133 名付けたのはポチだった
いつも「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」を読んで頂き、ありがとうございます。
これより第五章の始まりとなります。
物語も構想的にはおそらく中盤頃なのかなーと思います(適当)。
頑張って書きますので、是非応援の程宜しくお願い致します。
「どぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「ひぃいいぁああああああああああああああああああああああっ!!」
「ポチ! あれなんとかしろよ!」
「無理に決まってるじゃないですか! ランクSのグランドセントールの群れですよ!? 死んじゃいますよっ! マスターがやってくださいよ!」
俺たちは駆ける。別名ケンタウロスと呼ばれる半獣の馬型モンスターの群れに追われながら。
どんどん数が減って今やもう絶滅寸前と言われていたモンスターだが、いるところにはいるもんだな。
「馬鹿言うな! 俺は最後の砦なんだぞ!」
「砦が何で一目散に逃げてるんですか!」
「うるせぇ! あんなの相手にしてたら命が十個あっても足りないわ! で…………何頭いる!?」
「振り返る余裕なんてないですよ! 確か最後に見た段階で二十頭はいたはずです! それよりっ!」
「何だっ!?」
「ここは、一体どこなんですかぁあああああああああああああっ!?」
草原でグランドセントールたちと追いかけっこをする俺たち二人。
ポチの声が響き渡るが、俺から返答する事は出来ない。
あの時、俺たちは確かに懐かしの我が家こと、始まりの地……数百年間暮らしたあのダンジョンの中へ入った。
ダンジョン内には、案の定多数のモンスターがいたが、入り口程危ないモンスターはいなかった。
だが…………一体何故俺たちはダンジョンから草原へと飛び、グランドセントールに追われているのだろう?
あれは確かそう…………俺が研究室に使っていた一番奥の部屋へ入った時の事だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ようやく着いたな」
「えぇ、この部屋で最後ですね」
「モンスターもいないみたいだし…………って、でもここにも何もないな?」
「あのゴミの山の下とかですかね?」
ポチが差す前脚の先には、俺がこの場に置いて来た時に置いていったものだ。ボツ資料や、古びた錬金術用の道具などがあった。
確かにポチの言う可能性は無視出来ない……か。
「ほい、フウァールウィンド」
ガラクタの山が魔法によって浮きあがり、下にあった地が姿を見せる。
「…………何も、ないな?」
「あれは本当に夢だったとか?」
「んなはずないよ。俺とポチ二人が同じ夢見た事あるか?」
「えぇ、何度か」
「……まぁ、八百年以上も一緒に暮らしてりゃそうだけどな――――っ!? 何だ!?」
「えぇ! 今確かに魔法の起動を感じました! これは一体!?」
耳をピンと立ててポチが言う。俺とポチは慣れた動きで自然と背中を預け合う。
部屋の出口であり入り口からの圧迫感はない。もうこのダンジョンは、俺とポチ以外は空のはずだ。何者もいるはずがない。
魔法の起動を感知はしたが、その存在は確認出来ない。
気配はないのに魔力が迫るような圧迫感がある。背中に冷たい汗を感じ、ポチの牙が剥き出しになったその時、部屋一帯、いや、ダンジョン一帯に強烈な音が走った。
耳を劈く鋭く高い悲鳴のような亀裂音。その音が徐々に、俺たちに近づいてくる。
「トラップですか!?」
「いや、そんな形跡はなかった! ダンジョンの全部屋調べた! ここだって問題はなかった!」
「きっと見落としですよ! 馬鹿マスター!」
「んな訳ねぇって! って……えっ!?」
突如現れる魔法陣。床、壁、天井から這い出るように現れた。これは一体っ!?
「何ですかあの魔法陣は!? 情報が多すぎて解読不能ですよ!? な、何て小さな文字群……」
「あぁ、俺でも読めないっ! こんな馬鹿げた情報量、俺の全魔力を使ったって起動出来ないって!」
「ママママママスターの魔力をしてって……一体誰が!?」
「そんな事わかんねぇって! だが、どうやらこれはトラップで正解みたいだな!」
「もう、やっぱり見落としですか! 大馬鹿マスター!」
「ダンジョン全体に仕掛けられた超大型設置魔法陣だぞ!? 気付くにゃ壁の中調べなきゃ無理だっつーの!」
「壁の中に魔法陣を描くなんて、一体誰が出来るんですか!?」
ポチは自分で言っておきながら、自分で気付く。それは、俺も同じだった。
「「あ」」
そもそも俺たちをここまで誘導したのは誰だ?
勿論ウォレンが言った事もあるが、やはり最終的にはあの爺さんに帰結する。
そして、あの爺さんは自分の事を何て言っていた?
神の使い……確かにそう言った。ならばこれを設置したのはあの爺さん…………もしくは、その上に存在する………………神。
「は、発動しますぅううっ!?」
収束する魔力が魔法陣を通して俺たちを包み、球体へと変わる。
「ポチ!」
「マスター!」
両手と両前脚、手の平と肉球を合わせ叫ぶ。
閃光に包まれ、正面にいるポチの存在さえ見えなくなった時、俺たちは、意識を失った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…………ま、撒いたか?」
「おそらく……」
気が付いてみればどこだかわからない草原で起き、ポチを起こした直後に奴らに襲われたんだ。
辿り着いた森の中で、岩陰を静かに移動して隠れ潜む俺たちは小声で話し、そして息を整えた。
だが――――――
「ギィイイイァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
咄嗟に竦んだ身体。意図せずとも勝手に身体が反応する。腹の臓物ごと吹き飛ばしてしまうような恐怖の鳴き声。
上空から届く重力を帯びた重圧に俺もポチも抱き合う事しか出来なかった。
顔は上げられない。目だけ、眼球だけが上に動き、その姿を捉える。
「ま……ますたぁ…………あ、あれ…………」
「静かに……呼吸を…………止めろ」
四つの目が捉えた異常事態。
山のように大きく、雄大に羽ばたく姿は見る者皆を恐怖の底へ叩き落とすだろう。グランドセントールの群れも裸足で逃げ出すであろう戦闘力は、あのオーガキングをも凌駕する。
黄金に似た鱗を持つ巨大な竜。超危険モンスターの《黄竜》。天獣の黄龍とは別種だが、ランクSSの頂点と言われる程の強力なモンスターだ。
それが何故…………何故瀕死の血だらけになりながら下降してくるんだっ!?
大地を揺るがしながら着地した黄竜は、俺たちに気付いているのか一瞬こちらを見たが、すぐに上空を睨みつけた。あれは……黄竜が飛んで来た方角?
つまり……いや、つまりも何も…………あの視線の先に……黄竜をこんな姿にしたやつがいるっ?
その姿を拝みたいところだが…………俺たちの命が危ないんだ。こんなところでぼーっとしている訳にはいかない。
後ろ足に一歩ずつ下がる俺。ポチは既に俺の背中にしがみついている。
主人を盾にする使い魔がいるか、馬鹿ちんが。
だが、まぁあれを見ては仕方がないと言えるだろう。
一歩……また一歩と後退する。よーし、良い調子だ。黄竜の姿が大きな木で隠れた瞬間、俺は背を向けて全力で駆け始める。方角とか来た道とかそんな事は一切気にせず、己の生存本能にだけ身を任せて、再び息を切らせるまで走った。
途中、ポチが俺を、馬に鞭打つように尻を叩いてきたが、お前が走れと言いたい。言ってやりたい。
「ぜっぜっぜっ――ぜぇっ! な、何であんな強力なモンスターばっかりいるんだよ!?」
「マスターが走ってる間、平均ランクAのモンスターばかり視界に入りましたよ!?」
胸を押さえながら呼吸を安定させ、辺りの状況を確認する。
「とりあえず変な洞穴に入ったはいいが…………ここ、何かの巣とかじゃないよな?」
俺の危惧に、ポチが鼻を動かす。
「……大丈夫です。ここからは獣やモンスターの臭いはしません。けど――――」
「けど、なんだ?」
急かすように言うと、洞穴の奥からその答えが返ってくる。
これは――――人の気配っ!?
「アナタたちは誰?」
やはりいた。ポチはこれを伝えたかったのだろう。
中性的な声だったが、影に身体の輪郭が見え、その姿が女だとわかった。だが、女だからと言って安堵する事は出来ない。
熟練した足音で近づく一人の女に警戒していると、背後の入り口の方からも気配を感じる。いや、感じた時は既に背後にいたと言うのが正解だ。
俺の喉元には背後から剣先が置かれ、ポチが固まっている。どうやらこちらには全く気付かなかったみたいだ。
杖をことりと落とし、両手を上げる俺とポチ。刺激を与えちゃまずい。素性を聞いているという事は害があるかを確かめているという事だ。
チクチクと器用に剣先を動かす後ろの人間が静かに言った。
「質問に答えたまえ」
女が投げかけた質問に答えろと言っているんだろう。どうやら背後にいるのは男のようだ。
答えなければ……殺すつもりだなこれは。それ程の殺気を帯びている。
「――お、俺は――」
「私はシロ! そちらは私のご主人のポーアです!」
咄嗟に答えたポチの偽名は、どこかで聞いた事のある名前だった。




