128 赤剣との再会
PCの調子が悪く、ブルースクリーンの嵐で、リフレッシュ作業、アプリケーションの入れ直し等しており、四日の空きが出てしまいました。
更新が遅くなり申し訳ありません。
気合いで四日の空きを取り戻します。本日はこの一話ですが、明日は二話投稿予定です。
―― 戦魔暦九十四年 四月十八日 午後二十時 ――
俺たちはイツキちゃんからの伝言で、ダンカンに呼ばれ、冒険者ギルドを訪れていた。
ダンカンが用事とは珍しい。忙しいながらも手が空いたので、ちょうどよかったと言うべきだろう。
冒険者ギルドに着くと、そこには懐かしの顔があった。なるほど、ダンカンはこの件で呼んだに違いない。
俺が気付いた事にダンカンが気付いたようで、バチコンとウィンクをかまされると、俺とポチは飲み物を注文してその懐かしの顔の下へ歩み寄った。
「お久しぶりです、ダラスさん」
「ん」
赤剣のダラス。
二年前、俺たちと一緒にオーガキングと戦った戦士だ。
言葉数が少ないのは前と変わりないが、その佇まいから実力が向上した事が見て取れる。
ブルーツと共にランクSに上がった超一流の戦士。老齢に達するとは言わないものの、更に洗練されたようだ。
「お久しぶりですー!」
「……久しいな、ポチ」
俺より挨拶が長い事に嫉妬した方がいいのだろうか?
まぁ、ポチもダラスの事が嫌いという訳ではなかった。あの戦いの帰路、二人で喋ってたりしたし、そういう事なんだろう。
「は~い、お股~♪」
気持ち悪い言葉をダンカンが吐きながらオーダーを置く。
もっとも、そう思っていたのは昔の事で、今となっては慣れてしまった俺とポチだ。
ダラスが静かに持っているジョッキを掲げ、俺とポチは見合った後、それに倣うようにグラスとジョッキを掲げてカツンと小さく乾杯した。
不思議だ。
周りは騒々しいのに、ダラスはそこに溶け込まないで自分の空間を作り、そして生きている。
群では無く個。そんな印象を受ける。勿論これは前々からではあるが、何者にも混ざらない絵具のような存在に、とても不思議な気持ちにさせられる。
俺もある意味一人で生きてきたようなものだし、孤高に生きるダラスには親近感を覚えているのだろうか?
「……また、厄介事だったらしいな」
「えぇ、ちょっとばかり……」
苦笑しながら答えると、ダラスはジョッキを置いて、少し考え込んでから言った。
予想外……と言えば予想外だった。
「ライアンを助けてくれた事、まず礼を言う」
「……え、お知り合いだったんですかっ?」
ポチが黙って目を丸くし、俺はそう答えて目を丸くした。
そのまま二人で見合い、また視線をダラスに戻す。
「昔、少しな……」
「そうでしたか」
確かにライアンとダラスは歳が近い。ほぼ同年代と言えるだろう。
だが二人が知り合いだったとは思わなかった。ダラスのこの言い方。もしかしてかつての仲間だったという事か?
「いつの間にか落ち着いたようだな、アイツは……」
「ライアンさんですか?」
黙ってダラスが頷く。
あのフォールタウンのカリスマ、ライアンの過去か……。確かに興味はある。
だが、今回の件はそういう事ではないだろう。滅多にベイラネーアに来ないダラスが俺に会いたがっていたのは、俺がフォールタウンに向かう前の話だ。
俺がダラスの話を聞く姿勢になると、ダラスは少しだけピッチを上げてジョッキーのエールを飲み始めた。
だが、話そうとする気配がない。俺とポチはまた見合って、その不思議な姿を見つめていた。
「……場所が悪いな」
そういう事か。俺たちが会える場所なんて冒険者ギルドかポチズリー商店くらいしかない。
だが、ダンカンを伝言役として使い、イツキちゃんが俺に伝えた。つまりポチズリー商店では会えなかった。何かを避けている?
ならば会うのはここでしか無理だ。ダラスが念話連絡を使える訳じゃないしな。
だが、会ったはいいが、ここでは話せない。ならば別の場所で会えばよかったんじゃないか?
いや、ここならここでメリットもある。それこそ、人目があるという事だ。ダラスは…………もしかして俺をも信用していないんじゃないか?
むぅ、最初の反応を見るに、そういう訳じゃなさそうだが…………かなり警戒している事は確かか。
俺たちは他愛のない話を交えながら飲むペースをダラスに合わせる。
そして、そそくさと去るように、しかし自然に冒険者ギルドを出る。
酔い覚ましにちょっと外へ……そんな感じで歩き始めると、ダラスはベイラネーアの南東に足を向けた。
おや、もしかしてこの方角は…………――――そう思い口に出そうとした瞬間、先にポチが声に出した。
歩く中、少しの間街並みは静かになり、そこを抜けると徐々に篝火が増え、次第に昼間のように明るくなる。
街並みは華やかな色で統一され、食事の良い匂い、そして女の良い匂い、更には懐に手を当ててにやける男の姿。
「やっぱり……色食街ですね!」
「あぁ、そうみたいだな」
色食街の通りからは殺意とは違うが、敵意を感じる程には鋭い視線がある。
そりゃそうだ。何たって色食街とは違った人買いの胴元二人が敵陣のど真ん中を歩いてるんだ。これくらいは仕方ないだろう。
ポチの言葉にも、俺の反応にも、ダラスの背中は無言で受け止め、そして俺たちの疑問に返答する事もなかった。
ただ真っ直ぐに歩いている。どこか……目的地があるのだろう。
そう確信し、俺はポチの尻尾を掴みながらダラスに続いた。
しかし、やっぱりテンガロンの言う通り、皆俺の帰還に気付いてたんだな。ベティーたちが眼鏡を外せば大丈夫とか適当に言ってたけど、本当に適当だったんだな。
眼鏡なんて、初日しか外さなかったけど、それから銀の連中は何も言ってこなかった。つまり、最初からこうなるってわかっていたって事か。
「ここだ」
短いダラスの言葉。
両隣の店には客引きが快活に叫び、張見世から顔を覗かせている美人たちがいる。だがダラスが立った場所は灯りの消えた廃れた店。いや、店だった場所だというべきだろう。どう見ても商売をしているという状態ではない。
色食街の中でも流行り廃りは当然あるので、こういった場所は珍しくないが、一体こんなところでダラスは何をするつもりなんだ?
左の店とこの建物の間にある小さな脇道に入り、裏手に回るようにして付いて行く。
行き止まりにあったのは、ボロい板で塞がれた、枯れ井戸だった。
板をどかし、ダラスが跳び降りる。
「……これ、入るんですか?」
「だってダラスさん行っちまったじゃないか」
「絶対何か出ますってっ!」
「赤剣のダラスって人は出そうだな」
「えぇっ!? 何で知ってるんですっ!?」
今入ったからだよ。
「じゃあお先、っと!」
「あぁ、もうっ! しょうがありません、ねっ!」
先に俺が、後を追うようにポチが枯れ井戸の中に跳び込むと、意外に底は深くなく、五、六メートル程降りたところで地を踏む事が出来た。
空気はこもり、少し生暖かい。湿気と地下特有のにおいがある。
俺の頭部と肩に軽やかに着地するポチは、火に照らされるダラスの顔に小さく悲鳴を上げて縮こまった。
おい、重いぞ。って……火?
なんだここ、井戸じゃ……ないのか?
完全に地下通路のような場所。そして壁の突起に載せられた燭台が等間隔に並べられている。なるほど、この火だったか。
「ここは?」
「……付いて来い」
「マスターッ、ほら行っちゃいますよっ」
小声で言うポチ。
すみません、重いんですけど?
入り組んだ道、途中にある階段を上り、そして下り、侵入者を拒むような造りだ。
ダラスの案内がなければ戻れないんじゃないか、という程奥に進む。勿論、最悪空間転移魔法があればなんとかなるだろうけど。
まだ奥に道が続く中、何の変哲もないところでダラスが止まる。いや、微かに空気に乱れがあるか?
「あ、ここですねっ」
ポチが前脚で壁を差し、ダラスが目で頷く。
抜剣し、壁にあった小さな傷に少し差し込みを入れると、壁地を擦り合わせる音を出しながらゆっくりと開いていった。
「おぉ、こんな仕掛け…………凄いな……」
「マスター、あそこに扉がありますよっ!」
ポチに促される前に俺も気付き、ダラスは俺に先へ行くように促す。
扉の前にポチが駆け寄り、金属の重そうな扉のドアノブを握り、そしてゆっくりと引いた。
――――………………………………ん?
「あれ?」
「どうしたんです、マスター?」
「……開かないぞ?」
「……それは押すんだ」
ゆっくりと押した。
CMで申し訳ありません。
【悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ】第三巻、発売まであと十日です。
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