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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第一章 ~魔法大学編~

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014 四翼の竜、バラッドドラゴン

 ―― 二月二十一日 午前十時 ベイラネーアの西 丘陵地帯 ――


 ギルドで高ランクのモンスターの情報を得た俺達は、ベイラネーアの西へ向かっていた。

 情報を得たモンスターは《四翼の竜バラッドドラゴン》。

 元々地名であるベイラネーアから、ベイラッドドラゴンという名前だったが、それが変化して現在ではこう呼ばれているそうだ。

 大空を舞う緑竜で、文字通り四つの翼を持っている。

 五千年前にいた飛竜の亜種だと思うが、ランクAという事と、空を飛んでいる事もあって、他の誰も手を出していないそうだ。


「ねーマスター、BならともかくAは厳しいと思うんですけどー?」

「アルファキマイラは倒せたろー? それにあれから二年も経って俺達も成長してるから大丈夫だって」

「ホント楽観的なんだから」

「無理そうだったら私とポチさんで走って逃げようね!」


 リナはたまに爆弾を投げつける。


「勿論です! 背中は空けときますよ! あ、マスターの座席はありませんけどね!」

「尻尾にかじり付いて行くから大丈夫だ」

「やはり私の尻尾をステーキにするつもりですね!?」

「そんな事言ってるとバラッドドラゴンに食べられちゃうぞ!」


 そんな皮肉り合いをしていると、バラッドドラゴンの目撃情報があった丘陵地帯に着いた。

 振り向けば遠目に見えるベイラネーアと、俺達が通って来た山脈地帯《巨人の通り道》が見える。しかし、正面には凹凸(おうとつ)目立つ草原と、遠目に見える深い森ばかり。


「見晴らしは良いと思いますが、空にも視界の範囲にもドラゴンなんて見えませんねー」

「あ、でもあそこにブラッドジャッカルの群れが見えますよ? あんなに急いで何処に行くのかしら?」


 十匹以上のブラッドジャッカル、あの魔物は、確か餌がある場所に駆けつける習性があったはずだ。


「ポチ、何か臭うか?」

「やだ、マスターやめてくださいよー!」


 ポチがありがちなボケを見せ、前足で鼻を押さえる。


「変なボケはいいっつーのっ」

「スンスン……スン……えぇ、確かに臭いますね。これは、血の臭いでしょうか」

「よし、案内!」

「アウッ!」


 俺とリナは駆け出すポチの後ろに続き、血の臭いがするという方向へ走って行った。

 途中ブラッドジャッカルと遭遇し、目が合ったが、奴等はすぐに向き直り俺達と同じ方向を目指した。

 一体この先に何があるんだ?

 先行するブラッドジャッカルには追いつけなかったが、先程の場所から見えた大きな凹凸の死角部分にそれはあった。

 既に到着していたブラッドジャッカル達は、それに群がり、そして噛み千切っていた。


「バラッドドラゴン……の死体だな。まだ腐臭がしない……おそらく死んで間も無いだろう」

「肩から胸までの袈裟斬りが致命傷ですね。あ、角や爪は回収出来そうですよ!」

「危険を冒さずゲット出来るとは、運が良いが……こいつらの食事終わらなくちゃ無理じゃないか?」

「いえ、アズリーさん、ブラッドジャッカルを追い払いましょう」


 リナはたまに爆弾を投げつける。

 珍しい意見だと思った俺は、リナの見据える先を目で追ってみた。


「……股?」

「竜の……卵……」

「なんだってっ?」


 リナの言ってる事は正しかった。バラッドドラゴンの足と足の間に、確かに見える卵型の球体。と言っても卵の下半分だけ見えている状態だ。

 傷の痛みと、ジャッカルが押し寄せた事による死後変化により飛び出たのだろう。


「急がなくちゃまずいな、このままじゃ落ちて割れちまう」

「急ぎます。ほいのほいのほい、フウァールウインド!」


 リナの魔法陣から小さなつむじ風が発生し、ブラッドジャッカルの集団の中へ割り込んでいく。つむじ風は次第に大きくなり、ブラッドジャッカル達の体を持ち上げていった。


「アズリーさん、今のうちに卵を!」


 俺はその声を聞くより早く、くるくると回りながら浮き上がっているブラッドジャッカル達を潜り、バラッドドラゴンの股下へと駆け、半分程出かかっている卵をゆっくりと慎重に引き抜いた。


「そろそろ持ちません、急いで下さい!」


 魔力放出の維持に険しい表情のリナが叫ぶ。

 そしてポチは座りながら欠伸をしている。確かにやる事ないかもしれないけど、それはどうかと思うぞ?

 あ、頭掻いてる。


 俺は慎重に、しかし足早にリナの下まで戻った。

 隣で(のみ)を見つけて顔をしかめているワン公にも、仕事を与えようと思う。


「リナ、もう少し我慢して! ほいのほいのほい、剣閃集降!」


 卵を地面にそっと置き、魔術陣を宙図(ちゅうず)する。

 上空に放った魔術陣から、無数の斬撃が飛び出し、ドラゴンの角、牙、爪を斬り落として行く。


「ほーらポチ、取ってこいやー!」

「あ、アオーンッ!」


 ワンテンポ遅れたポチだったが、角、爪、牙の順に目まぐるしく収集品を回収し、俺の所まで持って来る。

 その間俺は、限界を迎えそうなリナの手を握り魔法陣を描く。


「へっ、あの、えっ?」

「ほい、マジックシフト!」


 マジックシフト、俺が考案した特殊魔法の一つで、魔法の魔力供給先を切り替える魔法だ。

 リナの行っている魔力の放出維持は非常に燃費が悪い。リナの四百程度のMPでは、1分と持たないだろう。

 そこでこの魔法を使い、リナからではなく、繋いだ手を伝い俺からの魔力供給にシフトしたのだ。


「あ、あの……ありがとうございますっ」


 少し俯いたリナの表情は見えなかったが、昨日あれだけ触られたし問題ないだろう。

 ポチが全ての収集品の回収を終えるのを確認したら、リナがフウァールウインドの維持をやめ、ブラッドジャッカル達を解放した。

 数メートル上からぽとぽとと落ちてくるブラッドジャッカル達は、着地と同時にまたバラッドドラゴンの屍肉を食べ始めた。

 どうやら俺達の仕業で宙に浮いたと認識しなかったようだ。もしくは食欲が勝ったか……。


 リナがブラッドジャッカル達を倒さなかったのには理由がある。

 一つは、ブラッドジャッカル達の後ろに卵があった事。もう一つはブラッドジャッカルは屍肉を漁るだけのモンスターで、基本的に人間に害がないのだ。

 極度の飢えから襲う場合もあるが、それはまた特殊なケースだろう。

 優しいリナは、それで殺傷力のない魔法を使ったのだ。


「さて、これどうしようか?」

「えっと……どうしましょう?」

「リナが見つけたのなら生殺与奪の権利はリナにある。それが自然の摂理だ。売るもよし、卵焼きにするもよし、頑張って孵化させるのもよし」


 ま、答えはわかってるけどね。


「わ、私に出来ますかっ?」

「孵化の事?」

「はい!」


 いやに熱心だな。

 確かに、魔法士ならばモンスターの卵は喉から手が出る程欲しいものだ。

 インプリンティングという刷り込み効果が出るから、比較的使い魔にし易い。だが、同時に使い魔の盗難が目立つのも事実だ。

 今回の場合、リナはそういったつもりはないだろうが、優しさからの結果という事実が、リナを動かしたのだろう。


「ポチが温めるから心配いらないよ」

「え、マスター、初耳ですけど!?」

「奇遇だな、俺も初口だ」

「それでは私は温める事に集中しますから、お二人はしっかり稼いでくださいよ! 私の為に!」


 私の為に、そう言った後のポチの満足したかのような顔。

 おそらくこれが言いたかっただけだろう。


「しかし一体誰が倒したんですかね? 完全に人間の仕業ですよ、これ?」

「卵に気づかなかったのはわかるが、収集品も回収してない。……どっかの力自慢の仕業だろうな」

「……手練れですね」


 リナが肩を震わせて言った。

 確かにランクAのモンスターは、レベル六十前後のパーティが協力してようやく倒せる。魔法士が協力して補助魔法を掛けた場合は別だが、レベル百の冒険者で互角というところだろう。

 見た所全て同じサイズの斬り傷だ。一人で倒したとなるとレベル以外の強さを持った相当な手練れになる。

 剣撃であれば……六勇士か、もしくは他の誰かか……。

 俺も自分の力を過小評価はしていない。距離さえ保てればランクAの魔物は倒せると思っている。バラッドドラゴンは飛行タイプのモンスターという知識があったからこそ今回勝負に出たんだ。

 だからこそ戦闘中に余裕が出来たりもする。いや、愚者の称号が消えたなら――

 いやいや、仮定の話をしてもしょうがないだろう。今やれる事をやればいい。そういう事だ。


「ま、世の中広いって事だな。それより帰って換金しちゃおうぜー」

「そうですねー」

「あ、私が持ちますよ」

「ん、結構重いよ?」

「えぇ、大丈夫ですっ」


 そう言われたら断れない。俺は直径四十センチメートル程の卵をリナに渡し、帰路を急いだ。

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