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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第一章 ~魔法大学編~

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013 愚者が考案する賢者の金策

リナちゃんの見せ場です

 ―― 午後八時半 南区の宿 リナの部屋 ――


「はいリナ、魔法大学入学おめでとう」


 俺はピンクのリボンの付いたスターロッドをリナに手渡した。

 きょとんとしたリナの表情が徐々に崩れ、目に涙が溜まる。声にならない声を出し、リナはその場にしゃがみ込んでしまった。


「……っ……ひくっ……ひっく、ぅぅ……」

「あー、マスター、リナさん泣かしたぁー!」


 この(やかま)しいのさえいなければ感動的なんだが……しかし今はリナを元気づける事で精一杯。ポチの相手をしてる暇はない。


「部屋出てますから落ち着いたら教えて下さいよー」

「え、あぁ…………え?」


 あれ、感動的なシーンになったぞ?


 ポチはそれだけ言うと静かに部屋を出て行き、部屋には俺とリナだけになった。しんと静まる部屋の中にはリナの泣き声と嗚咽だけが聞こえている。たまに窓の外から聞こえる笑い声や騒ぎ声も、この静寂を邪魔する事は出来なかった。

 俺はリナと同様に腰を下ろし、床に座り込んだ。

 どうにか泣き止んでもらおうと、俺は自分の杖を前に出し、顔を手で塞ぐリナにアピールして見せた。


「ほら見てくれ、リナとお揃いの杖だぞっ」

「…………」


 リナが手から目を覗かせ杖を見る。

 ふっ、泣き止んだじゃないか。


「ゔゔゔゔぅっ」


 もっと泣いた。


 どうやら暫く待つ他ないようだ。

 俺は小さく震えるリナの頭を撫でながら時間が経つのを待っていた。不思議と嫌な時間ではなく、一秒一秒がとても長く、とても短く感じる。そんな時間だった。


 十五分程だろうか? リナの嗚咽が耳に残らなくなった頃、リナが頭を撫でている俺の手を掴んだ。……と言っても触れるレベルの強さだったが、それは暖かく、優しい気持ちを思い起こさせるような魔力を秘めていた。

 しゃがんでいたリナは、いつの間にか床に座り込んでいた。しかし、俺の手を離してはくれず、三角に立てる膝の前で遂には両手で俺の手を触り始めた。

 何がしたいのかはわからないが、これでリナが落ち着いてくれるのであれば、俺は黙って手を出し続けるだけだ。


 しかし、賢者を目指す者として……この状況はまずいのではないだろうか?

 長い付き合いとは言え、やはりリナは女の子なのだ。俺の脈動も伝わってしまうし、それがさらに脈動を加速させてしまう。

 いつの間にか頭の混乱が始まり、あのやかましい奴に救援を求めたい気持ちで一杯になった。


 ポチ、助けてくれ。こちらアズリー、孤立無援の状態で窮地に立たせられている。えすおーえすだ!

 瞳孔が開き脈も不安定だ! 頼む、ポチ……!


「アズリーさん」


 最初に声を出したのはリナだった。泣き過ぎたのか声が少し(かす)れている。

 俺は動揺のあまり慌てて声を出した。


「はひっ」


 悪魔の仕業か、俺の声はリナ以上に掠れ、リナ以上に裏返っていた。


「あははは、何ですかその声っ」


 天使の仕業か、リナの声は先程までとは打って変わって明るくなっていた。


「すまんな、どうやら驚きと緊張と慣れない体験がそうさせたらしい」

「もう、変な回答ですね。でもそれがアズリーさんらしいけど」

「俺……らしい?」


 珍しくも俺は首を傾げた。


「アズリーさんって、たまに自分の事考察したりしますよね? それにその説明も丁寧だったりします」

「あー……確かにそうかも」

「そういう事です、あはは」

「そういう事か、ははは」


 そう笑い合うと、リナは俺の手をゆっくりと離し、脇に抱えていた杖を改めて見た。いや、もしかしたら初めて見たのかもしれない。


「綺麗……白くそれでいて銀色に輝いてる。光に反射した雪の結晶みたい……」

「プラチニウムっていう木材らしいよ。お店の人がさ、お揃いって事で安くしてくれたんだ」

「あ、本当ならそれは言わない方がいいんですよ?」


 ぷくりと膨れた頬がリナの魅力を引き立たせている。なんかいつの間にか大きくなってるもんなんだな。


「全部ゲロっちまうのが楽でいいんだよ」

「あー、それも汚いから駄目ですっ」


 更に頬を膨らませる。その頬を指で押したい衝動に駆られる。丸く膨れた柔らかそうな頬、赤く染まったもちもちした頬……どうにもこの欲求に勝てそうにない。

 駄目で元々、リナに許可を求めよう。


「そのほっぺた、潰していい?」


 怒られるのを覚悟で聞いてみたが、リナは一瞬硬直しただけで、すぐにまた動き、俺の人差指に顔を近づける。その瞬間、


「ぷすー……」


 リナは俺の指に頬を押し当てて見せた。

 小さな口から微かに漏れる空気の音、それはまた滑稽で面白く、そして愛らしかった。


「ははははははっ! そう来たか!」

「どうですか、私なりに頑張りましたよっ! あははははっ」


 俺はまたリナの頭を撫でて、そして立ち上がった。


「ポチ、おいで! ご飯にしよう!」


 扉に向かって声を掛ける。すると、ぎぃという音を立ててポチが入室して来た。


「もう、笑い堪え過ぎてお腹が痛いですよ! もう丸聞こえっ、アハハハハハッ!」


 犬用の耳栓買わなくちゃ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―― 翌日 午前八時 ――


 ――――――――――――――――――――

 アズリー

 LV:52

 HP:900

 MP:15181

 EXP:241169

 特殊:攻撃魔法《特》・補助魔法《上》・回復魔法《中》・精製《上》

 称号:愚者・偏りし者・仙人候補・魔法士・錬金術師・杖士・六法士(仮)・教師・ランクD・首席

 ――――――――――――――――――――

 リナ

 LV:37

 HP:413

 MP:479

 EXP:90145

 特殊:攻撃魔法《下》・補助魔法《下》・回復魔法《中》

 称号:妹・見習い剣士・見習い魔法士・生徒《優》・ランクD

 ――――――――――――――――――――

 ポチ

 LV:100

 HP:2710

 MP:597

 EXP:9999999

 特殊:ブレス《極》・エアクロウ・巨大化・疾風

 称号:愚者の使い魔・上級使い魔・極めし者・狼豪・番狼・見習い魔法士・要耳栓

 ――――――――――――――――――――


 称号の付与でステータスが変わった。

 俺もリナも成長し、ポチも新たな称号が付いていた。おそらくあの試験が関わっているのだろう。

 一番最後の称号については触れないでおこう。


 朝、食事をした後、俺の部屋に集まり、リナと俺の全財産を合わせてみた。


「三千……二百ゴルドですね」

「俺達は現在この宿にいるが、今夜には一泊二百ゴルドの宿に移る予定だ。しかし、ポチも一人分として数えられる為、全員で一泊六百ゴルドが必要な訳だ。と言う事はつまり――」

「私も入ってたんですね……つまり、五日ですっからかんですね」

「その通り! 従って俺達は金を稼がなくてはならない」


 当たり前の事を言った俺に、リナとポチは不思議そうに顔を見合わせる。


「そういう前振りはいいので、冒険者ギルド行きましょうよ、マスター」

「時間が勿体無いですよ、アズリーさんっ」


 昨日の一件からか、大学が合格した事による自信からか、あるいは二つともかはわからないが、リナがどんどん明るくなっている気がする。

 いや、世間を知って社交的になったのか? それとも元々はこういう性格だったのだろうか?

 今思えば、リードもマナも明るかったから、そこは似てて然るべきなのかもしれない。今まではその日陰になっていたのだろう。


「マスター、聞いてます?」

「聞いてるよ、ポチの尻尾を毟ってステーキにするって話だろ?」

「きっと美味しくて頬っぺた落ちますよ、マスター!」


 だから怒れよ。


「い、痛そうです……」

「モルヒネ草という痛み止めがありましてね? それを私のご飯に盛ればおそらく大丈夫です。あ、分量に注意ですよ!」

「……あははは」

「どうしたんですかリナさん?」


 急に笑い出したリナにポチが首を傾げる。


「だってポチさんは、アズリーさんが絶対にそんな事をしないって信頼からそう言ってるんでしょ? だからその関係が羨ましくて、微笑ましくて……それで笑っちゃいました」


 リナは光が漏れるような笑顔を振りまいた。

 これは将来……いや、もう化け始めてるかもしれない。


「わわわ私、そそんな事、お思ってないですよーっ!」


 動揺しまくりのポチがベッドに飛び込み布団の中に潜り込む。俺とリナは顔を見合わせて、そして大笑いした。

 布団の中から籠った声で怒るポチは、相変わらずポチだった。


「さて、金策だ。俺達は今ランクD、一つの討伐で得られる報酬は約三百ゴルド、一回で請け負える討伐は三つまで。つまり、一回で約九百、二人なので千八百ゴルドを目指せる訳だ」

「なんだ、結構簡単そうですね」


 布団から顔だけ出したポチが言った。


「そう、しかしこれでは効率が悪い。そこで俺達は、高ランクのモンスターを倒そうと思う」

「でも、確か討伐を受けていないとその報酬は得られないはずですよ? 前にアズリーさんとポチさんがそう説明してくれたはずですけど……?」

「そう、討伐報酬が貰えないのは痛いけど、高ランクモンスターの報酬はそれだけじゃない。わかる?」

「あ、討伐部位ですねっ!」


 リナがぽんと手を打って俺に正解を求めた。


「そ、高ランクモンスターの情報はギルドの掲示板で見れる。生息地がわかればそこに行って狩ればいい話だ」

「でも危なくないですか? アルファキマイラの時はなんとかなりましたけど……」

「マスター、何か考えでも?」

「俺もこの杖がなければそんな事考えなかったよ」


 俺は新調したスターロッドを二人に見せた。

 きょとんと首を傾げる二人に、俺は《スウィフトマジック》の事を説明した。


「へぇ、人間の技術は凄いですねー」

「わ、私の杖も出来るんですかっ?」

「うん、勿論出来るよ。リナの場合は回復魔法と補助魔法を入れておけばいいと思うけど――」


 俺はそこまで言って、それ以上は口を(つぐ)んだ。

 リナはもう一人前の魔法士だから、自分で決めさせるのが良いと思ったのだ。


「……はい、考えますっ」


 やはり優秀な生徒だ。俺の気持ちを読み取ってくれたみたいだ。


「なんかワクワクしてきましたね!」

「おう、そんじゃあまずは、冒険者ギルドだ!」


「「はい!」」

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