147 フルブライド家の依頼
フルブライド家の長女「ジャンヌ・フルブライド」ですが、現王都守護魔法兵団の「雷光ジャンヌ」と名前が被っていたため、「ジュン・フルブライド」に名前を変更いたしました。ジュンでも女性です。
やはりというか、何というか……ここはフルブライド家という事で間違いないらしい。
フルブライド家は、黒帝ウォレンと、骨拳ジェニファーの没落した家名。
こんな古い時代から続く名家だとは知らなかった。
という事は、あの黒髪の少年がブライト・フルブライド。そして、この壁越しから伝わる鋭い視線は…………おそらくジュン・フルブライドの視線という事か。
「えぇ、定期的にお金を得られるもので、と考えてます」
「…………」
何だ? 少し意外そうな顔をした老人は、すぐに元の辛気臭い顔に戻し、再び俺を睨みつけた。
しまった。もしかしてこう言うと足下見られてしまうだろうか? だけど言ってしまったものは仕方がない。
「我がフルブライト家では、有能な魔法士を募り、選別している。貴様、名前は?」
「ポーアといいます」
「なるほど。で、貴様は魔法士なのか?」
何故名前を聞いたんだ?
「やたら派手な格好だが、戦士ともとれる体つきをしている」
「魔法士です。しかし戦闘となれば、使えるものは何でも使おうと考えています」
「ふん。確かにその体も使えそうではある」
あれ、そう言えば…………この時代から魔法士って呼ばれてたのか。後でこの時代の事もしっかりと調べないといけないな。
「が、貴様にその資格があるとは私には思えない」
溜め息を混ぜながら吐かれた言葉には、人を苛立たせるだけの感情が込められている。わざとじゃないと感じるところが、とても腹立たしい。
しかし、これも選別の一つかと思うと、抑えられない感情ではない。
だからかはわからないが、そう言われて尚、黙って老人を見据える俺に、老人は小さな舌打ちを見せた。
できればそれは陰でやって頂きたいものだ。
さて、俺からも何か質問しないとだな。
「それで、ブライト様の魔法指導という依頼内容でしたが、どの程度の指導を望まれているのですか?」
「まだ貴様を受け入れるとは言っていない」
間髪入れずに老人が答える。
さすがに俺の眉もピクリと動いてしまった。
俺だってまだ引き受けるとは言ってないのに……。
仕方ない。ここは切り口を変えてみるか。
「では、そちらの方とお話しさせて頂きます」
俺が壁を見て言うと、老人の片眉が上がり、鋭くなった視線は和らぎ、そして消えていく。
確かにこの視線、ランクA程の実力がないと気付けないだろうが、そういう選別だとは思わなかった。
老人が大きい溜め息を吐き、吐いたかと思うと、再び凛々しい顔つきに戻る。おそらく主の登場だからだろう。
ドアの外に感じた気配は二つ。ブライトと…………先程の視線の持ち主。
ドアが開くとそこには黒髪の少年と、一人の女が立っていた。
「ジュン様、坊っちゃま。いかがなさいましょう?」
控えて言った老人の言葉に、ジュンが小さく頷く。
立ち上がった俺の瞳を捉えた瞳は、濃い灰色の澄んだ瞳だった。
「アルフレッド、ご苦労でした。下がりなさい」
「かしこまりました」
なるほど、この老人の名はアルフレッド、か。
アルフレッドは、頭を下げながらドアまで下がり、ドアを開け、閉める際に再び頭を下げた。
ジュン……か。リーリアが驚いたと言った人間。
褐色肌の黒髪。右耳に銀のピアスを見せた輝く唇の持ち主。重そうな鎧を身に付け、装飾には美しい金の彫刻。
名誉ある地位さながらの装備だな。携える直剣を見る限り戦士タイプの人間だろうか。
「ブライト、奥にお座り」
「はい、お姉様」
姉とは対照的な色白のブライト少年。どこか見た事があるとは思っていたが、どことなくウォレンに似ているんだ。
まぁ、アイツは嫌な笑みを浮かべ、ブライト少年は嫌みのない笑みを見せるからな。このブライト少年もいつしかあんな顔になってしまうのだろうか?
ジュンが腰を下ろすと、俺に着席を促した。
「失礼します」
倣って腰を下ろした俺を、ジュンはジッと見つめていた。
なるほどね。弟思い故のあの依頼内容か。男色家はやり過ぎだと思うけどな。
「まずは非礼を詫びよう。先程はすまなかった」
「構いません。私も態度に出てしまったかもしれませんし」
「正直なやつだ。ジュン・フルブライドだ」
差しだされた手には無数の剣ダコがあり、歴戦の強者だと俺に知らせた。
「ポーアです」
軽く手を交え、ソファーから少し上がった腰を戻すと、ジュンがブライトを見やった。
「これはブライト。私の弟だ。本当は今日あの依頼を取り下げるつもりでアルフレッドをギルドへやったのだが、まさか最後の最後で君が現れるとはね」
「取り下げるつもりだった……という事は、もしかして他の指導者が?」
「いや、私がここを離れなくてはならなくなったからだ。明日中に東へ発たねばならない」
「その間、屋敷には僕とアルフレッド、少数のメイドのみとなってしまうのです」
ブライトの言葉を聞くに、ジュンだけここを出るという事か。それなら尚更弟の事が心配だろう。
ジュンはブライトの頭に手を置きながら話を続けた。
「そこで今回の仕事だが、私が留守の間、ブライトの魔法指導、及びその身辺警護をお願いしたい」
「勿論それは構いませんが……依頼は魔法指導だけだったのでは?」
「何しろ急用でな。本来であればブライトも連れて行くべきだったが、こうして信用できる人間が目の前に現れたのだ。無理に連れて行く事はないだろう」
「信、用……?」
この短時間に何をどう信用されたのかわからない俺は、その言葉を聞き首を傾げた。
それを見透かしたようにジュンが付け足す。
「ジョルノ殿からの推選だ」
「ジョルノさんが……?」
「『隠してる事は多いが、悪い人間ではない』と言っていた」
俺たちがトウエッドに帰ると言ってここまで来たのにも関わらず、定期収入のこの仕事を紹介した。
トウエッドに行くなんて話はそもそも信じてはいなかった。
なるほどな、バレバレだったって訳か。
「しかし、それだけでは……。俺が言うのも何ですが、信用出来ないかと」
「我がフルブライド家は、武芸に秀でた家系だ。今の地位もその武勇で成した事が大きい。……それだけに、私は自分の目に自信を持っている。過程で信を得る事もあるだろう。しかし、それは絶対ではないという事だ」
「はぁ……」
タラヲとは違ったタイプの自信家だな。
頬をポリポリと掻く俺に、ジュンは口の端を上げて応えた。
「勿論、魔法指導以外に身辺警護の仕事を追加するのだ。成功報酬に加え、保障も用意しよう」
「保障、と言うと?」
「聞けばポーア殿。君は現在生活に困っているそうだな? その生活を保障しようじゃないか」
ふむ、なるほど。食い物と寝る場所は任せろという事か。
大食いチャンピオンもいるし、支出がほとんどなくなるのは確かに大きい。
それだけに、ここに縛られてしまうというデメリットはあるが……。
「ひと月もすれば私もここへ戻る。それ以降の身辺警護に関しては、多少緩和されるだろう。報酬は次に私が戻った時、ブライトの能力を見て決めようじゃないか。何、最低十万ゴルドは約束しよう」
聞けば聞く程良い話だ。さーて、どうしたものか。
そう思い、腕を組んで悩んでる俺の頭に、聞きなれた声が響いた。
『やってみましょうよ、マスター!』
『うおっ!? 何やってんだポチッ?』
『何って念話連絡ですよ。ギリギリそちらの声が聞こえたので』
『念話連絡って……おま――』
『私もレベルアップして魔力が大きくなりましたからね。これくらい訳ないですよ!』
なるほど、レベルアップで増えたMPで、ポチの魔法や魔術にも幅が広がったって事か。
『んー、わかった。まずはひと月。こっちも試しでやってみるか』
『アウッ!』
少しの沈黙にブライトが首を傾げている。
「どうだろうか?」
「わかりました。やれる限り尽力してみます」
会話の始め同様、しかしそれより固く手を交わした俺とジュン。
そこに小さな手を置くブライトの目は輝き、その光で俺たちの顔は少し綻んでしまった。
しかし、古代で魔法教室か…………とりあえず頑張ってみよう。
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これからも「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」を宜しくお願いします。




