか。

 ガイルは眉毛もまつ毛もない、ましてや髪の毛なんてあるわけがない。そんな男だった。

 ただ威圧感はあり、常に表情は険しい。ソラ豆に似ているだけだ。


「あの、ガイルさん。ポルコ様から言われて隣を走らせて頂きます」

「あぁ、お前がポーアってやつか。ま、迷惑にならんようにな」


 さっとかわしたのはこの言葉だけ。

 どうやらガイルから近寄ろうとする気はないようだ。護衛団の連中もな。

 だけどそう深く考える事もないだろう。

 彼らは彼らで動き、俺たちは俺たちで動いて、迷惑にならないようにサポート出来ればする。

 魔法士は本来そんなものだし、気にする事はない、か。


「ポーア殿、ブライトの事…………宜しく頼む」

「お任せください。向こうに着いたら連絡(、、)します」


 俺は心配そうなジュンを安心させるようにそう言った。

 するとジュンは少し安堵の様子を見せ、一団から離れてフルブライド家の馬車まで下がった。

 どうやら全員揃ったようだな。

 ポチが巨大化し、俺はその背に跳び乗った。

 ガイルが後ろにいる全員に向かって大きく叫ぶ。


「出発!」


 目的地はレガリアの西、《クッグ村》だ。

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