157 魔法士対魔法士
「デュアルドラゴン!」
「くっ!?」
いきなり風と雷の大魔法か!
二重にぶれる双頭の竜。回避方法は多くない。ならこっちは!
「ほい! アースコントロール・カウント2」
身体の両側に土壁を出現させ、俺は正面を魔力の壁で覆う。
これによって二手に分かれた竜の首が土壁に向かい、土壁は壊れるものの、ぶつかった衝撃で更に方向が逸れる。
「へぇ、面白い魔法ね」
「そちらもとんでもない宙図速度で……」
鑑定眼鏡で見たところ、こいつのレベルは百五十二。宙図速度は俺と同等。
オールアップで底上げした俺であれば、おそらく実力も拮抗しているはず。
少しでもこちらの戦力を上げた方がよさそうだな。
そう思い、俺は剛力、剛体、疾風、軽身を発動させる。本来の魔法士であれば、これは身体的影響が大きいからやるものでもないのだが、トゥースの愛の筋トレ劇場のおかげで、俺やポチはそれに耐えきれる身体を手に入れていた。
まぁ、元々は戦士用の技だしな。
「ならこれはどう? アースランス!」
「ほい! アースランス!」
よし、魔法の中身は勝ってもいないが負けてもいないようだ。
「ふっ、アイスジャベリン!」
「ほい! アイスジャベリン!」
「はぁああっ、ヘルスタンプ!」
また大魔法っ!
「このっ、ほほい! 八角結界!」
頭上から振り降ろされた闇の槌を結界に閉じ込める。
「あら、結界魔術にそんな使い方あったのねぇ~。いいわね、あなたの知識……」
唇に這わすようにチキアータが舌なめずりをする。
背筋がぞくりとするような嫌な悪寒が走る。
なんだろう、この……かつてのディネイアを思い出すような感覚だ。
この時、俺とポチの戦闘もあってかブライト少年が目を覚ました。
「う……これは……っ? き、君は……! 放せ、放せぇっ!」
「無駄です。私の力はあなたより少し強い。放す訳がないでしょう」
力強く身体を揺さぶるブライト少年だが、ミャンの腕力には敵わないようだ。
「ブライト様、そこを動かず……じっとしていてください」
「ポーア先生……!」
「ちょうどいい課外授業です。魔法士同士の戦い方、よーく見ておいてくださいよ……」
ブライト少年が大きく喉を鳴らしたのを脇目に、チキアータはにやりと笑って見せた。
「ミャン、あなたもよく見ておきなさい。いい勉強になると思うから……」
「はい、先生」
この二人も師弟関係か。
ブライト少年のレベルが低いのを考慮に入れても、全体的にこちらの方が見劣りしてしまうような気がするのは気のせいだろうか。
気のせいだと思いたい!
「はぁっ!」
接近戦っ? 一気に間合いを詰めて杖で向かってきた。
速度はまぁまぁ、これなら受けきれる。
「ふっ!」
よし。だが右手で隠すように左手の宙図を始めている。
この状況下であの魔法陣を壊すとすれば…………スウィフトマジックしかない!
「バースト!」
「なっ! きゃぁ!?」
受けた水龍の杖が瞬時に加速してチキアータの防御を突き破る。
後方へ吹き飛んだチキアータだが、杖をブレーキとして大地に刺し、その勢いを殺した。
「まったく、不思議ね……。宙図している素振りは見えなかったのだけれど?」
髪を掻き上げるチキアータに、俺は黙って警戒を続けた。
この時代にスウィフトマジックは存在しないはず。ならこれを使って戦闘を優位に運ぶしかない。
スウィフトマジックが四つ入る水龍の杖。現在この杖に入ってる魔法は回復の大魔法「ハイキュアー・アジャスト」、俺のオリジナル水魔法「ポチ・パッド・ボム」、杖の加速、強撃魔法である「バースト」、そして最後の一つは…………とてもくだらない魔法だ。
だが、そのくだらない魔法が…………今回の戦闘の要かもしれないな。
「ふふふ、怖いわね。何か企んでそうで……」
それはこっちのセリフだ。
古代の魔法士との戦闘なんて怖くてしょうがない。
俺が知らない廃れた魔法とか魔術があるかもしれないし、戦闘法も未知だ。
ならここは、相手の出方をうかがうより早く、こちらが動いた方が得策!
よし、奇襲になれば、多少の隙は生まれるはず。レベルの上がったこの身体なら、おそらく付いていけるはずだ。
っ! 十の魔発動!
「一つ、デルタアース!」
正三角形が三つ合わさった巨大正三角の巨岩砲。
「早いけど、どうという事はないわ、デルタアース!」
「二つ、ベノムデッド!」
毒素の混じった緑色の大炎。
「ちょ……とっ!?」
ギリギリかわされたが、まだまだ続くぜ!
「三つ、スパークレイン!」
天から降り注ぐ紫電の鉄槌。
「ちぃっ!」
杖を投げ避雷針としたか。やはり凄いな、この人!
そろそろその動きをなんとかしないとな!
「四つ、グラビティスタンプ!」
対象が一人でこの距離ならエネミーサーチを使う必要がない!
「重力魔法っ!? ぐっ、うぅ……」
膝を突いたチキアータ。かなりいい効果だ。
「五つ、シャープウィンド・クロス!」
「ぐぅっ、マジックシールド!」
魔法障壁が甲高い音を発しながら崩壊する。
相殺か、それも仕方ない。だが、ここから一気に畳みかける!
「六つ、アース・スター!」
大地から大粒の岩が発射され上空へ向かい放射される。
「あぁああああっ!」
よし、大ダメージ! これならば殺さずとも瀕死にする事が出来る!
「七つ、フレアボム!」
「ガァアアアアアアアアアアアッ!!」
真横からの巨大な光源! これはまさか零度ブレス!?
この一瞬で、チキアータを狙った高密度の火球は、弾かれてしまった。
一体何がっ!? ……あれは!
戦う俺の目が捉えたのは、黒と白の身体を深い赤で染め上げたポチの姿だった。
立ち上がろうとしているが、下半身に力が入っていない。胴体を起こせるのがやっとか。
くそ、あのディノってカイゼルディーノ、オールアップで強化したポチを…………いや、これは犬狼と竜の絶対的な種族差か。
仕方ない、残りの魔法をポチに使うしかない!
「八つ、ハイキュアー! 九つ、ハイキュアー!」
最後に一発、ディノに牽制を入れておく……!
「十、フリーズファイア!」
再びディノから吐かれた零度ブレスによって、最後のフリーズファイアは相殺されてしまったが、ポチを救う事は出来た。
「シロ、大丈夫か!?」
「アチチチチ……何とか!」
「ふん、雑魚が何度起き上がろうとも雑魚は雑魚よ。チキアータ、この魔法士の方が厄介だ。先に殺そう」
くそ、チキアータの奴、もう回復したのか……。
流石に早いな。
「ん~、仕方ないわね。ポーア君が先、あのワンちゃんは後にしましょう」
ならこっちも仕方ない。
このままじゃジリ貧だ。倒す戦いから逃げる戦いにシフトしよう。
そう思い俺はブライト少年に念話連絡の魔術を発動した。
『ブライト様、聞こえますか?』
『っ! これは……ポーア先生!』
『今から言う事をよく聞いてください――――』
ブライト少年に簡潔な説明を伝え終わった頃、チキアータはポチがディノに与えたであろう傷を回復させていた。
ポチもゆっくりと俺に近づき、俺だけを狙わせないように首を下げた。
再びポチに騎乗した俺は、慣れない魔法を左手で宙図し始めた。
「あら怖い。物凄い情報量ね……ソレ」
「殺す……かみ砕いて殺す。すり潰して殺す。引き裂いて殺す。……やっぱりかみ砕いて殺す」
「何アイツ、めっちゃ怖いぞ……」
「そうなんですよ。さっきからブツブツ殺す殺す言ってるんですよ」
獰猛なモンスター故、契約以上に性格が表に出てきてしまってるのだろうか?
何にしても、それがわかれば扱いやすいのかもしれないな。
俺はポチに小声で作戦を伝える。くすりとした後、にやりと笑ったポチは、ディノを見据えた。
「殺す殺す言ってないで、さっさとかかってこい! この間抜け面!」
一瞬にして黄金の瞳がこちらを捉える。
なるほど、やはりこのディノって使い魔……対人戦が少ないな。
人語を解する気性の激しい使い魔に効果的な作戦と言えば…………悪口しかないだろう。
「この馬鹿ー!」
「そんな馬鹿力でも当たらなきゃ意味ないんだよ、このハゲ!」
「この馬鹿ー!」
「その短い手で引き裂くとか笑っちゃうね、あんぽんたん!」
「この馬鹿ー!」
「あ、怒ったっ!? そりゃ図星って事だね! 笑っちまうよ!」
「この馬鹿ー!」
ポチのボキャブラリーのなさはどうにもならないんだろうが、ある意味一番効いているようだ。
おかしいな、ポチは俺に対してはもっとこう……結構な引き出しで罵ってくるんだが……はて?
「こ……の……」
血走った目で俺とポチを捉える瞳は、黄金を染め、気持ち悪い色へと変色していた。
どうやら相当怒っていらっしゃる。
「ぶっ殺すっ!」
第二ラウンドの開始だな。




