141 見えた、ブルネア!
そうだったそうだった。確かオルネルは貴族で、アダムス家って家名もあったな。
しかし違う家だという事もなくはない。
まぁ、そのうちわかるかもしれないな。
そしてフルブライト家。そういえばウォレンは、「没落したが、この名を覚えておけ」とか言ってたな。
もしかして、ウォレンは俺がこの時代に来る事を知っていた?
もしくは、そう指示されていた?
……なんともわからない事だな。
俺は答えの出ない問題を頭で考えながら巨人の通り道を上っていた。
だが、途中からそんな事を考える余裕はなくなっていたんだ。
俺たちの正面を巨大な影が覆う。昼間だというのに夜を感じる不思議な光景だった。
「マ、マスター……」
ポチの声が震えている。
レベルが百三十二になったポチが恐怖を感じる。
つまりそういう事だ。
当然、俺の身体も、知らず知らずのうちに勝手に反応していた。
肩の震えが…………止まらない。
「知ってたかい? ポーアさん。ここが何故《巨人の通り道》なんて呼ばれているのかを」
現代にはいないが、超古代にはいた。
だからそう呼ばれていたんだ…………。
「ジャイアントマーダラー……」
「そっ。どうやらちょうど休眠期を終えたようだね〜」
古代種のジャイアントマーダラー。ランクSSだった……かもしれないと呼ばれる危険なモンスターで、群れをなして動くと聞いた事がある。
巨大化したポチの四、五倍はある巨軀。目測で三十メートルというところか。紫色の肌を隆起させ、どこで調達したのか知らないが、腰布一枚と巨大な……ダガー。
遠目で見ればダガーだが、間近で見ればそれは肉厚の鉄塊だ。
くそ、巨人なら巨人らしく鈍器でも持ってろよっ!
「ポーアさん、ゆっくり後ろへ。リーリア、三十秒持ち堪えろっ」
「はんっ、ぶち殺してやるよっ!」
既にリーリアは出来上がっていた。
剣の腹を舐め、目は血走り、髪の毛はゾワゾワと逆立ち始める。
え、あの人モンスターじゃないの?
「ポーアさん、死なないで……ねっ!」
同時にジョルノは横に駆け始め、リーリアは正面からジャイアントマーダラーに向かった。
あの掛け声からして、ジョルノにしては警戒している。
という事は、二人にとっても強敵であると推察出来る。
なら、俺も援護しなくちゃなっ!
「シロ!」
「はいですー!」
ボンと巨大化したポチは、瞬時に俺の首根っこを咥え、首を大きく振って上空へ放り投げた。
それを追い掛けるようにポチは飛び、俺の着地をポチの背中に合わせる。
「荒っぽいがナイスだ!」
「とーぜんです!」
その頃既に、リーリアはジャイアントマーダラーと剣を交えていた。
いや、正確には捉える事は出来なかったが、耳に届く強烈な衝撃音がそれを知らせた。
「見えるか、シロ?」
「まったくです!」
「ほいのほい、オールアップ・カウント2&リモートコントロール! どうだ!?」
「……か、辛うじて!」
レベル百三十二の目を細めたポチが、ギリギリ遠目で捉えられる速度。
当然、俺に見えるはずもない。
つまり――――――――、
「これじゃリーリアに補助魔法を掛けられないぞっ?」
「今後は戦闘が始まる前に掛けましょう!」
「今は!?」
「もう、仕方ありませんね! 誘導します! ジャイアントマーダラーに当てたらダメですよ!」
「当たっても大丈夫な公式だよ!」
「かしこまりました! いきます!」
「――うおっ!?」
首を捻挫するかと思った。
レベルによってポチの身体能力が強化されている証拠だが、まさかここまでとは――――
「――――ぐおっ!? ……つっつ……いってぇな! 急に止まるなよ!」
「は…………は……」
「ん? なんだよ……?」
「速くてビックリしました!」
お前もかよ!
「ったく、いけるか!?」
「百一さんに言われるまでもありません!」
にゃろう。
再び走り出したポチは、リーリアの後方へ着地し、金属と金属が弾け、音が集中する中、リーリアの動きを追っていた。
血眼、という言葉が似合う程、ポチは目を光らせている。
次第にポチの身体が揺れ始め、いつの間にか軽やかにトーントーンと跳躍を始めた。獣の武器なのか、既に速度に慣れた感じを示し、瞳を上下左右に動かしている。
同時に俺も宙図を始め、ポチに全てを預けるように集中した。
「ここですっ!」
正面に一直線に駆けたポチは、左から現れるリーリアにピタリとタイミングを合わせる。
同時に身体の向きを側面に向け、リーリアの背中と俺の右手が合うように誘導し、絶妙な空間を作った。
「ナイスシロ! ほい、オールアップ!」
「っ!?」
一瞬ちらりとこちらに横目をやったリーリアだったが、すぐにまたジャイアントマーダラーと剣を合わせ始める。
「おぉおおおおおおおっ!!」
雄々しい気合いの叫び声を背中に浴びると同時に、ポチは横に跳び、次の応援相手であるジョルノの下へ一足飛びした。
「シロ君やるぅ〜」
口を尖らせてポチを褒めたジョルノ。その肩を掴んだ俺は、足に力を入れ、ポチの身体で円を描くように止めさせ、そのまま肩から左手で描いていたオールアップの魔法を叩き込む。
「おぉ、ポーアさんも、戦い慣れてはいるみたいだねぇ。それにこの魔法。中々いいんじゃなーい?」
「それよりもリーリアさんの支援を!」
「あーだいじょーぶだいじょーぶ。この魔法を受けたリーリアなら一人でも倒せるよ」
「でも――」
「――それに」
ジョルノが身体の向きを右に向け、俺の視線を誘導する。
「ジャイアントマーダラーは群れで動くからねぇ〜……」
涼やかな顔で言ってのけたジョルノだったが、俺とポチの瞳は左右で五体のジャイアントマーダラーを捉え、その圧倒的なプレッシャーに捕えられた。
最早恐怖しか感じない身体。勝手に鳴り始める歯と歯の音に気付いたのは、ジョルノの適当な音色の口笛を聴いた時だった。
「いや〜、絶景絶景♪ これは死ぬかもしれないねぇ〜」
「しょ、正気ですかっ!? 一度撤退をっ!!」
「そうです! 五体のジャイアントマーダラーと戦闘とか、自殺行為です!」
「そうはいかないよ。休眠期を終えたジャイアントマーダラーはブルネアを狙うだろうし、ここで止めを刺さないと、人類の形勢は確実に悪くなる。ブルネアには今、こいつらと戦う戦力はないしね。あ、シロ君。前に三歩歩いて」
ジョルノの言葉に、首を傾げながらもポチは前に三歩進む。
と、同時に右手前方からチカッっと小さな光が見える。なんだろう……アレ?
「っ!?」
「なっ!?」
瞬間、ポチの背後の大地が焦げ臭さを残して消えた。
崩落の音も、風切り音も聞こえず、起こった事態に俺とポチの目は点になる。
「わ、私のお尻がぁああああああああああっ!?!?」
「大丈夫だシロ!! ほら、尻尾の毛が少し無くなっただけだっ!!」
「無理っ! 無理ですマスターっ! あんなの相手に出来る訳ないじゃないですかっ!!」
「ははははは、少し焦げちゃったね〜」
何を呑気に言ってるんだ、この人は!?
「おっ、リーリアが一体倒したみたいだね。それじゃ、僕たちで四体を相手にするから、ポーアさんとシロ君であの一つ目のジャイアントマーダラーをよろしくっ」
と、ジョルノが大きな目を一つだけ顔面に持つジャイアントマーダラーを指差す。
「「む、――――」」
『無理です!』。そう言おうと俺とポチは手を前に出した時、近くで戦っていたリーリア、ジャイアントマーダラーを指差していたジョルノは既に消えていた。
「「――むり…………って、あ! いないっ!」」
左にいた二体をリーリアが受け持っている。怒号と汚い言葉が響いているから間違いない。
右にいた二体をジョルノが受け持っている。爽やかに髪を靡かせながら遠目で見えた。
そして正面にいた一つ目の大魔人が…………俺たちを受け持とうとしてくれている。
ニチァッという、気持ちの悪い笑みを浮かべながら。
「「……ピ~ンチ」」




